米国駐在先での違法行為を疑われる—企業調査への対応(3)_1437

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1437回 弁護士 鈴木淳司
Sep 29,2024

ニューヨーク市長が賄賂で逮捕されたということで、記事を読んでいて頭を捻ってしまいました。
まだ、よく内容を理解していないだけかもしれませんが、トルコから供与を受けていたとあります。
単なる50州あるうちの一つ、それも州の中の一つの市の長が外国から賄賂を受け取ったわけです。
その賄賂の見返りに外国であるトルコは何を望んでいたのか不可解です。裏からいうと、ニューヨーク市長というのは、かなり強大な権力を持っているのでしょうかね。
政治と金はよく解らない面があります。

そういえば、日本でもはじめて鳥取県出身の総理大臣が生まれそうですね。

連載第3回:具体的な対応策を考える

さて、前二回考えてきた、「米国駐在から帰国後、会社から違法行為の疑いを指摘された」というご相談を、今回も続けて考えていきましょう。

【ご相談の要約】
IT関係のマネージメントを担当していた米国駐在員が、帰国後に会社から「アメリカで違法行為をした疑いがある」と伝えられました。身に覚えはありません。どう対応すべきでしょうか。

まずは情報収集と証拠保全

まず、会社が主張する「違法行為」の具体的内容について、可能な限り詳細な情報を収集する必要があると思います。

会社がどこまで開示してくれるかは不明ですが、ともかく、以下のような点を確認しておきましょう:

・どのような行為が問題視されているのか
・いつ、どこで発生したとされる行為か
・誰が関与したとされているのか
・会社はどのような証拠を持っているのか

また、できる限り早期に証拠保全を行った方が良いと思います。会社のシステムにアクセスできるうちに、可能な限り以下のような情報を確保しておいてください。

・関連する電子メールのコピー
・業務記録や報告書 ・関係者とのやり取りの記録
・自分の潔白を証明できる資料

特に重要な証拠、特に潔白が示せるような証拠があれば、クラウドに残すだけでなく、ハードコピーや外部ストレージに保存し、会社側が削除できない形で保管すべきです。

ただし、会社の機密情報の不正持ち出しにならないよう、弁護士に相談しながら進めた方が良いでしょう。

会社が主張する「違法行為」の確認方法

会社が主張する「違法行為」の嫌疑について、本当に米国法や州法に本当に違反しているのかを確認する必要があります。

実務上、企業が「違法」と主張するケースには次のようなパターンがあります。

・明確に刑事法違反(横領、詐欺等)
・会社の内部規則違反を「違法」と表現
・グレーゾーンの行為を拡大解釈

会社が具体的な情報を開示しない場合、埒が明かず対応は困難ですが、そのこと自体が会社側の主張が弱いことを示唆している可能性もあります。

適用されるのは米国法-準拠法の確認

米国駐在中の行為については、原則として米国法(連邦法および駐在していた州法)が適用されます。日本の法律で判断すべき問題ではありません。

会社が「どの法律のどの条項に違反したのか」を明確に示してくれれば、対応は比較的容易です。

しかし、実際には以下のような曖昧な主張をされることもあります。

・「現在調査中」として詳細を明かさない
・「事実関係が不明瞭」として情報を出さない
・「コンプライアンス違反の疑い」といった抽象的な表現
・第三者の関与が疑われ開示できない

このような場合、従業員側が不利な立場に置かれやすくなるかもしれません。

安易な供述を回避-情報提供の注意点

そうすると、疑いをかけられている従業員側は、豆腐に釘をさしているような分かりにくい状況に陥ってしまいます。

そんな中で、会社が具体的な疑惑内容を明示しないまま、一方的に「協力せよ」と求めてくる場合があります。このような状況では、安易に情報提供すべきではないかもしれません。

あくまでも一例としてですが、以下の原則を守ってください。

・「何について咎められているのか」が不明確なら、詳細な情報提供は避ける
・会社のペースに流されて、不利な発言をしない
・弁護士同席なしでの面談には応じない姿勢を示す

この局面では「協力的な態度」と「自己防衛」のバランスが重要になります。

ここで、刑事事件と民事事件の違いを理解しておく必要があります。

刑事事件か民事事件か-性質の見極め

仮に刑事事件になるような内容であれば、すでに会社側はアメリカの警察等に連絡をしている可能性はあります。

そうではなく、会社が単に「情報を聞き取りたい」という段階であれば、刑事事件ではなく民事上の責任追及(損害賠償請求等)を検討している可能性があります。

民事の場合、会社側が「あなたの行為で会社がどのような損害を被ったか」を立証する責任があります。会社がはっきりと具体的な損害を示さないのであれば、従業員側も安易にするのは避けたほうが良いと思います。

米国現地の弁護士への相談が不可欠な理由

身に覚えがないのであれば、米国法に精通した弁護士を代理人として立て、「違法行為は一切ない」という明確な姿勢で対応すべきと思います。

なぜ米国の弁護士が必要かというと、会社は日本で「アメリカでの行為が違法だった」と主張すると思いますが、この問題の準拠法は米国法です。仮に日本で懲戒処分等を受けるなど、何らかの処分がされる場合でも、米国法に基づいて争うことができます。

