アメリカ永住権者の再入国_1465【じんけんニュース号外】

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1465回 弁護士 鈴木淳司
04-05-2025

米永住権保持者のアメリカ再入国拒否?

この数週間、移民法に関する質問が激増しています。変則的な執筆になりますが、そのトピックを取り上げたいと思います。

その質問の内容は「米国永住権を保持してアメリカで生活しているが、日本を含む外国にでかけ、アメリカに戻って来るときに、米国市民権がないために、勾留されたり、アメリカに入国ができない不安がある」というものです。

第二次トランプ政権発足後、この一ヶ月程度の間で、永住権を持った人(ヨーロッパの方)がアメリカへの再入国を拒否され自国に戻ったとか、アメリカ国内で滞在資格があっても、一旦アメリカを離れて戻って来られなくなった、という事例をニュースで聞いている方が多くいるようです。

アメリカの永住権は、アメリカに永住する資格(地位)を持ちますが、同時に、必ず外国のパスポートも持っているわけです。
いわば、戻ることができる自国を持っていることになります。
したがって、自国への強制送還ということも十分に考えられる事態ではあります。

最近のニュースをみると、何か誤解があってアメリカの入国を拒否されたのではないか、ということもあり、永住権保持者にも不安が広がっています。

移民「行政」は国の裁量の余地が広いー政権の影響を強く受ける

移民行政というのは「行政」ですから、ある程度政府の裁量に常時左右されているものです。
同じ永住権を持っていても、個別具体的に入国の可否は変わってきますので、一概にどういう状況であれば、アメリカに入国できるのかは断言ができません。

また、第二次トランプ政権においては、自国保護を第一にかかげているために、永住権を持っている方を含め、外国人の入国に関してはかなり厳格に審査をしていますし、今後しばらく、この傾向が緩和されることはなさそうです。

最近報じられたニュースは、永住権保持者でもアメリカへ入国を拒否されるというシナリオであるため、今までは問題なく暮らしていた方たちの間にも動揺が広がり、私の所属する事務所にもたくさんの質問が来ていますし、法律ノートの読者の方々からも問い合わせが来ている状況です。

今回の状況を踏まえて、市民権を申請するという方も激増しているようです。

永住権保持者でも再入国できない事由

以下、現状施行されている法令をもとに、どのような事由が永住権を持っていてもアメリカ再入国時に問題になり得るのか、考えて行きましょう。

法令は存在するものの、移民行政の実際の運用・適用時には、ときに拡大的に解釈されたり、誤認される場合もあり得るでしょう。

一時的にアメリカを離れるのであれば、アメリカ再入国時に何らかの疑いをかけられ問題が発生しないように、対策をしておきたいものです。

ソーシャルメディアをAIで分析

特に、最近注意しなければならないのが、スマートフォンやコンピュータです
何らかの疑いをかけられた場合には、それらの内容をチェックされることも増えています。

特に、ソーシャルメディア(SNS)などを使われる方々は、どのような思想を持っているのか、どのような情報に接しているのかなどを、AIを使って分析されます

特にテロ関係に関しては、現政権は敏感になっていますので、やぶ蛇にならないように気を遣っておくことが常時求められます。

SNS上の表現方法には注意

皆さんも御存知のように、考え方の多様性は否定される傾向にあります。特に政治的な表現については、気を付けた方が良いと思います。

ちなみに、私もこの手のソーシャルメディアを端緒とする捜査などには実務で接していますので、私自身はほぼ、ソーシャルメディアなど公に情報を出すことを自発的に抑えています。

パッシブに情報を得るために使っている場合もありますが、それ以外は自分の判断としてやめています。
どこでどのように見られているか分かりませんし、仮に何か載せたとして、どのような角度で解釈されるか分からないからです。

