法律ノート 第1515回 弁護士 鈴木淳司
March 14, 2026
イランの戦争の話題でもちきりですが、ガソリンの値段が異常に値上がって生活にも打撃になっています。
私と同様に、色々皆さんも意見はあると思いますが、戦争の話題は気持ち良いものではありませんね。
これからアメリカはどこに向かっていくのでしょうか。
ご相談|入国審査で1時間以上足止めされた
さて、今回は皆さんからいただいている質問を考えていきたいと思います。
いただいているメールをまとめると、「カリフォルニア州で米国人の夫と二人で住んでいます。私は永住権保持者です。最近、私の姪(日本国籍)が単身アメリカに日本から遊びに来ました。コロナもあったことから、とても久しぶりに遊びに来たのですが、アメリカ入国で1時間以上拘束されたようです。私どもも迎えに行って、長らく待つことになりました。このようなことが頻繁に起きているのか、対策はないのか教えてください。姪は日本で大学に通う学生です。」というものです。
姪御さんがせっかく日本から訪ねてこられたのに、入国審査で1時間を超える拘束を受けられたとのこと、心中お察しいたします。
質問者の方も心待ちにしていた再会が、不安な待ち時間から始まってしまったのは、心苦しい出来事であったことが質問から察することができます。
アメリカの移民法実務を日々扱っている私の視点から、今週の最新動向と照らし合わせて、この状況が何を意味しているのか、そして今後の対策について整理してお答えいたします。
二次審査(セカンダリー・インスペクション)とは
まず、姪御さんが経験された「1時間以上の拘束」というのは、実務上「セカンダリー・インスペクション(二次審査)」と呼ばれる手続に回されたと思います。
実際に姪御さんにヒアリングしてみないと何とも言えませんが、通常の入国審査のライン(プライマリー)で入国審査官が入国を試みる人に対して、何らかの疑念を抱いた場合、あるいはシステム上でランダムに抽出された場合に、別室へと案内されます。
2026年現在の入国審査現場では、このような事態は残念ながら「頻繁に起きている」というのが、実務家の共通認識です。
なぜ二次審査が増えているのか|厳格化の背景
なぜこのようなことが頻繁に起きるようになったのか、その背景には、現政権下で進む税関・国境警備局(CBP)をはじめとする国土安全保障省(DHS)の運用方針の変化が深く関わっています。
2026年に入り、アメリカ政府は「国家安全保障」と「不法就労の徹底排除」を旗印に、入国審査のデジタル化と厳格化を同時並行で進めています。
公表された統計を見ても、CBPによる入国時のデバイス検査は2025会計年度に過去最多の55,318件(前年比約18%増)に達しています。実務の現場では、ビザ免除プログラム(ESTA)を用いて入国する若年層の単身旅行者が、より丁寧な質問を受けやすい印象があります。
姪御さんのように「単身」で「久しぶり」に訪米する場合、審査官の頭をよぎるのは「このままアメリカに居着いて不法に働くのではないか」「あるいはSNS等で知り合った人物に会いに来て、そのまま結婚手続きを進めるのではないか」という疑念です。
二次審査では何が調べられるのか
一度セカンダリーに回されると、そこではスマートフォンの中身、具体的にはLINEやSNSのやり取り、写真、銀行口座の残高、さらには帰りの航空券の信憑性まで、徹底的に調べられることがあります。
1時間という時間は、実はセカンダリーの中では決して長い方ではなく、場合によっては3時間から5時間拘束されるケースも散見されます。
そして、最悪の場合には、入国申請の撤回(Withdrawal of Application for Admission)を求められたり、迅速強制送還(Expedited Removal)の対象となる事例もあります。
審査官に疑われやすい3つのポイント
具体的にどのような点が「疑念」の対象となりやすいのか、ここで考えておきましょう。
1.滞在期間と所持金のバランス
二週間の滞在予定に対して所持金が極めて少ない場合、あるいは逆に、観光客としては不自然なほど多額の現金を持っている場合も、不法就労や資金洗浄の観点から疑問視されます。
2.滞在先がホテルではなく親戚や友人の宅である場合
その「滞在先の居住者の身元」までシステムで照会されます。
もし親戚の中に過去にビザトラブルを起こした者がいたり、現在の在留資格が不安定な者がいたりすれば、それだけで「類推によるリスク」と判断され、拘束時間が延びることになります。
3.過去の渡航履歴とAI解析
AIによる入国審査のための「顔認証」と「過去の渡航履歴解析」の精度が飛躍的に向上しています。
姪御さんが「久しぶりに来た」とのことですが、もし過去の滞在で、許可された期間のぎりぎりまで滞在していたり、頻繁に出入国を繰り返していた履歴があったりする場合、システムが自動的に「要注意」のフラグを立てます。
