アメリカ法律ノート」カテゴリーアーカイブ

Washington DC Capitol

アメリカ大統領選と司法の行方

法律ノート 第1235回 弁護士 鈴木淳司

アメリカでの政治と司法
October 25, 2020

 大統領選が加熱してきました。前回の法律ノートで大統領がコロナウイルスに罹患したということをまえがきに書きました。
 現時点で、大統領は自分の選挙戦のために、各州で集会を開いていますが、その集会をやっている州では確実にコロナウイルスが増加しています。そして、この原稿を書いている時点で、アメリカではコロナ罹患者が一日8万人を超えたそうです。

 死者は減少傾向にありますが、桁違いに広がっている感じがします。先週の討論会でも、経済の再開が重要だ、ということを主張していましたが、経済というのは人が動かすわけで、経済か人の健康か、といえば両方バランスをとっていかなければならないように感じています。私の所属する事務所のあるサンフランシスコ市は、来週から徐々にオフィス業務を再開させるそうですが、私はまだかなり不安に感じています。

 今回は皆さんからいただいている質問にお答えするのを一回休ませていただき、私が最近感じたことについて書かせてください。

 さて、大統領選も重要ですが、ルース・ベーダー・ギンズバーグ最高裁判事の逝去をきっかけに、欠員補充でアメリカ議会は紛糾しています。現大統領は、バリバリの保守派候補を今のうちに送り込みたいので、強硬に採決をおこなっています。この状況だと来週には任命されるのではないでしょうか。

 アメリカの最高裁判所の判事は終身制で、定員は9名。日本の15名よりも全然少ないわけです。できるだけ若い判事を送り込めば、長い間その人がアメリカで最重要の最高裁判所の判例形成に寄与していくわけです。ギンズバーグ裁判官は、アメリカにおいてリベラル的な態度を貫き、女性やマイノリティの権利を向上してきました。その真逆の思想を持っているであろう裁判官が今任命されようとしています。私も指名された裁判官が出した裁判例は注意して読んだことはありませんので、なんとも言えません。現大統領はすでに二名の指名を行っていますので、今回3人目の指名が議会によって承認されれば、ほぼ保守派で最高裁判所が固まることは間違いがありません。

 
 今回の強硬な最高裁判所の指名、そして議会での紛糾を見ていると、本当に現在のアメリカは政治により分断され、最高裁判所の人選までその政治に利用されてしまっているように感じで、本当に残念です。日本の最高裁判所に比べて、アメリカの最高裁判所というのは、違憲立法の審査など、かなり政治に対して牽制する役割を積極的に負ってきました。私も、アメリカの法律を勉強しているときに、特に黒人の人権を認めるための一連の最高裁判所の判例を見て、心が熱くなり泣いてしまったこともあります。法律の本を読んでないたのは、アメリカ憲法判例以外はありません。通常は眠くなるのです。そして、素晴らしい意見を書く判事を何人も排出してきました。大統領が指名するわけですが、さすがに吟味された人達が裁判官になるのだな、と今までは思っていました。しかし、今回、ギンズバーグ判事が逝去されてから一週間ほどで、バリバリの保守派の人が指名され、選挙前に送り込んで承認してしまおうという強引なやり方が、通ってしまいそうです。そもそも大統領はギンズバーグ判事の葬儀に出席したのでしょうか。この一連の過程を見ていると、このアメリカで司法に関わっている身としては暗澹たる気持ちになります。司法というのは、具体的におこった争点を解決する役割を負います。いろいろな形での紛争は絶えません。ですから、あいつは、右だ、左だ、とか、保守派だ、革新派だ、という政治的な思想は二の次になるはずです。バランスがよく、そのときの情勢や社会を見極め、そして多くの人が読んでも、「良い文章だな」と感じる判決をかけるという能力が最優先に考えられるべきだと思います。

 今のアメリカの状況は、現大統領の発言を聞くたびに対立政党を攻撃し、分断を招いているのは間違いありません。選挙戦に向けたアメリカは今回特に異常に割れているように肌で感じます。政党のなかにも、いろいろなプラグマティックな思想が存在しているわけで、紅白歌合戦のようにどちらの組が勝つかというよりは、よりよい生活を提供できる社会というのは何かを、政党や思想に関わらず考えていかなければならないはずです。政党の対立で人々は思考停止状態になっていて、どちらかというと相手を攻撃してやり込めることがゴールのような薄っぺらな状況にアメリカは陥ってしまっているように思います。今回の最高裁判所判事の指名や強引な承認についても、政治によって司法が影響されてしまっているように感じます。もちろん、三権分立の大原則があり、現大統領のやっていることは間違ってはいないのでしょう。しかし、一方で法曹として、なんだか胸がモヤモヤしています。さて、大統領選は一体どうなるのでしょうか。


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引越手配まで終えていたのに契約破棄。訴える術は?(1)_1126

法律ノート 第1226回 弁護士 鈴木淳司
Aug 17, 2020

 暑い夏ですね。温暖化など起きていないという米国大統領はクーラーを使わないでも大丈夫なのでしょうか。先日、私の事務所で勤務していて日本に戻った弁護士とその奥さんから、やっと念願の男の子が産まれたというニュースをもらいました。不妊治療などもして、不安だったと思いますが、とても元気そうな子でした。私もとても嬉しかったです。最近は、コロナの影響で毎日何人「死亡」した、というニュースばかりで、心もなんだか「死」と「病気」のことにシフトしてしまっていたように思います。でも、新しい命も誕生しているのですね。困難な時期に産まれて、きっと強い子になるでしょうし、我々も、新しい命からここの持ちようを習っていきたいところです。