よくYoutubeに顔を出して、色々話している人がいますが、自衛のためには、ある意味危険を伴う行為だと思います。

とにかく、ソーシャルメディアなどは現状で非常に使い方にセンシティブになるべきものだと思っています。

グリーンカードを取り消される可能性

さて、グリーンカード(米国永住権)を持っていても、以下のような理由で米国移民局(USCIS)または他の移民当局により取り消される可能性があります。

1 犯罪行為

以下のような犯罪で有罪となった場合、強制送還、また再入国拒否の対象になる可能性があります。

(1)重罪(Aggravated Felonies)
たとえば、殺人、強盗、不同意性交、麻薬売買、売春関連などです。
(2)道徳違背の犯罪(Crimes Involving Moral Turpitude)と呼ばれるものです。
これは移民法独自の罪の仕分けの方法で、判例・移民審判により蓄積されてきているもので、明らかなリストはありません。
この「道徳違背」にあたるかどうかは、行政の裁量が大きく働くところです。
ある程度言えば、人に迷惑をかけるような罪を広汎にカバーしています。
たとえば、詐欺や窃盗などが考えられます。
(3) 家庭内暴力や児童虐待の罪で有罪になる場合

(4)薬物関連犯罪
が挙げられます。

第二次トランプ政権は、特に(1)重罪-Aggravated Felonies-について、断固として強制送還をするという姿勢です。
現政権は、当初違法な移民を対象にしていましたが、(1)重罪-Aggravated Felonies-の犯罪歴がある場合には、 出国前にアメリカ国内でWaiverを取得するなどの方法をとっておき、米国外渡航を考えないといけません
もちろん、以前に強制送還を免れたというケースにおいても、注意が必要になります。

(1)重罪-Aggravated Felonies- に当てはまる永住権保持者は、弁護士に相談することが重要だと思います。
(2)道徳違背の犯罪-Crimes Involving Moral Turpitude- についても、犯罪の種類や重さによっては強制送還の対象となるわけですから、もしも犯罪歴がある永住権保持者の方は、注意しなければならない時期ではあると思います。

2 永住意思の放棄(居住放棄)がある場合

次に再入国の際に、永住する意思が認められないとされる場合があります

(1)長期間米国外に滞在し続けた場合(再入国許可なし):通常6か月以上、一年間まではグレーゾーンと考えられている。
(2)他国に永住の拠点を作ったとみなされた場合
(3)米国に永住する意思がないと示す言動をした場合

上記に当てはまると、米国永住権を放棄していると考えられる場合があります。

ただし、私が事件として以前扱った事例のほとんどは、永住権を持っていると、いったん入国管理のところでは入国が許され、後日移民局に出頭して、永住の意思を確かめられるというパターンがほとんどでした。
現政権ではこの方針が変わるかもしれません。

したがって、アメリカを離れる際には、アメリカが生活の拠点であると示せる書類をできるだけ多く携帯しておくことが良いと思います。

たとえば、不動産を持っていれば、その関連する書類、家族がいればその写真や連絡先、仕事をしていれば、そこで働いていることを示せる書類、保険などに入っていればその書類など、永住していることを示せる書類を持っておくと、申し開きが簡単になると思います。

また、長期にアメリカを出る場合には、再入国許可証を取得しておくことを強くお勧めします

3 移民局に対する詐害的、虚偽的な申告

永住権を得る際に、虚偽の事実や偽造書類を使った場合、申請時になんらかの事実を隠したりした場合、たとえば偽装結婚などをした場合には、永住権を取り消すことができると移民法に規定されています。

当たり前といえば当たり前なのですが、仮に思い当たる方がいらっしゃったら、弁護士に相談してなんらかの対応ができる場合には法に基づいて、対処したほうが良いと思います。

ただ、すでに虚偽の事実に基づいて永住権を取られている方がいらっしゃったら、入国拒否の可能性は否定できないので、アメリカを離れるのは注意したほうが良いと思います。

4 条件付き永住権

婚姻または投資に基づいて、条件付き永住権(Conditional Permanent Resident)をお持ちの方々については、条件を解除する行為を怠ると、再入国が拒否される可能性が高いです。

(1)婚姻による条件解除のためのForm I-751の未提出
(2)投資による条件解除のためのFormI-829の未提出
(3)追加で要求されている面接および証拠の提出を怠った場合
などが考えられます。

