移民法速報 2026年5月(4)-AOS 永住権の米国内申請に重大変更_1526

法律ノート 第1526回(じんけんニュース号外)弁護士 鈴木淳司
May 30, 2026

今回は、前回まで考えた児童ポルノ犯罪に関して一度お休みさせていただき、移民法に関する行政ルールの変更について考えていきたいと思います。

 2026年5月21日、米国市民権・移民局(U.S. Citizenship and Immigration Services、以下「USCIS」)は、アメリカ国内からのグリーンカード(永住権、Lawful Permanent Residence)申請手続きに関する新たな政策覚書(Policy Memorandum PM-602-0199)を発表しました。

この変更は、アメリカに合法的に在留している数十万人規模の外国人に対して甚大な影響を及ぼし得るものであり、移民法実務に携わる弁護士として、読者の皆さんに緊急で情報をお伝えする必要があると判断し、移民法に関することなので、じんけんニュースの号外とも位置づけて考えていきたいと思います。

大きな観点からは今回USCISが発表している変更は、法律の変更ではありません。したがって議会の承認は不要という建前です。USCIS内部の運用変更との位置づけですが、実際には永住権申請に重大な影響を及ぼすことになりそうです。

永住権取得の二つのルート:在外公館審査とAOS

まず、アメリカで永住権(グリーンカード)を取得するための手続方法は、大きく分けて二つのルートがあります。

一つ目は「Consular Processing(在外公館審査)」、二つ目が「Adjustment of Status(身分調整手続、以下「AOS」)」です。

 在外公館審査とは、申請者が本国またはその他の国に設置された米国大使館・領事館において移民ビザ(Immigrant Visa)を申請し、査証(ビザ)が発給されてアメリカに入国した時点でグリーンカードが付与される手続きです。申請者がビザなどでアメリカに滞在している場合、いったんアメリカ国外に出て、そこから申請することが求められる方法論です。

 一方、AOSは、既にアメリカ国内に在留している外国人が、出国することなく国内において永住権申請を完結させることができる制度です。申請書類としては、在外公館審査書類に加え、Form I-485(Application to Register Permanent Residence or Adjust Status)をUSCISに提出することになります。この制度は1952年に連邦移民国籍法(Immigration and Nationality Act、以下「INA」)によって創設され、議会はその後20回以上にわたって関連条文の改正を重ねてきました。就労ビザ(H-1BやL-1等)でアメリカに滞在している方、米国市民権者の配偶者・子・親などの近親者(Immediate Relative)として申請資格を有する方、雇用ベース(Employment-Based)や家族ベース(Family-Based)での永住権申請者の多くが、この制度を活用してきました。

AOSが選ばれてきた理由と実務上の利点

 統計的にも、AOSの利用者数は膨大です。2023会計年度(FY2023)には、60万8,260人がAOSによってアメリカ国内で永住権を取得しており、同年に在外公館審査を経て永住権を取得した56万4,660人をわずかに上回っています。就労ベースの申請者については、大多数が国内でのAOS申請を選択しています。

 AOSの最大の実際的利点は、アメリカ国内に留まったまま申請を進められることです。就労継続、家族との同居、子女の就学環境の維持など、日常生活を著しく中断させることなく永住権申請手続を進めることができます。

これに対し、在外公館審査では、アメリカ国外への渡航・在外滞在中の生活上の不利益に加え、特に申請者において過去に不法滞在期間がある場合には、出国した時点で3年または10年の入国禁止(Bar)が発動される可能性があるという深刻な法的不利益が生じます(INA §212(a)(9)(B))。そのような申請者にとって、AOSは事実上唯一の適法な永住権取得経路となってきました。一旦アメリカを出国すると、なにかわからない理由で再入国ができなくなるという不意打ち的要素に直面する可能性があり、米国滞在を継続できれば、場合によっては連邦裁判所まで争うことができるメリットがあるのです。アメリカ国外に滞在していると、司法への救済が非常に求めにくくなるのです。

政府覚書による主な変更内容

 現政権下のUSCISは、2026年5月21日付けの政策覚書PM-602-0199において、AOSを従来の「確立された並行手続(established and parallel pathway)」から、「例外的裁量による行政上の恩恵(Extraordinary Discretionary Relief / Act of Administrative Grace)」へと位置づけを抜本的に変更しました。

政府はこれを既存法律の「リマインダー」と称していますが、実質的には外国人を永住権申請で一度出国させることを強いる「抜け穴を塞ぐ」措置としているのです。

 同覚書の主な変更点は以下の通りです。第一に、審査基準の大幅引き上げです。従来は、法定要件(Statutory Requirements)を充足していれば、原則としてAOSが承認される運用でした。