引越手配まで終えていたのに契約破棄。訴える術は?(1)_1126

 さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきましょう。


 いただいている質問は(コロナ以前の質問ですが)、まとめると「日本から現地法人(米国カリフォルニア州)赴任してきている者です。家族も帯同しています。前任者から引き継いだアパートメントに住んでいたのですが、新たに新しい物件を見つけ、勤務先の許可も得られたので引っ越す予定でした。すでに、新居の入っているマネージメントとも家賃等話しがついて、引越し日まで決定していました。それにあわせて従来のアパートには、引っ越す旨を話して了承を得ていました。ところが、手付を支払い、契約書にサインをするという段階になり、「他に貸す人が決まったので、話はなかったことにしてくれ」といったニュアンスのメールを受け取り、直接話しても埒が明かない状況でした。今まで住んでいたアパートには話を伝え、なんとか継続して住むことができましたが、また一年間の契約がなければいけないということで泣く泣くサインをしました。このような場合、なにか契約に違反したということで、新居になるはずだったマネージメントを訴えることができないでしょうか。引っ越しの用意や、色々な手続きを初めてしまって、大損害が発生してしまっています。」というものです。

約束違反と法律違反

 コロナになってから、だいぶ都市部の賃貸住宅事情が緩和されてきたという話は聞きますが、それでもベイエリアは家賃も高く、一体このまま不動産経済が維持されるのか、疑問でもあります。

 一時期は、賃貸物件でも複数の競争が日常茶飯事で、今回相談されている方もそのような状況で災難に遭われたようですね。 「一度貸すといったのので、その約束に乗ったのに反故にされた」という感じでしょうか。約束を反故にするのは、理由如何を問わずに良くないことです。しかし、いくら腹を立てたところで、たとえば、待ち合わせ時間を厳守しない人に対して訴えるぞ、といっても法律沙汰にはなりませんよね。

 したがって、どのようなところで、法律が介入する程度の「約束の反故」になるのか、考えていきたいと思います。

借主貸主 テナントとランドロード

 さて、家を借りるには、難しい法律用語でいうと「賃貸借契約」という契約を締結することで法律的に借主(テナント Tenant)になることをいいます。
貸主は日本では「大家」とも言いますが、アメリカではランドロード(Landlord)と言います。
法律上は、貸主と借主という用語が使われます。

 この賃貸借契約ですが、通常は賃貸借契約書というものが貸主と借主の間で締結されて、どのような内容かが記載されることになります。

 ただ、もともと契約というのは、口約束でも立派な契約になります。
ですので、スーパーで野菜を買うのも立派な売買契約になります。

 一方で、スーパーで、「この契約書に署名してください」とは言われませんよね。署名するとしても、クレジットカードの利用のためだけです。賃貸借契約も基本的には口約束でも成立します。

カリフォルニア州では書面で契約

 しかし、カリフォルニア州では、一年間以上の賃貸借を対象とする場合には、書面でなければならないということが決められています。

 また、今回質問にもある不動産を扱う業者などは、一年間以内の賃貸借でもトラブルを防ぐために原則として書面での契約を行うのが実情です。

 今回すでに質問者と新しい物件のマネージメントは賃貸借に向けてかなり詳しい話し合いをしていた段階にあります。家賃とか、賃貸借の期間とか、いつ引っ越すか、などですね。

 一方で、契約書というのは、まだサインしていない段階にあるようです。このような場合、なにか法的に言っていけるのか、というのがポイントになってきますので、次回続けて考えていきましょう。

 今週はどこも暑さが半端ないですが、体調に気をつけてまた一週間がんばっていきましょうね。暑さでコロナが弱ってくないかなと祈っていますが。


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Washington DC Capitol

口論からドメスティック・バイオレンスで逮捕。行方は?(2)_1225

法律ノート 第1225回 弁護士 鈴木淳司
Aug 10, 2020

 今週せっかくサンフランシスコでプロゴルフの大会が行われているのですが、無観客です。観に行きたかったのですが、がっかりです。なかなか一流のプロを間近で見られるチャンスはないですからね。しょうがないのでテレビで観ていますが、やはり生での体験と画面を通しての体験には差があるものですね。プロにしても、やはり観客がいたほうが、心持ちが違うのではないかとも思いました。プロスポーツ一般、今年は活気がなくて残念でなりません。

口論からドメスティック・バイオレンスで逮捕。行方は?(2)_1225

 さて、前回考えた「日本にいる者(男性)です。数年前(大学生のとき)につきあっていた彼女がいたのですが、彼女がアメリカに留学するということで、数年ほど前に別れました。しかし、それからもコンタクトはとっており、最近(コロナ禍前)、アメリカで会おうということになり、私もはじめての海外旅行でしたが、彼女に会いにいきました。しかし、口論になり、最後には警察が来て、彼女も悪いと思ったのですが、私が逮捕されました。その後、釈放され日本に戻りましたが、裁判になるかもしれないと言われて不安です。一緒に住んでもいないのに、ドメスティック・バイオレンスになるのでしょうか」という質問を続けて考えていきましょう。

過去の交際相手も対象に

 前回考えたのは、もともと付き合っていた相手方であっても、カリフォルニア州刑法ではドメスティック・バイオレンスが成立することと、物理的な暴力がなくても、同罪は成立するということでした。
 今回質問されている方は十分にカリフォルニア州刑法の文面上、ドメスティック・バイオレンスに該当する事例だと思います。
 もちろん、実際には成立しない可能性も十分にはあるとは思いますが。

wobbler?重罪か軽罪か微罪か

 さて、今回の事例で将来裁判になるようなことを警察から言われたそうですが、加えて、「これは重罪(Felony)だ」とも言われたそうです。

 ドメスティック・バイオレンスに関しては、他の罪にもよく見られますが、カリフォルニア州の法律造語で、ウォブラー(wobbler)と呼ばれるジャンルの罪です。カリフォルニア州やほとんどの米国刑事法では、大きくわけて、重罪(Felony、禁錮一年以上の法定刑)、軽罪(Misdemeanor、禁錮一年以下の法定刑)、微罪(Infraction、基本的に罰金のみ)の3つのカテゴリーが使われます。そして、このウォブラーというのは、検察の裁量で、重罪にも軽罪にもできる罪を言います。

