2025年9月19日発令 H-1Bビザに関する大統領令

Washington DC Capitol of the United States

じんけんニュース号外 弁護士 鈴木淳司

金曜日だった、2025年9月19日に突然、まったく何の前触れなしに、H-1Bビザ発給についてかなりの締付となる大統領令が発令されました。

オンラインの翻訳記事では、「布告」という単語を使っていますが、明治時代に「布告」は廃止され「法律」か「命令」のどちらかに法律用語ではなりましたので、ここでは大統領令の発令ということで統一します。

2025年9月19日発令 H-1Bビザに関する大統領令

 今回は、皆さんからいただいている質問にお答えするのを一回休ませていただき、日本人だけではなく、多くの外国人学生でこれから職をアメリカ国内で探すことを考えられている方々に多大な影響をもたらす可能性がある大統領令ですので、この法律ノートを書いている時点(2025年9月21日)でわかっている内容をご紹介したいと思います。
現状では、大統領令と、一つ補足となる政府からの通達がでているだけですので、まずはその内容を正確に把握したいと思います。

アメリカでの就業の要、H-1Bビザ

 H-1Bビザは、毎年度発給数が決められているビザであり、いわゆる「専門職」ビザと呼ばれるものです。

以前から、アメリカに留学してきた外国人学生が、卒業の際に自国に戻らず、アメリカで就職したいと思った場合に利用するビザとして使用されてきました。

学生ビザであるFビザから、H-1Bビザで就職し、就職している間に永住権を申請する、という就労系では王道の永住権取得方法でした。
多くの学生は、この道を通って永住権を取得していくというのがパターンになっていました。

したがって、アメリカン・ドリームを夢みる学生には、H-1Bビザはなくてはならない就労ビザでありました。

雇用企業のメリットと課題

企業側も、特に2000年代以降は、エンジニアやIT関係などの分野において、不足している人材を採るのにH-1Bビザを利用していました。

一時期は、H-1Bビザの年度発給数を上げるような措置もしていて、特に多くの中国人・インド人学生がIT分野でアメリカでの就職を目指していました。

一方で、H-1Bビザの申請を濫用する事例も多くでてきて、申請内容とは別の就労を実際にさせたり、傀儡的な企業を使って、別の用途にビザを利用したりする事例もありました。

最近ではH-1Bは応募人数が発給枠を大きく超えてしまったことから、何度も同時に抽選に応募したりする潜脱事例が表面化するなど問題も多く発生していました。
また、IT系では給与の高い外国人が多いことから、アメリカ国民の利益が害されるという意見も出てきていました。

この度の大統領令の理由

 アメリカ連邦政府が今回の大統領令を発令する理由として挙げているのは、以下のようなものがあります。

(1)実際、低賃金で低技能な労働者によってアメリカ人労働者を置き換えるために意図的に悪用されてきた

(2)この制度の組織的な悪用を通じたアメリカ人労働者の大規模な置き換えは、我々の経済と国家安全保障の両方を損なってきた

(3)米国内の外国人STEM労働者の数は、2000年から2019年の間に120万人から約250万人へと2倍以上に増加した一方、同期間中のSTEM全体の雇用増加はわずか44.5%であった。
コンピューターおよび数学関連の職務では、外国人労働者の割合が2000年の17.7%から2019年には26.1%に増加した。
そして、この外国人STEM労働者の流入の主要な促進要因は、H-1Bビザの悪用であった。

(4)特に情報技術(IT)企業は、H-1B制度を顕著に操作し、コンピューター関連分野のアメリカ人労働者に著しい損害を与えてきた

といったものが主なものになっています。

政府の主張として捉えた場合、これらすべてが正しいかは別として、このような構えで今回の大統領令がでているわけです。

メインターゲットはIT企業だが…

特にIT企業につき、現政府は納得がいっていないようで、「会計年度(FY)2003年におけるH-1Bプログラム内のIT労働者の割合は32%であったが、過去5会計年度では平均65%を超えている。
さらに、H-1Bを最も多用する雇用主の一部は、今や一貫してITアウトソーシング企業となっている。」といっています。

