法律ノート 第1139回 弁護士 鈴木淳司
December 08, 2018
アメリカで事業買収_1139
私が所属する事務所の脇に、カリフォルニア州ではじめてとなる、レジのないスーパーができました。結構ニュースにもなっていて、お上りさんで賑わっていますが、私も早速行ってみました。なんだか、万引きしているような気分になりますね。便利になったものです。
一方で、そのスーパーにない商品について、店員と話をしていると、インターネット経由で買ってください、などと言われてしまいました。そうすると、そもそもスーパーの存在意義があるのかな、などと思ってしまいますが。みなさんは時代の流れについていっていらっしゃいますか。
さて、今回から新たに読者の方からいただいている質問を皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
いただいている質問をまとめると、「日本から質問しています。現地カリフォルニアに所在する小さな加工業者を買収しようと計画を進めていたのですが、最近になってこの業者は、会社形態ではなく、オーナーの個人所有ということがわかってきました。当社(日本の企業)としては、このカリフォルニアにある生産加工のロジスティックを一括して譲り受け、事業をアメリカ国外にも展開したいと思っているのですが、このような個人事業を買い受けることが社内で問題になっています。注意点を教えてください。」というものです。
個人事業主としてビジネス展開
かなり具体的な内容のメールをいただきましたが、要はカリフォルニア州に会社があると思いこんでオーナーの人と話を進めてきたところ、蓋をあけてみたら、書類がなかなか出てこない。問い詰めると、個人事業のまま数十年間事業を続けていたということのようです。
実際のところ、古くから人をあまり雇わずに、たとえば家族で事業を行っているというところは、存在します。私も過去に、何十年もあるビジネスを行っていたが、老後を考えて子どもたちに譲りたい、という話を聞き、情報を収集していると、会社ではなかったということも何度かありました。
それでも、全然問題はなく生活は送られていたわけですし、税金もちゃんと納めていれば、なんら政府に対しても問題はないわけです。最近の「起業」というと、アイディアを出してお金を集めて、あわよくば上場、というスタンスが多いのですが、ある一定の技術を持っていたり、評判が定着していれば、外からお金を無理やり集めなくても、お金はついてきてくれるのです。
以前アメリカの大手エンターテイメント会社が、日本のスタジオジブリを買収したいと見学にいったら、少人数で小さなオフィスに固まって仕事をしている、という光景を見て驚いて戻ってきたとか。いわゆる職人気質の人たちというのは、何時の世にもいるわけで、「会社を大きく」という命題がなくても幸せに暮らしているものなのですね。
会社名と屋号
さて、今回の質問メールを見ると、最初は名刺をもらい株式会社の名前が書いてあると思った、ということですが、たぶんそれは会社名ではなく、日本で言う「屋号」です。
個人事業主が自分の名前でビジネスをせず、なにかビジネスやお店に名前をつけるということがよくあります。日本でも個人事業主が屋号を使う場合には税務署に届出をしますが、アメリカでも一般的に屋号を使う場合には、州のなかにある各郡に届出をします。
屋号の登録ーFictitious Business Nameー
企業でも屋号を取ることができますが、企業は商号である企業名をそのままビジネスに使うことが多いので、別途屋号を取る必然性はありません。アメリカでは個人事業主やパートナーシップが別途屋号の登録をすることが多いです。
屋号は、英語ではFictitious Business Nameと呼びます。よく、翻訳文で「通称」と使っているものをみますが、通称は個人が別途他の通称名を使っているような場合で、also known as と法律の文書では言います。AKAと略すこともありますね。
Fictitious Business Nameの場合は、決まり文句として doing business as という表現をします。「個人名doing business as (またはDBA)屋号」という形になります。
郡に申請し登録しますので、屋号でビジネスをすることは個人事業主としては、まったく問題ありません。したがって、名刺にも屋号を刷ることは問題ないのです。
そうすると、今回質問にある「最初勘違いした」というのは、たぶん屋号をそのまま会社名だと間違えたのではないでしょうか。もちろん個人事業主の場合、屋号に株式会社と混同するようなIncorporatedとか、Corporation、Inc. Corp. などという単語は含めません。登録も拒否されます。
したがって、まず名刺を注意深く確認することが、初動としてとても重要なのです。
次回続けていきましょう。
私の所属する事務所のホリデーパーティーも来週になりました。もう一年が終わるのですね。
自分が一体何を社会のためにしてきたのか、反芻しなければならない季節です。流行り病に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。
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