法律ノート 第1453回 弁護士 鈴木淳司
Jan 20, 2025(updated July 11, 2026)
2025年になってテレビ東京で弁護士と女性将棋棋士である主人公を題材にしたドラマが始まりました。
法律ノートの読者の方で知っている方も多いかもしれませんが、私はプロ将棋棋士と飲むことをこよなく愛し、自分の法廷活動にも、攻守とも将棋の考えをずいぶん取り入れてきました。
将棋が好きでは無い方には馴染みがないかもしれませんが、大局的に最善手を求めて戦いを繰り広げ、詰将棋のように最終形を探るのは、将棋も訴訟も似ているところがあるとずっと思っていました。
ドラマの第一回目を見ました。
そこまで内容は心まで響きませんでしたが、やっと将棋と訴訟の共通点を見出す視点が出てきて感動しました。
昨年末も実際に大型事件を解決できましたが、実は奇襲をしながら王様を追い詰めていく、というのは将棋の発想でした。
さて、今回から皆さんと一緒に新しくいただいている質問を考えていきましょう。
いただいている質問をまとめると「先日、サンフランシスコに出張で滞在している間、私が歩いているところで電動スクーターに乗っている人と接触して転倒し、骨にヒビが入る事態になりました。その事故の相手方は逃げ去り、誰かがわかりません。サングラスをかけていたので顔はよく見えませんでした。病院に行き治療を受けましたが、色々不利益を被ったことに納得がいかないのですが、なにか法的にできることはないでしょうか」という質問です。
サンフランシスコの警察は機能しているのか全く分かりませんが、手が足りない様子もあり、市民は納得していないことも多いのが現状です。
新しくなった市長のお手並み拝見というところでしょうか。
サンフランシスコの治安維持については私も個人的に色々言いたいことがありますが、ここでは黙っておきます。
自転車も電動スクーターも、まず「積極的な初期対応」から
カリフォルニア州では、自転車や電動スクーターがからむ事故でも、被害者が損害の回復を目指すなら、自動車事故と同じように早めの積極的な初期対応が欠かせません。ただし、立ち乗りの電動スクーターは、保険や登録の面では自動車と同じ扱いではない点に注意が必要です(くわしくは後述の事務局注)。
当て逃げなら警察への届け出は24時間を目安に
まず、当て逃げ(相手が逃げて身元不明)のケースで、自分の加入する『無保険運転者(アンインシュアド・モータリスト、UM)保険』を使う可能性を残すには、原則として事故から24時間以内に、事故が起きた地域の警察へ届け出ておくことが重要です。
この報告は、事故が発生した市の警察署または、郡管轄のシェリフ(保安官)または、カリフォルニアハイウェイパトロールに対して行う必要があります。
今回質問されている方についても、まずは損害については、なんらかの形で被害届を出して置かなければなりません。
場合によっては保険会社に伝えると、色々な指示をもらえるかもしれませんが、公の機関にどのような損害を被ったのかということを伝える必要があるということです。
思い当たる保険にはすべて通知し、30日以内に宣誓供述書を
次に、事故の被害者となった場合には、今回質問されている方はすでに病院に行かれているようですが、考えられるすべての保険会社に通知をする必要があります。
どこの保険会社が助けてくれるかはわかりません。
旅行保険を含めすべて自分が関係ある保険会社に連絡することが重要になります。
そして、UM保険で当て逃げをカバーしてもらうには、事故から30日以内に、『加害者が誰か分からないこと』『自分が負傷したこと』を説明する宣誓供述書(sworn statement)を保険会社に提出しておく必要があります。
各保険会社は、用紙を用意していますが、皆さんは被害に遭った状況を説明するだけではなく、少なくとも被害を惹起した身元不明の人物に対して損害賠償請求の理由があることを主張し、裏付けとなる事実を記載する必要があります。
物損・負傷があればDMV報告が必要な場合も
場合によりますが、事故により1,000ドルを超える物的損害、身体傷害、または死亡が発生した場合、運転者は10日以内に自動車管理局 (DMV)に事故を報告(SR-1)する必要があることは法律に規定されています。
ただしこのSR-1の提出義務は、事故に関与した『運転者』(およびその保険代理人・弁護士)に課されるもので、歩行者として巻き込まれた被害者本人に課される義務ではありません。
しかしながら、どのような事故であれ、まずはカリフォルニア州の法律上はこのように、できるだけ広く報告をしておいたほうが良いわけです。
かりに加害者に対して訴訟をするなどの場合や、路上のカメラなどで犯人が捕まった場合などには、後日の請求や証拠化に備え、状況を早めに記録・整理しておく意味は大きく、初期対応が必要です。ですので、感情を堪えて少なくとも報告をすることが重要だと思います。
今回は報告することの重要さを考えましたが、次回続けていきたいと思います。
雨が降らないカリフォルニア州ですが、もう少し本格的な雨を期待しながらまた一週間がんばっていきましょうね。
【JINKEN.COM事務局注】電動スクーターと保険の関係について
立ち乗りの電動スクーター(motorized scooter)は、カリフォルニア州法上、登録や保険(financial responsibility)の面では「自動車(motor vehicle)」として扱われません(CVC §21224)。そのため、スクーターの利用者に自動車のような保険加入義務はなく、当て逃げに遭った際にご自身の無保険運転者(UM)保険が使えるかどうかは、加害車両がどの分類にあたるか、そしてご加入の約款によって結論が分かれます。まずはご自身の自動車保険・旅行保険・医療保険の内容を確認し、迷う場合は弁護士にご相談ください。
【JINKEN.COM事務局注】
30日以内の宣誓供述書提出はUM当て逃げ請求の法定要件(Ins. Code §11580.2(b)(2))ですが、加害車両と被保険者本人、または被保険者が乗っていた車両との物理的な接触があったことも要件となります。
関連する米国法律リソース
- California DMV|交通事故の報告(SR-1)
- California Vehicle Code §16000(DMVへの事故報告義務)
- California Vehicle Code §20008(負傷・死亡事故の警察への報告)
- California Vehicle Code §21224(電動スクーターの法的扱い)
- California Insurance Code §11580.2(無保険運転者・当て逃げ請求の要件)
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、特定の個別事案に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、法律や規制、行政の運用は変更される可能性があります。
事故対応や保険金請求は、加入している保険の種類・約款、事故の具体的な状況、そして車両や乗り物の法的分類によって結論が大きく変わります。本記事を読まれたことをもって、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼人関係が成立するものではありません。実際の対応にあたっては、必ずカリフォルニア州の資格を持つ弁護士にご相談ください。
本記事の利用によって生じたいかなる損害についても、当所および執筆者は、故意または重過失がある場合を除き責任を負いかねます。
(本記事は2025年1月公開の内容を、JINKEN.COM事務局にて2026年に法令面を見直して更新しています)
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