海外の不動産を相続か売却、最善策は?(3)_1504

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1504回 弁護士 鈴木淳司
Dec 21, 2025

今年になって、いきなり米国の関税問題がもちあがり、米国内でのインフレが止まりませんでした。
クリスマスのイルミネーションが街を彩る季節となりましたが、なんと今年はプラスチックでできたイミテーションツリーがかなり値上がりしている一方、生の木の値段は昨年と変わらないそうです。
皮肉なものですね。
来週はもうクリスマスですが、体調を崩す人が顕著に多くなっています。
人の集まりも多くなりますので、注意したいところではあります。


さて前回、日本にお住まいの親御さんがアメリカに持つ土地を「生前売却」するメリットについてお話ししましたが、前回の記事を読まれたのか、今回は少し異なる角度からのご相談をいただきました。
続けて取り上げて皆さんと考えていきましょう。

「現在ラスベガスに家を所有していますが、高齢になってきたため、自分の死後は今そこに住んで管理をしてくれている会社の職員の方に譲り渡したいと考えています。どのような手続きが必要でしょうか」という内容です。

長年ご自身の財産を支えてくれた方に報いたいというお気持ち、非常に素晴らしいことだと思います。

一方で、アメリカ、特にネバダ州(ラスベガス)における不動産の譲渡には、事前の法的準備が不可欠です。
何も対策をせずに亡くなってしまうと、前回も触れた「プロベート(裁判所による遺産管理手続き)」という、時間も費用もかかる非常に煩雑なプロセスに巻き込まれることになります。

では、「特定の個人への不動産譲渡」をスムーズに行うためには、どのような方法が考えられるでしょうか。

最も一般的な方法は遺言書に記載することです。

しかし、前回も述べた通り、遺言執行の際には裁判所が介入するプロベートを避けることができません。

ネバダ州でもプロベートには通常数ヶ月から数年以上かかることがあり、その間、受取人である職員の方は法的な所有権を得られず、手続きのための弁護士費用なども発生します。
したがって、ベストな選択肢とは言えないかもしれません。

次に、カリフォルニア州やネバダ州など、アメリカの不動産相続において最も推奨されるのが、「リビング・トラスト」です。

設定の方法としては、ご自身を受託者(Trustee)、職員の方を「二次受託者」または「死亡時の受領者」として信託を設定します。

最大の利点は、プロベートを完全に回避できる点です。

お亡くなりになった後、裁判所を通さずに、速やかに所有権を職員の方へ移転させる手続きが可能です。

また、生前はご自身が自由にコントロールできるため、安心感もあります。

3つ目ですが、ネバダ州には、不動産登記において「自分が死んだらこの人に所有権を移す」という指定をあらかじめ登記しておく「TOD Deed」という制度があるようです。

私はネバダ州の弁護士ではないので、詳しくはネバダ州弁護士に問い合わせをしていただく必要があります。

このTOD Deedを作成するメリットとしては、トラストを作成するよりも安価で簡便であることです。

生前は所有権を100%保持し、亡くなった瞬間に指定した受取人(職員の方)に権利が移るという設定が可能です。

ネバダ州法に基づいた決められた書式と登記が必要ですし、たとえば、住宅ローンが残っている場合や、受取人が先に亡くなった場合の予備条項など、考慮すべき点も多いため、専門家による作成が望ましいと思います。

最後になりますが、税金の観点からも考えておきましょう。

今回の質問者の方が米国籍や永住権をお持ちでない場合、免税額の枠組みが米国居住者とは異なる可能性があります。

たとえ、第三者(親族以外)への譲渡であっても、一定額を超える評価額の資産を譲渡する場合、米国での遺産税(Estate Tax)の対象となる可能性があります。

また、今回いただいた質問からは明らかではなかったのですが、今回のご相談者が日本在住の場合、受取人である職員の方が日本居住者であれば、日本の贈与税や相続税の対象となりえます。

たとえアメリカの物件であっても、日本の税務当局への申告義務が生じる点に注意が必要です。

単に、不動産を譲るという観点だけではなく、税金についても事前に確認しておくことが重要だと思います。

ご自身の会社を支えてくれた職員の方へ「家を譲る」という決断は、非常に大きなギフトです。

その善意が、手続きの不備によって職員の方の負担(高額な弁護士費用や税金)に変わってしまわないよう、お元気なうちに法的整備を整えておくことがベストと言えるでしょう。

いよいよ今年もラストスパートです。
忘年会やパーティーが続く時期ですが、体調を崩されないように、ちゃんと寝る時間も確保してください。
振り返ると、私はとても忙しかったですが、仕事を充実してこなせた年になりました。
皆さんの一年は振り返っていかがだったでしょうか。
また一週間最後まで師走を走り抜けていけるよう、お互いがんばっていきましょうね。

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作成者: jinkencom

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