アメリカ コロナ禍の裁判(2)_1274

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1274回 弁護士 鈴木淳司
August 5, 2021

先週、トライアルの準備で忙しいというお話をしましたが、最終的な日程調整のために裁判所にビデオ出廷すると、なんとこの夏にトライアルが開始されるはずの担当案件が、来年の春まで先送りされることになりました。
8ヶ月も先延ばしというのは、本当に唖然としましたが、裁判官と話していると納得せざるを得ない状況だと感じました。

アメリカ コロナ禍の裁判(2)_1274

今回も一旦みなさんからのご質問にお答えするのを休ませていただき、現在の裁判事情を考えたいと思います。

長引く民事裁判

 相手方弁護士と私が出廷した陪審裁判準備期日というのは、カリフォルニア州の民事裁判では、陪審裁判直前の最後の手続で、裁判官と陪審裁判の進行や日程について確定的に調整する期日であります。
民事事件でも、ここまでたどり着く事件はあまり多くありません。たぶん、10%もないと思います。

当日のその裁判所で指定されていた事件は3件のみで、1件はビデオ出廷していなかったので、和解したのでしょう。
私が担当する事件ともう一件の事件の弁護士がビデオに映っていました。
まあ、それなりに話すことはあったのですが、裁判官は公開の法廷というよりは自分の執務室からズームインしていたようで、かなりフランクに事情を話してくれました。

陪審員にコロナ陽性者

 一旦はその州の裁判所は実際の生審理を再開したようですが、陪審員にコロナ陽性が出たために、再度シャットダウンとなったようです。
今では、その裁判所に弁護士が行っても入れてくれないような状況になっているのです。
まあ、裁判官も結構な高齢ですし、コロナは心配なところではあると思います。

その後、トライアルは、ビデオトライアルということで進行しているそうですが、昨年(2020年)は、ほぼ何も動かないシャットダウンの時間がかなりあったそうで、詰まっている事件のなかでも、どうも優先的に処理をしなければいけないものを選んでいる様子でした。

優先させるべき訴訟、法廷

私が出廷していた法廷では、アスベスト訴訟を優先的に行っている状況です。
アスベスト訴訟は、とにかく関係者、証人、などの登場人物がかなり多い事件です。交通整理するだけでも大変な事件であります。
特別な部をつくっている裁判所もすくなくありません。
というわけで、この法廷ではとにかく、アスベスト訴訟を優先してやっているという状況です。

裁判官が言うには、中皮腫(Mesothelioma)により原告の命が短いこともあり、優先せざるを得ないということでした。

私自身はアスベスト訴訟を手掛けたことがないのでよく知らないのですが、アスベストによって、かなり深刻な健康被害が生じ、「待っていられない」という事件が多いそうなのです。

そういうことから、ビデオトライアルも使って、はやく事件を進行させていくということが必要なのだ、と裁判官はつぶやいていました。

家族事件を除いては、民事事件は、「金」の話がほぼすべてなのですが、いくら「金」の話でも、生きるか死ぬかといった当事者が存在する場合には、優先せざるを得ないのだな、ということをしみじみ感じました。

こういったことから、翌年にならないと、裁判の時間が取れないということで、来年の4月まで裁判は持ち越しということになったわけです。

コロナの影響はまだまだ…

もちろん、私としてもはやく裁判をして終わらせたいのですが、このような事情があるのにゴリ押しはできないわけで、やはり大きくコロナの影響がまだまだ現存しているのだな、と思い知らされました。

 たぶん、他の法廷でも同じような事態になっているのだと思います。弁護士にとっても、裁判が延期となってしまうと、調整が大変になってきます。やれやれ、予定のやり繰りは今年から来年はかなり面倒になりそうだな、と私自身も感じています。

日米の裁判の違いも

日本ではどのような状況か詳細はわかりませんが、日本でも裁判員制度が取り入れられているわけで、現状コロナが激増している状況でどう運営されているのでしょうか。
日本の法廷に携わる方々にぜひ教えていただきたいところです。

日本において通常の裁判であれば、陪審員はいなくて、裁判官による裁判ですからビデオでも十分にできるでしょう。

しかし、アメリカは、まず陪審裁判を受ける権利というのは憲法で保障されているので、裁判イコール「陪審ありき」になります。

陪審の方々を裁判所に呼べば、コロナの感染リスクも増大していくわけで、アメリカにおける陪審制度が全体的なスケジュールの足を引っ張っているのではないかとふと思いました。

 アメリカで裁判が正常化するのは、再来年くらいになるのではないかと思います。この調子でいくと、いつまでかかるのか、暗澹たる気持ちになってきます。

このような状況ですから、皆さんも訴訟を提起したり、巻き込まれることには注意したほうが良いと思います。トラブルがあったら、裁判所を介入させずに早めの解決がベストなご時世であります。

次回はまた新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。

デルタの次はラムダ株だそうです。
体調管理をちゃんとしながらまた一週間がんばっていきましょうね。

■アメリカコロナ禍の裁判_1273

アメリカ経済再開と裁判所_1268

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作成者: jinkencom

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