 ですので、今回の質問事例にしても、実際に起訴されるかどうか、がそもそもわかりませんが、起訴されるとすると、軽罪として起訴される場合と重罪で起訴される場合があるのです。

 このように事実関係を見て、暴行等の程度が重大な場合には重罪で起訴される場合もありますが、ほとんどの軽微な事例は軽罪で起訴されると思います。後遺症の残るような暴力があった場合には、重罪となる傾向があります。

警察と検察は別

 今回質問されている方は警察から重罪で起訴されるぞ、と言われたらしいですが、そもそも警察は起訴する権限を持っていません。捜査をして、その内容を検察に送るだけなのです。ですので、警察に言われたことは気にしないで良いです。

 私がいただいた事実関係を見る限りは、ほぼ重罪にはなりませんし、そもそも起訴されるかも怪しい事例です。逮捕されたからといって、即起訴されるわけではありません。また、ドメスティック・バイオレンスの罪については、暴行等がエスカレートすることを防ぐために接近禁止命令などが用意されていますが、広く逮捕をするのは、「これ以上事態を悪化させない」ためだということも覚えて置いたほうが良いと思います。悪いから逮捕する、というよりは、冷却させるための措置という意味合いが強いことは理解しておいてください。

起訴後は召喚状による呼び出し

 かりに起訴が決まると、呼び出し状が送られてきます。しかし、海外にいると往々にして郵便事情や、住所の打ち間違いなどで、受け取れない場合が出てきます。呼び出しがあったかもわからない場合もあるでしょう。

 いきなり、日本にいて逮捕されるということはないとは思いますが、再度アメリカに渡航することを考えられているのであれば、事前に裁判所の召喚状があるか、ないかだけは確認しておいたほうが良いと思います。かりに、召喚状が出ていると、アメリカに入国しようとする際に、逮捕される可能性もあります。

 次回また新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。

 今、アメリカは学校を秋学期どのようにするかで政府も地域でもかなり論議になっていますね。そもそも、マスクをするかしないかが、政治利用されている現状なので、もう少しコロナに関しての基本的な作法を共通認識としてもつべきだとは思うのですが。それではまた次回まで健康に気をつけながらがんばっていきましょう。


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口論からドメスティック・バイオレンスで逮捕。行方は?(1)_1224

法律ノート 第1224回 弁護士 鈴木淳司
Aug 03, 2020

 暑くなったらウイルスの活動が縮小するというのは間違いでしたね。一向に収束に向かっておらず、カリフォルニア州ではどんどん罹患者数があがっている状況にあります。経済だけではなく、学校も秋からどうなることやらで、先が見通せないことが精神的にも人々に影響しています。現在ではやはりワクチンを待つしかないのでしょうか。皆さんは心身ともに健康に暮らされていますか。

口論からドメスティック・バイオレンスで逮捕。行方は?(1)_1224

 さて、今回から新しく頂いている読者からの質問を皆さんと一緒にまた考えていきたいと思います。

 いただいている質問をまとめると「日本にいる者(男性)です。数年前(大学生のとき)につきあっていた彼女がいたのですが、彼女がアメリカに留学するということで、数年ほど前に別れました。しかし、それからもコンタクトはとっており、最近(コロナ禍前)、アメリカで会おうということになり、私もはじめての海外旅行でしたが、彼女に会いにいきました。しかし、口論になり、最後には警察が来て、彼女も悪いと思ったのですが、私が逮捕されました。その後、釈放され日本に戻りましたが、裁判になるかもしれないと言われて不安です。一緒に住んでもいないのに、ドメスティック・バイオレンスになるのでしょうか」という質問です。

同居でなくてもドメスティック・バイオレンス(DV)?

 どうも、この質問されている方は、前の彼女とよりを戻したかったのでしょう、アメリカまで会いにきてとんだトラブルに巻き込まれたということだと思います。今回の質問者はたしかに、彼女と同居しているわけでもなく、現在付き合っているわけでもなさそうです。それなのにドメスティック・バイオレンス(以下「DV」とします)になってしまうのでしょうか。

「被害者」の定義は広いーカリフォルニア州の場合

 今回の事件は南カリフォルニアで起きている様子なので、カリフォルニア州法に基づいて考えていきましょう。

 まず、一般的にカリフォルニア州で、DV刑事事件の「被害者」というのは、かなり広汎に規定されています。
 条文には「Intimate Partner」という書き方になっていますが、わざと漠然とした規定にしています。日本語でいうと、「親しい間柄」といった意味合いになります。

 そして、親しい関係には、
(1)配偶者
(2)ドメスティックパートナー(同性結婚)
(3)フィアンセ
(3)恋愛関係にある同居者
(4)自分の子の親
(5)真摯に恋愛関係にある者
という広汎な関係
が含まれます。
そして、この関係は現存するだけではなく、過去の関係にも遡って適用されます。

「真摯に恋愛関係にある者」に該当する可能性

 そうすると今回質問されている方も、現在このアメリカ在住の女性と付き合っているわけではありませんし、恋愛関係にもなさそうです。
 しかし、過去に付き合っていたことから、上述した(5)の関係は存在しています。そして、女性側が警察に「元カレ」ということを言えば、十分にDVの法律が適用される下地はあるということになってしまいます。

 「今、全然付き合ってないし、関係がないよ」といっても、それは法律的な抗弁にはならないわけです。

 ですので、気をつけなければいけないのは、現在の恋愛関係だけではなく、過去の関係についても十分にDVとなり得てしまうということです。少なくともカリフォルニア州においてはかなり広く解釈されているということを覚えておいてください。

