じんけんニュース 弁護士 鈴木淳司 08-16-2026
August 16, 2026
■アドバンス・パロールによる渡航リスクと、9月に向けた移民行政の変更点
2026年8月も、移民行政の動きは止まりません。
今月は(1)事前旅行許可証(アドバンス・パロール)による出国の評価を14年ぶりに変更した移民控訴委員会の決定、(2)9月に集中する制度変更、(3)審査環境の厳格化、(4)司法判断が出ても決着しない争点、の四点を考えます。
アドバンス・パロールによる出国を「出国」と評価する変更
2026年8月13日、移民控訴委員会(Board of Immigration Appeals、BIA)は、Matter of Delcarmen-Lara事件, 29 I&N Dec. 830 (BIA 2026) において、従来先例とされてきたMatter of Arrabally and Yerrabelly事件, 25 I&N Dec. 771 (BIA 2012) で示された法理を変更しました。
まず、今回の変更がなされる前のArrabally法理を考えます。
永住権ステータス変更申請(I-485)が米国内において係属中の外国人が、アメリカを一時的に出国する場合、事前旅行許可(Advance Parole、以下「AP」といいます。)を取得して出国するのが一般的でした。そして、APを使って出国しても、移民法第212条(a)(9)(B)(8 U.S.C. §1182(a)(9)(B))でいう、不法滞在の審査を発動させる「出国(Departure)」には当たらない、という解釈だったのです。アメリカを一時的に出てはいても、法的には「出国」ではない、という扱いです。
この法理により、過去に不法滞在期間のある方でも、APがあれば安心して渡航できたわけです。
今回のDelcarmen-Lara事件における決定はこの解釈を改め、APによる渡航も移民法第212条(a)(9)(B)にいう「出国」に当たり得るとしたのです。
そうすると、かりに永住権ステータス変更申請がペンディングの外国人が正当な手続を経て、APを取得したとしても、過去に180日以上の不法滞在(Unlawful Presence)を累積していた方は3年間、1年以上であれば10年間、再入国が禁止される可能性が生じることになったのです。
もっとも、決定は将来効とされ、8月13日より前に完了した渡航には従前の法理が及びます。
現在、永住権ステータス変更申請が係属中でAPをお持ちの方は、米国から外国に渡航する前に、不法滞在期間の累積があるかで危険性が変わります。必ず確認をしなければなりません。
加えて、7月下旬以降、国内線で移動中の外国人が空港で拘束される事例も報告されています。適法な永住権ステータス変更が現在ペンディングであったとしても、EAD、AP、およびI-797受理通知等の常時携行をお勧めします。
9月15日の制度転換―在留期間の固定化とフォーム変更
前号でお伝えしたとおり、国土安全保障省(DHS)はF(学生)、J(交流訪問者)、I(報道関係者)の有効資格保持期間(Duration of Status、以下「D/S」といいます)を廃止する最終規則を公布しました(91 FR 44976)。施行日は2026年9月15日です。
D/Sというのは、簡単にいえば、学生であれば、「通学している期間」、研修をしている外国人は「研修を継続している期間」ということになります。入国目的に合致した内容を継続している期間ということです。
これに関し新たな変更が施行されました。
米国市民権移民局(USCIS)は2026年8月14日、Form I-539(在留資格延長・変更申請)とForm I-765(就労許可申請)の新版(09/15/26版)を9月15日に公表し、新しいフォームへの移行に猶予期間を設けないと発表しました。
15日より前の消印・電子提出は旧版のみ、15日以降は新版のみが受理され、旧版を15日以降に出せば受理拒否(Reject)になります。I-539は受理拒否されるとI-94の許可期限(Admit Until Date)の翌日から不法滞在が進行し得るため、単なる出し直しでは済みません。
9月中旬をまたぐ申請は、14日までに確実に消印を得るか、15日以降に新版で出すか、どちらかをはっきりさせるのが安全です。なお、大学関係団体等が同規則への法的挑戦を準備していますが、施行が停止された事実はありません。
審査環境そのものの厳格化
(1)RFE・NOIDを経ない却下
2026年8月5日、USCISは政策通達(Policy Alert、PA-2026-05)を発出し、即日発効させました。
従来、初期証拠(Initial Evidence)が不足する場合はまず追加証拠提出要求(RFE)または却下予告通知(NOID)を出すよう内部で指示されていましたが、この指示が撤回され、審査官はRFE・NOIDを経ずに直接却下できる裁量を得ました。
