法律ノート 第1452回 弁護士 鈴木淳司
Jan 12, 2025(Updated July 10, 2026)
2025年も本格的に始動しはじめました。
そして、2025年も新たに発効する法律がいくつもできました。
今回は年始ですので、カリフォルニア州において、注目すべき、そして、皆さんにも関係がありそうなものを選んでご紹介していきたいと思います。
労働法に関する新法
まず、1つ目ですが、労働法に関するものを取り上げましょう。
職場での「囚われの聴衆(Captive Audience)」会議強制の制限について考えます。
業務に無関係なら、会議に強制されない
「囚われの聴衆」というのは、強制的に参加を要求されて逃げられない場合に使われる用語です。
2025年1月1日から、上院第399号が施行されていますが、この法律では、雇用主が「政治的または宗教的な事項(労働組合の結成など労働組織に関する話題を含みます)について、雇用主自身の見解を伝えることを目的とする会議」への出席を、従業員に強制できないことになりました。噛み砕いて言うと、雇用主は、被用者に対して、政治、宗教、または組織の業務に関係のないトピックについて開催する会議には、強制参加させられないということです。
すなわち業務に関係ない場合には、従業員は出席を拒否できることになり、拒否をしたことに対して雇用主は、ネガティブな評価など、不利益処分や報復をすることが禁止されました。
もちろん雇用主は、業務に関係のない会議などを設定し、従業員に出席を促すこと自体はできますが、強制はできないということです。
もともと、この法律の基礎になった出来事として、雇用主が、従業員の労働組合結成を阻止するための会合への出席を強制したということがありました。
妊娠出産に関する休暇
労働法の分野では、これに先立つ2024年1月1日から「生殖に関する喪失休暇(Reproductive Loss Leave。SB 848)」も施行されています。流産・死産、不成功に終わった生殖補助医療、養子縁組や代理出産の不成立などが生じた場合に、対象となる従業員(5人以上を雇用する雇用主のもとで一定期間勤務した人)が最大5日間の休暇を取得できるという制度です。
2025年の新法ではありませんが、あわせて知っておくと役立つ改正です。
銀行口座の手数料に関する新法
2つ目ですが、この法律(AB 2017)が禁止するのは、口座残高が足りず取引がその場で(即時またはほぼ即時に)拒否されたときに、銀行や信用組合が課してきた「残高不足手数料(NSF手数料。ATMでの引き出しが即座に拒否された場合などが典型です)」の徴収です。取引が成立していないのに手数料だけを取られる、という消費者にとって理不尽な負担をなくすことが目的です。
なお、対象はカリフォルニア州の免許を受けた銀行・信用組合であり、月々の口座維持手数料そのものを禁じるものではない点には注意が必要です。
求人広告に関する新法
3つ目の新法ですが、求人広告に関するものです。
2025年1月1日以降、カリフォルニア州の雇用主は、職務に運転があきらかに必要な場合を除き、求人広告上、求職者に対して運転免許証の所持を要求できなくなります(上院法案第1100号)。
一部の例外を除いて、運転免許証を明示的な就職の条件とすることができなくなったわけです。
この法律は、運転免許証を持たない求職者には朗報であり、公共交通機関に頼っている人々にも雇用機会が開かれることになります。
ただ、この法律ができたことより効果は、どのように計るのでしょうかね。
教育現場の強制開示に関する新法
強制アウティングの禁止
4つ目にご紹介する新法は、教育現場における「強制アウティング」に関するものです。
すでにカリフォルニア州においては、SAFETY法が制定されていて、学区、郡教育局、チャータースクール、州立特別支援学校、理事会のメンバーが生徒の性的指向、性自認、性表現を本人の同意なく開示(この不同意開示を「強制アウティング」といいます。)することを禁止しています。
SAFETY法により、カリフォルニア州は、生徒のLGBTQ+ステータスの開示を義務付ける政策を、明示的に禁止する最初の州となっていました。
教育者への報復も禁止
このSAFETY法というのは、憲法上のプライバシー権と州教育法を通じて、生徒を「強制アウティング」からすでに保護しています。
この生徒の保護に加えて、2025年1月1日からは、生徒のSAFETY法上認められているプライバシーを尊重したことで、教育者に対する報復についても禁止されることが明確に規定されることになりました。
このように、強力な保護を与えることで、究極的には、生徒・学生のように発達途上の未成年者に対する差別を減らそうという試みです。
窃盗、麻薬関連の罰則強化に関する新法
最後にご紹介するのは、カリフォルニア州では、この数年かなり問題になっている窃盗や麻薬関連の罪に関する罰則強化の一連の新法です。
一時期カリフォルニア州の法律では、一定の軽微な窃盗などは、ほぼ刑が科されないような状況になっていました。
2025年1月から、このような状況が変わります。
合計で10の新しい法律が制定されましたし、住民投票でも、過半数を大きく超えて支持されました。
他郡の微罪も一つの裁判で
まず、少々むずかしい話なのですが、2025年1月1日より、カリフォルニア州の検察庁は、自庁の管轄郡とは異なる郡で発生した窃盗などの犯罪について一つの裁判に併合することができるようになりました(議会法案1779号)。
ここ数年、カリフォルニア州全域において、グループ化した窃盗犯らが複数の郡で犯罪を行うというパターンが増えました。