「バイオレンス」とは

 次に、質問には細かい事実関係は書かれていませんでしたが、「バイオレンス」というのは、単に物理的に暴力を振るうだけではありません。

 もちろん、恋愛関係や婚姻関係であれば、喧嘩などは起きるわけですが、物理的な暴力だけではなく、相手を畏怖させるような言動も含み、広汎な内容が「バイオレスンス」とされてしまいます。

 喧嘩は両成敗であるというのは、ユニバーサルな考え方ですので、お互いに攻撃しあっている場合には、DVの事件とはなりにくいですが、内容の吟味は現場の警察官の判断になると思います。そして、その判断でかなり広く「バイオレンス」と認めるべきであるというトレーニングがされています。

 そして、暴力的な言動だけではなく、不作為も場合によっては「バイオレスンス」とされてしまいます。

 たとえば、介護などが必要なのにそれを「しない」という場合です。積極的な行為だけではなく、なにかを「しない」不作為もバイオレスンスになるということも覚えておくと良いポイントだと思います。

 次回DV事件になる場合、そしてDVと認定された場合にはどのような刑が現在考えられるのか続けて考えていきましょう。コロナ禍でストレスが溜まり、DV事件も増えているようです。

 心身ともに健康で皆さんがお過ごしになっていることを心から願っております。また、来週まで一週間がんばっていきましょうね。


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帰国便で飲酒、トラブル。次回入国は?_1221

法律ノート 第1221回 弁護士 鈴木淳司
July 13, 2020

帰国便の機内で飲酒、トラブル。次回入国は?_1221

 この週末にJust Mercy(邦題では「黒い司法 0%からの奇跡」)という映画を見ました。邦題はまったく趣旨に外れていて陳腐で納得ができませんが、実話に基づいて、主人公も映画製作に関わっているようなので特に弁護士の方々には観ていただきたい作品です。多くの弁護士はなぜ、弁護士になったのか、人権とはどういうものなのか、ということをこの作品を通じて感じるものがあるはずです。私は刑事事件もライフワークとして、絶えずやってきましたが、この映画を観て、自分が若かった頃の情熱とか思いなどに重ねあわせ、各所で胸が詰まりました。今のアメリカにおける人権運動にも関わる内容です。接見などの場面などリアルすぎました。アメリカではコロナが広がっていますが、ぜひ皆さんも良い映画などをみて心を養ってください。

 さて今回から新しくいただいている質問を考えていきましょう。

 いただいている質問をまとめると「(コロナ禍前)最近、アメリカに出張に行った帰りに、機内で飲酒をしていたのですが、疲れからか酔ってしまい酒を頼んでいたにも関わらずもう出せないと言われ口論になりました。日本につくと警察沙汰になり事情を聴取されたのですが、今後アメリカの渡航に問題が生じるでしょうか」というものです。

航空機内の法律ー日本とアメリカ

 日本の法律をみると刑事訴訟法第2条に航空機に関する規定があります。
第1項には「犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地」で裁判できると規定されていますし、第3項には「国外に在る日本航空機内で犯した罪については、 第1項に規定する地の外、犯罪後その航空機の着陸(着水を含む)した地による。」と規定されています。

 日本の法律ですから、日本の飛行機に関することが書かれていますが、アメリカでも似たような航空機内での犯罪について様々な連邦法の規定があります。

 たとえば、客室乗務員の業務を妨害する行為は犯罪とされています(49 U.S.C. 46504)。この規定で妨害とは、暴力だけではなく言葉での強迫なども含まれることになっています。

 業務に影響する行為が広汎に含まれています(United States v. Meeker, 527 F.2d 12 (9th Cir. 1975)参照)。飛行機のなかでは、乗務員の指示に従わなくてはならないということですね。

飛行機はどの国所属か?

 まず、考えなくてはいけないことは飛行機がどの国に属しているかということです。
 基本的に日本の航空機であれば日本の法律が適用されますし、アメリカの航空機であればアメリカの法律が適用されます。

 しかし、それ以外にも上記にあるように例外は考えられます。

 今回の例には、航空機が所属している国については書かれていませんでしたが、かりに日本の航空機だったとしましょう。アメリカから日本に飛ぶ飛行機で口論になっているので、この質問されている方の住んでいるところ、飛行機が着陸したところなどを考えると、日本の法律が適用されることになります。

 したがって、かりに日本で事件化した場合には、次回のアメリカ入国においてどのように外国人の外国における犯罪が影響するのかを検討しなければなりません。

 現状のアメリカ移民法においては、かりに日本で有罪となった場合には、ビザなし入国などの可否に影響すると思われます。

アメリカの航空機内であった場合

 では、かりに今回質問されている方がアメリカの航空機に乗っていた場合はどうでしょうか。

 アメリカの航空機においては、基本的にアメリカの法律が適用されますので、今回質問されている方には上記に説明した乗務員の業務を妨害した罪に問われる可能性があります。

 今回の質問には、日本の警察で事情聴取をされたということが書かれていますので、直接アメリカの司法が関わらないようにも思えます。しかし、アメリカの航空機内で起こった口論ですので、程度の問題はありますが、アメリカの当局に告訴することも十分に考えられます。

 かりに、告訴が受理されて事件化した場合、特に連邦の法律に違反しているわけですから、アメリカに再入国するときに入国審査時に勾留されるかもしれません。

 ですので、不安は残ります。もし、再度アメリカに入国したいと思われているのであれば、事前に起訴されているかどうかを確認することをおすすめします。

 次回また、新しくいただいている質問を考えていきましょう。夏真っ盛りで暑いですが、熱中症に気をつけてまた一週間がんばっていきましょうね。


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成功について_1220

法律ノート 第1220回 弁護士 鈴木淳司
July 6, 2020

成功について

 みなさんの独立記念日はいかがだったでしょうか。アメリカにいてここまで静寂な独立記念日を過ごしたのははじめてかもしれません。残念ながら、コロナの影響はどんどん増している状況です。気候が暖かくなるとウイルスの活動が収まるという話はいったいどうなったのやら。私も事務所を再開するぞ、と気合をいれていたのですが、サンフランシスコ市も肩透かしにあったようなもので、じっとしています。色々いただいている質問にお答えする必要があるのですが、前回に引き続きこのところのアメリカの情勢を踏まえて、私が考えていることを書かせていただきたいと思います。質問をいただいている方たちには申し訳ありませんが、待っていてください。

