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Quid Pro Quoとは _アメリカの法律用語 1185

法律ノート 第1185回 弁護士 鈴木淳司
Nov 6, 2019

 今回考える質問は私の友人から時事問題に絡む内容のものをもらったので、他に質問を頂いている読者の皆さんにはおまたせして申し訳ないのですが、今回簡単に取り上げてニュースなどを読む際に役立てていただければと思います。

 質問は、タイトルにもあるように、Quid Pro Quoというのはどういう意味なのだ、というものです。この友人は、最近話題になっている米国現大統領の弾劾手続のニュースを見ていると、Quid Pro Quoという言葉がよくでてくるが、法律用語のようだから説明してくれ、と連絡をしてきたわけです。そんなもの、辞書を見てみればよいではないか、と思い、私も辞書を見てみましたが、「代償(物)、報償、見返り」などと書かれています。一般的には、この翻訳された日本語でも違和感がないと思います。

 しかし、実際にQuid Pro Quoというのは、アメリカで法律用語としてしっかり使われている単語ですので以下考えてみましょう。

Quid Pro Quoとは アメリカの法律用語 1185

 Quid Pro Quoというのは英語ではなくもともとラテン語です。ラテン語の専門家ではありませんので突っ込まれるかもしれませんが、Quidは「誰」とか「何」を指します。そして、Quoというのは、「More」すなわち「盛った」という意味があり、Proでつなぐと、盛った何か、といった感じになるでしょうか。

 その言葉が段々時代とともに変化していき、現代では「見返り」といった意味で使われます。ストレートな英語で表現すれば良いのにと思うのでしょうが、法律用語というのは、温故知新の温故に重きが置かれるところがあります。

 これは判例といって積み重ねを重視する分野なのでしょうがないところはあり、各国でも五十歩百歩であります。

 たとえば、日本でも最近では改正された刑法ですが一昔前は「贓物牙保(ぞうぶつがほ)」という罪がありました。骨董品の巻物にかかれているような言葉で、法律を学んだ人でも最初はわからない単語がしっかり罪として規定されていました。

 現代では、盗品を有償で処分あっせんする罪とされています。このように、法律はある意味歴史も勉強するような一面もあるのです。

法律的に使われるのは、セクハラ事件

 法律的にQuid Pro Quoというのは、今回の大統領弾劾手続のニュースで頻出していますが、単に見返りを期待するわけではなく、もう少し密接した関係を表しています。
 「見返りを求めない愛」などといった漠然とした見返りではなく、何かをするので、それに対して、見返りを求めるという牽連性が存在する場合であります。

 現代アメリカでQuid Pro Quoという単語が法律的に使われるのはセクハラ事件です。

 性的行為の見返りに雇用を担保するような事例です。このような事例では、性的行為があったけど、雇用とは関係ない、という反論が多く出てきます。見返りといっても、緊密な条件関係にある場合には法律的にセクハラと認められる可能性が大きくなるわけです。

 例を使って説明しましょう。

 たとえば皆さんが異性に興味があって、お茶や食事に誘ったとしましょう。そして、皆さんは、仲良くなってデートしたいと思っておごります。おごった見返りとして相手が「金を払ってもらって悪いからデートしよう」という場合と、「あの人優しくて話も面白いからデートしよう」という場合はニュアンスが違いますよね。

 前者が法律的なQuid Pro Quoに近いかたちです。どちらのケースも見返りを得ることに成功していると言えそうですが、相手がどのように考えるのかということも影響しそうですよね。

単なる「見返り」よりも深い意味

 今回の大統領弾劾でも、この部分がかなり問題になる部分なのです。もちろん、大統領としては、「全然、見返りなんか求めていない」と言っているわけです。そうすると、見返りがあるとこを念頭において話をしているじゃないか、という固め方がそもそも必要ですが、それに加えて、ウクライナ側にしても、自発的に色々な調査などをしているわけではなく、アメリカの大統領が要求しているので、しょうがないのでやらざるをえない、という牽連性がなくてはならないことになります。

 たとえ、大統領が見返りを求めてウクライナにアプローチをしていたとしても、ウクライナ側がどういう考えを持っていたのかそこを明らかにしないといけない状況にあります。この点が実は今回の一番の焦点になるのではないかと思っています。

