法律ノート第1408回 弁護士 鈴木淳司
Mar 10, 2024
先週二日間割いて南カリフォルニアにある刑務所に受刑者との面談に行ってきました。
通常弁護士が接見するのは裁判中ですから被告人に会いに行くのです。
ところが、一旦刑を言い渡されると受刑者となり、拘置所ではなく刑務所に収監されることになります。
拘置所には弁護士がよく来るのですが一旦刑務所に入ると、弁護士が仕事としていく事はあまりなくなります。
ただ私は弁護士人生で収監されている受刑者に会いに行ったことは何度もあります。
次回、一回使わせていただいて、この刑務所での体験を法律ノートで考えてみたいと思っています。
非常に疲れる出張でした。
皆さんはお元気にされていますか。
アメリカ_飲酒運転で逮捕(3)_1408
今回は前二回に続き、いただいている質問をまた考えていきたいと思います。
いただいた質問は「友人とビールをスポーツバーで飲んでいました。盛り上がったあと、ライドシェアを呼べばよかったものの、軽い気持ちで自分の車に乗り、運転して自宅に帰る予定でした。しかし、帰り道に警察官に止められました。なんでも止められた理由はナンバープレートの自動車登録が切れていたということなのですが、結局飲酒運転で逮捕されました。飲酒運転を疑われるような運転は一切していません。このような逮捕は許されるのでしょうか。これから裁判になる模様で弁護士に何人かコンタクトしていますが、お金を払わないとそもそも話もしていただけないようなので、質問をしました。」というものでした。
今回は停車を命じられた後のことを考えていきたいと思います。
交通違反疑いの停車命令は違法ではない
前回まで考えたように警察官は何らかの交通違反を疑うことで停車を命じることは違法とはされていませんので、ほとんどの飲酒運転に関する事例では、交通違反が端緒になって停車を命じられることになります。
ここからは警察官の職務執行における建前上の考え方ですが、まず警察官は停車を求めると、車が安全に停車したことを確認します。
ここで逃げた場合には公務執行妨害などの罪に問われることになります。
飲酒運転の嫌疑は窓を開けた時始まる
仮に命令に従って停車をした場合、警察官は運転席または助手席の窓に車の後方から近づき窓を開けるように指示します。
この際に下ろした窓から運転手を見て質問をするのですが、私が見てきた事例でほぼすべての調書には、警察官の言によると「窓を開けるとアルコールの匂いがした」と書かれています。
さらに目を見ると充血していたり、飲酒運転特有の状況を調書に書きます。
ここで初めて飲酒運転の嫌疑が生まれたという立て付けになります。
一連の流れは警察官の着用カメラで録画
そしてその時点で飲酒運転の嫌疑が生じているので車から降りるように命じます。
運転手が警察官の指示に従って車の外に出ると、まず警察官はいくつか会話を挟みます。
今の時代、警察官が着用している服についているカメラで映像もすべて録画されています。
そしてその会話を行っているうちに警察官が飲酒運転であるという嫌疑をだんだん強めていくという段取りになります。
飲酒運転の嫌疑で身体的テスト
カリフォルニア州では警察官が飲酒運転の嫌疑をかけたときにいくつかのテストを要求することができます。
もちろんそれに従う必要は法律上はありませんが、ほとんどの場合は従うことになるでしょう。
その場にいきなり弁護士を呼ぶということも困難だと思います。
この警察官が要求するテストにはいくつかあります。
AからZまでを順番に言い、そのあと逆にZからAまで言えというものや、まっすぐに歩けるのかつま先とかかとをつけて腕を広げた状態で歩けとか、または片足で立って目をつぶって両手を横に伸ばした状態でじっとしてられるかなどをテストされます。
日本人が逮捕されてよく言うのは指示がよくわからなかったという理由があります。
しかし今の時代、ビデオにすべて収められていて、警察官もどのようにやるのか身振り手振りで指示をしているので、なかなか言語の壁ということだけで正当化できる事例は少ないかもしれません。
これらのテストをさせ、その様子を警察官が観察することで、この人は酔っている疑いがあるということをさらに強めていきます。
余談ですが、私もシラフの時にこのようなテストを自分で試しにやったことがありますが、目を閉じて両手を横に突き出した状態で片足立ちして30秒ぐらい立っていることはできるでしょうか。私はかなり難しいと感じます。
停車を命じられることを想定して、練習しておくべきなのでしょうかね。
呼気検査で0.08%以下でも逮捕される場合
このように警察官が身体的なテストを行ない、そこで嫌疑が強まると、次は簡易な呼気検査を行ないます。
この時点で血中アルコール濃度が0.08%以上であると、逮捕ということになります。
一方で、この場で例えば0.08%以下であったとしても、身体テストがうまくいかなければ、警察官はそれでも飲酒運転として逮捕することができます。
0.08%以下でも飲酒によって影響のある運転をしたということでの逮捕起訴は条文上可能となっているからです(カリフォルニア州交通法23152(a)条)。
呼気検査を拒否すると免停期間が加重
これらの逮捕現場におけるテストは、被疑者にも人権があるので、強制されることはできません。
そうすると、すべてを拒否することは理論上は可能です。
またそのように勧める弁護士もいます。
しかし呼気検査を拒否した場合には、その拒否をしたという理由を基礎として、運転免許証の免許停止期間が加重されます。
運転は州から与えられた特権、制限あり
この点は注意が必要で皆さんにも覚えておいていただきたいのですが、刑事法上、みなさんが「道路で運転する権利」というのは認められていません。
権利ではなく、州から与えられた特権(Privilege)であって、法律に従えばその特権については制限することができます。
運転免許証の事をライセンスと言いますがこのライセンスというのは免許いわゆる許可を与えられているという意味に過ぎませんのでその人の人権ではありません。
したがって飲酒運転を厳しく取り締まるカリフォルニア州では、その特権を奪うという方法で呼気検査を促しているのです。
また呼気検査などを避ける場合には仮に陪審裁判になった時でも(実際に飲んでたからできなかったんだろう)と考えられてしまう可能性がありますので、弁護士からどのようなアドバイスを受けるかわかりませんが、注意しておくべきだと思います。
このように今回質問された方は、おそらく何らかの交通違反をきっかけに、飲酒運転の嫌疑で逮捕されたことになります。
この三回の法律ノートを読まれていただければ明白だと思いますが、今回の質問に関して、警察官が明白な違法行為をしたというのは私は感じられませんでした。
今回の警察官による停車及び違法運転での逮捕の行為は違法とは言えないと思います。
今回の質問に対するお答えはここまでにして、また次回新しい質問を考えていきましょう。
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私は夏時間が好きなのですが、皆さんはいかがですか。
これからアウトドアを楽しむ時間もが増えますから楽しみです。
眠りのパターンを崩さないよう気をつけながらまた一週間、頑張っていきましょうね。
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