 コロナの影響もあるのでしょうが、現在アメリカでは人種差別を撤廃せよ、という運動がかなり広がっています。差別というのは、人の心に存在するものです。人の心は教育なり環境で作られてくると思います。現大統領の発言をみるとよくわかるのですが、自分の心のなかに落ち着きどころがない人は、自己とは違う考えに偏狭であり、また、自分と他人の立ち位置の上下を気にします。アメリカでは色々な人種がいるのでこのような運動が起きるという論調のメディアも外国には多いですが、果たしてそうなのでしょうか。

 私は昔から三木清の人生論ノートを読みながら、自分の人生を考えることがあります。現代社会に合っていないところはありますが、色々なヒントをもらえる本です。その本のなかに「近代の成功主義者は型として明瞭であるが個性ではない」という一節があります。「成功のモラルはオプティミズムに支えられている」ともあります。なるほど、現大統領のコロナに対する発言などはオプティミズムそのままですが、以前にビジネスで成功していた人だから政治的にも凄いという話にはならないように思います。

 弁護士を長年やっていてよかったな、と思うのは色々な価値観に出会えてきたことです。会社や個人の価値観というのは、実に様々です。他人様の金銭的な話を超えて様々な話を聞けるというのは、なかなか一般的なことではないわけです。いくらお金を持っていても不幸な人もいますし、お金がなくてもハッピーな人がいます。

 「私の資産価値は○○ドルである」という人がいますが、それはすごい額なのかもしれませんが、実際にその人が幸せなのか、ということとは無関係であるということも弁護士をやっていて習いました。成功している、というのはいつも他人と比較しているのですね。そうすると実際は気が休まらないでしょう。自分の価値を社会においていつも、「あの人よりは上か下か」とかいう感じになってしまうのでしょう。そういう成功に執着している人たちは、「おれは幸せなんだ」ということを言われますが、細かいところでは他人と比べたりするものなのです。

 アメリカは、成功主義に浸された土壌が出来ているので、どのようなことでも、他人様と比べどうこう、ということが蔓延していると思います。人種問題に敏感になるのもそういった歪が原因になっていると思うのです。成功に対して、幸福というのは人それぞれ自分の心に宿り絶対的なものだと思います。人と比べようがなく、自分が満ち足りている感覚を持っていれば幸福なわけです。人は幸福であれば文句は無いでしょう。差別ももちろん問題ですが、どのような人でも、一人ひとり幸福を感じられる社会をつくるという方向にアメリカはなってほしいな、と思うのです。アメリカでも日本でも、憲法にサクセス(Success)という言葉はないですよね。一方で、幸福(Happiness)という言葉は、日本の憲法13条にも規定されています。人間として追求するべきは幸福であることが、法律にも書かれているわけですね。金銭的量的なな成功は幸福と同意義ではないのでしょう。

 幸福というのは、人が一人ひとり自分で感じるものですね。絶対的なものです。自分が幸福を感じていれば、人も幸福にできると思うのです。アメリカでも歪な成功主義にとらわれず一人ひとりが幸福であり、どっしりとした基礎があれば差別問題などはなくなっていくとおもうのですが。他人と比べてうんぬんという話は疲れる話です。

 アメリカ現大統領も、「俺がやっている政策でこれだけ数量的な成果を得たんだ」という成功主義者的な根のない考え方が染み付いているのでしょうが、真に国民の幸福とはなんぞや、ということを考えないと、この国の様々な分断を統一していけないでしょうね。そういえば、アメリカにいて、最近他人から「アーユーハッピー」という問いかけを聞くことが少なくなった気がします。私は常時ハッピーですけどね。人間なんて小さなものです。まず自分を幸福にできない人が他人になにか言うことってできないように思うのですが。成功の押し売りをしても、コロナは収束しませんし、人種差別問題も解消の方向に向かわないように思います。

 次回は、皆さんから頂いている質問を考えていきますね。もう一年が折り返し地点ですね。気を引き締めてまた一週間がんばっていきましょう。

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大変なときの寛容さ〜コロナ禍で想うこと_1219

法律ノート 第1219回 弁護士 鈴木淳司
June 28, 2020

大変なときに寛容であること_1219

 今回は一回質問にお答えするのを休ませていただき、仕事を通じて感じたことを考えさせてください。「寛容」という言葉を辞書で調べると「心が寛大で、よく人を受けいれること。過失をとがめだてせず、人を許すこと。」と書いてありますが、寛大というのがもうワンクッション説明が必要だと思いますが、考え方が広いということでしょう。

 このコロナでの自粛期間に今ならではの、様々な相談を受けています。個々の相談でも法律ノートにも質問が来ています。かなり具体的な質問もありました。
 なかでも多かったのが、「子供の教育機関や習い事に支払ったお金は戻ってくるのか」という質問でした。

 私に来る「相談」というのは、もちろん親が払った金を取り戻せないか、とか、学校側の話では、コロナの期間どのように対応するべきなのか、といった両方の話があるわけです。

 カリフォルニアはとにかく授業料が高くびっくりします。
 相談の案件でも、未就学者の保育に月10万円以上払うという感じのものが多くあります。教育費と親の熱意というのは、すごいものですね。

 相談のなかには、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育のために多額のお金を支払っている方もいて、コロナ自粛中の授業料を返金できないかというものも何件かありました。

