移民法速報 2026年10月-

じんけんニュース 弁護士 鈴木淳司 10-05-2026

■ 2027会計年度の始まり——D/S廃止規則の施行延期、公的扶助新基準の施行、ビザ・ブレティンの後退、DS-260の設問拡大

10月1日から連邦政府の2027会計年度(FY2027)が始まりました。前号でお伝えした制度変更のうち、留学生の在留期間に関する規則は施行前日に止まり、公的扶助の新基準は予定どおり施行されました。このほか9月には、移民ビザ申請書の設問拡大、H-1Bに関する大統領布告及び大統領令、雇用終了後の猶予期間を廃止する規則案など、在米日本人の皆さんと日系企業の実務に直結する動きが相次ぎました。今回は、前号の訂正を兼ねて、これらの動きを順に整理していきたいと思います。

1 D/S廃止規則の施行延期(前号の訂正)

前号では、F(留学生)、J(交流訪問者)及びI(報道関係者)の「在籍期間(Duration of Status、D/S)」を廃止する最終規則(91 FR 44976)が9月15日に施行されるとお伝えしました。ところが施行前日の2026年9月14日、マサチューセッツ連邦地方裁判所(Saylor判事)は、Presidents’ Alliance on Higher Education and Immigration v. DHS(No. 1:26-cv-13799)において、行政手続法(APA)第705条(5 U.S.C. §705)に基づき、同規則の施行日を延期する命令を発しました。裁判所は、規則の政策的当否ではなく行政手続の適法性を審査し、①費用便益分析の欠如、②代替案の不検討、③重要な意見に対する応答の欠如、④規制目的との合理的関連の欠如の4点について、原告の主張が本案で認められる蓋然性が高いと判断しています。原告団体の加盟校は約600校ですが、全米5,000校超のうち一部にだけ別の規制が適用される事態は混乱を招くとして、救済の範囲は全国に及ぶとされました。

したがって現時点では、留学生のI-94は従前どおり「D/S」のままであり、Form I-539及びForm I-765も現行版で提出できます。前号の記載をここに訂正いたします。もっとも、本命令は本案判決までの暫定的な措置であり、規則の無効化(Vacatur)を求める申立ては再申立てを妨げない形で退けられています。政府の上訴や手続を整え直したうえでの規則の再提案の可能性もありますので、D/Sの廃止は「なくなった」のではなく「止まっている」と理解していただくのが正確です。

2 公的扶助(Public Charge)新基準の施行とI-485・I-864の新様式

公的扶助に関する最終規則(91 FR 45324)は、予定どおり2026年9月18日に施行されました。同日以降、永住権申請書Form I-485、Supplement A、Supplement J、公的扶助保証金関係のForm I-945及びForm I-356は09/18/26版のみが受理され、移行期間(Grace Period)は設けられていません。新基準の下では、Medicaid(カリフォルニア州ではMedi-Cal)、SNAP(食料支援)、住宅補助等の資力調査付き給付(Means-Tested Benefit)も、諸事情の総合考慮(Totality of the Circumstances)の一要素として考慮され得ます。お子様のために州の医療保険や食料支援を利用しているご家庭は、申請前に世帯全体の受給歴を整理しておく必要があります。

同規則については、9月14日、ニューヨーク州司法長官を中心とする22州及びコロンビア特別区の連合と、主要都市・郡の連合がそれぞれ取消しを求めて提訴しています。しかし、本稿執筆時点で施行を停止する命令は出ていません。D/S規則と異なり、訴訟が係属していることと施行が停止されていることは別の問題ですので、新基準は現に効力を有するという前提で準備すべきです。

また、扶養誓約書Form I-864、I-864A及びI-864EZは8月31日に08/24/26版へ切り替わり、AILAの提訴を受けて9月30日までは旧版も受理されていましたが、10月1日以降は新版のみが受理されます。新版では、保証人(Sponsor)が、USCIS及び国務省による消費者信用情報機関(Consumer Reporting Agency)からの情報取得に同意する条項が加わりました。クレジット・フリーズ(Credit Freeze)を設定している方は、解除の要請に速やかに応じることが求められます。日本在住で米国の信用履歴を持たない共同保証人(Joint Sponsor)の取扱いは明らかでなく、注意を要します。このように様式の切替えが猶予なしに、しかも当日の午後に告知される例が続いていますので、ご自身で申請される方は、提出の直前にUSCISのウェブサイトで各様式の版数(Edition Date)を確認する習慣をつけてください。

