法律ノート 第1527回(じんけんニュース号外)弁護士 鈴木淳司
サッカー・ワールドカップがもうすぐアメリカで始まりますね。ベイエリアでも試合が行われるということで賑やかになって良いことです。サッカーファンには4年に一度の貴重な機会です。一方で、米国移民局も多く会場に出動するという話が取り上げられていて、不安が煽られています。何が起こるかわかりませんが、政府としてクリアーな移民局の活動指針をだしてもらえると嬉しいところです。
さて、皆さんからいただいている質問への回答が中断されていますが、また日本人も含めアメリカで暮らす外国人ビザ保持者には気になる移民行政の指針が発表されましたので今回も前回に続き、移民に関する話題を取り上げたいと思います。
主に、H-1Bビザでアメリカに滞在されている方に影響します。
H-1Bビザというのは、雇用主が固定されていて、雇用主が変わる場合には、再度申請をする必要があります。トランスファーという場合もありますが、基本的には取り直し、ということになるわけです。この雇用主の変更についてスムーズにいかない場合もありますので、雇用主を変更する間の空白期間において、Bビザを使うということが今までは行われていました。この空白期間について今回、移民局の通達で物言いがついたということなのです。雇用主を変えるということはアメリカではよくあるわけで、レイオフ(解雇)も珍しくありません。ですので、H-1Bビザをもつ外国人にとって、今回の通達の影響は大きく響く可能性があるのです。
今回は少し長くなりますが、まず、非移民ステータス変更(Change of Status、以下「COS」といいます)の一般論から説明させてください。
COSとは、移民国籍法(INA)第248条(8 U.S.C. § 1258)および連邦規則集第8編第248条(8 C.F.R. § 248.1)に定められている法的手続です。米国内に適法に在留する外国人が、いったん出国・再入国することなく、現在の非移民ステータスから別の非移民ステータス(たとえば、学生ビザから就労ビザ、就労ビザから就労ビザなどです。)へ変更するための制度です。例外はありますが、基本的に、申請するためには、(1)申請時において適法な非移民ステータスを現に維持していること、(2)当初の入国に付された条件に違反する行為がないこと、(3)INA第214条(a)が定める出国命令に違反していないこと、および(4)変更後のステータスの実体的な内容に合致する申請内容である、という4つの要件を満たさなければなりません。
COSの承認はUSCIS(米国市民権・移民局)の裁量に委ねられており、すでに合法的な非移民ビザを持っているとしても、COS申請を認められる「権利はない」、ということです。COSを申請する場合、上記の4つの要件の(4)をちゃんと満たすのか、ということが問題になる場合があります。就労ビザからB-2へのCOSを申請する場合には、観光・家族訪問・医療行為等の短期訪問目的を主たる申請理由として主張する必要があり、就職活動が主目的である場合には申請が(4)の要件を満たしていないと判断されて不許可となるリスクがあるわけです。たとえば、就労ビザである、H-1BビザやE-2ビザの資格を有している外国人が、レイオフ(解雇)されたとしましょう。そうすると、次の就職への「つなぎ」として、B-1/B-2を利用する場合があります。この「つなぎ」目的について今回物言いがついたのです。
H-1Bというのは、専門分野において発給される就労ビザです。ここで、H-1B保有者が解雇(レイオフ)された後の法的地位について考えておきましょう。H-1B労働者が解雇された場合、8 C.F.R. § 214.1(l)(2)に解雇のあと、60日間の合法滞在を許すグレースピリオド(猶予期間)が定められています。解雇または辞職したあと、60日間、またはForm I-94に記載された正規在留期間の終期のいずれか早い時点まで、アメリカに合法滞在できることになっています。もともと、この60日間の猶予期間は、国土安全保障省(DHS)が2016年に公布した最終規則(81 Fed. Reg. 82398、2016年11月18日)によって創設されたものです。同規則は、この期間が「新たな雇用の探索、B-1/B-2を含む他の非移民分類へのCOS申請、または出国準備」に充てられ得るものと説明しており、グレースピリオド中のCOS申請がクリアーに認められることになったのです。
