2026年最高裁が下した審判_1512

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1512回 弁護士 鈴木淳司
Feb 21, 2026

カリフォルニアの山間部では大雪が降って死者もでています。
先週は半袖でも良いような気候でピンク、白、黄色の花が綺麗な時期なのに、天気というのは不思議なものです。
春が訪れる前に、天気が暴れています。


さて、すでにニュースになっているとは思いますが、トランプ政権が大統領令を通して出していた、いわゆる「関税」について、司法が判断をしました。

一法曹として、アメリカの三権分立がどのように作用するのかという点で注目していました。

2026年2月20日、米国の連邦最高裁判所は「Learning Resources, Inc. v.Trump」事件において、現代の通商政策の根幹に関わる判断を提示しました。

本判決の核心は、1977年に制定された「国際緊急経済権限法(IEEPA)」が、大統領に対し議会の承認なき関税賦課を認めているかという点でした。

実際のところ、現政権がアグレッシブな政策を取り始めた一年前から、アメリカの連邦最高裁は、どちらかというと政権に近い共和党の考えに近い判事が多かったので、現政権寄りの判断が多かったわけです。

まあ、現政権寄り、というよりも「口はださない」という方が妥当かもしれません。

しかし、今回、共和党が指名したロバーツ最高裁長官が執筆した法廷意見を通じて、IEEPAは大統領に関税権限を付与するものではないと断じました。

この論争の出発点は、憲法第1条第8節に規定されている「賦課金、関税を課す権限は議会に属する」という大原則にあります。

憲法起草者が「国民の懐(財布)に触れる権限」を議会のみに委ね、行政には一切の固有の課税権を与えなかったという歴史的事実が今回の判断の基礎になります。

現政権はIEEPAの「輸入を規制(regulate)する」という文言を根拠に、薬物対策や貿易赤字解消を目的とした関税賦課の正当性を主張しましたが、法廷意見はこれを退けました。

ここで決定的な役割を果たしたのが「重大な質問(メジャー・クエスチョン)教義」です。

国家的に甚大な経済・政治的影響を及ぼす権限の委任については、議会が「明確な授権」を行っていない限り、曖昧な文言からその存在を読み取ってはならないというこの法理が、今回のケースにも適用されました。

IEEPAが制定されてから約半世紀の間、一度も関税のために発動されたことがないという「歴史的前例の欠如」も、大統領の主張がその正当な射程を超えていることを示唆する強力な証拠となりました。

簡単にいうと、今回の判断において、曖昧な文言を現政権が利用して課税しようとしたところ、曖昧な文言があれば、立法権がその判断をするべきであるとしたのです。

まさに三権分立の根幹に関わる判断です。

一方で、カバノー判事を筆頭とする反対意見は、実務的かつ歴史的な視点から猛烈な反論を展開しています。

カバノー判事らは、IEEPAが輸入を完全に禁止する「禁輸(エンバーゴ)」の権限を与えている以上、それより穏やかな手段である「関税」を含まないと解釈するのは論理的に不自然であると説きました。

また、1971年のニクソン大統領による一律関税がIEEPAの前身法で是認された歴史や、1976年のアルゴンキン事件判決での「輸入を調整する」という文言への関税包含の解釈を挙げ、今回の多数派の判断はこれら先例を無視するものだと批判しています。

さらに、ケーガン判事らの補足意見も興味深い論調を示しています。

彼女らは「関税は認められない」という結論には賛成しつつも、右派が好む「重大な質問教義」を用いる必要はないと釘を刺しました。

単なる通常の条文解釈、つまり「規制」という言葉の日常的・法的な用法を分析すれば、それが「課税」を意味しないことは明白であるという、よりストレートな解釈手法で足りると論じています。

私には、些末なロジックの違いに思えますが、やはり立法と行政の役割にダイレクトに響く内容なので、議論があって然るべきなのかもしれません。

今回の判決がもたらす効果は現政権がこの一年遂行してきたポリシーにかなり影響します。

まず、トランプ政権が徴収した数十億ドルに及ぶ関税について、輸入業者への還付義務が生じる可能性があり、連邦政府にとって多大な財政的混乱を招くことが予想されます。

現政権が、通過させた予算には、関税収入を基礎にした内容がかなり含まれていますので、財政そのものにも打撃となります。

また、関税を交渉の「レバレッジ」として各国と結んだ数兆ドル規模の貿易合意についても、その法的基盤が揺らぎ、国際的な不確実性が高まることは避けられないでしょう。

しかし、注意すべきは、これが「大統領の関税権限の全面否定」ではないという点です。

通商拡大法232条(安全保障)や1974年通商法301条(不公正貿易)など、他の法律に基づけば依然として大統領は関税を課すことが可能であり、今回の判決はあくまで「IEEPAを関税の根拠とする」という近道を封じたものに過ぎません。

今後、大統領がどの法的枠組みを選択し、議会がどのようにその権限を再定義していくのでしょうか。

すでに大統領は、さらなる関税を課すと明言しています。

もう後には引けないような様相を呈しています。

今回の法律ノートは、関税に関する判例について、法律的な観点から考えました。

今後の推移は政治に委ねるしかないですが、法律家の観点からは三権分立という国家の基礎に触れるとても重要な判例だと思い、ご紹介しました。

150ページ弱の判例ですので、本気で語ろうとすると長くなってしまうので、このくらいにしておきます。

次回は、皆さんからいただいている質問をまた考えていきたいと思います。
色々最近は、移民法や最高裁判例などのご紹介で、皆さんの質問にお答えするのが遅滞してしまっています。
すみません。
天気が不安定ですが、雨にも雪にも負けず、また一週間がんばっていきましょうね。

免責事項

本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年2月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。

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作成者: jinkencom

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