そして、移民局から追加書類提出を求められた場合、その応答期間についても、従来は原則として与えられていた最大12週間(84日)が、あくまで「上限」であって審査官の裁量でより短く設定できることが明確化されました。また、この追加書類の応答について国外郵送をする場合、追加で14日間が加算される運用も廃止されました。
その結果、実務的に「とりあえず提出して、RFEの段階で補う」という進め方はもう成り立たず、初回提出時の書類の完全性が決定的になります。
たとえば、日本から戸籍謄本等を取り寄せるような案件は、翻訳の時間も見込み早期に着手する必要が出てきました。
(2)DNA検査の提案の義務化
同日の政策通達(PA-2026-06)により、血縁関係が争点で一次証拠が入手不能・信頼できない・不十分な場合、審査官はDNA検査を任意の証拠として提案しなければならないとされました。
検査自体は任意(Optional)ですが、費用と時間は申請者の負担です。日本の戸籍が「不十分」と評価されないよう、翻訳と説明を整えておくことが備えになります。
上記(1)と(2)は即日発効しました。
「決着しない」移民法——出生地主義とH-1B10万ドル手数料
2026年6月30日、連邦最高裁はTrump v. Barbaraで6対3により合衆国憲法第14修正の出生地主義市民権を再確認しました。外国人でもアメリカで生まれれば、出生地主義により、アメリカ市民権が与えられるという法理を再確認したわけです。
ところが最高裁の判断が出てから五週間後の8月6日、大統領は二本の大統領令に署名しました。
一本目は外国政府職員の子等を対象から除外するもの、二本目はいわゆる「出産ツーリズム」につきビザの拒否・取消しと入国阻止を認めるものです。
対象を絞って出生地主義の制限をしていこうという戦術と見られ、8月11日にはACLU等が提訴しました。合法的に滞在される駐在員のご家族の出産が直ちに影響を受ける根拠はありませんが、注視すべき動きです。
H-1Bの10万ドル手数料も同様です。
7月24日、第一巡回区控訴裁判所は同手数料を違法とした地裁命令に対する政府の執行停止(Stay)申立を却下し(State of California v. Mullin)、28日、USCISは命令に従い徴収しないことを認めました。現時点で支払は不要ですが、DHSは命令が解除されれば徴収する意向を示し、上訴審の審理も続いています。確定的な勝訴ではなく、暫定的な状態であることにご留意ください。
まだまだ、外国人の米国入国・滞在の締め付けが続きそうです。このままでは、留学生にも影響するので、アメリカを敬遠する外国人も増えていくのではないかと危惧されます。
また次回、ドラスティックに変わっていく移民法を皆さんと共有していきたいと思います。
このシリーズを読む
- 移民法速報 2026年5月(1)-ビザ優先日の実質後退 他
- 移民法速報 2026年5月(2)-H-1BビザとOPTの制限
- 移民法速報 2026年5月(3)-在留資格切替え申請(永住権)
- 移民法速報 2026年5月(4)-AOS 永住権の米国内申請に重大変更
- 移民法速報 2026年6月-解雇とステータス変更
- 移民法速報 2026年7月-学生ビザD/S廃止・公的扶助審査の厳格化
- 移民法速報 2026年7月(2)-D/S廃止と就労許可の予告なき取消
- 移民法速報 2026年8月-アドバンス・パロールと9月の制度変更【本記事】
関連する米国法律リソース
- 不法滞在と入国不許可(Unlawful Presence and Inadmissibility)― USCIS(Delcarmen-Lara決定のアラート掲載)
- Form I-131(事前旅行許可・Advance Parole)― USCIS
- D/S廃止に関するDHS最終規則(連邦官報 91 FR 44976)
- Form I-539・I-765の新版(旧版は9月15日以降受理拒否)― USCISアラート
- 証拠・RFE・NOID方針の変更(PA-2026-05)― USCIS
- USCIS Policy Manual 更新一覧(DNA検査の提案 PA-2026-06 を含む)
- 連邦最高裁 Trump v. Barbara(No. 25-365)判決(出生地主義)
- 第一巡回区 State of California v. Mullin(H-1B10万ドル手数料の執行停止却下)
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年8月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。
本記事の内容に基づいて行動される場合は、必ず専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた適切な法的助言を受けてください。本記事を読まれたことにより、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼人関係が成立するものではありません。
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