この60日間の猶予期間を利用して、解雇されたH-1B労働者は、合法的にアメリカに滞在しながら雇用を探し、新たなH-1などの労働ビザのスポンサーを探すことは可能なのです。そして、この猶予期間である60日以内に次の雇用先を確保できない場合に、B-2(観光)ステータスへのCOSをいわゆる「つなぎ」として活用することで、合法的にアメリカに滞在しながら求職活動を続けるという手法が、実務上の標準的対応として定着していました。そして、DHSは2022年に公表したポリシー・ガイダンス「Options for Nonimmigrant Workers Following Termination of Employment」において、求職中の間に、B-2にステータスを変更することを選択肢としてクリアーに認めていました。ですので、H-1B受益者は求職中は、Bステータスを利用して、国内にとどまったままH-1Bステータスへ復帰することが可能だったわけです。
しかし、2025年になって、DHSは、上述した2022年のポリシー・ガイダンスを事実上無効としました。正式な撤回手続きは経ていません。そして、具体的にいずれの部分が失効しいずれが有効かについての公式の説明も存在していない状況です。この一方的な無効化がなされた時期から、USCISによるB-2ステータス変更審査実務の劇的な硬直化が相次いで報告されるようになりました。現在、USCISは、B-2申請に対して証拠開示要求(Request for Evidence、RFE)を発出することを標準的な手続として採用していると考えられます(手続がかなり遅滞します。)。主にこのRFEは、申請者に対して、申請時における適法ステータスの維持を証明するよう求めるとともに、観光・家族訪問・医療行為等のB-2ステータスに固有の正当な申請目的に関する具体的な証拠の提出を要求する内容となっています。
USCISは、申請記録に新たなH-1B就労への復帰を示す事情、特に新雇用主によるH-1B新請願の提出が存在する場合には、当該B-2申請が真正な一時的意図に基づくものではなく、「予め形成された意図(Preconceived Intent)」に基づく申請であると認定し、B-2申請を不許可とする運用をはじめました。審査当局は、求職活動はB-2ステータスで付随的に許容される活動ではあるものの主たる申請目的としては認容されないと現在考えており、場合によっては、後から提出されたH-1Bの雇用主スポンサー変更後の請願はB-2を「つなぎ」の目的であり、本来のB-2目的ではないという形で引用されることが激増しています。
現状において、B-2申請が不許可とされた場合の不利益は深刻です。第一に、USCISはB-2不許可処分により申請者が遡及的に合法ステータスを欠いていたと認定し、H-1B COSを不許可としてアメリカ国外の領事審査(Consular Processing)のみ承認するケースが増加しています。この場合、申請者は出国して在外公館でのビザ面接手続きを経なければならないうえ、2025年の法改正によって導入されたH-1B追加申請費用(Supplemental Fee)10万ドルの負担対象となりえます(ただし、有効なH-1Bビザを保持している場合、この追加申請費用なしに領事審査が承認とされた事例も報告されています)。第二に、B-2不許可を契機として出頭命令(Notice to Appear、NTA)が発出され、退去強制手続(Removal Proceedings)が開始された事案も報告されています。
H-1BステータスのH-4(H-1B主申請者の配偶者・子女)の付随ステータス(Derivative Status)についても、同様の問題が発生しています。USCISの一部の審査官は、H-1B主申請者の雇用終了をもって、グレースピリオド内であるにもかかわらず、H-4の資格要件が即時に喪失すると解釈し、H-4 COS申請を不許可とする事例が報告されています。そうするとお、これもアメリカ国外での領事審査の対象となり得るわけです。
