法律ノート 第1138回 弁護士 鈴木淳司
December 4, 2018
やっとベイエリアにも雨の恵みがもたらされましたが、今度は体の調子を崩す人が周りに増えました。自然と人間の付き合いというのは、両者にとってなかなか大変なものです。賑やかなパーティーも増えてきて、街は混雑していますが、皆ひとときを楽しんでいるようです。皆さんのホリデーシーズンはいかがでしょうか。お互い食べ過ぎ、飲み過ぎに気をつけましょうね。
過去の薬物使用歴とアメリカ入国(2)_1138
さて、「日本に在住する者です。学生時代にアメリカ(カリフォルニア州)に住んでいました。マリファナに関係するトラブルで警察沙汰となり、大学からビザはもう出せないと言われ、退学をして日本に戻ってきました。最近、カリフォルニア州ではマリファナが合法化された(される)というニュースを見たのですが、過去のマリファナに関する罪をなんとかして、もう一度アメリカで勉強したいという思いが強くなりました。なんとか、アメリカの学生ビザが再度発給されないでしょうか。」というものです。
前回まで、今回の質問で問題になっているカリフォルニア州におけるマリファナの罪に関して考えました。合わせて、最近の動向も考えたと思います。今回は、移民法に関して考えていきたいと思います。
マリファナをめぐるカリフォルニア州法と移民法との差異
米国で移民に関する法律は連邦政府が立法化できる専権事項であって、州は口を挟めません。
現在、連邦政府と州が移民法に関してぶつかる論点が増えていますが、マリファナの合法化についても、その一つです。すなわち、この記事を書いている時点では連邦政府は、マリファナについて一切の合法化を認めていません。従来の法律に変化はありませんから、たとえ、カリフォルニア州で、マリファナが合法化になり、違法性が阻却されることになったとしても、移民法上は、薬物禁止規定にひっかかることになります。
もちろん、現状ではマリファナの使用を合法化する動きが活発なので、移民局もその「裁量」の範囲内で柔軟にビザ発行の合否を変化させてきていると思いますが、移民法上は「なかったこと」にはならないと考えておいてください。
遡って罪を抹消する請求ーカリフォルニア州法
さらに前回考えましたが、罪を遡って抹消できる請求がカリフォルニア州内では可能です。一般的にExpungementと呼ばれる手続きです。この手続によって、罪はなかった、ということで履歴書や一般生活上は申告することが可能になるので、就職などの日常生活にはプラスになることは間違いありません。
しかし、政府関係の申請には、Expungementをした罪についても記載しなければ、不申告と捉えられてしまいます。そうすると、移民法に関して申請をする際に、Expungementをしたあとでも、前科前歴について記述しなければならないということになります。
移民局は、前科前歴を考慮できるので、マリファナに関する犯罪に関しても、ビザの発給可否について必ず確認します。どの程度シビアに考えるかは、各申請の具体的な判断となりますので、ここではなんとも言えませんが、最近では多くの申請者に薬物依存がないかどうかのテスト結果を提出するように指示しているケースが増えています。
少なくとも、単純な拒否ではなく指示に従って検査結果を提出するように言われているケースでは望みがあるということになろうかと思います。
連邦政府と州政府で扱いが違うことを踏まえて対応
このように連邦政府と州政府ではマリファナに関しては対応が違っているのが現状です。
ですので、今回の質問のようなケースでは、まず逮捕、起訴され有罪となった州のマリファナに関する法律を調べたうえで、抹消できるのであれば、抹消するのが最優先事項になります。
そして、もう一度、学校に入学許可を貰えればもらうことが重要です。入学許可をもらい、そのうえでビザを申請するのであれば、連邦法の問題になりますので、そのときには、抹消請求をしたことも含め、前科前歴は隠さずに申告し、そして、与えられた指示にしたがって、粛々と申請を進めてみるということになろうかと思います。
もう師走ですね。一年が終わろうとしています。いろいろやれなかったことも山積みにはなっていますが、昨年末は私の所属する事務所の引っ越しがあり、大変だったことを考えると、今年は平穏で何よりです。皆様も平穏無事に今月を過ごし、良い新年が迎えられると良いですね。
とにかく、あともう少しで今年も終わります。気を抜かないでまた一週間がんばっていきましょうね。
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