国際結婚と相続-アメリカから日本の甥姪に相続させたい(2)_1534

法律ノート 第1534回 弁護士 鈴木淳司
July 26, 2026

最近のニュースで驚いたのが、あるAIが他社のAIに自動的に侵入していた、というものです。人間が関知せずに、勝手にAIが動いて、いわば他人の家に入って飯を食べているようなものです。こわいですね。今、AIがウイルスにも利用されていて、詐欺やハッキング被害が増えていますが、これからはAIを導入してAIと対峙するという世界になっていくのでしょうか。


さて、前回から考えている質問をもう一度確認しておきましょう。

いただいている質問をまとめると「私は日本から移住してきて、アメリカ人の夫と30年ほど一緒に住んでいました。子はいません。一昨年夫が病気でなくなりました。友人はたくさんおりますが、私の家族はアメリカにはおりません。妹が日本におり、甥っ子、姪っ子の2人がいます。将来は私も日本に戻ることも考えていますが、現在日本に住んでいる妹の子ども二人に財産を相続させたいと思っています。財産は家と銀行口座の預金です」というものです。

前回は、何も対策をしないまま亡くなられると、無遺言相続(Intestate Succession)の法定順位により、原則として妹さんが相続することになり、甥御さん・姪御さんに直接残したいというご希望は実現しない、というところまで考えました。

今回は、前回の最後に触れたプロベート(Probate・検認手続)の中身と、その回避方法を考えていきます。

遺言があってもプロベートは必須

プロベートというのは、亡くなった方の財産を、裁判所の監督の下で、人格代表者(Personal Representative・遺言執行者や遺産管理人のことです。)が集めて債務を清算し、相続人や受遺者・受益者(Beneficiary)に分配する手続です。

ここで注意していただきたいのは、遺言を書いておいてもプロベートは原則として必要になる、という点です。

遺言は「誰に承継させるか」を指定する意思表示ですが、その内容を実現するためには、やはり裁判所の手続を経る必要があるのです。カリフォルニア州では、一定額を超える遺産についてプロベートが必要とされており、ご自宅のような不動産をお持ちの場合には、原則として対象になると考えていただいたほうがよいと思います。

プロベートにかかる期間と費用

プロベートの負担は小さくありません。

期間は、順調に進んでも1年前後、複雑な事案では2年以上かかることも珍しくありません。

費用については、弁護士と人格代表者の報酬が法定報酬(Statutory Fees)として、遺産の総額(Gross Value)を基準に法律で定められています。たとえば100万ドルの遺産であれば、弁護士報酬だけで2万3000ドル、人格代表者にも同額が認められます。

しかも、この「総額」は住宅ローンなどの負債を差し引く前の金額で計算されます。加えて、手続が公開の裁判記録になること、質問者さんのケースのように財産を受け取る方が日本にお住まいだと、書類のやりとりや署名の手配などでさらに時間がかかりやすいことも難点です。

リビングトラストでプロベートを回避

そこで、カリフォルニア州では、プロベートを回避するためのエステートプランニングが広く行われています。

その中心となるのが、撤回可能生前信託(Revocable Living Trust・リビングトラスト)です。ご自身が委託者(Settlor)兼当初の受託者(Trustee)となってトラストを設定し、ご自宅や銀行口座の名義をトラストに移しておきます。

生前は今までどおりご自身が財産を自由に管理・処分でき、トラストの内容はいつでも変更や撤回ができます。そして亡くなられた後は、あらかじめ指定しておいた後継受託者(Successor Trustee)が、裁判所を通さずに、トラストの定めに従って甥御さん・姪御さんに財産を分配する、という仕組みです。大切なのは、トラストの書面を作るだけでなく、財産の名義を実際にトラストへ移しておくこと(Funding)です。名義の移転を忘れた財産は、結局プロベートの対象になりかねません。

銀行口座・不動産の簡易な承継方法とその限界

より簡便な方法もあります。

銀行口座については死亡時受取人指定(Payable on Death・POD)、不動産については死亡時譲渡証書(Transfer on Death Deed)という制度があり、これらを使えば、個別の財産をプロベートを経ずに承継させることができます。