もう一つ、今回の通達で生じ得る問題があります。H-1Bビザは、「ポータビリティー」都と言われる制度があります。H-1Bビザで合法的に働いているとしましょう。そして、そのビザが合法である間に、転職した場合、新たな職場で後述の要件を満たせば働くことができるというものです。給与も維持できますし、雇用者も新たな被用者をすぐに業務に関わらせるというメリットがある制度であります。米国移民法第214条(n)(8 U.S.C. § 1184(n))に定められています。ポータビリティー制度を利用するためには、(1)申請時に適法なH-1Bステータスを維持していること(グレースピリオド中を含む)、(2)新雇用主が要件を満たしたH-1B請願を提出していること、および(3)過去に申請したH-1Bに基づいて米国においてすでに180日以上適法に就労していることです。ところが、B-2その他の非移民ステータスへのCOSが介在した場合、H-1Bポータビリティの適用資格は失われてしまいます。すなわち、B-2申請が係属中または承認済みの状態でH-1B新請願が提出された場合、当該請願が最終的に承認されるまでの間は就労できず、雇用主は受益者を就労させることができないのです。
現状において、B-2申請を提出する際には、観光・家族訪問・医療行為等のB-2に固有の短期訪問目的を一次的根拠として前面に出し、帰国便のチケット、海外における住居または就職機会の存在、一定期日までの帰国の必然性を示す客観的証拠など、一時的在米意図(Temporary Intent)を裏付ける証拠を可能な限り揃えるべきです。他方、雇用主がB-1/B-2申請中にH-1Bの新たな請願を行うと、審査官の注意を引いてB-2申請の不許可を招くリスクがでてきました。可能であれば、B-2申請の審査完了を待ってからH-1B請願を提出することの方が安全だと考えられます。ただ、B-2申請の審査が長期化していることなどを考えると、審査中の生活も考えておかなければなりません。
今回の通達によってH-1Bステータスから、H-1Bステータスに雇用者を変更するために利用されていた「B-2つなぎ」作戦は、実際の法律的な根拠を失ったわけではないものの、現在の移民行政に関する運用の変容によってその有効性が疑問視されています。現在の審査実務は、2016年最終規則が掲げた「高度技能非移民労働者への安定的・継続的な地位保全」という立法目的に矛盾しているとも考えられます。H-1Bビザなど、就労ビザ保有者が解雇通知を受けた場合、グレースピリオドの60日以内に速やかに行動しなければ、不利益が深刻化しかねません。
今回の内容は、H-1Bに関係のない方々には難しい内容だったかもしれませんね。ただ、現在アメリカでH-1Bビザを保持しながら働く外国人というのは多いので、たくさんのアメリカに滞在して就労する日本人にも影響する内容であります。外国人のステータスチェンジという一般論から今回の運用変更の影響までたくさん考えましたので、わかりにくいところもありますが、特にH-1Bビザをお持ちの方には、すべて理解していただきたいです。私が考えた内容でわかりにくければいつでも、法律ノート宛に質問をしていただければと思います。
次回は、また考えている皆さんからの質問を考えていきたいと思います。天気は徐々に夏に向かっています。また季節が変わっているので体調には注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。
関連する米国法律リソース
- USCIS 政策メモ PM-602-0199:在留資格切替えと行政裁量(2026年5月21日)
- 在留資格切替え(I-485)概要 – USCIS
- 在外公館申請(Consular Processing)– U.S. Department of State
- Form I-485(永住権申請書)– USCIS
- AILA:AOS政策変更に関する声明(2026年5月)
- 2026年5月ビザ速報(Visa Bulletin)– U.S. Department of State
- FY2023 永住権取得者統計 Table 7(AOS・在外公館別)– DHS OHSS
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このシリーズを読む
- 移民法速報 2026年5月(1)-ビザ優先日の実質後退 他
- 移民法速報 2026年5月(2)-H1BビザとOPTの制限
- 移民法速報 2026年5月(3)-在留資格切替え申請(永住権)
- 移民法速報 2026年5月(4)-AOS 永住権の米国内申請に重大変更_1526【本記事】
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