3 10月分ビザ・ブレティン——日本出生者のEB-2・EB-3が後退

国務省の10月分ビザ・ブレティン(Visa Bulletin)では、日本出生者が属する「All Chargeability Areas」において、雇用ベース第2優先(EB-2)の最終処理日(Final Action Date)が「C(Current)」から2025年1月1日へ、第3優先(EB-3)が2024年9月1日から同年5月15日へ後退(Retrogression)しました。国務省は、FY2027の四半期及び年間の発給上限内に収めるための措置と説明しています。

USCISは10月、家族ベース・雇用ベースとも「申請受付日(Dates for Filing)」チャートの使用を認めており、EB-2では優先日(Priority Date)が2026年3月15日より前、EB-3では2024年8月1日より前であれば、Form I-485を提出することができます。他方、9月中にI-485を提出した方でも、優先日が最終処理日以降であれば、最終処理日が到来するまで承認されません。I-485が係属していれば就労許可(EAD)や事前旅行許可(AP)を申請できますが、過去に不法滞在期間のある方のAPによる渡航には、前号でお伝えしたMatter of Delcarmen-Lara, 29 I&N Dec. 830 (BIA 2026)の問題がありますので、渡航前に必ず弁護士にご相談ください。

これに対し、永住権者の配偶者・未婚の子(F2A)は、最終処理日が2026年9月22日、申請受付日が「C」であり、ほぼ待機なしに手続を進めることができます。また、EB-4(特別移民)は、最終処理日こそ2022年12月15日のままですが、申請受付日が2025年1月1日まで大きく進み、宗教活動家の方にもI-485提出の途が開けました。もっとも、聖職者以外の宗教活動家(SR)区分は、H.R. 6500により2026年12月11日まで延長されたにとどまり、議会による再延長がなければ同日に失効します。

4 移民ビザ申請書(DS-260)の設問拡大

米国大使館・領事館で移民ビザを申請する際に提出するオンライン申請書DS-260に、9月、事前の告知なく設問が追加・拡大されました。主なものは、①過去15年間に保有した他の旅券、②過去15年間の米国以外への渡航歴(従来は5年)と、各渡航の「費用を誰が負担したか」、③現在及び過去の配偶者又はシビル・ユニオン若しくはドメスティック・パートナー(Domestic Partner)に関する情報、④配偶者・パートナー及び子の国籍、⑤兄弟姉妹全員の氏名・生年月日・国籍です。家族ベースの呼寄せやDV(多様化移民ビザ)当選者として領事手続を進める方は、全員がこの様式を記入することになります。

日本人の申請者には、特有の注意点が二つあります。第一に、日本の出入国では顔認証ゲートの利用が一般的になり、旅券に出入国印が残っていないことが少なくありません。15年分の渡航歴を記憶だけで正確に再現するのは困難ですので、出入国在留管理庁への出帰国記録の開示請求も含め、早めに記録を集めておくことをお勧めします。第二に、「ドメスティック・パートナー」の設問です。同居しているパートナーについて「はい」と回答すると、領事官がその関係を婚姻に準ずるものと扱う可能性があり、そうなると、例えば米国市民の未婚の子(F1)として申請していた方が既婚の子(F3)に変わったり、永住権者の未婚の成人の子(F2B)の方は家族ベースの区分自体を失ったりするおそれがあります。日本のいわゆる「事実婚」「内縁」関係にある方は、記入前に必ず弁護士にご相談ください。なお、兄弟姉妹や過去の配偶者の情報は戸籍謄本で確認できますので、戸籍の記載と食い違いのないよう照合してから回答するのが安全です。

5 申請書の署名——手書き署名の「画像の貼付け」は認められません

USCISに紙で提出する申請書の署名について、DHSは2026年5月11日付の暫定最終規則(Interim Final Rule、91 FR 25479)により8 CFR 103.2を改正し、同規則は7月10日から施行されています。同規則の下では、原本に手で署名した書面をスキャン、コピー又はファクスしたものは有効な署名として扱われますが、別の書類から署名画像をコピーして貼り付けたもの、署名ソフトウェアで生成したもの、スタンプ等は無効とされます。最も重大なのは、署名が無効と判断された場合、USCISは補正(Cure)の機会を与えず、受理後であっても不許可(Denial)又は受理拒否(Rejection)とし得るとされている点です。

在宅勤務や出張中でプリンタが手元にない方は、手書きの署名を撮影した画像をPDFに貼り付けて返送しがちですが、これはまさに無効とされる典型例です。優先日の確保、21歳到達前の申請、在留期限内の延長申請など、期限が問題となる申請で署名の不備により不許可とされれば、後から取り返しがつきません。日系企業の人事ご担当者や日本本社の役員がForm I-129等に署名される場合も同様です。署名は必ず原本に直接手書きし、それをスキャン又は撮影してお送りいただくか、原本を郵送していただくようお願いいたします。