 このように、単なる見返りよりも法律的には少々深い意味があるのですね。
 このような意味合いがQuid Pro Quoという単語にあることを念頭に、現在進行の弾劾手続を見ていただければと思います。

 次回は、また皆さんからいただいている質問を考えていきましょう。朝晩が冷え込んでくる季節です。体調に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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気になる法律の話題「絵文字」 1169

法律ノート 第1169回 弁護士 鈴木淳司
July 14, 2019

 夏真っ盛りですね。友人家族の誕生日パーティーに呼ばれて行ってきましたが、子どもたちはプールに入って出てきませんでした。今週末はとても暑くてビールがとても美味しく感じました。みなさんは夏を楽しまれていますか。

気になる法律の話題「絵文字」 1169

 さて、今回は、皆さんからいただいている質問にお答えするのを一回休ませていただき、気になった法律の話題を取り上げていきたいと思います。絵文字です。今の世の中、人と連絡を取るのに、電話は少なくなってきて、メールやテキスト、それにLINEなどがごく一般的になってきました。

 今の若い人たちにはわからないかもしれませんが、30年ほど前は、サラリーマンが帰宅前に「カエルコール」などといって、家に電話をしてから帰ったりしたものです。私が弁護士になった20数年前には、ポケベルなんてものもありました。私もポケベルをベルトに挿し、小さな弁当箱くらいの携帯電話を持って仕事をしていた記憶があります。あ、もう電池がないや、というのが日常茶飯事でした。

 時代は変わって、電子機器の文字入力も定着して、今や電話で話しながら仕事をしている人のほうが少ないのかもしれません。そして、文字入力もさらに進化して、絵文字が発達しました。LINEなども絵文字があったからさらに浸透したわけですが、動画もあり、キャラクターもあり、もう普通におじさんおばさんも使っています。私も使いますが、ちょっと気恥ずかしいのは年代でしょうかね。

 ちなみに、仕事でLINEなどを使っている人は便利だからといっても気をつけたほうが良いと思います。機密情報はない、と思って行動するべきだと私は思っています。特に私は仕事柄、事件の情報を扱うのにソーシャルメディアは絶対に使いません。簡単にソーシャルメディアで相談を受ける弁護士というのは、営利至上主義なのか知りませんが、理解できません。実際にいろいろな事件を扱っていると、絶対に法律相談はしないほうが良いと思うのですが。

”Emoji”が、法律の世界でも論点に

 横道に逸れましたが、絵文字という言葉は、布団(Futon:アメリカではちょっと意味がちがうものがでてきますが)などのように日本語がそのまま英語になっています。Emojiといえば通じますね。

 この絵文字が、法律の世界でも、論点になりつつあります。2018年から興味深い判例も出てきています。もちろん、その前からも少しづつ法律的な問題がありましたが、絵文字が判例にでてきているのは興味深いことです。問題となるのは、雇用などが絡むセクハラ訴訟です。絵文字が事件の帰趨を左右しているのです。

絵文字が判決に影響

 アラバマ州で争われて、去年判決に至った事件があります(Murdoch v. Medjet Assistance, LLC, 294 F. Supp. 3d 1242 – Dist. Court, ND Alabama 2018)が、この事件では、会社を解雇された女性がセクハラ等があったと逆に提訴したシナリオです。

 そして、セクハラがあったのかなかったのか、裁判所はかなり詳細に解析しています。解析する裁判官も大変ではあります。そして、女性と上司の電子的なやり取りが裁判にあがりました。裁判所は要するにセクハラを認定しませんでした。

 その理由の一つになったのが絵文字なのです。女性から上司に宛てられたメッセージには、スマイル絵文字が多用されていました。裁判所は、そういう絵文字をセクハラされている人が使いますか、という疑問を呈しています。

 一方で、2018年にワシントンDCエリアで、スターシェフとして活躍していたマイク・イザベラがセクハラで訴えられます。その後彼は破産をしました。このセクハラ訴訟の内容にはメッセージが多数引用されていましたが、やはり絵文字が使われていました。

 イザベラさんの使った絵文字には、その絵文字だけ見ると、別にどうってことがないようなものが多いのですが、彼の書いているメッセージと合わせると、ダメダメな感じのものでした。法律ノートで取り上げるほどのものでもない、くだらないものです。

ハートの絵文字がセクハラに!?