これらの条件をきちんと満たしていないと、永住権を持っていないとみなされる可能性があります。

アメリカから出国する前にかならず、条件を満たしていることを確認されてから、出国してください。

5 移民法違反

米国移民法に反する事実が明らかになったときも、入国禁止になる可能性があります

たとえば、米国市民でないのに選挙で投票した、また米国市民であると虚偽の申告をした、といった場合には、移民法に反する行為として、再入国が禁止される場合があります。
誤解を招くようなこと、たとえば選挙に関するあからさまな活動をするなどは控えるべきだと思います。

6 国家の安全

米国保護を強調する現政権下では、この国家の安全に関する観点が上記1に述べた犯罪歴とともに、かなり重点的に考えられています。
そして、捜査を担当するICE(U.S. Immigration and Custome Enforcement 移民関税執行局)が近時重点をおいているのが、国家安全に関することです。
現政権は「国家安全」をかなり拡大的に解釈していますが、これから裁判で争われる事例も頻発すると思われます。

「国家の安全」を脅かす内容は大きく分けて
(1)スパイ行為
(2)テロ活動、そして
(3)米国の国家安全保障への脅威
という3種類になります。
これらの疑いがあれば、再入国を禁止できるとしています。

再入国拒否の根拠事由は広く曖昧に

ここで、注意しなければならないのが、上記の行為に直接的に関わったことまでは必要ではなく、あくまでも「疑い」程度で足りるとされていることです。
もちろん実際に関わっていたら移民法だけではなく、テロ防止法などで、刑事事件化するわけですが、「疑いがある」ということだけで、永住権を保持していたとしても、再入国拒否の基礎とできることになります。

今回ヨーロッパから再入国しようとして、入国を拒否された方も私が調べた限りでは、この「疑い」によっての入国制限だったと思われます。
この「疑い」については、行政の広汎な裁量によって対応されることになりますので、どのような理由をつけられるのか、ブラックボックスなのです。

少なくとも前述したように、ソーシャルメディアなどの使用には十分気をつけたほうが良いと思います。

現状においては、上記のうち 6 国家の安全という枠組みが法律的にも行政の広汎な裁量を許しています。政権による指針はなく、かなり広汎に解釈されているのが実情です。その意味でも、くれぐれもインターネットのように公に情報がアクセスできる行為は、誤解を招かないようにしてください。

以上、上記が永住権を持っていても再入国でトラブルになる理由で、その他の理由は法定されていません。

入国トラブルに遭った場合の対応

仮にアメリカ再入国時にトラブルになった場合には、どのカテゴリーで問題視されているのか、自分なりに特定し、そのカテゴリーにあった弁明をするのが良いと思います。

上記をご一読いただき、それでも不安が残る方々は、いろいろな入国拒否の事件が裁判で争われて落ち着くの待ってから、アメリカを出国された方が良いかもしれません。

市民権の取消しもある

この不安な時期に慌てて市民権を申請する方もいらっしゃいますが、仮に市民権が許可されたとしても、出生によって市民権を得ているわけではなく、帰化して市民権を得た永住権保持者は、場合によっては市民権の取消をされてしまうこともあります
たとえば、元ナチスに所属していた人が市民権を得て50年以上経っても、ドイツに強制送還されるという事例もありました。

特に、上記6の「国家安全保障への脅威」の疑いについては、現状ではかなり大掛かりに捜査が行われ強制送還も行われています。
とは言え、主に調査対象とされているのは、アメリカにまったく滞在資格のない不法滞在者であるので、永住権保持者の場合とは分けて考えるべきだと思います。

アメリカに留まり現状の注視を

現政権が様々な改革を推し進めていて、不安定で見通しがきかないことが多いですから、移民行政に対する司法による判断や、政府による明らかな指針がでてくるまでは、しばらく動きを控えるのも一つの考え方だと思います。

永住権保持者やビザ保持者はアメリカ国内に滞在している以上、強制送還前であれば、アメリカ合衆国憲法が適用されるので、デュープロセスなどを使って司法において争うことが可能です。
その意味でも、不要不急であれば、現政権の指針が落ち着くまでは、アメリカ国内に留まっておくことが無難かもしれません。

一方で、日々現政権の方針は変わってきているようですので、その動きは敏感に抑えるために、ホワイトハウスの広報を含め、注視することも重要だと思います。


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