6 雇用終了後の60日猶予期間の廃止案とB-2への資格変更の厳格化

国土安全保障省(DHS)は2026年9月11日、E-1、E-2、E-3、H-1B、H-1B1、L-1、O-1及びTNの各資格について、雇用終了後最長60日間の裁量的猶予期間を定める8 CFR 214.1(l)(2)を削除する規則案(NPRM、91 FR 57807)を公示しました。現行制度では、雇用が終了しても最長60日間は就労していないことのみを理由に資格違反とされず、その間に新雇用主によるForm I-129の提出、Form I-539による資格変更、Form I-485の提出等を行うことができます。規則案が実現すると、雇用が終了した翌日から資格を喪失し、ご家族を含めて直ちに出国を求められることになります。資格を失った方は移民法第237条(a)(1)(C)(i)(8 U.S.C. §1227(a)(1)(C)(i))により退去強制の対象となり得ます。

日系企業の駐在員家庭にとって、帰任や解雇に伴う転居、住宅の賃貸借契約の解除、お子様の学期途中の転校を「直ちに」行うことは現実的ではありません。規則案はこうした不利益を認めつつも、それは規則ではなく資格喪失に伴う出国義務に起因するものだとして退けています。加えてUSCISは、2026年3月31日、雇用終了後の求職活動をB-1/B-2の許容活動とする従前のガイダンス(Options for Nonimmigrant Workers Following Termination of Employment)をアーカイブ化しており、以後、H-1B等からB-2へ資格変更して次の職を探すという方法には、証拠提出要求(RFE)や不許可予告通知(NOID)、不許可が相次いでいます。二つの動きが重なると、雇用終了時に米国内で「つなぐ」手段はほとんどなくなります。

意見公募の期限は11月10日です(Docket No. USCIS-2026-0364)。現時点で60日の猶予期間は有効ですが、企業としては、解雇・雇止め・帰任の通知日と最終勤務日の設定が従業員とご家族の在留資格に直結することを踏まえ、「辞めてから次を探す」のではなく「辞める前に次の申請を出しておく」という段取りを前倒しで検討しておく必要があります。

7 H-1B——10万ドルの入国制限の延長と「解雇」の審査要素化

9月18日、大統領は、2025年の布告第10973号を延長する布告第11069号(91 FR 60497)に署名しました。これにより、10万ドルの支払いを伴わないH-1B労働者の入国制限が、2026年9月21日午前0時1分(東部夏時間)から12か月間、すなわち2027年9月21日まで延長されました。制限の対象は、申請の承認後に領事通知や入国港での手続を経て入国しなければならない方、つまり日本から新たに人材を呼び寄せるケースであり、米国内でF-1(OPT)等から資格変更する方は対象外です。また布告は、米国外にいる労働者についての申請で10万ドルの支払いを伴わないものは「決定を制限する」とDHSに命じています。地方裁判所が同手数料を違法とし、第1巡回区控訴裁判所も政府の執行停止申立てを退けている(State of California v. Mullin)にもかかわらず、支払いのない申請は事実上審理されない状態が続くと見るべきです。国益例外(National Interest Exception)は、個人、特定企業の全労働者又は特定業界の全労働者について認められ得るとされています。

なお、布告自身が、2025年布告の発効以来10万ドルの支払いがなされたのは「700件超」にとどまると明記しています。8月に公示されたキャップ対象の新規申請に103,265ドルを課す規則案は、なお年間8万5,000件が承認され88億ドルの歳入が見込まれるとしており、その前提との整合性が問われるところです(同規則案の意見公募は9月24日に終了しました)。

同日付の大統領令(91 FR 60501)は、H-1Bに関する労働条件申請(LCA)、申請、査証及び入国の審査において、雇用主が直接又は間接に、過去1年以内に同様の立場にある米国人労働者の解雇(Layoff)を行ったか又は将来の解雇を計画しているかを考慮するよう命じ、労働省に対しては過去に提出されたLCAの精査を指示しました。解雇があったことのみを理由に申請を不許可とする明文の法的根拠はありませんが、実務上は延長申請を含め、解雇の有無と、解雇された職種とH-1B従業員の職種が「同様の立場」に当たらないことの説明を求められる場面が増えると思われます。米国子会社で人員削減を行った日系企業は、H-1B申請の時期と立証資料の準備について、事前に弁護士と協議されることをお勧めします。

