H-1Bビザ抽選制度改正について

Washington DC Capitol of the United States

じんけんニュース 弁護士 鈴木淳司 2-7-2026

 この数日サンフランシスコはもう春がきたのかと思うほど、気候が良く桜も咲いています。東海岸や日本の各地では雪で苦しんでいる地域もあることは心苦しいですが、天気を楽しませていただいています。2026年も早いもので2月に入りましたが、米国での就労を目指す外国人のみなさんにとって、今まさに正念場とも言える大きなニュースが飛び込んできました。H-1Bビザ抽選が、これまでの「運任せ」の時代から、提示賃金によって当選確率が左右される「加重選択(Weighted Selection)」という極めてシビアな新時代へ突入したことを考えたいと思います。


(*今回の内容は少しH-1Bビザに関する事情を知らない方には難解かもしれません)

日程と登録

 まず、基本的なスケジュールから確認しましょう。FY2027のH-1Bキャップ登録期間は、2026年3月4日の正午(東部標準時)から開始され、3月19日の正午までと定められました 。登録にはUSCIS(米国市民権移民局)のオンラインアカウントが必要で、登録料は1人あたり215ドルです 。USCISは3月31日までに当選通知を送付し、選ばれた申請者はその後90日以内に本申請を行うことになります 。しかし、今年から適用される最大の変化は、その抽選の「公平性」の定義が変わったことにあります。

賃金水準で変わる当選確率

 2026年2月27日から施行される新ルールにより、抽選は完全なランダムではなく、雇用主が提示する賃金の「レベル」に応じた加重抽選へと移行します 。具体的には、労働省(DOL)が定める4段階の賃金水準(OEWS)に基づき、レベルI以下の提示額では抽選権は1回(1エントリー)のみですが、レベルIIでは2回、レベルIIIでは3回、そして最高レベルのレベルIV以上の給与を提示された受益者は4回分の抽選権、つまり「4倍の当選確率」を得ることになるのです。この制度の意図について、USCISは「市場のインセンティブを操作し、雇用主が高い賃金を支払うよう促すため」と説明していますが、これは実質的に、経験の浅い新卒生や外国人学生が圧倒的に不利な状況に置かれることを意味しています。

「最低賃金優先ルール」という壁

 さらにこの制度を複雑にしているのが、「最低賃金優先ルール(Lowest-Wins Rule)」という厳格な制約です 。もし一人の受益者が複数の勤務地で働く予定がある場合、加重計算に用いられるのは、それら全ての場所の中で「最も低い」賃金レベルとなります。驚くべきことに、このルールは複数の雇用主が同じ受益者を登録する場合にも適用されます。例えば、A社がレベルIVの好条件で登録しても、他方のB社が同じ受益者をレベルIで登録してしまった場合、その受益者の当選確率は全ての登録においてレベルIの「1回分」に引き下げられてしまいます。これをUSCISは「スポイラー(台無しにするもの)」の存在と呼んでおり、雇用主側には受益者との間で「他社から登録させない」という独占的な契約を結ぶなどの自衛策が求められる事態となっています。

追加費用が必要なケース

 また、2025年9月21日に発令された大統領布告により導入された「10万ドルの追加費用」という、あまりにも高額な経済的障壁についても触れなければなりません。この10万ドルという巨額の費用は、申請時に米国外にいる受益者や、米国内にいても「ステータス変更(COS)」が認められず領事館でのビザ発給(領事通報)が必要となった場合に課せられます 。例外として「国益免除(NIE)」が設けられていますが、これは政府が「極めて稀なケース」と認めた場合に限られ、2025年10月の受付開始以来、現時点でNIEが承認されたという報告は一件も届いていません。外国人学生(F-1)にとっては、これまで任意だったCOSの選択が、この10万ドルを回避するための「絶対条件」となっており、自由な渡航を犠牲にしてでも米国内に留まることを強いられる構図となっています。

入国制限対象国は裁定保留

 加えて、特定の「トラベルバン(入国制限)」対象国(アフガニスタン、イラン、シリア、ベネズエラ、ナイジェリアなど数十カ国)やパレスチナ当局発行の渡航文書を持つ受益者に対しては、審査を無期限で停止する「裁定保留(Adjudicative Hold)」が2026年1月1日から実施されています 。この保留対象となった場合、手続きは進められますが、最終的な判断は「保留が解除されるまで」下されません。これにより、キャップギャップ期間が終了する2027年4月1日を過ぎても就労許可が得られないという「法的空白」に陥るリスクが生じており、特定の国籍を持つというだけでキャリアが閉ざされかねない人権上の懸念が強まっています。

登録時と本申請時の要件の齟齬に注意

 実務上の落とし穴として、登録時の賃金判定と本申請時の労働条件認定(LCA)の手続きが切り離されている点にも注意が必要です。登録時の賃金レベルは単純な給与額の比較で決まりますが、本申請時のLCAは職務要件に基づくDOLの厳格な基準に従います当選確率を上げるために登録時に高いレベルを選択し、実際の職務要件に見合わない賃金を提示した場合、USCISはこれを「システムを不正に操作した」とみなし、申請の却下だけでなく、将来的なプログラムへの参加禁止や詐欺罪としての立件という強力な法執行を行うことを明言しています。

ルールを理解し、十分な備えを

 結局のところ、2027年度のH-1Bビザは、もはや純粋な「抽選」ではなく、経済的な支払い能力と、精緻な法的戦略を備えたものだけが生き残れる「選別」の場へと変貌しました。10万ドルの費用負担、国籍による審査保留、そして賃金による当選確率の差別化、これらはいずれも、個人の能力や人権よりも、国家の経済的・政治的意図が優先されている現状を浮き彫りにしています。私たちが直面しているのは、単なるビザの手続きの変更ではなく、「移動と就労の権利」がどれほど経済的な価値によって値付けされているかという、極めて現代的な人権の危機なのです。申請者の皆さんは、この複雑なルールを十分に理解し、最悪のシナリオ(例えばCOSが拒否され突如10万ドルの支払いを迫られるなど)に対する備えを、これまで以上に慎重に行う必要があります。。

次回また新しいトピックを考えていきましょう。


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