また、米国と日本では以下のような背景が大きく異なります。
・適用される法律体系
・従業員の権利保護の範囲
・証拠法則や手続き
・懲戒処分の有効要件

これらの点を踏まえると、日本の弁護士だけでは対応が困難なケースが多いため、駐在していた州に詳しい現地の弁護士への相談が不可欠と思います。

今回は、具体的な内容に立ち入ることは避け抽象的に回答しましたが、アメリカでの違法行為の疑いをかけられた際の基本的な対応方針をご紹介しました。

・早期の証拠保全
・会社への安易な情報提供は避ける
・米国法に基づく違法性の確認
・米国弁護士への早期相談 等

ご自身が何も違法行為をしていないと確信されているのであれば、これらの原則を守りながら、慎重かつ戦略的に対応してみてはいかがでしょうか。

また、次回新しくいただいている質問を考えて行きましょう。

ずいぶんベイエリアも秋になってきました。

いろいろ行事も多いですが、秋の味覚を楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。


関連する米国法律リソース

本記事で扱った企業調査・刑事民事の違い・従業員の権利について、以下の公式サイトで詳細情報をご確認いただけます:

連邦政府機関

  • 米国労働省(Department of Labor): https://www.dol.gov/
    従業員の権利、職場での保護に関する包括的情報
  • 米国司法省(Department of Justice): https://www.justice.gov/
    刑事司法制度、連邦法執行に関する情報
  • 米国裁判所: https://www.uscourts.gov/
    憲法上の権利、刑事手続きに関する教育的リソース

主要州政府機関

  • カリフォルニア州労働委員会: https://www.dir.ca.gov/dlse/
    カリフォルニア州の労働法と従業員の権利
  • ニューヨーク州労働局: https://dol.ny.gov/
    ニューヨーク州の雇用関連法規と労働者保護

法律情報データベース

※ 上記リンクは執筆時点(2024年9月)のものです。最新情報は各サイトで直接ご確認ください。

免責事項

本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2024年9月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。

米国駐在中の違法行為疑惑、企業内部調査、証拠保全、刑事事件と民事事件の違いなどに関する対応は、個々の状況、適用される連邦法・州法、企業の内部規則、労働契約の内容によって大きく異なります。本記事の内容に基づいて行動される場合は、必ず米国法および該当する州法に精通した専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた適切な法的助言を受けてください。

本記事を読まれたことにより、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼人関係が成立するものではありません。本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当事務所および執筆者は、故意または重過失がある場合を除き、責任を負いかねますのでご了承ください。


あなたがずっと抱いている疑問を解消しませんか?
しかし、アメリカの法律事務所はハードルが高い!!確かに。

JINKEN.COMでは、アメリカの弁護士事務所への橋渡しのサービスを提供しています。
お客様の状況とニーズ、ご希望を聞き取り、必要な書類等をまとめる お手伝いです。
私たちは、ジャッジをいたしません。
皆さんの頭の中、お気持ちを、できるだけ正確に表現する業務を行います。
ご料金は事前に明確にご提示し、追加のご請求は一切ございません。
i@jinken.com または こちらから直接お問い合せください

■関連記事

米国駐在先での違法行為を疑われる—企業調査への対応(1)_1435

米国駐在先での違法行為を疑われる—企業調査への対応(2)_1436

運営弁護士

アメリカ暮らしを現実に。
JINKEN.COMにアカウント登録して最新のアメリカ移民法にキャッチアップ

■アメリカの永住権を抽選で取得ーDiversity Immigrant Visa Program

アメリカの永住権を抽選で取得する制度があるのをご存知ですか?
日本からも、毎年永住権者として長期合法滞在する方々がいらっしゃいます。

応募サポート希望の方はこちらから

日本出生の方は、高校卒業時点からご応募ができます!当選後も安心のサポート。まずは正しい応募から。

■グリーンカードDV当選後サポート

グリーンカードDV抽選に応募して、当選の確認を忘れていませんか?当選は、忘れた頃にやってきます!

グリーンカード当選後サポートはこちらから

充実した当選後サポートで、安心してグリーンカード取得まで進めましょう。家族・仕事・結婚・離婚・海外在住・介護に闘病と場面は様々ですが、お客様のニーズに柔軟にお応えしています。

作成者: jinkencom

jinkencom について JINKEN.COMの運営者であり、カリフォルニア州弁護士として活躍中の鈴木淳司弁護士のブログです。「移民法ブログ」では米国の移民分野についてホットな話題を取り上げて月に一度更新、「アメリカ法律ノート」は広くアメリカの法律相談に答える形で、原則毎週更新しています。なお、本ブログの著作権は著者に帰属します。 *たびたび法制度が変わりますので、最新情報をご確認の上、手続きされてください。