法律ノート 第1470回
じんけんニュース 05-03-2025
弁護士 鈴木淳司
法律ノートおよびじんけんニュースの皆さん、こんにちは。
今回は別に手を抜いているわけではないのですが、このところ矢継ぎ早に出てきている移民行政に関する今日時点のまとめを考えたいと思います。
じんけんニュースも書く時期なのですが、内容が重要でそれもダブりますので、両方の原稿で同じように書くべきとの考えに至りました。
先週は、私自身も一年ほど手掛けてきた重罪に問われている刑事事件があったのですが、機転を利かせて無事に起訴取り下げに持っていくことができ、クライアントと一緒に勝利をわかちあったりして充実しつつ忙しい日々を送っています。
一方で、移民行政の煽りを皆さんが受けているようで、移民に関する問い合わせが私の所属する事務所では絶えません。
しばらく、移民行政が落ち着くまでは、不安要素も多いですが、不要な旅行などは控えたほうが良いかもしれません。
「みせしめ」的なパフォーマンス要素も多い部分もあると思います。
米国現政権による移民行政に関する今日時点でのまとめ_1470
さて、いくつも移民行政関係のトピックが複数あることから、以下重要なものを取り上げていきたいと思います。
外国人登録については、すでに前回詳述しましたので、ここでは再度取り上げることを省略します。
一 米国入国時の電子機器検査
米国税関・国境警備局(CBP)は、米国への入国者(米国市民含む)全員に対し、令状や疑いなしに、全ての入国地点(空港、陸路国境、海外の事前入国審査施設等)で電子機器(電話、PC等)を検査する広範な権限を持っています。
検査には、係官が手動で内容を確認する「基本検査」と、外部機器を接続して内容をコピー・分析等する「詳細検査」があります。
詳細検査には合理的な疑いとCBP内の上級管理職の事前承認が必要です。
この詳細検査が最近頻繁に行われています。
今のところ、1万人の入国者に対して1名という記事もありますが、実際のところはわかっていません。
まずは入国審査の窓口において口頭で質問される基本検査はすべての入国者に対して行われますが、一方でその基本検査の過程で審査官が必要と判断した場合には、第二次検査に回され、詳細検査を行われる場合があります。
この判断については、広汎な裁量がCBPには与えられていますので、誰が対象になるかの基準というものがありません。
現政権の移民行政において、かなり積極的に詳細検査が行われているという実態がありますので、アメリカに入国される方は注意が必要になります。
詳細検査が行われると、プライベートな情報にアクセスされる可能性があります。
パスワード等のアクセス提供を拒否した場合、デバイスの押収や、(特にビザ保有者は)入国拒否のリスクが生じます。
したがって、現状においては情報にアクセスされることを想定して、対策を講じることが重要になってきます。
まず、アメリカを行き来する場合には、旅行に必要なデバイスとデータのみ携帯することが重要です。
そして、重要データは旅行の前にクラウド等へ別途保存して、デバイスからは消去しておくことが良いと思います。
そして、あまり有効な対策ではないかもしれませんが、強力なパスワードと暗号化でデバイスを保護しておくことも考えられるでしょう。
しかし、詳細検査において、パスワード提供は義務ではありませんが、拒否することで、アメリカの市民権・永住権を持たない外国人は入国をその場で拒否される可能性があることを理解しておく必要があります。
なお、詳細検査においても、その検査対象のデバイス上のデータのみが対象となります。
ですので、ここは重要ですが、情報はクラウドに移し、クラウドへの自動接続を切ることを行ったほうが良いと思います。
二 学生ステータスの維持
米国滞在中の学生ビザを持つ留学生は、自身の移民ステータスである「学生」という身分を維持する必要があります。
現政権は、移民行政に関して持っている裁量を最大限に厳しく行使していますので、学業や合法的な滞在を危うくしないために、以下の点を遵守してください。
- 重要書類の管理
常に有効なパスポート(失効前に必ず更新)、発行された全てのI-20、および「D/S」(学業期間+猶予期間を示す)と記載されたI-94記録を保持してください。
電子的なデータではなく、プリントアウトするのが良いと思います。 - 学業要件の遵守
I-20に記載された学校でフルタイム登録(通常、学部生は12単位/学期、大学院生は9単位/学期以上)を維持し、学業成績を保ってください。
フルタイム未満の履修が必要な場合は、事前にDSO(指定された学校担当者)から書面による承認を得る必要があります。 - 変更事項の報告とI-20管理
専攻、住所、氏名などの変更は10日以内にDSOに報告してください。
そしてプログラム修了に時間が必要な場合は、I-20の有効期限が切れる前に必ず延長手続きを行ってください。 - 就労規則の厳守