 私としては、そこまで幼稚園児にお金を使うのか、なんて考えてしまい、比較のために自分が東京都内で通った幼稚園を参照してみたら、なんとその幼稚園もモンテッソーリ教育をしていたらしく、同年代の人たちには現在スポーツやテレビで活躍されている有名人や政治家や実業家のお子さんもたくさんいたようです。

 しかし、振り返って考えても、親の趣味で私も入園させられていたので、私は牧師さんのひげを引っ張って怒られた記憶と、絵を書いて、自分の絵が下手くそすぎて反省を促されたとか、特別な私立教育で得られたなにかがあったとは思えないのです。現在付き合っている友達もいません。それでも、私も当時東京都内有数のモンテッソーリ教育を受けたはずで、たぶん支払ったお金に見合っていなかったのではと自分で思ってしまいます。

 契約は契約ですから、「過剰に支払った部分は返してもらいましょう」というのは、当たり前ではあります。でも子供はたぶん、何も考えてないと思います。その学校が嫌いだったら、すでにやめているでしょうし。コロナで過払いしているのでは?と思った時に、考えていただきたいのは、学校は、自分の子供のためだけにあるということではないこと、それから、お金が戻ってきても子供には直接プラスにはならないこと、です。

 学校もかなり金銭的に困っています。私のお客様の学校でも困っているところもあります。一方で、お金を払っているのに、という気持ちもわかるところです。

 教育費というのは、かなり各家庭にとっては大きな負担なのかもしれません。
 しかし、教育機関というのは、自分の子供だけではなく、社会において優れた大人になるために広くたくさんの子供達が教育を受ける場であります。今後、自分の子の授業は中断したかもしれないけど、社会全般において、子供が元気に育つ可能性はあります。

 子供は親が寛容であるかどうかを見ていると思います。どんなに先生が素晴らしい学校であっても、子供は親を見ています。モンテッソーリ教育とかシュタイナー教育というのも重要なのかもしれません。しかしまず、教育は親がするものだと思います。前述したように私も幼稚園で先生に怒られたことは覚えていますが、その何倍も母親から怒られたことを思い出します。コロナで中断した学校対策もしかり、家での教育もしかり、親であれば各所に文句をいうよりも、寛容でいることが子供にとっても良い教育になるのではないかと思います。

 コロナで色々な歪が社会において出てきているのだな、ということを、相談案件を通じて感じますが、こういった非常時に、自分のことだけではなく、広く社会や人々の置かれている立場を理解する寛容な心がより一層重要になってくるように思います。

 コロナのために、今閉ざされた社会になってしまい、アメリカで暴動が起きている原因になっている事件しかり、暴動をしている人しかり、寛容な心が足りないと思うのです。こういった不安な日々が続くときこそ、自分が強くなり、人には優しくなることが必要なのではないのかな、と感じています。

 皆さんにも、人に優しく寛容な心はあります。ぜひ、みなさんもこのピンチのときに、寛容であってください。アメリカはまだまだ、コロナの影響から抜け出せません。一人でも死者が減るように、自分ができることをやりながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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ドメスティックバイオレンスで有罪。講習は必須か?_1218

法律ノート 第1218回 弁護士 鈴木淳司
June 22, 2020

 タカ派のジョン・ボルトンが現大統領についての本を今週出版するそうです。私も興味があるので、電子書籍で予約をしました。本屋さんには申し訳ないですが、コロナのときに電子書籍はかなり威力を発揮しています。この本については、週末に連邦裁判所で発行差止めの訴訟をウィリアム・バー司法長官が行い、負けました。なんだか観ていて、親狸の所業を子狸同士で化かしあっている感じがします。この本が出て、じゃあ、何が起きるのかというと、何も起きないような気がしますが、生真面目なボルトンが民事訴訟のリスクをかけて書いているので、一応読んでおこうかと思っています。日本のことも言及しているみたいですね。皆さんはコロナ対策いかがでしょうか。

ドメスティックバイオレンスで有罪。講習は必須か?_1218

 さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきましょう。

 いただいている質問をまとめると「以前DV事件で有罪となりました。色々な事情があって、公選弁護人に依頼しました。事件が終わって1年間の講習を言い渡されたのですが、新たに始めた仕事の都合でいけなくなりました。そうしたら、呼び出しが来て、刑務所に入ることになると先日裁判所で言われたのですが、講習というのは行かなければならないものなのでしょうか。通訳の人も来ていたのですが、言っていることが理解できませんでした」というものです。

公選弁護人は多忙、通訳士は能力差大

 長々いただいたメールを端折りました。具体的な内容についてはぜひご自身の弁護を担当された公選弁護人に聞かれたら良いと思います。忙しいかもしれませんし、充分な答えがないかもしれませんが、公選弁護人はとにかく忙しいし、事件が次から次です。ですので、あまり過度な期待は持たないほうがよいかもしれません。

 それから、通訳の人ですが、法廷通訳という職業がありますが、はっきり言ってピンキリです。私も20年以上「法廷通訳」の人たちを観てきていますが、私が日本とアメリカの法律知識に基づく法律用語の使い方から見ると、実際に正確に訳している人達は数パーセントだと思います。20年前から知っている素晴らしい法廷通訳の方がベイエリアにはいるのですが、訴訟になってその人の顔を見るとかなりホッとしたりもします。

 昨年には、この優れた法廷通訳の人がいきなり他州の連邦裁判に現れて、びっくり嬉しいこともありましたっけ。しかし、一般的にクオリティはかなり低いのが実情です。ほとんどの法廷弁護士は日本語ができないことから、スルーしてしまいますので、商売が成り立っているように思います。私は絶対にスルーしません。色々個人的には思い出話があるところですが。