すなわち、低賃金の外国人労働力が、派遣としてアメリカの市場に入ってきて、アメリカ人の雇用を奪っているという主張が目立ちます。
この政府発表の大統領には、多く名指しで、コンピュータ工学、IT系の就職において、アメリカ人の雇用が害されるということで、IT企業がやり玉になっています。

とにかく、IT系の仕事において、H-1Bビザで働く外国人にアメリカ人の労働者が不利益を被っているというのが、主な今回の大統領令につながっていることは間違いないようです。
大手のIT企業では、2009年から2025年の間に1万人もの外国人をH-1Bで雇っている企業もあります。

いろいろな理由がありますが、アメリカ人の雇用に「有害である」という理由になっています。
H-1Bの対象になる、会計や法律などの、伝統的な専門分野も煽りを食らうことにはなり得ます。

大統領令は議会承認不要で即時発効

そして、重要なポイントは、今回の大統領令は、法律そのものの変更を必要としないため、議会の承認は不要であると現政権が判断していることです。
大統領令の機動力を活かせる範囲で行政を変更しようとしています。
否「しようとしている」のではなく、2025年9月21日から発効するということになっています。
この原稿を書いている数時間後ということになります。

H-1bビザ申請の具体的な変更内容

まず、今回の大統領令で書かれている内容についてまとめましょう。大統領令で書かれていることに絞ってまとめます。

1.H-1Bビザの申請は2025年9月21日午前0時東部時間(「発効日」)から、10万ドル(約1,500万円)を費用として申請に添えなくてはならない。

2.この10万ドルの追加費用については、発効日より12ヶ月間有効とする。

3.移民局(国土安全保障長官)は、発効日から12ヶ月間の期間において、10万ドルの支払いがない申請については裁量によって判断できる。

4.2026年10月1日前に雇用開始日が設定されている移民局の許可については、すでに申請がなされている場合にはガイダンスを移民局が明示し、移民局の裁量によって判断できる。

5.【ここが重要ですが】 上記の1ないし4の規制は、外国人の雇用が国益に反しておらず、米国の安全や福祉に脅威を与えないと裁量で判断した場合、適用されない。

以上の5つのポイントが主な実質的な内容です。

ただ、どのように実務で反映されているのかは、大統領令だけではまったくわかりません。
色々な記事は出ていますが、大統領令そのものは、ここまでしかクリアーにはなっていないことになります。

10万ドルルールの適用対象

2025年9月20日になって、ジョセフ・B・エドロウ米国市民権・移民業務局(USCIS)長官からこの大統領令に関して補足されています。

「2025年9月21日午前12時01分(米国東部時間)以降に提出された雇用に基づくH-1Bビザ申請」にこの大統領令は適用されることを明らかにしています。
つまり、未だに提出されていないH-1Bビザ申請に適用されるということになります。

したがって、
• 本大統領令の発効日より前に提出された申請
• 現在承認済みのビザ
• 有効に発給されたH-1B非移民ビザを所持している者

には、適用されないことになります。

よって、現時点でビザの申請を完了されて、受領通知を移民局から受けている場合、すでにビザを持っている場合、などには適用されず、発効日以降に申請をする場合に適用されるということは明らかになりました。

そうすると、今からH-1Bビザを申請する外国人に対しては、この大統領令が適用されるということになります。

現場で考えられる課題

ここからは、大統領令では明示されていませんが、重要な論点について考えてみます。

 明示されてはいませんが、上記の政府からの発表をみると、すでにアメリカ国内に滞在しているH-1Bビザ保持者には直接影響しないと思います。

一方で、大統領令が有効な期間に米国外に出国し、H-1B資格で再入国を試みる者に関する記述はありません。
ですので、現状において扱いは不透明となっています。

また、明示されていませんが、米国内での手続について、受益者が適法なH-1B資格を維持している限り、米国内での滞在延長(雇用主変更、在留資格変更、修正申請を含む)は、本大統領令では記載されていないので、今回の10万ドルの追加費用から適用が除外されることになりそうですが、明確には決まっていません。

さらにBビザを使ってアメリカに入国し、アメリカ国内でH-1Bビザにステータス変更をするという外国人もいますが、このパターンの対応については、後日細かくルールが提示されるということですので、規制の対象となりそうです。

