法律ノート 第1514回 弁護士 鈴木淳司
(じんけんニュース号外)
最近、寒暖差が激しいですが、皆さんどのようにお過ごしでしょうか。
私は、たぶん花粉の影響だろうと思いますが、目が痒くなることがあります。
生まれてはじめてです。
花粉アレルギーの方にとっては、季節的には良いとしても、体調には過酷な時期なのかもしれません。
2026年3月に入り、米国移民法関連もどんどん変化が生まれています。
今回も、移民法のトピックを考えさせてください。
皆さんにも影響するかもしれないトピックです。
心苦しいですが、皆さんからの質問にお答えするのは先延ばしにさせてください。
難民申請の審査基準が厳格化(連邦裁判決)
まず3月4日に連邦最高裁判所は「ウリアス=オレリャーナ対ボンディ事件(Urias-Orellana v. Bondi)」において、難民申請(アサイラム)の審査基準に関する極めて重要な判決を下しました。
この判決で最高裁は、移民控訴委員会(BIA)、つまり移民行政機関による「迫害」の有無の判断を連邦控訴裁が再審理する際、政府側に有利な「実質的証拠(Substantial Evidence)」基準を適用すべきであると全員一致で判示しました。
もともと移民法では、ある程度の状況証拠があれば「迫害」が認められる傾向にありました。しかし今回の判決により、行政(移民判事・BIA)が一度「迫害には当たらない」と判断すると、控訴裁判所がそれを覆すハードルは非常に高くなりました。
そのため申請者は、最初の申請の段階から、迫害を受けた事実を示すより具体的な証拠をそろえておく必要があります。結果として、難民申請が認められるハードルは一段と高くなっています。
出生地主義の制限を巡る訴訟
次に、「出生地主義(Birthright Citizenship)」の制限を巡る法的争いも佳境を迎えています。
トランプ政権が発令した、不法滞在者の子どもへの市民権付与を制限する大統領令(EO 14160)に対し、ニュージャージー州・ワシントン州など複数州の司法長官が「憲法修正第14条違反」として差し止めを求める訴訟を継続しており、最高裁での弁論が今春に予定されています。
現在は下級裁の差し止め命令により執行が猶予されていますが、この6月か7月に出されるであろう最高裁判所の最終判断は、米国の市民権のあり方に大きな影響を与えるものになりそうです。
今年の目玉となる事件であります。
大統領布告がビザ発給に与える影響
第三点目として、移民行政の実務面をいくつかご紹介しておきたいところです。
1. 高リスク国出身者への手続の一時保留
今年1月1日から施行されている大統領布告10998号の影響が、3月に入りビザ発給現場で顕著に現れています。
アフガニスタンやビルマ(ミヤンマー)、さらには多くのアフリカ諸国を含む全面停止19カ国・一部停止20カ国の計39カ国と、パレスチナ自治政府発行の渡航文書を持つ方を対象としたビザ発給の停止措置により、家族呼び寄せなどの移民ビザであっても「国家安全保障」の名の下に事実上凍結されているケースが相次いでいます。
特に、高リスク国として指定された国々の出身者に対しては、USCIS(移民局)が申請案件の一時保留(Hold)を決定し、個別の再審査を行っているため、これまで数ヶ月で済んでいた手続きが1年以上に長期化する懸念が現実のものとなっています。
2. 非移民ビザの手数料が義務化
さらに実務的な変更点として、非移民ビザ(B、F、H-1B等)の申請者に対し、新たに250ドルの「ビザ整合性手数料(Visa Integrity Fee)」の支払いが義務付けられました。
なお、この手数料は非移民ビザの発給時にかかるものです。観光や短期商用で査証免除プログラム(ESTA)を利用して渡航される方には、原則として対象外です。
一方で、留学(F)・就労(H-1B、L)・投資(E)・交流(J)などで日本から非移民ビザを申請される方は、対象となり支払いが必要です。
3. オンライン・プレゼンス審査が拡大
これに加え、SNSの利用履歴やオンライン上の活動内容を過去5年分にわたって詳細に申告させる「オンライン・プレゼンス審査」が、H-1Bなどの就労ビザ保持者の家族(H-4)にまで拡大されており、領事館での面接時間が延び、追加書類の提出を求める221(g)項に基づく手続き遅延が常態化しています。
4. 法執行の厳格化
国境付近や国内の取り締まりにおいても、DHS(国土安全保障省)はバイオメトリクス(生体認証)を用いた出入国管理を強化しており、永住権保持者であっても空港や港湾での再入国時に厳しい質問を受ける事例が増えています。特にDHSは、職場査察や拘束施設の拡充を加速させており、法執行の厳格化が民間企業やコミュニティに心理的なプレッシャーを与えているのが現状です。
私の所属する事務所でも、今まで問題なく許可されていた永住権申請が、信じられないような理由で拒否されたりし始めました。
もう、今までの移民申請のノウハウでは対応しきれないような事例がでてきて、移民法業務にも影響がではじめています。
司法による移民申請に関する基準の厳格化と行政による移民に対する各種対応の厳格化の構築が同時並行で進んでいます。
外国籍をお持ちの皆さんは、移民法に関しては、従来通りのスケジュール感では対応できないことを前提に、より入念な書類準備と、刻一刻と変わる判例・指針への注視が必要不可欠となっていることを覚えておいてください。
関連する米国法律リソース
- 連邦最高裁 Urias-Orellana v. Bondi 判決全文(PDF)
- 出生地主義訴訟 Trump v. Barbara の概要(議会調査局・CRS)
- 大統領布告10998号 原文(Federal Register)
- 入国・査証発給停止に関する米国務省の案内
- オンライン・プレゼンス審査の拡大(米国務省)
- 審査・審理の強化に関するUSCISの案内
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年3月)の情報に基づいており、法律や行政の運用は変更される可能性があります。
実際のお手続きにあたっては、必ず資格を持つ専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた助言をお受けください。本記事をお読みいただいたことにより、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼人の関係が生じるものではありません。
【事務局注】
本記事は2026年3月時点の状況をまとめたものです。出生地主義(EO 14160)を巡る訴訟は、2026年4月1日に連邦最高裁で弁論(Trump v. Barbara)が行われ、判決は2026年夏ごろに見込まれています。最新の動きは、毎月更新の移民法ニュースをご確認ください。
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