アファーマティブ・アクションとは(2)_1496

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1496回 弁護士 鈴木淳司
Oct 25, 2025

何をどうやったのかわかりませんが、連邦の保安隊をサンフランシスコに派遣するということになっていた事態に関し、現政権がこの数日間に派遣を撤回したというニュースが話題になっていました。
ロサンゼルスやオレゴンではかなりのニュースになっていた連邦保安隊の派遣ですが、サンフランシスコでは一時停止のようです。
なんでも、サンフランシスコの犯罪がかなり減っているということが理由のようですが、結構小さい犯罪は減っていないように思います。
連邦政府が入ってくるかどうかは置いておいて、犯罪を減らすための保安強化という側面ではもう少し、サンフランシスコ警察の行動もなんとかしたほうがよいのかなぁ、と私見を持っています。

アファーマティブ・アクションとは(2)_1496

さて前回から考えてきた「日本でアメリカ人男性と結婚し、その後カリフォルニアに移住して20年ほど暮らしています。私達には一人息子がおりまして、来年には大学に進学したいと本人も願っています。できればカリフォルニアにいてもらいたいと両親は願っていますが、色々な考えを息子はもっています。大学進学について興味を持って私自身も親として調べていたところ、大学入学の際のアファーマティブ・アクションが撤廃されている、といった記事を多くみかけます。アファーマティブ・アクションというのは、一般的に差別等の歴史があることから、人種が絡んでいる政策ということは理解しているのですが、一方でこの撤廃というのが、どのように私の息子の大学進学に影響するのか漠然としかわかりません。どのように法律が変わって現在に至るのか、私が理解できるように取り上げていただけないでしょうか」という質問を今回続けて考えていきたいと思います。

前回は、公民権運動の法律に関する歴史について考えました。
今回はアファーマティブ・アクションについて考えていきましょう。
前回同様、今回もできるだけ客観的に考えるようにします。

さて、前回考えた公民権法と投票権法の成立により、法律上の差別(dejure discrimination)は終わったことになりました。

日本人なら良くわかりますが、本音と建前は違うのが現実です。

様々な分野で、経済的、実質的な差別があるという主張がなくなることはありませんでした。

こうした状況に対し、「単に機会の平等を宣言するだけでは不十分だ」という認識が広がり、実質的な平等を達成するために、「より積極的な介入が必要である」という考え方が生まれました。

これが「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」です。

1960年代後半から70年代にかけて、アファーマティブ・アクションは大学の入学選考や企業の採用方針として導入され始めました。

その目的は、これまで歴史的に排除されてきた人種的マイノリティー(アフリカ系、ヒスパニック系、ネイティブアメリカンなど)や女性に対し、意識的に門戸を広げることにありました。

大学は、多様な背景を持つ学生が集まること自体が教育的価値を持つと考え、入学選考において人種を「プラスの要素」の一つとして考慮するようになります。

企業もまた、多様な人材を確保することが組織の活性化や社会的責任につながると考え、採用目標を設定するなどの取り組みを進めました。

この政策は、多くのマイノリティーにこれまで閉ざされていた高等教育や専門職への道を開く上で、一定の成果を上げました。

しかし、その導入当初から、アファーマティブ・アクションは常に激しい論争の的となってきました。

反対派は、この政策が個人の能力や努力ではなく、人種という属性に基づいて人を判断するものであり、新たな不公平を生む「逆差別(reverse discrimination)」であると強く批判しました。

特に、より高いテストの点数を持つ白人やアジア系の志願者が不合格となり、自分より点数の低いマイノリティーの志願者が合格する事例が問題視されるようになりました。

この対立は、その後数十年にわたり、アメリカ社会を二分する深刻な法的・政治的テーマであり続けています。

これは、今でも存在していますが、現政権では影を薄くしていることは事実です。

そして、アファーマティブ・アクション自体が、その正当性を失うという歴史的な転換点が訪れます。

2023年6月、連邦最高裁判所は、「公正な入学選考を求める学生たち(SFFA)」がハーバード大学とノースカロライナ大学を訴えた裁判において、大学の入学選考で人種を考慮することは憲法違反であるとの判決を下しました。

この判決で最高裁は、特定の人種を優遇することは、法の下の平等を保障した憲法修正第14条に反すると明確に判断しました。

ジョン・ロバーツ長官は、「憲法はカラーブラインド(色覚異常=人種を区別しない)でなければならない」とし、学生は人種という集団の一員としてではなく、困難を乗り越えた経験を持つ一人の個人として評価されるべきだと述べました。

この判決は、長年アファーマティブ・アクションを支えてきた法的根拠を覆し、大学におけるマイノリティー保護政策の時代の終わりを告げるものでした。

この最高裁判決の影響は、大学にとどまらず、企業社会にも大きな衝撃を与えています。

これまで積極的に推進されてきたDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の取り組みが、今や「違法な人種差別」であるとして保守派団体から訴訟を起こされるリスクに直面しています。

多くの企業は法的責任を恐れ、DEI部門の予算を削減したり、人種を特定したプログラムを中止したりするなど、取り組みを後退させる動きを見せています。

アメリカ社会は今、大きな岐路に立たされています。

一方には、社会には依然として構造的な差別が存在し、それを是正するためには積極的な介入が必要だとする考え方があります。

もう一方には、いかなる理由であれ個人を人種で判断することは許されず、完全な実力主義と「カラーブラインド」な社会を目指すべきだという考え方があります。

アファーマティブ・アクションという具体的な政策手段が失われた今、人種間の根深い格差という現実にどう向き合い、多様性と実質的な平等をいかにして実現していくのか。

それは、アメリカが建国の理念を未来に向けてどう体現していくのかを問う、極めて重い課題であり、その模索はこれからも続くことになりますね。

ここまで、がんばって昔の判例等を紐解いて色々まとめてみました。

このような流れでアファーマティブ・アクションというのが現状では大学入学時の考査では存在しない、ということになっています。

アメリカでは保守・革新という考えでいろいろな意見が現在飛び交い割れている部分であると思いますが、法律家にとっては、弱者を守るというのが仕事の一つではあります。

政治に振り回されるのではなく、本当に法律家として弱者の保護が必要なのか、という観点で今後もみていきたいと思います。

次回はまた新しい質問を考えていきたいと思います。

もう、ゴルフ場にいっても紅葉していたりして秋だなぁ、と感じたりしたながら空気を楽しんでいます。
これから寒くなりますが、あと数カ月しか今年はありません。
やることがたくさんあってため息がでますが、頑張って走り抜いていきましょうね。


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作成者: jinkencom

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