 このように、近年絵文字が裁判に顕出されるようになったというのは、時代ですかね、興味深いことです。上記の裁判で出てきた絵文字は文章と相まって使われる絵文字ですが、LINEなどは、返答そのものが絵文字というか、画像や動画だったりするので、今後、それらの意味も裁判で出てくるのでしょうか。

 こういう状況になってくると、企業も従業員のコンプライアンスとして絵文字ということを考えなくてはならなくなると思います。アメリカはそういうのは好きですし、実際に裁判になるわけですから。私も、今後クライアントにいろいろ絵文字の指導とかアドバイスをすることになると思うとちょっとシュールな気分になりますが、そういう時代なんでしょうかね。

 こういう裁判になると思うと、絵文字の使用も気をつけないといけないのでしょうか。ハートマークの入った絵文字を使うと、セクハラだ、と言われる時代になっていくのかもしれませんね。

 長くなりましたが、次回は皆さんからいただいている質問をまた考えていきたいと思います。私の事務所でもインターンが来て賑やかです。夏の祭りやパーティーを楽しみながらメリハリつけてまた一週間がんばっていきましょうね。


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lawyer's notes

米就業中。それは「ハラスメント」か?(1)_1158





法律ノート 第1158回 弁護士 鈴木淳司
April 30, 2019
平成も最後の日になりましたね。令和元年といってもピンと来ません。私のコンピュータもREIWAと入力しても、まだすぐに変換してくれません。少なくとも「鈴木」の字の一部が年号になるのはなんとも嬉しい気もしますが、一区切りというのは、感慨深いですね。しかし、平成の時代をずっと生きてきましたが、なんだか早かったような気がします。天皇家とリンクする元号というのは、世界でもないわけですから、和暦が廃れてきたという意見を持つ方も多くいらっしゃるかもしれませんが、私は素敵な文化なので残るといいな、と思っています。皆さんの平成はいかがだったでしょうか。
 

それは「ハラスメント」か?_1158

さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきましょう。
いただいている質問をまとめると「日本で5年ほど働いていたのですが、応募をして、今米国にある企業に3年ほど前から就職しています。まだ規模はそれほど大きくないテック関係の会社です。学生の頃、アメリカに住んでいたので、英語には困っていません。私の職場の上司がアジア系の方なのですが、いろいろな場面でパワハラに遭っています。仕事をちゃんとしても難癖つけられて何度もやり直しをさせられたり、大勢の前で恥をかかされたりすることもしばしばあります。同僚に相談しても、そういう性格だから気にするな、できるだけ無視をしておけ、というのが意見です。私もできるだけ、リモート(自宅勤務のことか?)で仕事をして、職場で顔を合わせるのを避けています。しかし、仕事に関しての嫌がらせとか難癖がエスカレートしてきているように感じますし、私自身もカウンセラーに相談をしています。職場には、直接相談できる人が実際いないので、困っています。このような場合に弁護士に相談して、なにか対応する可能なのでしょうか」というものです。
かなり長文の質問で、いろいろな出来事が認められていました。今回は、書かれている個々の出来事を考えるのではなく、全体的にどういうことができるのか、考えていきましょう。
 

「ハラスメント」?

まずは、カリフォルニア州における「ハラスメント」というものはどういうものが考えられるのかを知っておかなければなりません。
日本は、外国語の言い回しを日本語化するのが得意なので、今ではなんでも「○○ハラ」という言い方をして、あたかも法律的に違法な雰囲気を醸し出そうとする傾向があると思いますが、そのようにカリフォルニアでは「ハラスメント」という言葉は独り歩きしているわけではありません。
 

カリフォルニア州におけるハラスメント

ここで、カリフォルニア州における「ハラスメント」について労使関係を中心に考えていきましょう。
まず、州適正雇用住宅法(California’s Fair Employment and Housing Act 、略してFEHAと呼ばれています。)によると職場においては2種類のハラスメントが明記されています。
1つ目はいわゆる「セクハラ」ですが、対価要求型のセクハラが明記されています。すなわち、性的な対価を条件として、なにか仕事に関することをする(しない)というタイプのものです。「給料上げてあげるから、今夜付き合ってよ」というのは、この対価要求型セクハラです。
もう一つは、Hostile Work Environmentハラスメントと呼ばれるものです。よく、「敵対的ハラスメント」と言った訳がなされますが、敵対することだけが法律上の意味ではなく、訳語としては不足しています。不穏な職場環境とか、不和な職場環境、というのが日本語ではしっくりくるとおもいます。
このタイプのハラスメントは、対価性のない性的な行為を含みますが、その他にも、人種、宗教、出生、門地、障害、持病、婚姻、性別、年齢、性的嗜好、軍隊の入隊歴などに及びます。
職場において、このような列挙事由に関する発言をすることで、職場にいる人達に働きにくい環境をつくることはハラスメントに該当すると法律で明記されています。
 