今までは、郡ごとに検察庁が起訴しなければならなかったので、煩雑であり検事の負担も激増しました。また、一つ一つの罪は小さくても、一連の犯罪を合算すれば、大きな窃盗犯罪になるという場合もあったわけです。
ですので、今回の法改正で、郡をまたいでも同一の窃盗グループに関してはまとめて起訴ができるようになりました。
反対意見もあるようですが、この法律は、現状を踏まえて、犯罪を抑止するための機動力の必要性を踏まえた良い法律だと思います。
小売店は差止命令できるように
次に、小売店による差止命令請求について新たに法制化され(議会立法3209号(AB 3209))、2025年1月1日に発効しました。
この法律は、新たに小売店に認められる請求権です。
法律的には興味深いところです。
具体的には、この法律により、窃盗、破壊行為、または店舗で働く従業員に対する暴行などにより被告人が有罪判決を受けた場合、小売店のオーナーは、この被告人に対して差止命令を請求することが可能になりました。
差止命令を受けると、被告人(受刑者)は、店舗の駐車場、店舗自体、およびその他のフランチャイズまたはチェーン店に立ち入ることが禁止されます。
これらの禁止事項に違反すると、罪に問われる可能性があります。
実は今までも、私が担当した万引き事件などで、裁判所が自発的に店舗入店禁止などを言い渡すことが一般的でありました。
しかし、今回の法律によって、小売業店舗が積極的に被告人に対して、入店禁止等の意思表示を刑事裁判上表明できることになりました。
実効性はどこまであるのか不明ですが、少なくとも犯罪被害者の手続参加を拡大するものであり、事件の実質的な解決には資するのだと思います。
自動車は無施錠でも立件対象に
もう一つ窃盗関係の法律を取り上げてみます。
上院第905号ですが、自動車窃盗の犯罪立件を緩和するものです。
もともとカリフォルニア州法によると自動車内にあるものを窃盗した窃盗犯を起訴して有罪に結びつけるためには、検察側から、車のドアが施錠されていたことを疎明しなければなりませんでした。
この疎明する要件を緩和したのが、今回の法改正です。
すなわち、検察側としては、自動車侵入窃盗犯が、窓やドアを壊して車両へ侵入した痕跡があれば良いということになりました。
したがって、車のドアの施錠については、あまり今後は問題にならなくなりそうです。
まだまだ、各分野で新法が2025年も発効していますが、皆さんにも影響がある可能性があり、代表的なものを今回取り上げてみました。
すべて覚えておく必要はありませんが、どのような改正があったのか、頭の片隅に覚えておかれると良いかもしれませんね。
次回は、皆さんからいただいている質問を、ご一緒に考えていきましょう。
ロスの火災やその被害は非常に心配ですが、健康には注意してまた一週間がんばっていきましょうね。
関連記事
- カリフォルニアの新しい法律-2020年_1195(毎年の新法まとめの回。本記事と同じテーマ)
- アメリカで雇用する際の注意点(4)_1416(労働法・就業規則。SB 399/SB 1100に関連)
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本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2025年1月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。とくにSB 399およびSAFETY法(AB 1955)は、その後の裁判により適用状況が変動していますので、最新の情報をご確認ください。
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【事務局注】SB 399の執行は現在停止中です
SB 399は2025年1月1日に施行されましたが、その後、事業者団体が「連邦労働関係法(NLRA)による専占」「言論の自由の侵害」を理由に連邦裁判所へ提訴し、裁判所は本法の執行を一時的に差し止める予備的差止命令を出しました。本稿執筆時点以降の動きであり、現在は控訴審(第9巡回区)で争われています。実際の適用可否は最新情報をご確認ください。
【事務局注】SAFETY法(AB 1955)について
ここで言う「SAFETY法」は、2024年7月に成立し2025年1月1日から施行された議会法案第1955号(AB 1955、Support Academic Futures and Educators for Today’s Youth Act)そのものを指します。生徒の「強制アウティング」の禁止と、それを拒んだ教育者への報復禁止は、いずれもこのAB 1955に同時に定められ、同じ日に施行されました。なお、本法はその後、連邦裁判所で複数の訴訟の対象となっています。最新の適用状況は各自ご確認ください。
関連する米国法律リソース
- カリフォルニア州議会情報(leginfo)― SB 399(囚われの聴衆)本文
- カリフォルニア州金融保護イノベーション局(DFPI)― 残高不足・当座貸越手数料(AB 2017関連)
- カリフォルニア州議会情報(leginfo)― SB 1100(求人広告と運転免許)本文
- カリフォルニア州教育省(CDE)― AB 1955/SAFETY法の解説
- カリフォルニア州知事府 ― 2025年施行の小売・財産犯罪対策法(AB 1779・AB 3209・SB 905)
- カリフォルニア州議会情報(leginfo)― AB 3209(小売犯罪差止命令)本文
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