アメリカの契約書にある「Recital(s)」とは? (2)_964

Golden Gate sanfran

法律ノート 第964回 弁護士 鈴木淳司
Nov 7, 2015

 先週、刑事事件の法廷に行きました。あまり馴染みのない法廷だったので、在廷していた弁護士も顔見知りの人がいませんでした。法廷内に居て、裁判官が不在のときは結構手持ち無沙汰になるので、私はよく同じ法廷にいる弁護士に話しかけて、いろいろ他愛のないことを話しています。結構有用な情報も手に入りますし、顔見知りが増えることは悪いことではありません。

 先週も、結構年配の弁護士をつかまえていろいろ話し込みました。検事局の最近の人事のことなどどう思っているかなど聞いていたら、よく知っているみたいでした。かなり話し込んでから気づいたのですが、私が勘違いしていて、弁護士ではなく検事でした。まあ、仕事を離れれば良い人が多いわけですが、事件の感触などに触れなくて良かったです。顔を見ただけでは弁護士か検事かわかりませんから、気をつけなければいけないと若干冷や汗ものでした。

アメリカの契約書にある「Recital(s)」とは?(2)_964

 さて、前回から考えてきた、「私は法務担当で、毎日海外との契約書のレビューを行っています。契約書を日本語に訳すことも多くあるのですが、よく英米の契約書の文頭に、「Recital(s)」と書かれている部分があります。辞書を調べると「説明事項」とかかれているのですが、あまり的確な訳とは思えません。そもそも、契約書の文頭でなぜ、Recital(s)というものが必要なのか、何を説明するためのものかわかりません。契約書において、Recital(s)がどのような位置づけなのか教えていただけないでしょうか」というものです。

Recital(s)には、契約当事者が今どのような関係にあるかを書く

 前回のまとめですが、契約書が必要ということは、通常将来どのようなビジネス等の関係を持つか、ということを事前に決めておくことが契約内容である、ということを考えました。

 駄菓子屋で、10円出す対価としてアメをその場でもらうのであれば、格別契約書など不要でしょうが、複雑なビジネスの構造になればなるほど、将来の関係を規律するルールをつくっておこうということになります。これが、契約の内容になるわけです。

 では、Recital(s)というのはどのようなものかというと、通常、契約に登場する人や会社、すなわち契約当事者の「現在」存在する関係を書きます。

 契約書を締結して、将来一定の関係を保っていく前置として、今、どのような関係にあるのか、当事者はどういった性質を持っているのかを記述しておきます。

 よく目にするのは、Recital(s)のなかに実質的に将来行う関係などを記述したり、まったく関係のないことを記述したりした契約書を目にするのですが、これはあまり宜しくありません。契約書には、あくまでも最低限必要な情報があれば良いのであり、余事記載をすると内容が不明確になりかねません。したがって、本来であればRecital(s)も簡潔にするのが良いと思います。

最低限、書くべき内容は2つ

 明確なルールはありませんが、契約そのものの内容にもかかわる情報でRecital(s)に書いておくべき最低限の内容としては、(1)当事者がどのような仕事をして、今回の契約にどのような関係があるのか、たとえば、当事者Aは製造業を営んでおり、国際的に商品を広めるために、ジョイントベンチャーを望んでいる、といった程度で良いと思います。

(2)次に、契約当事者間で、現在一緒になって行なっているビジネスや、関係があれば、簡単に記述します。たとえば、「本件契約締結に向けて、守秘義務契約書を締結している」といった程度で良いでしょう。基本的にこの2点だけで良いと思います。

 (3)さらにどうしても、特殊な事情で特筆すべきものがあれば、その内容も簡略に述べておけば良いと思います。たとえば、以前に一度業務提携を解消した事実、とか、お互いに訴訟をしていて和解をしている事実、とか、今までは再販契約を結んでいて、今回ジョイントベンチャーを契約する運びになった、とかいったものでしょうか。

当事者の権利や義務については記載すべきでない

 Recital(s)の役目は現在の関係で契約の内容に関わるものを最小限度書けばよいのですから、上記3点の程度に収めておくべきです。もちろん、現在存在する事実関係を記述するだけの役割ですから、後になってRecital(s)の内容で紛争化することは原則ありません。

 したがって、今回の法律ノートに沿って注意をしていれば、Recital(s)というのは、あまり重要な役割を負っていないということがおわかりになると思います。本来は契約の一部となり得ない部分なのですね。

 とにかく、当事者の権利や義務については、Recital(s)に記載するべきではない、ということを理解していただければ良いと思います。

 かなり寒くなってきて、街ではインフルエンザの予防接種の看板が多くなってきました。体調には充分注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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作成者: jinkencom

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