2025年に発効した新法について_1452

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1452回 弁護士 鈴木淳司
Jan 12, 2025

2025年も本格的に始動しはじめました。
そして、2025年も新たに発効する法律がいくつもできました。
今回は年始ですので、カリフォルニア州において、注目すべき、そして、皆さんにも関係がありそうなものを選んでご紹介していきたいと思います。

まず、1つ目ですが、労働法に関するものを取り上げましょう。
職場での「囚われの聴衆(Captive Audience)」会議強制の制限について考えます。

「囚われの聴衆」というのは、強制的に参加を要求されて逃げられない場合に使われる用語です。
2025年1月1日から、上院第399号が施行されていますが、この法律では雇用主は、被用者に対して、政治、宗教、または組織の業務に関係のないその他のトピックについて話し合うために開催する会議を強制できないことになりました。

すなわち業務に関係ない場合には、従業員は出席を拒否できることになり、拒否をしたことに対して雇用主は、ネガティブな評価など、不利益処分や報復をすることが禁止されました。
もちろん雇用主は、業務に関係のない会議などを設定し、従業員に出席を促すことはできますが、強制はできないということです。

もともと、この法律の基礎になった出来事として、雇用主が、従業員の労働組合結成を阻止するための会合への出席を強制したということがありました。
この法律以外にも労働法では、家族に子作り関係で、流産等の状況が生じた場合に従業員には5日間の休暇を許すといった法律が制定されました。

2つ目ですが、銀行口座に関して、法案2017号が施行されますが、銀行口座に銀行が要求する最低限の預金がはいっていないと、毎月手数料を引かれる当座口座(Checking Account)は一般的ではあります。
この残高不足が生じている場合、銀行が手数料を徴収することが禁止されます。

この法案ができると、長年放置している口座が、手数料がずっと引かれ続けて残高がなくなる、といった事態はなくなると考えられます。
銀行は手数料が取れなくなりますが、消費者保護の観点からは重要な法律だと思います。

3つ目の新法ですが、求人広告に関するものです。
2025年1月1日以降、カリフォルニア州の雇用主は、職務に運転があきらかに必要な場合を除き、求人広告上、求職者に対して運転免許証の所持を要求できなくなります(上院法案第1100号)。
運転免許証を明示的な就職の条件とは例外を除きできなくなったわけです。

この法律によって、運転免許証を持たない求職者には朗報ですし、公共交通機関に頼っている人々に雇用機会が開かれることになります。
ただ、この法律ができたことで、どのような効果があるのかは、どのように計るのでしょうかね。

4つ目にご紹介する新法は、教育現場における「強制アウティング」に関するものです。
すでにカリフォルニア州においては、SAFETY法が制定されていて、学区、郡教育局、チャータースクール、州立特別支援学校、理事会のメンバーが生徒の性的指向、性自認、性表現を本人の同意なく開示(この不同意開示を「強制アウティング」といいます。)することを禁止しています。
SAFETY法により、カリフォルニア州は、生徒のLGBTQ+ステータスの開示を義務付ける政策を明示的に禁止する最初の州となっていました。

このSAFETY法というのは、憲法上のプライバシー権と州教育法を通じて生徒を「強制アウティング」からすでに保護しています。
この生徒の保護に加えて、2025年1月1日からは、生徒のSAFETY法上認められているプライバシーを尊重したことで、教育者に対する報復についても禁止されるということが明確に規定されることになりました。
このように、強力な保護を与えることで、究極的には、生徒・学生のように発達途上の未成年者に対する差別を減らそうという試みです。

最後にご紹介するのは、カリフォルニア州では、この数年かなり問題になっている窃盗や麻薬関連の罪に関する罰則強化の一連の新法です。
一時期カリフォルニア州の法律では、一定の軽微な窃盗などは、ほぼ刑が科されないような状況になっていました。

2025年1月から、このような状況が変わります。
合計で10の新しい法律が制定されましたし、住民投票でも、過半数を大きく超えて支持されました。

まず、少々むずかしい話なのですが、2025年1月1日より、カリフォルニア州の検察庁は、自庁の管轄郡とは異なる郡で発生した窃盗などの犯罪について一つの裁判に併合することができるようになりました(議会法案1779号)。

この数年ではカリフォルニア州全域において、グループ化した窃盗犯らが複数の郡で犯罪を行うというパターンが増えました。
今までは、郡ごとに検察庁が起訴しなければならなかったので、煩雑であり検事の負担も激増しました。
また、一つ一つの罪は小さくても、一連の犯罪を合算すれば、大きな窃盗犯罪になるという場合もあったわけです。
ですので、今回の法改正で、郡をまたいでも同一の窃盗グループに関してはまとめて起訴ができるようになりました。
反対意見もあるようですが、この法律は、現状を踏まえて、犯罪を抑止するための機動力の必要性を踏まえた良い法律だと思います。

次に、小売店による差止命令請求について新たに法制化され(議会立法3029号)、2025年1月1日に発効しました。
この法律は、新たに小売店に認められる請求権です。
法律的には興味深いところです。

具体的には、この法律により、小売店のオーナーは、窃盗、破壊行為、または店舗で働く従業員に対する暴行などにより被告人が有罪判決を受けた場合、小売店は、この被告人に対して、差止命令を請求することが可能になりました。
差止命令を受けると、被告人(受刑者)は、店舗の駐車場、店舗自体、およびその他のフランチャイズまたはチェーン店に立ち入ることが禁止されます。
これらの禁止事項に違反すると、罪に問われる可能性があります。

実は今まで私も万引き事件などを担当すると、裁判所が自発的に店舗入店などを言い渡すことが一般的でありました。
しかし、今回の法律によって、小売業店舗が積極的に被告人に対して、入店禁止等の意思表示が刑事裁判上表明できることになりました。
実効性はどこまであるのか不明ですが、少なくとも犯罪被害者の手続参加を拡大するものであり、事件の実質的な解決には資するのだと思います。

もう一つ窃盗関係の法律を取り上げてみます。
上院第905号ですが、自動車窃盗の犯罪立件を緩和するものです。

もともカリフォルニア州法によると自動車内にあるものを窃盗した窃盗犯を起訴して有罪に結びつけるためには、検察側から、車のドアが施錠されていたことを疎明しなければなりませんでした。
この疎明する要件を緩和したのが、今回の法改正です。
すなわち、検察側としては、自動車侵入窃盗犯が、窓やドアを壊して車両へ侵入した痕跡があれば良いということになりました。
したがって、車のドアの施錠については、あまり今後は問題にならなくなりそうです。

まだまだ、いろいろなエリアで新法が2025年も発効していますが、皆さんにも影響がある可能性があり、代表的なものを今回取り上げてみました。

すべて覚えておく必要はありませんが、どのような改正があったのか、ということは漠然と覚えておかれると良いかもしれませんね。

次回は、皆さんからいただいている質問をまたみなさんと一緒に考えていきましょう。
ロスの火災やその被害は非常に心配ですが、健康には注意してまた一週間がんばっていきましょうね。



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