アメリカ経済再開と裁判所_1268

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1268回 弁護士 鈴木淳司
June 22, 2021

 2021年6月15日をもって、カリフォルニア州では、COVIDワクチン接種者は、一定の限度でマスクをしなくて良いということになりました。
ずいぶん、サンフランシスコのダウンタウンでも歩いている人を見かけますし、マスクなしで談笑しながら歩いている姿も見かけます。
イギリスの再増加している状況にならないことを祈りますが、現状では確実にコロナ罹患者数は減っているようです。

今回は、少々暗澹たる気持ちになるベイエリアの裁判所事情について、ご紹介しておきたいと思います。
申し訳ありませんが、いただいている質問にお答えするのはもう一回先延ばしさせてください。
重要な問題です。

アメリカ経済再開と裁判所_1268

書類だけいじって生計が成り立っている弁護士は良いのかもしれませんが、事件性のある仕事をしている弁護士にとっては裁判所の機能というのがかなり影響します。
もちろん、例えば移民法などの行政書士業務を扱う弁護士の方々にとっても政府の機能がコロナ禍で停滞して、申請などの進行に影響しているわけですが、事件となると、待ってはくれないこともあり、裁判所の機能なくしては成り立ちません。

現状における、ベイエリアの裁判所の状況について今回考えさせてください。
私が実際に体験したことであります。

アメリカの訴訟も大きく二種類 – 民事と刑事

まず、大きく分けて、訴訟事件には、民事裁判と刑事裁判があります。

前者には、契約などのお金を扱う事件と、家族法などを扱う分野に大きく分かれることになります。
もちろん、連邦と州という二つの違った裁判システムがあるのですが、原則として、民事裁判と刑事裁判に分かれます。

コロナ禍が緩和してきて、最初に実際に法廷に立ったのはサンマテオ郡の刑事裁判所でした。
まだ、6月15日前でしたが、私が実際に出廷する数日前から、法廷に入れる人数を制限しながら法廷と裁判官控室などの開放を始めました。

もちろん、弁護士のみ入れるところがほとんどなのですが、かなり工夫しながら開廷しているな、と感心させられました。
コロナ禍以前にあったシステムはずいぶん変えられ、透明な仕切りなどで、職員も守りつつ刑事手続を進めることが可能になりました。
6月15日以降はまだ行っていないのですが、さらに工夫はされているのではないかと思います。

裁判所の対応、これだけ違う

刑事事件は、被告人にとって迅速に裁判を受ける権利というのは、コアな部分です。
もちろん一般的には、迅速に裁判を受ける権利を保留しながら、司法取引をガッチリやっていくというのがほとんどの事件ですが、刑事事件に関しては、被告人が望まないのに、あえて手続が長期化するのは人権侵害であるというのが、憲法でも刑事訴訟法でも中心的な考え方ですので、サンマテオ郡が工夫をしながらでも、進めていこうというのは感心させられるところであります。

一方で、今日(2021年6月21日)、ベイブリッジを渡ったオークランドにあるアラメダ郡の民事裁判所に行ってショックを受けました。

私が担当している事件は、その裁判所で陪審裁判が8月6日に設定されている事件です。
その事件に関して、裁判所に足を運んでみました。

裁判所の入口付近で簡単に駐車できたので、まだ完全に裁判所の機能は再開していないのかな、などと考えながら裁判所に入ろうとするとセキュリティの人に止められました。
どこにいくのかと聞かれたので、法廷だ、と返すとまだ裁判所はまったく開いておらず、書記官も来ていない、裁判官ももちろんいないと言われました。

そもそもアラメダ郡は、他の郡では一般的になりつつある電子ファイリングも導入しておらず、もともと不安はあるのですが、もう一か月強で実際に裁判になるべき事件があるのに、全く裁判所が機能していないことに愕然としました。
ということは、今までコロナ禍でずっと裁判の審理は中断していたわけですから、今までの積み上げ分も当然にあるのだと思います。
そうすると、まず8月に裁判期日が決められていたとしても、審理は開かれないのではないかと憂慮しています。

確かに刑事事件と違って民事事件は結局お金で解決する事件が家族法を除いてはほとんどです。
しかし、一方で私が受け持っている側は訴えられた側で、防御として徹底的に争う事件ですから、遅れれば遅れるほど、迷惑を被る立場にいます。
訴訟に巻き込まれて、また遅滞かよ、と思うのも無理はありません。

先が読めない民事の事件

刑事事件と違って裁判所は、お金の話であれば、待たせても良いと思っている節があります。
当事者にとっても弁護士にとってもたまったものではありません。
裁判所にも入れない、というのはどういうことだ、という感じです。

おまけに、室内でもマスクをしなくて良いことに政府が指導しているのに、裁判所のセキュリティと話をしていたら「マスクで鼻まで隠せ」とか言われるし、どうなっているのだ裁判所は、とかなりブルーな気分になりました。
こんなことでは司法の機能は地に落ちていくのではないでしょうか。
さて、この裁判もいつになることやら。

ため息混じりですが、また次回皆さんからいただいている質問を考えていきたいと思います。

夏休みをとる人も多くなってきていますね。
まだまだコロナに注意しつつも気分転換を大事にしながらまた一週間頑張っていきましょうね。

コロナウィルス蔓延とアメリカ刑事司法の柔軟性_1208

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作成者: jinkencom

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