民事ハラスメント

もうひとつ、「ハラスメント」という単語が使われるのは、民事ハラスメント禁止命令手続(A Civil Harassment Restraining Order)と呼ばれる手続きにおいてです。
この手続は、なんらかの継続的な関係が存在しているうえで、一定のハラスメント、脅迫、ストーカー行為を禁止することを審査するものです。
この手続において禁止命令が出せる程度の、「ハラスメント」とは、合理的な人の見地から、請求者が実質的な精神的被害を生じる行為を受け、実際に重大な精神的被害を受けたか、という基準で判断されます(カリフォルニア州民事訴訟法第527.6(b)条)。
職場での「ハラスメント」と言われるものは、主に上記のような場合が該当します。この規定をたたき台にして、また次回考えていきたいと思います。
日本はゴールデンウィークですが、私は働かなくてはなりません。天気が良いので気分転換をしながらまた一週間がんばっていきましょうね。
 


 
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カリフォルニア州における2019年新法・法改正について(1)_1143

法律ノート 第1143回 弁護士 鈴木淳司
Jan. 10, 2019

 遅くなりましたが、皆さん明けましておめでとうございます。健康的で平穏な年末年始を過ごされましたか。私もすっかりリフレッシュさせていただきました。皆さんにとって、素晴らしい2019年でありますよう、祈っております。

 さて、最近毎年恒例となってきましたが、新しい年の第一回目の法律ノートということで、皆さんからいただいている質問にお答えするのを一回お休みさせていただき、カリフォルニア州における法律のモデルチェンジについて考えてみたいと思います。

 注意していただきたいのは、本稿で取り上げる新法や法改正が、すべてではありません。かなり色々な分野で、それも多岐にわたって変わっている部分があり、知事が署名した1000以上の新法・法改正すべてをこの原稿で取り上げるのは不可能に近いのです。皆さんに関わりがありそうなポイント、そして興味深いポイントを取り上げていきたいと思います。

カリフォルニア州における2019年新法・法改正について(1)_1143

1 労働関係法規

 まず、最低賃金の増加は以前から2022年まで計画的に引き上げることが決まっていましたが、今年は州全体に適用される法で25人以下の従業員がいる企業では最低11ドル、従業員が25人より多い企業では最低12ドルとなりました。もちろん州の規制を上回る最低賃金を設定している郡もありますので、企業の所在地に注意しなければなりません。来年も段階的に最低賃金の賃上げがなされていく予定になっています。

 次に、セクハラ関係については、色々なニュースが2018年もあったので、議会も注目し、様々な規制の法規が作られました。企業はかなり注意する必要があります。現在では、50名以上従業員のいる企業の管理職(Supervisor)に対して、隔年に2時間ずつのセクハラ防止のトレーニングをしなければならないことが決まっていますが、この規定が法律により厳格化されます。

 2020年1月より施行されますが、5名以上就業する、カリフォルニア州内にある企業は、隔年に一度原則としてすべての被用者に対してセクハラ防止トレーニングをしなければならないことになりました。管理職に対しては一回2時間、その他の従業員については一回1時間半のトレーニングが要され、雇用時から6ヶ月以内に行わなければなりません。一時的に雇用されている場合には、雇用から30日以内または雇用時間100時間経過前にトレーニングをしなければならないと規定されています。2019年以内にこの2020年施行の法律に従ったトレーニングをしている場合には、要件は満たされていると判断されます。

 そして、カリフォルニア州均等雇用健康局(DFEH)が作成するセクハラ防止に関するポスターを就業場所に掲示することも義務付けられました。

 色々な弁護士が解説しているところですが、要は今年(2019年)中に、企業内で
(1)全員に対して2時間のトレーニングをすること、
(2)新規雇用が生じる場合には、雇用時にすぐトレーニングをすること、
(3)ポスターが用意されていれば、そのポスターを貼ること、
(4)新規雇用以外の従業員に対して、2年毎にトレーニングをすること、
さえ守っていれば問題はありません。