カリフォルニアはDV事件に厳しい

 さて、DV事件というと刑事事件でしょうから、結局は有罪認定となった事例のようです。カリフォルニア州でDV事件が厳罰化されたのは、OJシンプソン事件がきっかけです。妻がかなり暴力を振るわれていたのに、死亡する前に止められなかった、ということがあったと思います。

 夫婦喧嘩が悪いわけではありません。暴力が悪いのです。
 ただ家庭内のことですので、なかなか第三者や裁判所が介入することができません。

 したがって、今回相談されている方は、なせ一年間のカウンセリングをうけなくてはいけないのか、ということを言われていますが、中長期的にみて状況の沈静化を確認するという方法論をカリフォルニアでは立法したわけです。

罰金ではなく教育とカウンセリング

 カリフォルニア州において、DV事件で有罪を認めると(陪審員によって有罪評決がなされると)、罰金は安く数百ドルの範囲です。

 ところが、必ずトッピングとして1年間のカウンセリングが義務付けされます。
 これは判決の一部になりますので、完了することが義務付けられます。

 ですので、今回メールにある講習というのが、この52週間(1年間)の講習の一部であれば、判決の一部ですので、ちゃんと終わらせないと、判決に違反したということになります。

 今回裁判所に呼び出されたという記述がありましたが、これは判決の一部を履行していないではないか、ということで、呼び出されていることになります。宿題をちゃんとやっていないから先生から呼び出されるという感じでしょうか。

講習には義務として参加すべき

 ですので、1年間のDV講習・カウンセリングについては、行かない時期があったとしても、ちゃんと終わらせないと判決に反することになってしまいますので、「義務」として理解してください。色々な類型のDV判決がありますが、講習を義務付けられるのは一般的ではあります。

 仕事の事情があれば、日時の変更は可能ですので、柔軟に終わらせるべきです。かりに裁判所の指示にしたがって終わらせないと、判決に反する行為として、さらにペナルティが発生して、禁錮になる可能性もあります。

 次回また新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。アメリカにいる皆さんはまだまだコロナの勢いが削がれていませんので、注意しながらまた一週間がんばっていきましょう。


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弁護士を目指す学生たちへ(2)_1217

法律ノート 第1217回 弁護士 鈴木淳司
June 15, 2020

 6月半ばからサンフランシスコの事務所を再オープンしようと思っていたのですが、まだコロナの影響でダメなのだそうです。もう、いい加減事務所も稼働したいところです。私の妹は、日本の大病院のコロナ対策の責任者をやっていて「第二波に備えている」と言っていましたが、アメリカではそもそも第一波がまだまだ収まっている気配がありません。なんだか、自治体も人々もアメリカでは緩んでいるところが出てきていますが、心配になってしまいます。みなさんのお住いの地域の状況はいかがでしょうか。

弁護士を目指す学生たちへ(2)_1217

 さて前回から考えてきた「現在、日本の大学で法学部に在籍しています。将来は弁護士になりたいと思っています。ただ、日本だけで弁護士をするよりもできれば、世界でも仕事ができるようになりたいという夢があります。英語も一生懸命勉強しています。しかし、法曹になるための試験は国ごとに違いますし、このまま日本で大学院に行くべきなのか悩んでいます。何かアドバイスをください。」という質問を続けて考えていきましょう。

 さて、国際的な法律の仕事をしたいということですが、まず、日本では「国際弁護士」とか、アメリカでも「インターナショナルローヤー」とかいう表現がありますが、まずこのような肩書をつけている人がいたら疑ってください。今回質問されている方も感じるのかもしれませんが、一般的に「カッコよい」響きがします。

 しかし、そのような公的な肩書もないですし、いったい何が「国際的な仕事」なのか定義がありませんね。単に英語の契約書をいじれれば国際法務と言っている人もいるようです。弁護士として活動するためには、どこかの団体に登録してはじめて弁護士として認められます。アメリカであれば各州の弁護士会ですし、日本であれば各単位弁護士会であります。日本とアメリカに同時に登録することもできますが、登録をすれば更新や安全講習を含め運転免許証と同様に色々な義務が生じます。

 結局、自分がどこでメインに活動するのかということで免許を更新するというのが一般的ではあります。私の事務所にも若い日本の弁護士がアメリカに多額の費用を使って留学し、アメリカの資格を取ろうとがんばっている子、実際に合格する子などいますが、日本に戻ったら実際にそのアメリカの肩書を使えるかというとかなり限られた使い勝手になると思います。

 このような実際を知ってもらったうえで、どのようなことをこれから学生さんは学べばよいのでしょうか。

 まずは、一つ言語を文化や歴史、言葉一つ一つの意味も含めてマスターしてください。日本であれば日本語で良いと思います。一つの言語で秀でないと、2つ目の言語を習っても中途半端になります。必ず誰に対して見せても恥ずかしくない語学力を一つの言語でつけてください。

 読解力だけでなく解析や推測、アウトプットなど、法律学というのは語学で吸収し、表現する能力が最重要です。そして、言語というのは一朝一夕にできたものではありません。歴史的に言葉にどのような意味があり、文化によってどのように変化してきたか敏感に理解する必要があります。

 次に、法律学というのは、哲学的な話は置いておきますが、実務的にはいわば、世の中の事象の「範囲」を知る学問です。

 良いこと悪いことでも、どこからどこまでだったら許される、隣人との問題もどこまでだったら良いのか悪いのか、契約を結んだらどこまでの範囲でこちらの意思を通せるのか、といった、人間関係のボーダーラインを設定する学問です。ですので、このラインについては、文化や時代などでも変わってきますね。世界統一ではないわけです。

 ということは、この「範囲」を知るためには、本だけではなく、人の日常の考えや、国民性、歴史や、培われてきた文化を勉強する必要がありますね。アメリカを取ってみると、今人種差別などがクローズアップされていますが、多様性の歴史や文化は日本にいると体感できないかもしれません。おざなりな言い方ですが、若いうちは卓上の勉強だけではなく、色々な人に接し、色々な文化や歴史を学び、世の中に存在する多種多様な価値観を素直に咀嚼できる脳を作るのが法律実務家として大事に思います。