8 「在留資格」「認められた滞在」「不法滞在」の違い

米国移民弁護士協会(AILA)が、依頼者向けに三つの概念の違いを平易に説明した資料を公表しました。「在留資格(Lawful Status)」とは、F-1やH-1Bのように特定の目的のために一定期間滞在する許可を有している状態であり、I-94により証明されます。「認められた滞在(Period of Authorized Stay)」とは、在留資格が満了した後でも法律上滞在が認められる状態をいい、I-94の満了前に延長又は資格変更を申請し、審査を待っている場合や、永住権申請が係属中の場合がこれに当たります。この間は原則として「不法滞在(Unlawful Presence)」は累積しません。不法滞在が180日を超えると3年間、1年以上に及ぶと10年間、出国後の再入国が禁止され得ます(移民法第212条(a)(9)(B))。

注意していただきたいのは、同資料が「近時、ICEは認められた滞在にある者を、就労許可を持つ者も含めて逮捕している。これは政府の新しい運用である」と明記している点です。「申請中だから大丈夫」という従来の理解は、不法滞在の累積の問題としては正しくても、執行の対象にならないことまでを意味するものではありません。延長・資格変更の申請中の方、永住権申請中の方は、受理通知(I-797)、EAD等を常に携行し、国内線での移動を含め、慎重に行動していただきたいと思います。

9 その他の留意点

(1)期限計算における「日」の定義の変更 USCISは政策通達PA-2026-15により、10月23日以降、「21歳の誕生日まで」のように日数で定められていない期限については、末日が土日・連邦祝日に当たっても翌営業日への繰延べを認めない従前の扱いに戻します(2023年のPA-2023-10の撤回、Monsalvo Velasquez v. Bondi, 604 U.S. 712 (2025)を根拠とする)。例えば21歳の誕生日が土曜日であれば、金曜日までにUSCISに到達していなければなりません。お子様のエイジアウト(Age-out)が問題となる申請では、誕生日の曜日を確認のうえ、前倒しで提出してください。

(2)出産目的渡航の幇助者に対するビザ制限 国務省は9月23日、移民法第212条(a)(3)(C)(8 U.S.C. §1182(a)(3)(C))に基づき、出産目的渡航(Birth Tourism)を組織・斡旋する事業者、渡航目的の虚偽申告を指南するブローカー、これに関与する外国の医療提供者等に対するビザ制限を発表しました。具体的な実施方法は公表されていません。一般の妊娠中の渡航者を直接の対象とするものではありませんが、8月の大統領令と併せ、領事審査や入国審査の厳格化は避けられません。妊娠中に渡米される方は、渡航目的及び費用負担について一貫した説明ができるよう準備しておくことをお勧めします。

(3)国務省の情報公開(FOIA)規則の改正 国務省は9月21日付の最終規則(91 FR 59698)により22 CFR Part 171を改正し、10月21日から施行します。請求は原則としてFOIA.gov又は国務省のFOIAウェブサイトからの電子提出のみとなり、代理人が査証記録を請求する場合には、本人が偽証罪の制裁の下で署名した開示同意の陳述書(28 U.S.C. §1746、DS-4240-C等)が必要となります。他の連邦機関の様式は受け付けられません。過去の査証面接の記録等を取り寄せる必要がある方は、新しい手続に沿って準備してください。

(4)各種様式の改訂の意見公募 USCISは9月14日、Form I-751(条件付永住権の条件解除)の改訂について意見公募を開始し(締切10月14日)、Form I-601(入国禁止事由の免除申請)、Form I-601A(暫定的不法滞在免除)及びForm I-360(特別移民等)についても11月13日まで意見を受け付けています。改訂の内容は官報の告示からは明らかでなく、新版の施行時に移行期間が設けられない可能性もありますので、該当する申請を予定されている方は早めの準備をお勧めします。

(5)サンフランシスコ移民裁判所の閉鎖 報道によれば、サンフランシスコの移民裁判所は、判事の解任及び退職が相次いだことを受けて9月初めに正式に閉鎖され、係属案件の大半はコンコードの移民裁判所に移管されました。ベイエリアにお住まいで退去強制手続に係る方は、出頭場所と期日の通知を必ず確認してください。

以上のとおり、新年度は「止まった規則」と「動き出した規則」が混在する状態で始まりました。訴訟の帰趨や事前告知のない様式変更によって、状況は短期間で変わり得ます。申請や渡航の前には、必ず最新の状況を弁護士に確認していただきたいと思います。また新たな動きがありましたら共有してまいります。

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本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年9月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。本記事で取り上げた制度のうち、D/S廃止規則については訴訟が係属中であり、裁判所の判断により施行が停止される可能性があります。また103,265ドルの手数料は規則案の段階であり、現時点で効力を有しません。

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