 トレーニングはどのような形でも良いのですが、参加時間をちゃんと記録しておくことが重要です。

 また、単にコンサル業者に丸投げするのではなく、弁護士にちゃんと相談をして、社内で記録を用意しておくことが、紛争対策になりますので、ちゃんとセクハラ訴訟を経験している法律家に相談されることを強くお勧めします。

セクハラの守秘義務についての修正

 もうひとつセクハラ関係です。私も、今まで訴訟で色々な場面を経験してきたので、セクハラの「和解契約」もたくさん見てきました。今回、セクハラ被害者保護の観点から、様々な法的処置がなされました。いくつか「和解」等についての法改正をみていきたいと思います。

 まず、セクハラの紛争で和解が生じると、「守秘義務条項」というのがお約束的に和解契約書に記載されていました。2018年もっとも話題になったのは、大統領と関係があったとされるモデルの人が公に、関係や和解内容などを話した件でしょうか。

 今回カリフォルニア州においては、この守秘義務について修正がなされました。民事訴訟、行政訴訟において、事実関係として訴訟上顕出した内容については、守秘義務を課すことはできない、としたのです。ですので、和解をしても事実関係については公に話をすることができるのです。

 制限としては、和解の金額、訴訟上問題となっていない内容については、守秘義務を課すことはできますが、訴訟上争われた事実関係について守秘義務は及ばないので、被害者は自由に話ができることになりました。

 したがって、従来に増して、訴訟上どのように争いを広げるのか、絞るのか、弁護士の役割が重要になる部分ではあります。

セクハラのクレームは名誉棄損とはみなされず

 次に、一定の場合、セクハラのクレームを被害者が行う場合に、名誉毀損とはみなされないという保護が法律で明記されました。

 被害者が加害者に関して「セクハラがあったのだ」と色々な人にいうと、加害者が本当にやったかどうかにかかわらず、社会的地位が低下する危険性があるわけです。

 名誉毀損で訴えられることに怯えて、セクハラ被害を訴えられないのではという抑制から解き放つ効果が今回の新法にはあるのです。一定の場合に上司や会社に相談する場合、外部の調査機関や政府機関に相談する場合などが含まれます。どちらにしても、まずは守秘義務で固く守られている弁護士に相談するのが最初だとは思いますが、泣き寝入りは少なくなると思います。

 それからもう一つセクハラ関係について言及しておくと、今までは、企業内でのセクハラが紛争化するのが一般的でしたが、今回法改正がなされて、企業に関係する投資家など、責任を負う加害者の幅が広くなりました。

 これは、最近でよくある、IT企業文化で会社とは直接業務に関係のない「投資家」などがセクハラを行っているというクレームがニュースにもなっていて、これを牽制した法律といえます。他にもセクハラ関連のニュースはありますが、この辺にしておきましょう。

女性の企業進出をサポートする新法も

 もう一つのトレンドとして女性の活躍を推進する法律がいくつもできました。

 上場企業に影響する新しい法制度として、カリフォルニア州内に業務執行所在地がある内外の企業は、2019年末までに必ず一人女性を取締役(Director)として、採用しなければならないという法律ができました。

 さらに、2021年末までに、取締役が5名の場合には女性を2名、6名以上の場合には、3名を女性取締役として委任しなければならなくなりました。

 女性の企業進出を具体的に後押ししている法制度です。もう一つ働く女性をサポートする新法として、女性の授乳が必要な場合には化粧室ではなく、プライベートな授乳の場所を一時的にでもつくることが義務付けられました。

 主な労働関係法の改正・新法制定は上記です。長くなってきましたので、次回続けていきましょう。

 新年です。気分をあらたにまた一年間がんばっていきましょうね。


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カリフォルニア州弁護士コラム「調停で思うこと」(2)_952

法律ノート 第952回 弁護士 鈴木淳司
Aug 16, 2015

 前回調停というのは紛争解決においてどのような性格を持っているのか一般的に考えました。調停というのは、事実審で争うことを避けて、合意によって紛争を解決するうえでは有効であるということはわかっていただけたと思います。

