法律ノート 第963回 弁護士 鈴木淳司
Nov 2, 2015
ハロウィンが終わると夏時間も終わり、夜が長くなりました。ハロウィンは、冬のはじまりを告げる行事ですが、本当に今週から寒くなりそうです。もともとハロウィンは、日本で言うお盆であって、霊が戻ってくるという考えからはじまったものです。また、農作物の収穫が終わり、けじめの意味もあったようですね。
日本でもハロウィンが最近になって流行しているようですが、ただの仮装大会化しているようで趣旨が違うように思います。アメリカではハロウィンは子どもたちの行事であって、近所を練り歩いてアメやチョコレートをもらえる、日本でいえば、いわばお年玉が手に入る貴重な日であります。大人ばかり盛り上がって、子供たちがお菓子をもらえない日本では、子どもたちには納得がいかないのではないでしょうか。
アメリカの契約書にある「Recital(s)」とは? (1)_963
さて、今回は、日本企業の法務関係に従事されている方からの質問を考えていきたいと思います。いただいた質問をまとめると「私は法務担当で、毎日海外との契約書のレビューを行っています。契約書を日本語に訳すことも多くあるのですが、よく英米の契約書の文頭に、「Recital(s)」と書かれている部分があります。辞書を調べると「説明事項」とかかれているのですが、あまり的確な訳とは思えません。そもそも、契約書の文頭でなぜ、Recital(s)というものが必要なのか、何を説明するためのものかわかりません。契約書において、Recital(s)がどのような位置づけなのか教えていただけないでしょうか」というものです。
アメリカでは考えられることをすべて書面にしておく
英米法の契約書、特にアメリカの企業がかかわる契約書は往々にして長文になります。日本のように、「民法」や「会社法」といった統一された法律がなく、連邦と各州に様々な法律がアメリカには存在しますので、契約書を作る際には、できるだけ、事細かに規定をしておこうという意図があるからです。
また、アメリカでは、判例が法律と同等の効力を有すると考えられていますので、判例の考え方なども、積極的に契約書に取り入れるのが一般的だからです。日本であれば、「疑義があれば民法に従う」という条項があれば済むのですが、アメリカでは、色々な場合を想定して、考えられることはすべて書面にしておこうという基本的なスタンスがあるのです。
また、従来あまり契約書に盛り込まれていないRecital(s)というのもアメリカの契約書にはよく出てくる内容です。今回質問されている方は、そもそもRecital(s)というのが必要なのかどうか、ということも質問に書かれていますが、実際にRecital(s)というのはどのような役割をしているのか、以下皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
契約書とは、契約を結ぶ人や会社の権利義務を明確にするもの
Recital(s)の性質を考える前提として、まず、契約書というものは、どういうものなのか一般的ですが考えておきたいと思います。
契約書というのは、簡単に言ってしまえば、契約を結ぶ人や会社がどのような権利義務を持つのか明確にしておくものです。もちろん権利義務というのは、現在進行形で存在するものですが、契約を締結して、「将来」どのように当事者が振る舞うのかを決めておく意味があります。
たとえば、皆さんがスーパーに行って、現金を払って肉や魚を買うのであれば、契約書の必要性は薄いですよね。その場で、お金と物を交換して、はい終わりという関係ですから。もちろん、肉が腐っていたとか、魚の数が足りなかった、などということであれば、別途解決が必要になるかもしれませんが、基本的にはお金と物を交換して終わりです。
ところが、世の中には、このような単純な関係ではなく、かなり複雑な契約関係が存在します。物を製造し、供給する関係、一緒にビジネスをしていこうという関係、当事者が2人(2社)以上登場する関係、など、世の中には契約関係という信頼関係で成り立っています。
基本的に将来の関係を決めるのが契約書
このように考えると、将来どのようにビジネスをやっていこうか、という話をする場合、色々なルールを決めておこうというのが契約書といえます。したがって、契約書で決めることは、基本的に将来を見ています。物の売買契約でも、将来ある物を1万個供給する対価として、金◯◯万円を支払うことに合意する、という形になります。スーパーで買い物をするのとは違って、将来の関係を決めるわけです。
今回質問の内容にあるRecital(s)というのは、この将来の関係が書かれているわけではなく、今現在ある当事者の関係を書いているので、契約の内容とは趣旨が違うのです。次回続けて考えていきましょう。
寒くなってくると、体調にも影響しますので、体を暖かくすることに注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。
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