移民法速報 2026年7月-

じんけんニュース 07-21-2026 弁護士 鈴木淳司
July 21, 2026

今回は、この7月中旬に相次いで公表された、留学生・就労者・永住権申請者のいずれにも広く影響する重要な規則・動向を考えます。合法的な移民手続そのものを厳格化し、金銭的・行政的ハードルを引き上げるという政権の方向性が、一段と鮮明になった一週間でした。

■ 留学生等の「Duration of Status(D/S)」廃止——最終規則の公示と実務への衝撃

2026年7月16日、国土安全保障省(DHS)は、F(学生)、J(交流訪問者)、I(報道関係者)の各非移民ビザについて、半世紀近く続いてきた「在籍期間中は在留期限を定めない(Duration of Status: D/S)」という枠組みを廃止し、固定在留期間(Fixed Period of Admission)を導入する最終規則(Final Rule)を発表しました。規則は7月17日に連邦官報(Federal Register)に公示され、公示から60日後の2026年9月15日に施行されます。

骨子は次のとおりです。第一に、F・Jビザ保持者の在留許可は、I-20またはDS-2019に記載されたプログラム終了日まで、かつ最長4年に制限されます。第二に、プログラムの延長にはSEVIS上の更新では足りず、USCISへの在留延長申請(Extension of Stay: EOS)の適時の提出と承認が必要となり、申請者は生体認証(Biometrics)・背景調査・不正審査の対象となります。第三に、F-1の卒業後の猶予期間(Grace Period)が60日から30日に短縮されます。第四に、Iビザは原則240日(中国本土のパスポート保持者は90日)に制限されます。

さらに、AILAの実務指針(Practice Pointer)が警告するのが、新設された8 CFR 214.1(c)の家族単位ルールです。主たる申請者と帯同家族(Dependents)が延長申請をする場合、家族のうち最も短い期間しか認められない者(パスポートの残存有効期間が最短の者や、年齢制限で資格を失う直前の子など)に合わせて、家族全員の在留期限が一律に短縮されます。従来の実務を根本から覆すものであり、今後はI-20/DS-2019の期限ではなく、I-94の満了日こそが在留資格維持(Maintenance of Status)の基準日となります。施行日時点で在留中の方には経過措置があり、施行日から最長4年間は従前の資格で在留を継続できますが、施行日後にいったん出国して再入国すると新制度に移行します。博士課程など4年を超えるプログラムに在籍する方は、EOSの申請時期・費用・審査遅延リスクを織り込んだ計画が不可欠です。

■ パブリック・チャージ(公的扶助)審査の厳格化——2022年規則の撤廃

2026年7月20日、DHSは、入国拒否事由(Ground of Inadmissibility)としての「パブリック・チャージ(Public Charge)」に関し、バイデン政権下の2022年最終規則を撤廃する最終規則を連邦官報に公示しました(91 FR 45324)。2022年規則が考慮対象を現金給付や長期施設収容に事実上限定していたのに対し、今回の撤廃により、審査官が「事情の総合考慮(Totality of the Circumstances)」に基づく広範な裁量で不適格判定を行う枠組みが復活します。施行日は2026年9月18日で、同日以降の入国申請および永住権申請(郵送消印・電子提出日基準)に適用され、同日より前の公的扶助の受給歴は旧規則に従って考慮されるとされています。メディケイドやフードスタンプ等を適法に受給できる正規移民や、米国籍の子を持つ混合世帯(Mixed-Status Families)にまで「念のため受給を辞退する」という萎縮効果(Chilling Effect)が広がることが強く懸念されます。

■ 在外永住権申請者への最大10万ドルの保証金(Bond)検討

ウォール・ストリート・ジャーナル紙(7月15日付)の報道によれば、国務省は、在外米国領事館で移民ビザ(永住権)を申請する者に対し、最大10万ドル(約1,500万円)の保証金(Bond)を課す案を検討しています。市民権取得時(最短でも5年後)に返還されるという設計で、親族による立替納付も可能とされますが、支払能力のない申請者を事実上締め出す「Pay-to-Play」政策であるとAILAは強く批判しています。すでに一部アフリカ諸国の観光ビザ申請者を対象に最大1万5,000ドルの保証金パイロットプログラムが実施されて50カ国にまで拡大されているほか、本年1月以来、75カ国について移民ビザの審査自体が停止されており、保証金制度が導入されてもこの停止は解除されない見込みと報じられています。まだ提案段階ではありますが、家族呼び寄せ移民に極めて大きな影響を与えかねない動きです。

■ H-1Bキャップ到達と、プレミアム・プロセッシングの深刻な遅延

USCISは7月17日、2027会計年度のH-1B一般枠(65,000)および米国修士枠(20,000)が上限に達したと発表しました。抽選に選ばれなかった方は、キャップ対象外(Cap-Exempt)の雇用主やO-1等の代替戦略を検討することになります。他方、追加料金を支払う優先審査(Premium Processing)についてすら、所定期間内に審査がなされず、返金(Reimbursement)もなされない事例が全申請類型で多発しており、AILAは7月23日締切で事例収集(Call for Examples)を行い、USCISとの協議に乗り出しています。審査遅延は、上記のEOS義務化により申請件数が激増すれば今後さらに悪化することが予想され、規制強化と行政の処理能力のミスマッチが露呈しています。

■ 8月のビザブレティンと移民詐欺への注意

国務省発表の2026年8月ビザブレティンでは、家族ベース・雇用ベースとも優先日(Priority Date)の動きは小幅にとどまり、雇用第3優先(一般国)の最終決定日は2024年9月1日のままです。また、ProPublicaの報道によれば、弁護士やICE捜査官を装う移民詐欺(いわゆるNotario Fraud)の被害申告が政権交代後に倍増しており、過去5年間で少なくとも9,440万ドルが騙取されたとのことです。DHSはこれらの詐欺ネットワークに対する「全面戦争(All-Out War)」を宣言し、捜査を強化しています。SNSやWhatsAppで接触してくる「手続代行業者」には決して金銭を支払わず、必ず資格のある弁護士にご確認ください。

■ 考察——「審査の細分化」がもたらすパラドックス

今回の一連の規則を貫くのは、これまで大学(SEVIS)や自動的な枠組みに委ねられてきた在留管理を、すべてUSCISの個別審査・直接管理へと引き戻すという設計思想です。しかし、プレミアム・プロセッシングすら処理しきれていない現状のUSCISに、膨大な数のEOS申請と詳細な財産審査が新たに押し寄せることになります。その結果、未処理案件(Backlog)がさらに膨れ上がり、企業・教育機関・申請者のいずれにとっても法的確実性(Legal Certainty)が著しく低下するというパラドックスが生じかねません。また、学生ビザの4年上限や猶予期間の短縮、H-1Bの不確実性は、世界中の優秀な人材にとって大きな参入障壁となり、カナダや欧州への人材流出を加速させるおそれがあります。制度が複雑化・流動化すればするほど、情報弱者につけ込む詐欺の温床が広がるという皮肉な構造にも、注意が必要です。

以上のように、留学生の在留管理から永住権・公的扶助審査に至るまで、合法的な手続のコストとリスクを引き上げる規則が矢継ぎ早に最終確定しています。9月15日(D/S廃止)と9月18日(パブリック・チャージ)という二つの施行日を目前に控え、ご自身とご家族のI-94の期限、パスポートの残存有効期間、そして各種申請のタイミングを、今一度確認されることを強くお勧めします。ければと思います。


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