 法律実務家の仕事も多種多様なニーズが生まれてきていますので、現在弁護士をしている人たちの考え方にこだわらず、多種多様な価値観を勉強しながら自分の将来を思い描いてみてください。時間だけは誰にも買えないのですから、若い間には特権をフル活用されると良いですね。

 次回からまた新しい質問を考えていきましょう。まだコロナには油断できませんが、一週間健康に気をつけてまたがんばっていきましょうね。


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弁護士を目指す学生たちへ(1)_1216

法律ノート 第1216回 弁護士 鈴木淳司
June 8, 2020

 前回私見を言及した白人警察官による黒人被疑者の殺人事件ですが、今週に入って「白人対黒人」的な根強い人種差別問題に発展して大統領の器量まで問題にされています。肌の色というのはたしかに目に付きやすいので、考えの浅い人は人の見てくれだけで判断しているのかもしれませんが、白人だろうが黒人だろうが、アジア人だろうが、悪いやつもいれば、道徳、人格、器などが素晴らしいと感じる人もいます。私はアメリカにいる人は、様々なバックグラウンドを持つ人と交わるチャンスがあるのだから、チャンスを生かして友達を増やせば良いのにと思います。人間にはいろいろな違いがあり、その違いをポジティブに楽しむことがこの国の魅力だと思っています。単にネガティブな対立論ではつまらないと思うのですけどね。

弁護士を目指す学生たちへ(1)_1216

 さて、今回からまた皆さんからいただいている新しい質問を考えていきたいと思います。
 いただいている質問をまとめると「現在、日本の大学で法学部に在籍しています。将来は弁護士になりたいと思っています。ただ、日本だけで弁護士をするよりもできれば、世界でも仕事ができるようになりたいという夢があります。英語も一生懸命勉強しています。しかし、法曹になるための試験は国ごとに違いますし、このまま日本で大学院に行くべきなのか悩んでいます。何かアドバイスをください。」というものです。

 どうも、質問者の知り合いの弁護士から聞いて私のところに質問を送られてきたようです。
 個人的にはいくつもこのような質問にお答えしてきましたが、法律ノート宛に質問が来たので、せっかくですから、ここで考えていきたいと思います。

 ずいぶん長い質問メールをいただきましたが、一般的な回答にするために端折りました。質問者の方は子供のころ、親の転勤でずいぶん海外でも過ごされていたようで、国際志向が強い方のようです。日本人が海外でがんばることは、容易になってきているでしょうし、頼もしいことだとは思います。

 一方で、最近の若い人は日本からあまり出たがらないという話もあります。
 ちょうど冒頭にも書きましたが、世界に出ると様々な考え方があったり、自分の知らない世界や場所がたくさんあります。自分の価値を超えていろいろな興味を持つというのは人生に取ってマイナスになることはありえないと思います。ぜひ夢を大きくがんばっていただきたいものです。

 質問者の方を個人的に知らないので、法律ノートでは一般論にとどめますが、燃焼不足であればまた直接質問していただければと思います。若い志士の質問は大歓迎です。

 さて、弁護士といってもまず質問者の方がどれだけ実際の実務でどのような仕事をしたいのか、イメージされているのでしょうか。

 弁護士と言ってもやることができる仕事の幅が大きく、自分がどのようなことをしたいのか、という感覚はできるだけ多くの法曹に接して研ぎ澄ませておくことが重要だと思います。

 最近では会社内で法律の事務をする弁護士も多くいますし、団体に属して、その団体の利益を広めるための活動をする弁護士もいます。パートタイムの人もいれば、寝る間を惜しんで働いている弁護士もいます。権力側の弁護士、検事や行政機関に勤務する人もいます。国際的な機関で働くひともいるでしょう。

 現在では様々な情報の媒体があるのですから、まず第一歩はいろいろな法曹に接してイメージトレーニングすることでしょうか。

 弁護士というのは基本的には自由業ですので、自分が欲する形で仕事ができます。ここはかなりの魅力ではあります。しかし、自由であれば責任も生じます。組織で働いていた方が楽かな、と思う人もいるでしょう。自分のライフスタイルというのもあるわけです。

 なんとなく、スーツを着て法廷でバリバリ弁論をしている、というイメージがありますが、実際は様々な弁護士像があると思います。もちろん、イメージと実際は違うところもありますし、夢もシフトするでしょう。でも、具体的な想像はある程度しておくことはかなりプラスになります。弁護士って、なかなかわかりにくい職業でもありますし。私は、子供の頃は医師になりたいと思い、実際に医学に進むか悩んだときもありました。一方で私の妹は子供のころは弁護士になりたいと言っていました。蓋を開けてみると、私が弁護士になり、妹は看護師として社会でお世話になっています。映画でも、ドラマでも良いと思いますが、自分が「いいな」と思える弁護士像をまず考えておきましょう。

 ちなみに、私が「英語で法廷での弁論がしたい」と思って今に至る根源は、東京裁判という実写に基づいた映画でした。日本の著名な法学者が法廷で和歌を読むような調子で高尚な弁論をしたのですが、判事から、有罪か無罪かの答弁をと強く促されて詰まってしまったり、アメリカ人の将校でもある弁護士が弁論をしていて、途中で怒って出ていってしまったりするシーンがあり、何度も観た記憶があります。大人になって東京裁判というのはある意味勝戦国による政治的な部分が大きいことを学びましたが、若いころは、イメージ的な刺激になったと思います。次回はでは、弁護士になるためにはどのような勉強が大事なのか考えていきましょう。

 天気が夏のような日も多くなってきましたね。私は花粉でやられ気味ですが、太陽の光を浴びながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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