現状法律的にわかっているのは、上記ですべてです。

H-1b保持者が現時点で取り得る対応策

既にIT企業が色々な施策を打ち出しているようですが、できるだけ不利益が生じないように先回りして動いているように見えます。

私が現状だけを踏まえて言えるのは、

(1)アメリカ国内でH-1Bビザで働いている人たちは、詳細がわかるまでアメリカを出ない

(2)現在H-1Bビザを所持していて、アメリカ国外にいる人達については、すぐにアメリカに戻って、アメリカ国内の滞在を継続する

(3)新規のH-1Bビザ申請については、上記大統領令のまとめ5にあるように例外規定もあることから、しばらく申請をしない

ということになると思います。

ここまでがH-1Bビザの突然の大統領令のまとめです。

寄付で永住権取得「ゴールドカード」の新制度

同日にまた、新しく「ゴールドカード」という永住権をお金で買える制度を現政権は発表しました。

なんでも政府高官によると、今までの永住権取得過程では、外国人でも低レベルの人たちばかり入国してきて、優秀で資金力のある外国人たちが入って来なかったのでこの制度を作ったそうです。

同日の大統領令によると「ゴールドカードは、商務長官が監督するビザプログラムであり、国に自発的に多額の金銭的寄付を行うことによって、米国の利益を促進する能力と意欲を実証した外国人の入国を促進するものである。」とされています。

大統領令によると、必要な寄付額は、個人が自身のために寄付する場合は100万ドル、企業または同様の団体が個人に代わって寄付する場合は200万ドルとするそうです。

詳細は発表されていませんが、今後、商務長官、国務長官、および国土安全保障長官は、発効日より90日以内に、ゴールドカードプログラムを実施するために必要なすべての適切な措置を講じるものとしています。
寄付をすればグリーンカードが取得できる制度を作ろうとしているそうです。

今後の政府発表を注視

まあ、私が言いたいことは山程ありますが、法律家なので、とにかく法律に関してどのような動きが現在あるのか、を上記ご紹介しました。

気を取り直して、また次回新しく皆さんからいただいている質問を考えていきましょう。

ビザに関しては、今後H-1Bビザだけではなく、あらゆる就労ビザにも締め付けが発生してくると思われますし、その発生が予見不能な状況です。
できるだけ、最新の動きについては、法律ノートまたはじんけんニュースでカバーしていきたいと思います。

ご相談は i@jinken.com までお気軽に。


あなたがずっと抱いている疑問を解消しませんか?
しかし、アメリカの法律事務所はハードルが高い!!確かに。

JINKEN.COMでは、アメリカの弁護士事務所への橋渡しのサービスを提供しています。
お客様の状況とニーズ、ご希望を聞き取り、必要な書類等をまとめる お手伝いです。
私たちは、ジャッジ(評価・判断)をいたしません。
皆さんの頭の中、お気持ちを、できるだけ正確に表現する業務を行います。
ご料金は事前に明確にご提示し、追加のご請求は一切ございません。
i@jinken.com または こちらから直接お問い合せください

■関連記事

米国ビザ保有者5,500万人取り締まり強化

就業規則の必要性@カリフォルニア(1)_1486

運営弁護士

アメリカ暮らしを現実に。
JINKEN.COMにアカウント登録して最新のアメリカ移民法にキャッチアップ

■アメリカの永住権を抽選で取得ーDiversity Immigrant Visa Program

アメリカの永住権を抽選で取得する制度があるのをご存知ですか?
日本からも、毎年永住権者として長期合法滞在する方々がいらっしゃいます。

応募サポート希望の方はこちらから

日本出生の方は、高校卒業時点からご応募ができます!当選後も安心のサポート。まずは正しい応募から。

■グリーンカードDV当選後サポート

グリーンカードDV抽選に応募して、当選の確認を忘れていませんか?当選は、忘れた頃にやってきます!

グリーンカード当選後サポートはこちらから

充実した当選後サポートで、安心してグリーンカード取得まで進めましょう。家族・仕事・結婚・離婚・海外在住・介護に闘病と場面は様々ですが、お客様のニーズに柔軟にお応えしています。