万引きを黙認。罪になる?(2)_1539

法律ノート 第1539回 弁護士 鈴木淳司
August 30, 2026

また、AIの話になってしまいますが、せっかく私の所属する法律事務所のウェブサイト経由で法律ノートや、じんけんニュースのメーリングリストに登録してくださっていた方たちがちゃんと登録されていないことが判明しました。仕組みがちゃんとしていなかったのですが、AIの精査で問題が発見できました。

すでに登録申請されていた方たちにはとても申し訳ないことをしたと思っています。

まあ、今の時代、私は意図的にソーシャルメディアはやらないので、コツコツ毎週原稿を書いて、興味のある方たちだけに配信しているだけなので、小さな居酒屋のようなものかもしれませんが、これからも続けていきますのでどうかよろしくお願いいたします。登録が遅れてしまった方々にはお詫びします。


さて、前回から考えている質問をもう一度確認しておきましょう。

いただいている質問をまとめると「日本からカリフォルニア州に留学している大学生です。私の友人と、とある量販スーパーに買い物に行ったときに、友人が食品を万引きするのを見ていて、その後一緒に捕まりました。私自身は万引きはしていませんが、一緒にいたことは否めません。友人は前にも同じことをやっていたようで(ビデオが残っているようです)、警察にも事情を聞かれました。今悩んでいるのが、万引きで裁判になるか、ということです」というものでした。

今回も引き続き考えていきたいと思います。

前回は、州刑法459.5条の万引犯の枠組みと、刑法31条の幇助・教唆を整理し、実際に手を出していなくても起訴される可能性はある、というところまで考えました。

今回は、有罪になったら何が起きるのか、を考えます。質問者の方も簡単に考えるのは禁物ですよ。

見落とされがちな「店舗への出入り禁止」という不利益

まず、意外に見落とされがちなのが、その店に入れなくなる、という不利益です。量販店は、万引きで身柄を確保した相手に対し、その場で立入禁止通告書(Trespass Notice)に署名を求めるのが一般的で、全米チェーンであれば効力が系列の全店舗に及ぶこともあります。

加えて、有罪となって保護観察(Probation)に付されると、裁判所が「当該店舗に近づかないこと」という接近禁止条件(Stay-Away Order)を付すことが実務上よくあります。通告を受けたあとに立ち入れば、それ自体が刑法602条の不法侵入罪(Trespass)となり、同時に保護観察違反(Probation Violation)にもなります。学生寮の近くにある唯一の大型スーパーが使えなくなる、というのは日々の生活に直接響きますよね。

店側からの民事請求(Civil Demand)

さらに刑法490.5条(c)により、店側は50ドル以上500ドル以下の損害額と商品代金を民事で請求でき、実務上は弁護士名義での請求書(Civil Demand)が後日郵送されてくることがよくあります。

留学生に最も重い、移民法上の問題(CIMT)

そして、F1ビザで滞在する留学生にとって最も重大なのが、移民法上の問題です。移民国籍法(INA)212条(a)(2)(A)(i)(I)は、道徳違背を伴う犯罪(Crime Involving Moral Turpitude・CIMT)で有罪判決を受けた外国人を入国拒否事由(Inadmissibility)に該当すると定めています。そして、永久的に他人の財物を奪う意図を要件とする窃盗罪は典型的なCIMTであるというのが、第九巡回区連邦控訴裁判所の一貫した立場です。万引きも、この窃盗の一類型に該当します。

救いとなり得る軽微犯罪の例外-Petty Offense Exception

ですので、強制送還の対象に自動的になりそうですが、同条(ii)(II)には軽微犯罪の例外(Petty Offense Exception)があり、CIMTが一罪のみで、法定刑の上限が一年を超えず、かつ宣告刑が六か月を超えない場合には、この入国拒否事由の適用が除外されています。459.5条の軽罪は法定刑の上限が六か月ですから、他に前科がなければ、この例外に乗る余地は充分にあります。

有罪判決がなくてもビザは取り消され得る

もう一つ、有罪判決がなくても問題は起こる可能性はあります。

移民法221条(i)は、領事官または国務長官がいつでも裁量でビザを取り消せると定めており、逮捕の事実が把握された段階で、有罪判決を待たずにビザの予防的取消が行われることは実際にあります。F1ビザで合法的に入国していれば、合法滞在ということで取り扱われますので、ビザが取り消されても国内に滞在を続けている限り直ちに違法状態になるわけではありませんが、一度出国すればビザを取り直さなければ戻れません。次回のビザ申請書(DS-160)には逮捕歴の申告義務があり、不実記載は虚偽表示(Misrepresentation)としてさらに重い問題を招きます。

大学の学生規則(Student Conduct)上の懲戒手続も別途進みます。現在の米国政権は、学生ビザに対してかなり厳しく対応をしている状況でもあります。

日本の感覚では「初犯だし、示談で終わる」と考えてしまいがちですが、アメリカにいる留学生にとって刑事事件は在留資格の問題に直結します。まだ起訴されていない今のうちに、弁護士に相談して対応した方が良いと思います。コロナ以降、万引事件に対して、アメリカは寛容だと言われることがありましたし、サンフランシスコでも犯罪が増加した時期がありました。しかし、今回質問された方のように留学生であれば、現状のアメリカ政権下では強制送還を含め、かなり深刻な結果を引き起こす可能性がある問題なので、軽く考えない方がよいかもしれません。

万引についての質問はここまでにして次回新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。アメリカの中間選挙が近くなってきて、政治的なニュースが多く疲れる内容が多いですが、また一週間がんばっていきましょうね。次回、今回の質問者の方が裁判になり、有罪になってしまうとどうなるのか、考えていきたいと思います。


このシリーズを読む

  • 第1回:万引きを黙認。罪になる?(1)_1538
  • 第2回(本記事):万引きを黙認。罪になる?(2)_1539
  • 第3回:(近日公開予定)裁判・有罪となった場合の量刑と在留資格への影響

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作成者: jinkencom

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