裁判所で充電-コンセント_1284

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1284回 弁護士 鈴木淳司
October 10, 2021

2021年10月11日はコロンバスデーで裁判所や銀行はお休みです。
裁判所のカレンダーに合わせて行動している私の事務所は同様に休みになります。
一方で祝日なのに、休みではない職業や学校もあるので、アメリカにある準祝日みたいなぼんやりした日であります。
私は三連休になるので、久しぶりにゆっくりしています。
随分朝晩肌寒くなってきましたが、皆さんは秋を楽しまれていますか。

今回は、皆さんの質問にお答えするのを一回お休みさせていただき、日本の司法について考えさせられるトピックを書かせてください。

裁判所で充電-コンセント_1284

国際的な事件でもご一緒する仲の高野隆弁護士がご自身のブログ(http://blog.livedoor.jp/plltakano/)に数日前書かれている内容についてです。

最近では、テレビでもインターネットでも自分を売り込む類の「前に出たい」弁護士が増えているので、見ても何も役に立たない時間の無駄なものが大多数です。
しかし、高野弁護士のブログを含め、自分の体験に基づくいくつかのブログは貴重なので目を通すようにしています。
脱線しますが、特に他の弁護士が担当している事件を、さもわかったように解説しているような輩は信用できないです。
私が担当している事について書かれている第三者による解説を見ると、まったく的はずれなことが多いのです。それにしても出たがりの弁護士が増えましたね。

高野弁護士が書かれている内容は、横浜地方裁判所で裁判(公判前整理手続)があり、コンピュータを使うため、法廷内の電源を利用しようとしたら、裁判官に国の電気なのだから、私的な利用をやめるように指示された、というものです。

私もそうですが、今どき刑事弁護をするのにコンピュータを使っていない弁護士などいないですし、法廷でも使います。
電源は必要です。予備電池とか、自家発電機を持って歩け、ということですかね。
コンセントを使うな、と裁判官が指示するのも異常ですし、高野弁護士にとっても、この裁判官の常軌を逸脱した指示を処分と捉えて、高等裁判所に抗告したら、高等裁判所まで棄却、と本論の刑事弁護とはかかわりないことで貴重な時間を無駄にされているようで心苦しいです。

私はアメリカで20年以上裁判所に行って、もちろん裁判所にある電源も使いますが、「コンセントを私的で使うな」などと言う裁判官に会ったことがありません。
もちろん、私も裁判所で裁判官をやっているときに、弁護士がコンセントを使おうが、気に留めたこともありません。
というか、裁判所の法廷内にある水もガブガブ飲みますし、必要であればペンも借ります。
この変な裁判官の意見書(高野弁護士のブログにアップされているもの)を読むと、自分が電気使うなと言ったことについては認めているようで、唖然としました。

アメリカでは、基本的に10年ほど弁護士をやった人の中から、裁判官が選ばれます。
私は、弁護士を7年やったあとに、特例で任官されましたが、ほとんどの場合、10年間、弁護士として法廷を経験してから裁判官になります。

日本でも、弁護士任官といって弁護士から年に数名は裁判官に任命されるようですが、ほとんどの裁判官は、学校や研修などの学問が優秀な人が選ばれ、実社会での法曹経験がないまま任官されます。
イコール、現場で色々なことを体験していない白紙のような人たちが選ばれるのです。
もちろん、素晴らしい裁判官もいるでしょうし、秀逸な判決文も読んだことがあります。
しかし、20代の実社会経験のない若い人が裁判官になるという現実があります。

裁判官は、裁判所にいればほぼ裁判に関する業務は行えるでしょうし、それが当たり前だと思っているのでしょう(私は、性格的に同じ場所にいつもいるのは無理かもしれないと思いました)。
しかし、弁護士は、色々なところに行き、色々な人に会い、移動中に書面を書いたりしなければなりません。
コンピュータのバッテリーだって、外出していれば減ることだってあるでしょう。

私は、高野弁護士のブログを読んで、かりに刑事事件の被告人になるなら、日本ではなくアメリカで裁判してほしい、と思いました。
どんなに、学問ができたとしても、実社会での経験の乏しい裁判官に自分を判断してほしくないと、感じてしまいました。

実際、私の友人弁護士と話をしていると、酷い話をたくさん聞きます。
でも、裁判官が事件を裁くわけだから、おとなしくしているという状況なのです。

日本にいると、この妙な関係があり、弁護士は耐えるしかないわけです。
日本で、高野弁護士のようにブログにする弁護士は少ないと思います。
刑事事件のエキスパートならではのブログといえるでしょう。

私が今回取り上げた、裁判官が法廷のコンセントを使うな、と発言したことについて、私自分、根本的な違和感を感じているが、なんだろうと考えていました。
高野弁護士は、弁護権の侵害だ、とかいうことも書面に書かれていましたが、もっと根本的ななにかあると感じていたのです。

アメリカでは、当たり前ですが、弁護士はan office of the Courtとされています。

たとえば、アメリカ法曹協会のモデル弁護士倫理前文では、an officer of the legal systemと規定されています(https://www.americanbar.org/groups/professional_responsibility/publications/model_rules_of_professional_conduct/model_rules_of_professional_conduct_preamble_scope/)。
この意味は、弁護士は司法制度において、正義と効率良い運用の義務を負うもので、その者には、裁判官、法廷に立つ弁護士、廷吏、裁判所職員等が含まれるということです。
弁護士は裁判所で虚偽の発言をすることはできず、真実を述べる継続的な義務を負っています。
そして、弁護士も裁判官も、憲法、およびその精神を絶対的に守るということを就任するときに誓います。

上述したように、アメリカでは、法曹一元ですから、法曹となれば皆同じ憲法遵守の誓約をし、裁判所、ひいては裁判制度の一職員となるのです。
したがって、法廷に入れば弁護士も、一職員となるわけですから、法廷全体に適用されるルールは裁判官の指示には従うものの、コンセントを使ってはいけないということはありえないのです。
法廷にいる職員や速記官などは、常時コンセントを思いっきり使っているわけですから、同等に弁護士も使えなくてはおかしいのです。
また、法廷に入れば、裁判官であろうと、弁護士であろうと、その義務は、憲法を遵守して、効率良く裁判制度を運用することであり、皆のゴールは一つです。

以上のように、裁判官も弁護士も何がゴールなのか考えると、横浜地方裁判所の訴訟指揮でコンセントを使うな、というのは、ひいては事件解決にまったく資さないと思うのです。
逆に事件解決のためには、弁護士がやりたいようにやらせてあげたほうが、事件の進行、裁判制度の運用にも解決にもプラスになると思うのです。

私は、日本の裁判所で、こういう理解できないことが起こっているのが不思議でなりません。
そもそも被告人にとっても大迷惑な話ですし、こういった些末なことをすぐに解決できない裁判所であれば、国民の信頼もどんどんなくなっていきますよね。

 さて、今回は長くなったのでこの辺にしてまた新しく次回から皆さんからいただいている質問を考えていきたいと思います。

運動の秋です。
まだ日中暖かいですから、体を動かして、健康に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。

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作成者: jinkencom

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