現在のCBPのシステムは、我々が想像する以上に個人の行動パターンをデータベース化しており、審査官の手元には瞬時にそれらのリスクスコアが表示される仕組みになっています。
理不尽な足止めを避ける3つの備え
では、このような事態を防ぐための対策はあるのでしょうか。
以下の三つの視点が重要になります。
1.入国時の「書面による証明」を徹底する
デジタル時代だからこそ、物理的な紙の書類が説得力を持ちます。
具体的には、日本での雇用証明書や在学証明書(英文)、休暇届の写し、さらには十分な日本での資産があることを示す英文の残高証明書などです。
これらは「私には日本に帰るべき強い理由(Strong Ties to Home Country)がある」ということを視覚的に証明する最強の武器になります。
姪御さんの場合も、もし次回お越しになる際は、日本の大学からなんらかの休暇によって一時的にアメリカに家族を訪ねるだけであり、また、大学に就学しに戻る、ということを記載したものを持参されることを強くお勧めします。
取得が難しいかもしれませんが、工夫と調整をして何らかの学校からの証明やレターなどを用意しておくと良いと思います。
2.訪問先であるあなたの情報を明確にしておく
あなたの氏名、住所、電話番号、そしてあなたのアメリカでのステータス(市民権、永住権、あるいはH-1Bなどの就労ビザ)を記した招待状を、姪御さんに持たせてください。
審査官から「誰に会うのか」と聞かれた際、曖昧な回答をすることが最も危険です。
住所が即座に答えられなかったり、連絡先をスマートフォンで探さないと出せなかったりすると、審査官は「何かを隠している」と直感します。
3.スマートフォンのデータ最小化と正直な申告
プライバシー保護の観点からは、渡航時にデバイス内のデータを必要最小限にしておくことが、専門家からも一般的に勧められています。出発前に不要なアプリやファイルを整理し、クラウド上のデータはログアウトのうえ機内モードにしておくといった対応です。
ただし、ここで強調したいのは、審査官に対する虚偽の申告は連邦法(18 U.S.C. §1001)上の犯罪であり、重要な事実を偽れば移民法上も深刻な不利益(INA §212(a)(6)(C)(i))につながるという点です。
もし実際に就労の意図があるのであれば、そもそもESTAではなく適切なビザを取得すべきであり、本来の目的を偽って入国を図ることは決してお勧めできません。あくまで「正直に、かつ誤解の生じにくい形で」臨むことが、結果的に最も安全な備えになります。
デバイス検査をめぐる司法判断は連邦控訴裁判所の間でも分かれており、一部の連邦地裁では令状を必要とする判断も示されています。もっとも、最高裁はこの論点を正面から扱っておらず、現時点で全国一律の保護が確立しているわけではありません。
つまり、空港で起きたトラブルを後から法廷で覆すのは極めて困難です。
正しい知識と準備でリスクを下げる
結局のところ、入国審査は「審査官をいかに安心させるか」という心理戦の側面を持っています。
姪御さんが今回経験されたことは、決して彼女に非があるわけではなく、現在のアメリカという国が、かつてないほど「外からの流入」に対して神経質になっていることの表れなのです。
次回の姪御さんの訪米、あるいは質問者の他の日本に居住するご家族がアメリカを訪れる際の指針となれば幸いです。
手続きの厳格化は今後も続くと予想されますが、正しい知識と準備があれば、理不尽な拘束のリスクは大幅に下げることが可能だと思います。
関連する米国法律リソース
- U.S. Customs and Border Protection(CBP)|電子機器の国境検査について
- 電子渡航認証システム(ESTA)公式サイト(CBP)
- U.S. Department of State|Visa Waiver Program(ビザ免除プログラム)
- U.S. Customs and Border Protection(CBP)|渡航者向け情報トップ
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年3月)の情報に基づいており、法律や規制、行政の運用は変更される可能性があります。
入国審査の取り扱いは、最終的に各審査官の裁量や個別の事情に左右されます。本記事の内容に基づいて行動される場合は、必ず専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた適切な法的助言を受けてください。本記事を読まれたことにより、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼者関係が成立するものではありません。
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