法律ノート 第1432回 弁護士 鈴木淳司
Aug 25, 2024
大統領選挙を見据えた民主党大会がシカゴで開かれました。
私も実務で相対した検事が大統領候補になりましたね。
特に、オバマ夫妻のスピーチはそれぞれとても引き込まれる要素を持っていました。
なんとなく、共和党は現実眼の前にある問題に関して訴えかけ、民主党は将来の夢を訴えかける構図になっていると思います。
被害者の権利保護と刑事事件_1432
さて、今回は皆さんからの質問にお答えするのは一回お休みさせていただき、最近私が実務で感じたことを考えてみたいと思います。
事件は不同意性交罪で、私は被告人男性の弁護人に就任しています。
日本でも、性的な暴行罪だけではなく、「同意」というところに着眼した不同意性交罪が近時制定されたので、どのような罪かご存知だと思います。
今の時代、刑事法の罪に問われるか否かは、性的関係を持つにしても、同意の有無が重要になり、従来の暴力、脅迫等の有無が二次的になってきています。
以前は罪にならなかった、すなわち被害者が泣き寝入りしていたような事例に関しても、刑事事件として立件できるようになってきたわけです。
このような「同意」に注目する流れは、時代や社会の移り変わりもありますでしょうし、その移り変わりが法律を制定する政治にも影響している現れです。
私は法を使う側で、基本的に作る側の人間ではないので、何も意見があるわけではないのですが、私が弁護士をやっているこの30年近くの期間でも、このような変化は体感しているところです。
そして、私が実際に関わっている法律実務にもかなりの変化をもたらしていると感じることが最近ありましたので、考えてみたいのです。
私は刑事事件を今までライフワークとして扱ってきました。
刑事弁護人に友人も多いですし、最終的には多くの場合、お金で解決する商事事件と違って、色々な勘を培い研ぎ澄ますためには、弁護士として持っておくべき能力を維持できるからです。
今までも異性に対する暴行罪、不同意性交罪などを手掛けてきましたが、最近受任して活動している不同意性交罪において、困った事態が発生しています。
私は、男性被告人の弁護をしているわけです。
本人は「同意のうえ性交をしていている」と主張しています。
もちろん、私も百戦錬磨ですので、被告人本人の言っていることは主観として捉え、すべて裏付けを取ります。
カリフォルニア州では、証拠の可視化がかなり進んでいるので、検事と何度も話をして、取り調べ(被告人も被害者も含め)のビデオをすべて確認したり、出てきている証拠をすべて確認したわけです。
そのうえで、被疑者の警察官に対する陳述を踏まえても、被告人の言っていることと合致しているのです。
検事と何度も話し合いをして、検事自身も立件できるかどうかはわからない、弱い事件であることを認めています。
じゃあ、起訴取り下げてくれよ、と言っても、ある一つの問題が立ちはだかってしまっていて検事も私も動きようがないのです。
その問題というのは被害者です。
被害者は日本人女性で、カリフォルニア州で「被害者」となりましたが、すぐに日本に帰ってしまいました。
なので、検事にしても、私にしても、直接被害者の話を聞く機会がまったくないのです。
私は何度か被害者に話を聞きたいと、被害者の帰国前に連絡をしましたが、被害者は、私と直接話すことを避け、色々腑に落ちない事情があるのですが、弁護士を介在させ一切の話を遮断しました。
カリフォルニア州では性犯罪被害者は弁護士に委任して、直接一切の話しをしなくても良い、という法律(マーフィーズロー)があり、権利としては、この被害者も私と直接話す義務はありません。
犯罪被告人は、もちろん被害者と直接連絡を取れませんが、その弁護人である私は、直接被害者と話せる立場にあるのですが、この法律があるので、完全にブロックされている状況です。
そして、検事にしても、直接話しをしたいが、実質的にアクセスが困難で話すことができないような状況にあります。
被害者がいなければ成り立たない犯罪なのに、その被害者が一切検事と私と話をせずにのらりくらりしているわけです。
これでは、事件を解決しようと思ってもどうにもなりません。
また、被害者はすでに日本に完全に引き上げているわけですから、現実的に考えてわざわざアメリカに証人として来るということも考えにくいわけです。
とにかく、「塩漬け」になってしまい、関係者が振り回されています。
今まで、私が性的犯罪を担当した場合、多かれ少なかれ、被害者はどのような状況であったのか、直接話しを聞かせてくれました。
そのことで私が担当していた、すべての事件が解決に至ってきたと思います。
被害者の気持ちや考え方を理解しなければ、真の解決にたどり着けません。
これは検事も一緒です。
性的被害者に関する保護について、私は政治家でも評論家でもありませんから、意見はいえません。
政治家が考えて法律をつくったのですから、その法律を使うのが私の仕事というだけです。
被害者を弁護する機会には、つかっていくことになるでしょう。
一方で、私は今まで考えたことのない刑事事件の遅滞に直面しています。
検事とも話をしているのですが、双方困っています。
また、今回の事件は、英語があまり得意でない被害者に加え、マッチポンプのように、事件をさらに複雑化させるおせっかいおじさんが出てきて、検事も私もため息をついています。
暇を持て余しているのでしょうが、誰の利益にもならないのに自分の正義を振り回すというのは周りにとても迷惑です。
被害者にしても、長期にわたって裁判に関わるというのは、精神的にもよくないことだと思います。
検事にしても税金で賄われているわけで、遅滞を好きで生じさせているわけではありません。
とにかく、この手の犯罪を解決するには、被害者の同意の有無を検事も弁護人も直接事情を聞かなければなりませんが、その被害者にまったくアクセスできない状況に頭を悩ませています。
以前に、死体のない殺人事件というのに関わったことがあるのですが、今回の事件も被害者の意見をまったく聞けない不同意性交事件、という感じでしょうか。
事件解決はどのようになるのか、五里霧中とはこのことです。
次回は、皆さんからいただいている質問をまた考えていきたいと思います。
今週から、少し秋めいた空気になってきたと思います。
夜の肌寒さが違ってきました。
日本はまだまだ暑いようですが、カリフォルニアでは秋が少しずつ近づいてきているのかもしれません。
あと、3分の1しか2024年は残っていませんが、皆さんも私もやることはたくさんあると思います。
また一週間無理をせずにがんばっていきましょうね。
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