しかし新覚書のもとでは、法定要件を満たすことはAOS承認の十分条件ではなくなり、申請者は「裁量の好意的行使(Favorable Exercise of Discretion)に値すること」を積極的に立証しなければなりません。単に法定要件を満たし、ネガティブな要素がないというだけでは不十分とされています。

 第二に、考慮要素の明確化です。

USCIS審査官は、申請者の移民法上の履歴、在米期間中の在留資格の継続的維持の有無、道徳的人格(Moral Character)、家族関係、そしてアメリカ経済・社会に対する貢献度等を総合的に衡量(Balancing)します。特に、非移民ビザ(Nonimmigrant Status)または仮滞在許可(Parole)の許可期間超過(Overstay)が認められる場合は、AOSが認められる可能性が著しく低下すると明示されています。

特に影響を受けやすい申請者層として、(1)米国市民権者の近親者(Immediate Relative)でありながら在留資格維持が困難な状況にある者、(2)O-1(特殊技能者)やR-1(宗教従事者)等、就労ビザの性質上申請後にそのビザのステータスを維持できない申請者、が挙げられています。

 第三に、部分的修正として、アメリカ経済に対して「経済的利益(Economic Benefit)」をもたらす者または「国益(National Interest)」に資する者については、引き続き国内でのAOS申請を認める可能性があるとの言及がなされました。ただし、この例外の適用範囲・基準は現時点では不明確です。

行政手続き違反の可能性と司法審査

 法律的にみても今回の運用変更は、実質的にUSCISは、1952年の制度創設以来20回以上議会によって改正されてきたAOS制度を、USCISが独自に「例外的救済」と再定義しており、これが議会の立法意図(Legislative Intent)に合致するかは強く争われることになろうと予想されます。

また、行政手続法(Administrative Procedure Act、APA)上要請される事前の公告・コメント手続(Notice and Comment Rulemaking)を経ることなく実質的な政策変更を行ったとの批判も強く、違法な行政規則の制定(Arbitrary and Capricious Rulemaking)として司法審査の対象となり得ると米国移民弁護士協会(American Immigration Lawyers Association、AILA)などは強く主張しているところであります。

現在の混乱状況と申請者が直面する難題

 今回の覚書公表以来、申請者および雇用主において、混乱と不安が広がっています。USCISのプレスリリースは覚書本文を超えた内容、すなわち「ほとんどの一時滞在ビザ保持者は出国して在外公館審査を経るべき」との示唆を行いましたが、その後も覚書が既に係属中の申請(Pending Applications)に適用されるのか、新規申請のみに適用されるのかの明確な解釈指針は示されていません。代理人弁護士からは、係属中のAOS申請者に対してUSCISが「特別な事情(Extraordinary Circumstances)」の立証を求める照会を既に開始しているとの報告も見られます。

 そして、国務省が75か国の国民に対して移民ビザの在外審査を無期限停止している現状において、AOSがこれらの国籍者にとって事実上唯一の永住権取得経路であったわけです。申請者は現在、アメリカに残ることで在留資格上のリスクを負うのか、それとも出国して在外公館審査を受けることで入国禁止というより重大な法的リスクを負うのかという難題に直面することになりました。特に米国市民の配偶者・子女など、アメリカに生活基盤を持ちながら過去に在留資格の問題があった申請者にとって、出国はそのまま数年間の家族離散を意味しかねません。

 AILAをはじめとする法曹団体は、本覚書が行政立法上の手続的要件を欠くものとして、訴訟も辞さない姿勢を示しています。仮処分の申立てが認められれば政策の執行が停止される可能性もありますが、その結論が出るまでの間にも個々の申請への影響は既に現れ始めています。

適用除外もあるが日本は対象外

 なお、新覚書の適用除外として、難民認定(Refugee Status)に基づく申請、NACARA(ニカラグア調整・中米救済法)、HRIFA(ハイチ難民移民公正法)およびLRIF(リベリア難民移民公正法)に基づく申請については、裁量の余地がない非裁量的承認(Non-Discretionary Approval)が維持されると明示されています。この他に例外は認められていないことになりますので、日本国籍を持つ方にも適用されることになります。

 今回のUSCIS覚書は、1952年の制度創設以来「確立された並行経路」として機能してきたAOSの実質を根本から変えようとする、移民法実務の根幹を揺るがす極めて重大な変更です。

現時点でAOS申請を行っている方、または申請を予定している方は、速やかに弁護士に相談されることをお勧めします。覚書の解釈・適用をめぐる司法上の争いは今後活発化することが予想されますが、その結果が出るまでの間にも個々の案件への影響は既に現れ始めています。AOS申請者に対して、追加証拠の提出を求めるなどのUSCISからの動きも出てきているのです。

長い間行われてきた移民法の運用そのものがドラスティックに変更されようとしています。今回の運用変更は、かなり外国人滞在者にとっては影響のある内容ですので、今後も時機をみながらとりあげていきたいと思います。

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