カリフォルニア州弁護士コラム「調停で思うこと」(2)_952

 調停人は、私が出席した数多くの調停において、必ず言うのは「事実審で陪審員が判断すると、勝つか負けるかわからないから、調停で和解するのはとてもよいことだ」という台詞です。これは確かにおっしゃるとおりです。裁判になってしまうと、第三者が事件を見て、第三者が判断をするわけですから、実際に判断を「委ねる」ことになりますね。自分で解決策に納得して、事件を終了させることができなくなるわけです。

 そういう意味では私もまとめられるのであれば調停でまとめた方が、結果にハラハラしないので、良いと思っています。これは正論ですし、きわどい事件では有効な説得材料であるわけです。もう私も20年法廷弁護士をやっているわけで、いくつも調停にでているわけですが、調停では調停人の口から「お約束」のように出てくる説得材料であって、紛争当事者は真摯に耳を傾ける必要があると思います。平和的な解決をしてしまえば、不安定な要素がなくなるわけです。

通常、調停人は和解した方がお金がかからないと説得するが…

 調停において問題となる調停人の発言は「お金」に関する話です。すなわち、調停人は必ずと言って良いほど、実際に事実審(トライアル)に行って陪審員や裁判官の判断を仰ぐことになると、弁護士や裁判を維持する費用がかなり天文学的になるので、和解してしまった方がよいであろう、と言ってきます。

 交通事故の原告側弁護士のように成功報酬で事件をやっていれば、弁護士の費用がうんぬんということについては結果がすべてなのである程度関係がないかもしれませんが、時間給で弁護士費用を支払っている被告側の弁護士の費用は陪審裁判までいってしまうと、かなり高額になってきます。

 さらに負ければ、その分の損害も支払わなければなりません。この危険性を調停人は説得材料として使うことがかなり多いのですが、事件によっては、この説得方法は逆に交渉を悪化させる可能性があります。

金より名誉を大事にすることが多いセクハラ事件

 ビジネスの事件で、純粋にお金だけを争う事件では「皮算用」が働くわけですから、自分側の弁護士にいくらお金を使うのか、相手方にいくら払うのか、など出費の合計で和解しても良いのか決めても悪くないわけです。

 企業を代理する場合、担当者も会社のプラスマイナスの総額から事件の解決策を模索して、ドライに金額を割り切ることができます。ところが、最近立て続けに私が担当したセクハラの企業側の弁護が、ドライに割り切ることができない内容も少なくありません。

 セクハラで訴えられた企業としては、セクハラをしたと言われている本人の名誉も考えなくてはなりません。特に、セクハラかどうか疑問が残るような事件では、「金ではなく名誉だ」と考えることが珍しくありません。そうすると、「今後弁護士費用が嵩むから、和解した方が良いのでは」と説得されても、逆にバックファイアします。「ふざけるな、金がいくらかかっても、やっていないものはやっていない。白黒つけてやる」と考える当事者もいますし、「従業員がセクハラしたからといって、経営者として最善を尽くして、なんで相手に金を払わなくてはいけないのか」という社長さんもいます。

 おっしゃる通りで、調停人が裁判にお金がかかるから、いくらか相手に支払って終わりにしてしまえ、と言っても確実に事態が悪化します。

調停人の経験やセンスが問われる

 そういった、雰囲気を感じ取るのは調停人のセンスでしょうし、説得材料を適切に選ぶのも調停人の経験なのかもしれません。ただ、ほとんどの事件で調停人は、「弁護士の費用が嵩むので、和解したほうが良いのでは」という論調の話をします。

 事件によっては、私も裁判まで行ってやる、と思うこともあるわけで、私としても、あまり好まない説得材料だと思うのです。紛争当事者によっては脅迫されたと思う人もいるのも理解できなくもないわけです。

 自分でつけた弁護士の費用が嵩むから、和解をした方が良い、という考え方はなんだか私が当事者だったら納得がいかないような気がします。結局司法のシステムで事件を解決すると費用倒れするので、和解した方が良い、というのは、司法システムの自殺の側面があるのではないかと思っています。

 それなら、紛争になる前に、弁護士の費用がこれだけかかる、裁判をするとこれだけかかる、ということをある程度裁判所が表示しておけば、当事者は、「じゃあ、裁判なんてやるのやめよう」と思うかもしれません。

 このところ立て続けにおこなった調停ではなんとか事件は解決しましたが、セクハラ事件など、感情も交じる事件においては、かなり考えさせられるポイントでした。


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