法律ノート 第1282回 弁護士 鈴木淳司
September 27, 2021
今回は、非常にくだらない話なのですが、アメリカの法律事務所に所属する者として、日本人(外国人)を雇用する難しさについて考えさせてください。
移民法に関することです。
日本のマスコミは皇室の結婚報道に熱心なようですが、私自身は若い人たちのことなので、どうでも良い報道だと思っています。
一点だけ、今回は私が疑問に思ったことをみなさんとシェアさせてください。
ある意味余計なお世話なのですが。
アメリカ滞在資格の疑問_1282
今回皇室の方と結婚をするという男性は、留学し、アメリカで法律を学び弁護士となるということで、勉強もたくさんされたでしょうし、受験も大変だったと思います。
私が所属する事務所でも、日本の法律事務所から派遣されアメリカの大学で法律を学ぶインターンの面倒を何人もみてきていますし、アメリカの司法試験を受験してがんばっている姿を見てきました。
受験生というのはいつのときでも大変なものです。
私が、今回皇室の方と結婚する男性がニューヨークの法律事務所に就職するということで、一つ法律的な興味が湧きました。
解答は就職先か本人しかわからないのでしょうが、法律的にどうなっているのかな、と思うことがあります。
アメリカの大学、または大学院を卒業した外国人は、一年間オプショナルプラクティカルトレーニングといい、一年間、アメリカ国内で勉強したことを実地で研修するための就労資格が与えられます。
OPTと呼ばれるものです。
ですので、この男性は法律学校を卒業して、自動的に与えられるOPTに基づく就労資格を得られるので、法律事務所にアシスタントとして雇われることは一年間を期限として可能となります。
ほとんどの、日本から留学して法律学校に行っている弁護士は、この一年間を利用して法律事務所に研修することになります。
ですので、OPTによる研修期間を過ぎると通常は日本に帰国するということになるわけですね。
どんなに留学生がアメリカにとどまって就労をしたいと思っても、OPTが切れると、他にビザが無い限り、就労はできないということになるのです。
ここまで読んでいただければ、感の良い方はおわかりになると思いますが、OPTが切れた(卒業から一年間)場合、この男性はどのような資格でアメリカに滞在し、アメリカで就労するのかな、ということです。
今回は、詳しくは考えませんが、日本人留学生が渡米し、そのまま就労するためには、Eビザ、H-1Bビザ(Hビザ)、そしてLビザが考えようと思えば考えられるチョイスではあります。
具体的なケースによってどのビザ申請が可能か決まるのですが、基本的にこの3つということになります。
他に特殊な才能が主張できる場合には、OビザやPビザというのがあります。
これらのビザを考えた場合、論文で準優勝をしているという実績でわずかにOビザを取得できる可能性はありますが、基本的にはこの男性が就職するとされている法律事務所をスポンサーとして取得できるビザはHビザに限られると思います。
Hビザの申請方法としては、雇用主(ここでは法律事務所になるでしょうか)が会社情報をUSCISに登録します。
そして、抽選が行われます。
そして当選した雇用主だけがH-1Bビザの申請を移民局へ提出する、という流れになるので、簡単ではありません。
もちろん、この男性が永住権を持っていたり、アメリカ市民権を持っている場合には、ビザなど不要で就職できるわけですが、以前、アメリカ大使館で学生ビザ(Fビザ)を申請しているようなので、やはり、Fビザでもう一度アメリカに入国し、Hビザを申請するということになるのでしょうか。
または、なんらかの形でビザではなく、飛び越して永住権を申請しているのかもしれません。
Hビザというのは、専門職ビザであり、やはり法律の専門家として申請するには、弁護士の資格があったほうが通りやすいですから、就労ビザの申請は、再度アメリカに学生ビザで入国したあとに、ステータスを変えるということになるのでしょうか。
Hビザは、毎年新規申請数が限られていて、抽選となります。
ですので、抽選にこぼれてビザの申請ができないというケースも少なくありません。
Hビザの申請はいわゆる「賭け」の部分があるわけです。
私の所属する事務所で長く働きたいという日本から留学している弁護士がいたとしても、このHビザがとれるのか、というのが鬼門になるわけです。
今回日本でこの男性と皇室の方が婚姻届を出するのは、たぶんビザ申請が必要になるからだと思います。
皇室の方が学生ビザの付帯ビザの許可を得て、渡米するのでしょう。
ただ、渡米して、ビザの切り替え作業があるので、Hビザの取得が抽選も含めて確定的な段階ではない時点で渡米しなくてはならないという状況になるのではないかと思います。
そうすると、この男性は結婚もしてビザもおりていない段階で渡米するわけですので勇気があるな、と思うのです。
実際、私も若い弁護士を雇いたいので、気になるのです。
頭をかしげてしまうのが、H-1Bビザの2022年度(2021年10月1日から、2022年9月30日)の申請に関してはすでに抽選が終わっている段階であり、2023年度の申請ということになるわけですが、まだ待たなければなりません。
その間のギャップや抽選に漏れた場合のリスクというのはどう考えているのか、不可思議であります。
まあ、弁護士業界の常識では、アシスタントに留学費用を貸すこと、そして、ある程度の期間でも留学後に元の事務所に戻らないという設定は怪訝なことですから、どうするとそこまで優遇が受けられるのかな、と思います。
我々には見えない優遇が色々なところであるのでしょうか。
経営側として、日本からの留学生を雇う問題をいつも考えている私としては、考えさせられる状況ではあります。
くだらない話で今回はすみませんでした。
次回はまた皆さんからの質問をみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
もう秋分ですね、寒くなってくる季節ですのでウイルスに注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。
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