移民法速報 2026年5月(3)-

じんけんニュース 弁護士 鈴木淳司  05-23-2026
May 23, 2026

I-485申請を確認する行政メモ

今回は、2026年5月21日にUSCIS(米国市民権移民局)が公表した行政メモ(Policy Memorandum)PM-602-0199について、皆さんと一緒に詳しく考えていきたいと思います。

タイトルは「Adjustment of Status is a Matter of Discretion and Administrative Grace, and an Extraordinary Relief that Permits Applicants to Dispense with the Ordinary Consular Visa Process」という、長い英語のタイトルですが、要するに「永住権ステータス変更(I-485申請)とは、通常の在外公館における申請を免除する特別救済であって、行政裁量の問題だ」ということをわざわざ再確認するメモです。

このメモは公表と同時に効力を生じており、係属中(ペンディング)の申請にも適用されることが書かれています。つまり、I-485申請をお考えの方、あるいは現在申請中の方には、今回の内容が直接関係しますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。

以下詳しく考えていきましょう。

永住権ステータス変更(Adjustment of Status)と在外公館申請(Consular Processing)

アメリカで永住権(グリーンカード)を取得するためのルートには、大きく分けて二つがあります。今回発表されたメモの核心を理解するためには、まずこの二つの経路の違いを考えておくことが重要です。

(1)在外公館申請-Consular Processing

本来の正規経路
在外公館申請とは、申請する外国人が本国または第三国の米国大使館・領事館において、移民ビザ(Immigrant Visa)の審査を受け、その審査をクリアーした上で米国に入国して永住権者となる手続です。

根拠となる主な法令はINA§204(移民ビザ申請)、INA§221(ビザ発給)および22 CFR Part 42です。

移民ビザの審査は国務省(Department of State)とケンタッキー州ルイビルにあるナショナル・ビザ・センター(NVC)が主管し、最終的には在外公館の領事職員(Consular Officer)が判断を下します。

この手続は、法的な立場から言えば「基本となる正規のルート」です。法律上、外国人は原則としてこの経路で米国への入国および在留資格を取得することが想定されており、今回の政策メモはその原則を改めて強調したということになります。

(2)永住権ステータス変更-Adjustment of Status, I-485

在米申請の例外的ルート

永住権ステータス変更とは、移民法第245条(a)(8 U.S.C. § 1255(a))を根拠とするを手続であり、すでに米国内に合法的に在留している外国人が、本国に帰国することなく(在外公館申請をすることなく)、米国内でI-485フォームを申請することにより永住権の取得を可能とする制度です。就労ビザ(H-1BやL-1)で在留しながら就労を継続したまま申請できるため、特に在米日本人の皆さんにとっては馴染みの深いルートだと思います。

永住権ステータス変更申請が認められるための要件としては、主に①申請時点で移民ビザ番号が利用可能な状態(Current)にあること、②合法的に入国(Inspected and Admitted or Paroled)していること、③不法就労等の特定の資格欠缺事由がないこと——などが挙げられます(INA§245(a)(c))。しかしながら、これらの法定要件を満たしただけでは不十分であり、これに加えて、移民局が「裁量の有利な行使(Favorable Exercise of Discretion)」を行うことが必要です。今回の政策メモが焦点を当てているのは、まさにこの裁量判断の部分です。

2.「特別救済(Extraordinary Relief)」という性格づけとPM-602-0199の内容
(1)政策メモの位置づけ
USCISの政策メモ(Policy Memorandum)は、連邦規則(CFR)とは異なり、審査官に対する内部的な運用指針としての性格を持ちます。法律や連邦規則を改正するためには議会の立法や行政手続法(APA)上のnotice-and-comment手続が必要ですが、政策メモは行政裁量の範囲内で発出できるため、今回、現政権はこれを積極的に活用してきました。PM-602-0199は既存の法律や連邦規則を変更するものではないと明記されていますが、審査官が個々の事案においてどのように裁量を行使するかに直接影響する点で、その実務的影響が出てくると思われます。

