法律ノート 第1523回 弁護士 鈴木淳司
May 10, 2026
最近のカリフォルニア州の裁判所の人手不足は、法曹にとって危機的なものだと感じています。一体、裁判所に与えられる税金は少なくなる一方なのでしょうか。
以前私は裁判官をしていたことがありますが、前回、その部署に継続する他部署に、簡単な申立の案件で出廷しました。ところが、実に3時間半くらい待たされ、実際のヒアリングは5分でした。色々な部署の事件を一つの法廷にまとめて今はやっているのでしょう。もう、裁判所の仕事には戻れないかな、と思わされました。ある裁判所に訴状を提出しても、審査に1か月近くかかっているところもあります。
こうして司法サービスが機能不全に陥っているような状況は、法廷弁護士として憂鬱になります。30年も弁護士をやっていて、これだけ司法にまわってくる税金が少ないのか、と心が痛くなります。
さて、前二回 「日本在住の者です。アメリカに住んでいる長年の友人が退職をして、新しくビジネスをはじめるということで、一緒にやらないかと誘われています。そこまで貯金があるわけではないですが、相当額を出資してくれれば良い、という話です。不動産を買い、運用するというビジネスです。出資するにあたり、法人をつくるということでその持ち分を渡すと言われていますが、ピンときていません。どのような法人がアメリカにはあって、私が出資する際にどのような法人だと安心できるのでしょうか。」という質問を考えました。前回は、LLCとLPが不動産投資では一般的であるということを考えました。
Operating Agreementの精読が最優先
今回は、質問されている方が、最低限確認すべき事項を整理します。
最も重要なのは、LLC の場合は Operating Agreement、LP の場合は Limited Partnership Agreement(LPA)の内容を精読することです。
友人の口約束だけでは法的保護を受けることができません。
出資比率と持分の確認
第一に、出資比率と持分(Membership Interest)の割合です。「相当額を出資すれば持分を渡す」という口頭の約束が、書面上では何パーセントの持分として表現されているかを必ず確認してください。
出資額と持分比率が明確に対応していない契約書には警戒が必要です。
利益配分の条件と意思決定の権限
第二に、利益配分(Profit Distribution)の条件と方法です。
いつ、どのような条件が整えば配当が行われるのかが明確に定められているかを確認する必要があります。
特に、GP(またはマネジャー)が利益配分を決定する権限を一方的に持つ設計となっている場合には、配当が延々と後回しにされるリスクがあります。
第三に、意思決定の方法です。
重要な事項(例えば、物件の売却、追加借入、新たなメンバーの加入など)について、あなたの同意なしにGP・マネジャーが単独で決定できる設計になっていないかを確認してください。少数持分の出資者は、特に注意が必要です。
持分の譲渡・売却と解散条件
第四に、持分の譲渡・売却(Transfer of Interest)に関する条件です。
出資後に現金が必要になった場合に持分を換金できるか、あるいは持分の譲渡には他のメンバーの承認が必要かどうか、については事前に確認が欠かせません。
不動産投資LLCの多くでは、持分の自由譲渡を制限する条項(Right of First Refusal等)が置かれており、すぐには換金できないことが多いです。
第五に、法人の解散・清算(Dissolution & Liquidation)の条件です。
ビジネスがうまくいかなかった場合や将来的に撤退したい場合の手続きと、清算時における残余財産の分配優先順位が明確に定められているかを確認してください。
「友人だから大丈夫」という心理的な安心感に注意
長年の友人への出資という文脈では、「友人だから大丈夫」という心理的な安心感が、法的なデュー・ディリジェンス(Due Diligence、事前調査)を怠らせてしまうことがあります。
しかし法的観点からみると、友人であっても相手方はGP(経営者)として受認者義務(Fiduciary Duty)を負っており、その義務が誠実に履行されているかを出資者として監視する権利と責任があります。
また、仮にビジネスが失敗した場合、出資した資金の全部または一部を失うリスクがあります。「相当額」という表現からすると、老後の蓄えの一部を投入する可能性もあり、財産的損失に加えて長年の友人関係が損なわれるという精神的損害も生じかねません。
出資前に取るべき三つの行動
したがって、出資を決断する前に、
(1)独立した弁護士(あなたの利益のみを代理する弁護士)にOperating Agreementを精査してもらうこと
(2)友人が提示する不動産ビジネスの事業計画(Business Plan)・財務予測(Financial Projection)を独立した立場で検証すること
(3)出資額が仮に全額毀損しても生活に支障が生じない範囲に抑えること
を私は強くお勧めします。不動産投資は一般的に流動性が低く、資金の回収には長期間を要します。出資前の慎重な判断が何より重要です。
今回は、出資を友人に求められた場合を考えましたが、一般的に出資を考える方も同様だと思います。もちろん、自分が託す弁護士に色々見てもらうことも必要ですが、ぜひ、今回までの一連の法律ノートを踏まえていただき、ご自身でも投資に関してレビューしてみるのも良いと思います。
今年は、カリフォルニア州でも珍しく雨がまだ多く降っていますが、一方で暑い日も多く、すでに今年の夏に起きうる渇水の心配がなされています。天気は変えられませんが、季節の変わり目を機に、また一週間がんばっていきましょうね。
関連する米国法律リソース
- California Corporations Code §17701(LLC法の基本定義)- California Legislative Information
- California Corporations Code §17704.09(LLCマネジャーの受認者義務)- California Legislative Information
- California Corporations Code §15904.06(Limited Partnershipの解散・清算)- California Legislative Information
- LLC・LP設立書類一覧 – California Secretary of State
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年5月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。
本記事の内容に基づいて行動される場合は、必ず専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた適切な法的助言を受けてください。本記事を読まれたことにより、当所または執筆者との間に弁護士・依頼人関係が成立するものではありません。
本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当所および執筆者は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
このシリーズを読む
- 第1回:アメリカで不動産投資(1)_1521
- 第2回:アメリカで不動産投資(2)_1522
- 第3回:アメリカで不動産投資(3)_1523(本記事)
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