育成ビザに基づく就労は厳しく制限されています。
(1)キャンパス内就労:学期中は週20時間まで、休暇中はフルタイムは許されています。
(2)キャンパス外就労(CPT/OPT):必ず事前にDSOの承認が必要です。
CPTに関しては、DSOの承認とI-20への裏書きが必要になります。
そして、OPTに関してはDSOの承認に加え、USCISからEAD(就労許可証)を受け取ってから就労を開始できます。
STEM分野の学生は延長申請が可能です。
(3)予期せぬ深刻な経済的困難の場合、例外的にキャンパス外就労が許可されることもあります(要DSO相談・承認)がかなり例外的な状況のみにゆるされています。 - 渡航時の注意点
海外渡航前には、SEVIS記録が有効であること、I-20に有効なDSOの渡航裏書(通常1年有効)があることを確認してください(5ヶ月以上の長期出国は不可)。
OPT期間中に再入国する場合は、有効なEADが必要です。
入国時にはCBP(税関・国境警備局)による書類や電子機器の検査を受ける可能性があるのは、他の外国人と同様です。 - その他の重要事項
F-2扶養家族ですが、家族自身もステータスを維持する必要があり、就労は禁止されています。
そして住所変更がある場合には、変更後10日以内にDSOおよびUSCISに報告が必要です。
家族であっても、学生ビザに関する規則違反がある場合には、ビザステータスの喪失、ビザ取消、SEVIS記録終了、さらには強制送還のリスクに繋がりますので、特に現状では注意が必要になると思います。
上記6点は、必ず遵守するようにしてください。
そして常に学校に在籍し、DSOと連絡を取り合ってください。
学業のプログラムが終了したあとは、転校、OPT申請、ステータス変更等を行わない限り、60日以内に出国するようにしてください。
三 サンクチュアリ(聖域)自治体に対する現政権の対応
2025年4月28日に発布された「米国内の地域社会を犯罪外国人から保護する」大統領令によると不法入国者や国際カルテルやテロリスト等によって公共安全・国家安全保障上のリスクが存在しているとされています。
そして、私の所属する事務所のあるサンフランシスコ市も含まれますが、一部の州・地方自治体による連邦移民法の執行を拒否している自治体に関して、失効の拒否は連邦法の執行を「妨害している」と位置づけ、この拒否は「無法な反乱」であり、連邦法の優位性に対する挑戦と非難しています。
これらの行為は、不法移民の隠匿・雇用、連邦に対する陰謀等の連邦刑法違反の可能性があると指摘しています。
これが、現政権の考え方です。
そして、今回「サンクチュアリ(聖域)自治体」を名指しで指定することにしたようです。
連邦の司法長官と国土安全保障長官は、連邦移民法の執行を妨害する州・地方自治体のリストを30日以内に公表し、必要に応じて更新することを求めて言います。
そのリストに掲載された自治体に対しては、連邦資金(補助金、契約等)の停止または打ち切りを通告し、実行するとしています。
そして、通知後も連邦法に違反し続ける自治体に対しては、必要な法的措置や執行をするとしています。
ハーバード大学に対する対応と同様の対応を自治体に求めているということになります。
さらに連邦の司法長官は、外国人を米国市民より不当に優遇する州・地方法(例:州外の米国市民に認められない州内授業料を外国人に適用するなど)を特定し、その執行を停止するための措置を講じるとしています。
四 下院共和党が亡命申請に1000ドルの申請費用を当たらに創設するなど、移民関連手数料の値上げを提供
現在、米下院共和党は、移民が米国で亡命による庇護を求めたり、合法的に滞在・就労したりするための費用を大幅に引き上げる新たな手数料体系を提案しています。
そして、この計画は、「トランプ大統領」が進める広範な移民関連の法執行強化策の財源を確保することを目的としています。
まだ法制化されていませんが、この法案が議会を通過しそのまま法律となると、
(1)亡命申請に1,000ドルの手数料を導入(従来は無料または低額)
(2)就労許可については、半年ごとの更新および500ドルの手数料を導入
(3)移民局決定への裁判しに対する不服申立については数百ドルの手数料を導入
などが草案となっています。
そして、手数料の免除は基本的に認めないとされています。
特に亡命希望者のような経済的に弱い立場にある人々が、合法的な保護や滞在資格を申請する道を事実上閉ざしてしまうと懸念されていますが、一方で、米国では、移民に関する110万件を超える移民裁判の未処理案件があり、移民行政に深刻なリソース不足があると指摘されている点もあります。
まだ、法律にはなっていませんが、現状の移民行政に関する方向性が感じられる法案となっています。
次回また新しいトピックを考えていきたいと思います。
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