(2)「行政裁量と恩恵の問題」という法理の再確認
政策メモが援用する法的根拠として最も重要なのは、移民控訴委員会(Board of Immigration Appeals, BIA)が1974年に下したMatter of Blasです(15 I&N Dec. 626)。この判例において、BIAは「永住権ステータス変更とは在外公館申請という通常の経路に対する特別救済であり、申請人は裁量の有利な行使を受ける権利(Right)を有しない」という基本原則を確立しました。その後、連邦最高裁もPatel v. Garland(596 U.S. 328, 2022)において、永住権ステータス変更に関する移民局の事実認定は司法審査の対象外であることを確認しており、永住権ステータス変更の裁量性は判例法上も定着しています。たしかに外国人がアメリカに滞在することは、行政の裁量で決めることができます。日本でも同様で、マクリーン事件においても日本の最高裁判所が行政の「広汎な裁量」で決められるとしています。

今回の政策メモはこれらの先例を明示的に引用した上で、裁量審査を行う、と明記しました。申請者が申請において、示すべき基準として、政策メモはMatter of Blasの「異例または特に顕著なエクイティ(Unusual or Even Outstanding Equities)」という定式を採用しています。「エクイティ(Equities)」とは衡平法上の概念で、ここでは申請人に有利に働く諸事情、たとえば、長期在留・家族的紐帯・地域貢献等を指します。何が言いたいかというと原則としては、自国に戻って許可を待つことであって、アメリカ国内にとどまりながら、I-485を利用して永住権を申請するのは例外であると強調しているのです。
(3)デュアル・インテント在留資格保持者の取り扱い

H-1BビザおよびL-1ビザは、移民法上「デュアル・インテント(Dual Intent)」、すなわち非移民としての一時的在留意図と将来の移民意図を同時に持つことが法的に許容される—非移民在留資格です(INA§101(a)(15)(H)(L))。通常は、永住の意思を申請により明示すると、非移民在留資格とは矛盾すると捉えられています。この点について政策メモはデュアル・インテントを明示的に認め、「デュアル・インテント在留資格による在留と永住権ステータス変更申請は本質的に矛盾しない(Not Inconsistent)」と述べています。H-1BやL-1の方が永住権ステータス変更申請を行うことは、許されていて、デュアル・インテントを持っていたとしても、そのこと自体が、永住権の意思を明示したとしても、それ自体で永住権申請とビザ保持の両立を否定することはない、としたのです。しかし、今回のメモによると、H-1BやL-1で非移民として適法に在留中だからといって、それだけでI-485申請が認められる時代は終わりを告げたと理解できます。

3.裁量判断の具体的な分析枠組み:何が「有利な要素」で何が「不利な要素」か

政策メモは、I-485申請における裁量分析の枠組みについて、審査官が個別事案において考慮すべき要素を類型化しています。

(1)有利な要素(Favorable Factors)
有利な要素として例示されているものとしては、以下が挙げられます。
・ 米国における長期にわたる継続的な合法在留歴(特に5年以上)
・ 雇用主との安定した雇用関係と経済的自立・貢献
・ 米国市民または永住権者である家族との強固な絆(特に子女・配偶者)
・ 地域社会・慈善活動・宗教活動等への貢献
・ 良好な道徳的品性(Good Moral Character)——犯罪歴がないことの証明
・ 申請外国人が社会的・経済的に米国社会に統合されていること
・ 本国に帰国した場合に生じる著しい困難(Hardship)の立証
これらの有利な要素が積み重なることで、審査官は在外公館申請という原則から離れてI-485申請、すなわちアメリカ国内に滞在しながら、永住権ステータス変更を許可するという流れになります。特に注目すべきは「著しい困難の立証」です。たとえば、長年米国で教育を受け就労してきた申請外国人が今更帰国することで生じる不利益、キャリアの断絶、子供の教育上の影響、医療へのアクセス困難等を具体的に主張・立証することが今後必要になってきます。

