アメリカの商標登録(2)_1401

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1401回 弁護士 鈴木淳司
Jan 22, 2024

先週は久しぶりに生のデポジション(陳述録取)という、証拠開示手続に参加してきました。
私の側が質問される側なので、異議を申し立てる以外はじっと一日中質問と回答を横で聞いているだけで、質問をする側の方が好きな私には少々苦痛でしたが、なんだか懐かしい気持ちになりました。

このところ、裁判手続はずっとビデオを通して行われ、一部の手続は恒久的にビデオを通すようになったので、相手方と生でぶつかり合うのが減ってしまいました。
今回の事件は、先週まではビデオだけに頼ってやってきたのですが、それまで相手方の弁護士がずいぶん偉そうに振る舞っていました。
実際に会って、私が尋問中ずっと落ち着き払っていると、態度が変わってきました。生で会って感じる何かがお互いあるのでしょうかね。陪審員の前に生で立って弁論するのが今から楽しみです。

アメリカの商標登録(2)_1401

 さて、前回、「カリフォルニア州に住んでいる家族です。最近私の子供が高校のプロジェクトでインターネットを通じての寄付を集めるサイトをつくっています。息子の手作りでサイトをやっているのですが、息子が自分で作ったそのサイトのロゴに酷似したものをつかっているまったく別のサイトを見つけました。子供は盗まれたと言っていますが、証拠があるわけではありません。トレードマークとして登録をしているわけでもありません。このような場合に何か主張できることはあるのでしょうか」という質問を考え始めました。

 今回は、商標登録をしていない商標、つまり今回の質問にあるように、息子さんが作ったロゴは法律上守られるのか考えていきたいと思います。

カリフォルニアでは慣習法で守られる

 カリフォルニア州では慣習法(また、慣習法を法律化したものでThe Act of 1863, § 9というものがあります)に基づくと、登録をしていなくても、商標はカリフォルニア州内外を問わず守られる、と考えられています。

 そして、商標の登録者は、他の物などと同じように動産としての所有者としての権利を有するとされています。

 しかし、登録されていない商標は権利が認められているものの、実際に登録された商標と同じように法律に基づいて侵害行為を排除することはできないと考えられています。
法律で守られるためには、登録しなさい、という意味合いがあります。

 慣習法ではなく、立法府がつくった法律は、未登録商標についてはあまり強力に守らないという方針ということになります。

 一方で、慣習法とは、法律が立法府によって作られる前に紛争解決のために裁判所が判断して蓄積されてきた法です。
この元々ある慣習法に基づいてであれば、登録されてない商標について商標の侵害に対して訴えることができることになります。

未登録商標の訴訟において必要なこと

 私自身も未登録商標の訴訟はやったことがないので、具体的にどこまで踏み込んで立証するべきなのか、実務上確定的に言えませんが、商標を持っているので侵害をやめろ、と裁判所に請求するためには
1)少なくとも商標を得るときに、第三者が使用していることを知らなかったこと
2)訴えを提起するまでに公にその商標を使っていたこと
3)侵害している相手方が、商標について消費者に混同を生じさせていること
を裁判所で立証していかなければなりません

この3点について、法律ノートで書くのは簡単なのですが、裁判をするために準備をするのは、かなり大変だと思います。

 登録されていなければ、いつ、どこでその商標を作って、その商標をどこで使っていて、どの程度の期間使っていたのか、などを本人の宣誓書だけではなく、説得できるだけの書類や証言を用意しなければならないわけです。

 また、未登録商標の侵害については、そもそも未登録商標をどの程度の地理的なエリアで使っていたのかを主張立証していかなければなりません。
 たとえば、今回の相談にあるウェブサイトのロゴなどについては理論的には世界中の人たちがアクセスできるわけですが、どの程度実際に消費者に混同を生じさせていたかを確認するのは証拠を揃えるのが大変そうです。

商標の権利は未登録でも認められている

 少々難しい内容になりましたが、簡単にまとめると、未登録商標でも、商標としての権利はカリフォルニア州では認められている、というのが今回の質問に対する回答の一部になります。

ただ、権利を認められているからといって、第三者による商標侵害があるので訴訟をしようとすると、証拠を積み上げるのがかなり膨大な作業になります。
さらに言えば、侵害をしていると指摘しても、「登録されていないから知らなかった」ということで逃げられてしまう可能性もあります。

このように権利は認められているが未登録商標の侵害行為を咎めていくのは、登録している場合に比べて断然ハードルが上がるということになります。

商標登録しない場合にしておくべきこと

 登録しないことが前提であれば、少なくとも、いつ商標をつくって使い出したのか、公が知れるようになったのはいつなのか、などの情報はまとめておいたほうが良いと思います。
また、登録していなくても権利性は慣習法で認められているのですから、ウェブサイトなどにおいて、ロゴの横など見やすいところに「All Rights Reserved 2024」などと入れておきアピールをすると良いと思います。

 未登録商標の質問に関してはこのくらいにしておきたいですが、他にも考えるべきことがあれば、また法律ノートに質問していただければと思います。

アメリカンフットボールももうすぐ終わる時期で、スーパーボールが目前ですね。
サンフランシスコ49ersにはがんばってもらいたいものです。

次回はまた新しく頂いている質問を考えていきたいと思います。
このところ寒い日も多いですが、健康に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。

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作成者: jinkencom

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