訴えを起こされる(1)_1546

法律ノート 第1546回 弁護士 鈴木淳司
Oct 17, 2026

司法試験に受かっていないのに「ローヤー(Lawyer)」を名乗っていたホワイトハウスの報道官が、就任から1週間も経たずに職を退きました。日本ではローヤーというと弁護士に聞こえるかもしれませんが、英語では法律を学んだ人を広く指す使い方もあり、ご本人もその意味だったと弁明しています。資格をもつ弁護士は「アトーニー・アット・ロー(Attorney at Law)」というのが感覚的には合っているかもしれません。

もっとも、カリフォルニア州では、州弁護士会の現役会員でない者が法律業務を行う資格があるかのように称すること自体が、ビジネス・職業法典6126条により軽罪(Misdemeanor)とされていますから、言葉の選び方には注意が要ります。

そもそも法律の学校を出て弁護士にならずに活躍している人は世の中にはたくさんいるわけで、無理して弁護士と言わなくても良いのにと思うのですが。弁護士になっても仕事がうまくいかない人はたくさんいますし、私が見ていると、常識に欠けている弁護士もいます。今回は、その常識がない弁護士のお話です。


さて、今回は皆さんからいただいている質問にお答えするのを一旦休ませていただいて、最近私が関わった事件で感じたことを考えてみます。

アメリカには、障害をもつ人を手厚く保護する連邦法として「障害をもつアメリカ人法(Americans with Disabilities Act・ADA)」があります。その第3編(Title III)は、レストランや小売店などの公共施設(Place of Public Accommodation)に対し、障害者にも健常者と同等のサービスを提供することを求めています(合衆国法典42編12182条)。この法律を逆手に取って訴訟を提起することが、ある意味流行っていて、私のところにも今まで何件も弁護の相談が来ました。

実は、ADA第3編に基づいて私人が求められるのは差止め(Injunctive Relief)と弁護士費用だけで、損害賠償は認められていません(同編12188条(a)(1)、12205条)。お金の請求を可能にしているのはカリフォルニア州法です。ウンルー公民権法(Unruh Civil Rights Act・民法51条)はADA違反をそのまま同法違反とし(同条(f))、違反1件ごとに最低4000ドルの法定損害賠償(Statutory Damages)と弁護士費用を認めています(民法52条(a))。そこで、請求額はほどほどにしながら訴訟を提起し、こじれる前に和解してそれなりの金額を得る、ということが頻発しました。10年ほど前には、交通事故で車椅子生活となった弁護士自身が原告となり、レストランやワイナリーに入れないというクレームを作り出しては、数千件もの訴訟を提起していました。もちろん障害者保護は重要な課題であり、できるだけ多くの人が平等にサービスを受けられることは、社会としても望ましいことです。

一方で、この法律をお題目に次々と訴えられては、商売をしている側もたまったものではありません。施設側は私費で弁護士費用を払わなければならず、泣く泣く和解金を払う事例が跡を絶ちませんでした。私もレストランやワイナリーの弁護で大変だったことを覚えています。

2021年には、サンフランシスコのチャイナタウンの小さな店が一軒一軒、同じ原告から次々と訴えられ、社会問題になりました。翌年、サンフランシスコとロサンゼルスの地区検事(District Attorney)が原告側の法律事務所を不正競争防止法(Unfair Competition Law)違反で提訴しましたが、裁判所は、訴訟行為は訴訟特権(Litigation Privilege・民法47条(b))で保護されるとしてこれを退けました。形式上は正当な訴訟である以上、行政も抑えきれなかったわけです。

この数年、新たな手口での請求が増えて来ています。まずは南カリフォルニアで社会問題になりました。

ADAの条文にウェブサイトの明文規定はありませんが、第9巡回区連邦控訴裁判所は、実店舗と結びつき(Nexus)のあるウェブサイトにもADAが及ぶと判断し(ロブレス対ドミノ・ピザ事件、2019年)、州控訴裁判所も、画面読み上げソフトに対応していないレストランのウェブサイトをウンルー法違反と認めました(サーストン対ミッドベール事件、同年)。実店舗のある飲食店であれば、目の不自由な人でもメニューの閲覧などができる状態にしておかなければならない、ということです。州が乱訴対策として設けた、損害賠償額の算定を来店の機会ごとに限る規定(民法55・56条)や、高頻度訴訟人(High-Frequency Litigant)に対する訴状の記載要件の加重(民事訴訟法425・50条、425・55条)は、建物の設備に関する請求のみが対象で、ウェブサイトの不備には及ばないのです。この隙間を突いて、盲目の原告を立てた訴訟が乱立し、現在も続いています。

そして、この原告と原告を担ぐ弁護士が、ベイエリアのレストランをターゲットにしてきました。私のクライアントも訴えられました。老夫婦が営むレストランで、ウェブサイトはあるものの、頼んで作ってもらっただけの、ちゃんとオーダーも取れないようなサイトでした。オーナー夫妻は以前にも私に相談したことがあり、相談しやすかったのでしょう。状況を把握すると、急ぎ対応しなければならない状態でした。訴状の送達(Service of Process)を受けてから30日以内に答弁書(Answer)を出さなければならないところ(民事訴訟法412・20条(a)(3))、英語が不自由でよく分からないまま放置し、欠席(Default)を経て欠席判決(Default Judgment)を取られていたのです。このままでは、執行令状(Writ of Execution)による銀行口座の差押えなど、強制執行(Enforcement of Judgment)に進んでしまいます。私は受任に少し憂慮があったのですが、誰かが助けなければと思い、すぐに錯誤・不注意・弁解しうる懈怠(Mistake, Inadvertence, Surprise or Excusable Neglect)を理由とする欠席判決の取消しを申し立て(民事訴訟法473条(b))、結局、認められました。この申立ては判決後6か月以内という期限があり、答弁書の案を添えて行わなければなりません。ですので判決は免れたものの、今度は本案で戦っていかなければなりません。欠席判決を取り消させても、マイナスからゼロに戻しただけで、土俵での戦いはこれからなわけです。ここから次回続けて考えさせてください。


10月も半ばを過ぎ、朝晩はめっきり冷え込むようになりました。体調に気をつけて、また1週間がんばっていきましょうね。

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作成者: jinkencom

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