(2)不利な要素(Adverse Factors)
一方、不利な要素として挙げられるものとしては以下があります。
・ 非移民在留資格の条件違反歴(不法就労、雇用主変更の未届け等)
・ 在留資格の失効期間(オーバーステイ)の有無
・ 過去の虚偽申告(Misrepresentation)や詐欺的行為
・ 犯罪歴(軽微なものも含む)
・ 在外公館申請が明らかに利用可能であるにもかかわらず在米申請を選択したこと
・ 人道的仮放免(Humanitarian Parole)等の特別措置を利用していないこと
実際、人道的仮放免制度を利用して米国に滞在しつつ、永住権をI-485を通して申請する事例について今回の政策メモが特に注目している点です。バイデン前政権において、キューバ・ハイチ・ニカラグアそしてベネズエラ(CHNV)出身者等に対して仮放免措置が広く活用されましたが、PM-602-0199はこのような仮放免から永住権ステータス変更への流れを「在外公館申請を迂回する手段」として問題視しており、審査官に対して特に慎重な裁量行使を求めています。日本国籍の方には直接関係が薄い話ですが、全体的な政策の方向性として理解しておく意味はあります。

4.申請中の案件への適用——係属中のI-485への影響

今回の行政メモ、PM-602-0199が特に実務上の懸念を生じさせているのは、現在ペンディング中のI-485にも影響する点です。すでにI-485を提出済みの方は、突然審査基準が変わったことになります。この点について米国移民法弁護士協会(AILA)をはじめ複数の団体が懸念を表明しており、適正手続(Due Process)の観点からの法的異議申立(Litigation)の動きも一部に見られます。
実務上の影響としては、審査中に追加証拠提出要求(Request for Evidence, 「RFE」)が増加することが予想されます。RFEにおいては、「なぜ在外公館申請ではなく、米国内にとどまりながら、ステータス変更を選択したのか」という理由の説明が求められる可能性があり、RFEへの対応を今から検討しておく必要があります。また、裁量に基づく却下(Discretionary Denial)に対しては、8 CFR § 103.3(a)(1)(i)に基づく行政審査請求(Appeal)や再審査・再開申立(Motion to Reconsider / Motion to Reopen)が可能ですが、これらの手続には厳格な提出期限(却下通知から原則30日以内)が設けられています。拒否判断に遭った場合には、対応にあまり時間がないということになります。

5.在外公館申請との選択:在米申請と帰国申請、どちらが有利か

今回の政策メモを受けて実務上浮上してくる重要な問いは、「これからI-485を申請しようとしている人は、あえて在外公館申請に切り替えるべきか」です。一概にどちらが良いとは言えませんが、以下の観点から個別に検討する価値があります。
(1)在外公館申請を選択することが有利に働き得るケース
在留資格の維持に関して瑕疵がある場合、たとえばビザの有効期間切れがある場合には、在米でのI-485審査においてその瑕疵が不利な要素として考慮されるリスクがあります。このような場合、I-485の要件を厳しく吟味する米国内での審査よりも、要件がそこまで現状では厳格化されていない在外公館申請の方が有利な結果をもたらす可能性があります。
(2)在外公館申請に伴う固有のリスク
他方、在外公館申請には、在米申請にはない重大なリスクが伴います。最も重要なのは「米国に戻る際の入国禁止措置(Bar)」です。米国内に不法滞在歴が180日以上1年未満ある者が出国した場合には3年間、1年以上ある者が出国した場合には10年間、それぞれ再入国が禁止されます(INA§212(a)(9)(B))。また、申請外国人が在外公館での審査において移民不適格事由(Grounds of Inadmissibility)を認定された場合、その後の入国は長期にわたり阻まれます。出国そのものが取り返しのつかない法的リスクを生む可能性があることを、覚えておかなければなりません。

結論として、在米申請と帰国申請のどちらを選択すべきかは、個々の申請人の在留歴・在留資格の瑕疵の有無・家族状況・優先日付の状況等を総合的に検討した上で判断する必要があります。
とにかく、アメリカに非移民ビザで滞在しつつ、永住権を申請していこうという外国人にとってはかなり深刻な問題を引き起こす可能性を潜在的に含んでいます。このような状況にあるので、これから、アメリカ国内に滞在しつつ、I-485を申請することは例外的措置になっていく、という政府の意向には注意していかなければならないです。そして、現在I-485を申請してアメリカ国内に滞在されている外国人の方たちは不意打ちを食らう可能性があるので、弁護士とRFEが来る可能性なども含め話し合うことをお勧めします。

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