ただし、受取人が先に亡くなった場合の予備的な指定がしにくいこと、財産ごとの指定がばらばらになり全体の整合性が取れなくなりやすいことなど、限界もあります。

ご自宅と預金という複数の財産を、日本にいるお二人にきちんと残したいというご希望であれば、トラストを軸に据えるのが王道だと思います。

次回は、気になる税金の問題と、将来日本に帰国される場合の注意点を考えていきます。


夕方になると涼しい風が吹くのがベイエリアの夏の良いところです。日中の日差しは相変わらず強烈ですから、日焼け対策を忘れずに、また一週間がんばっていきましょうね。

【事務局注】

カリフォルニア州の少額遺産の基準額は物価に応じて定期的に見直されます。2025年4月1日以降に死亡した場合、動産(銀行口座等)については208,850ドル以下であれば少額遺産宣誓供述書(Small Estate Affidavit)による簡易な移転が可能です。また、主たる居住用不動産については、2025年4月1日施行の新制度(AB 2016)により750,000ドルまでなら簡易な承継手続を利用できる場合があります。ご自宅を含む遺産設計をお考えの際は、これらの基準額も踏まえてご検討ください。

このシリーズを読む

関連する米国法律リソース

免責事項

本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年8月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。

本記事の内容に基づいて行動される場合は、必ず専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた適切な法的助言を受けてください。本記事を読まれたことにより、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼人関係が成立するものではありません。

本記事の利用により生じたいかなる損害についても、JINKEN.COMおよび執筆者は、故意または重過失がある場合を除き、責任を負いかねますのでご了承ください。

関連記事

運営弁護士について

アメリカ暮らしを現実に。
JINKEN.COMにアカウント登録して最新のアメリカ移民法にキャッチアップ


ご相談先をお探しですか?

アメリカの法律問題、どこに相談すればいいかわからない——そんな方のために、JINKEN.COMではアメリカの弁護士事務所への橋渡しサービスを提供しています。

弁護士への相談をためらう理由はさまざまです。言葉の壁、費用への不安、何をどう伝えればよいかわからない、そもそも自分のケースが相談に値するのか——。そういった不安や疑問を、まず私たちにお聞かせください。

JINKEN.COMのスタッフが、弁護士への相談に向けた情報整理と必要書類のとりまとめをお手伝いします。事前の準備を整えることで、弁護士への相談にかかる時間や費用を抑えられる場合があります。

料金は事前に明確にご提示し、追加請求は一切ありません。

ご相談は i@jinken.com またはこちらのお問い合わせフォームから、24時間受け付けております。

ブリッジサービスの詳細はこちら

■アメリカの永住権を抽選で取得ーDiversity Immigrant Visa Program

アメリカの永住権を抽選で取得する制度があるのをご存知ですか?
日本からも、毎年永住権者として長期合法滞在する方々がいらっしゃいます。

応募サポート希望の方はこちらから

日本出生の方は、高校卒業時点からご応募ができます!当選後も安心のサポート。まずは正しい応募から。

■グリーンカードDV当選後サポート

グリーンカードDV抽選に応募して、当選の確認を忘れていませんか?当選は、忘れた頃にやってきます!

グリーンカード当選後サポートはこちらから

充実した当選後サポートで、安心してグリーンカード取得まで進めましょう。家族・仕事・結婚・離婚・海外在住・介護に闘病と場面は様々ですが、お客様のニーズに柔軟にお応えしています。

作成者: jinkencom

jinkencom について JINKEN.COMの運営者であり、カリフォルニア州弁護士として活躍中の鈴木淳司弁護士のブログです。「移民法ブログ」では米国の移民分野についてホットな話題を取り上げて月に一度更新、「アメリカ法律ノート」は広くアメリカの法律相談に答える形で、原則毎週更新しています。なお、本ブログの著作権は著者に帰属します。 *たびたび法制度が変わりますので、最新情報をご確認の上、手続きされてください。