法律ノート 第1356回 弁護士 鈴木淳司
Mar 6, 2023
先日、使っているスマートフォンの電池の寿命だったようで、新しい機種に買い換えるか迷ったのですが、電池を交換するためにショップに持っていきました。
店員と話をしていると何度も「2時間ほどお預かりしますが、問題ないですか」と何度も念を押すのです。
どうも、最近の人はひと時でもスマホがないと生きていないので念押しをするのですね。時代は変わったものです。
さて、実は私のミスで法律ノート第1328回から考えていたトピックを中途で飛ばしていたみたいなのです。
途中まで考えて、内容が別のものにジャンプしてしまったようです。
読者から続きについても興味があるというご連絡をいただいておりまして、ここで一旦戻りますが、1328回で考えたトピックに戻りたいと思います。
途中から書くと何を言っているのかわからなくなりますので、以下、1328回の文面を最初に貼り付けさせていただき、その続きを考えていきたいと思います。
米国で交通事故、提訴は出訴期間内に(1)_1328
さて、今回からまた皆さんからいただいている質問を考えていきましょう。
いただいた質問をまとめると「昨年、日本から到着しサンフランシスコ市内のホテルに泊まってから、郊外の親族に会いに行く予定でした。サンフランシスコ国際空港で車を借りて、市内まで走っていたところで接触事故に遭いました。そのときはレンタカー会社に電話をして、アドバイスをうけポリスレポートを出しました。その後、病院に行った家族がいたので、治療費を請求したいと思ったのですが、相手方がどうもサンフランシスコ市の車ということで、訴訟にもできないと言われてしまいました。弁護士にも相談しました。なぜ、相手方がサンフランシスコ市だと訴訟ができないと言われるのでしょうか」というものです。
今回いただいている質問は、交通事故に関する質問です。
よくある内容ではありますが、通常ある相談内容と一つ大きく違うところは相手方です。
以下考えていきましょう。
出訴期間は事故後2年間以内が一般的
カリフォルニア州で、交通事故に遭うとしましょう。
そうすると、交通事故が起こった日から、相手方に対して2年間以内に裁判を提起する必要があります。
裁判を提起しないと、「出訴期間」というのが経過するので、相手方に対して、裁判所を通してクレームを提出できなくなるのです。
「出訴期間」というのは、時効と混同されることが多いのですが、私の理解としては、門前払いになってしまうのが、出訴期間であって、時効というのは、実際に裁判所が審理に入り、お互いに主張してから裁判所が決定する性質があります。
ですので、出訴期間というのは、それが経過すると裁判所はそもそも実質的に審理もせずに門前払いに遭うような状況を言います。
そうすると、事故に遭ってから2年経過すると、裁判所は門前払いすることになります。
事故から2年経過するまでに、何か身体的や精神的な問題が明らかになるだろう、という前提です。
実は、カリフォルニア州における交通事故の出訴期間は以前の立法では1年でしたが、2年に延ばされた経緯はありますが、1年ではちょっと短いという立法側の判断でした。
事故が生じてから2年間は、裁判所の介入なくして、たとえば相手方の保険会社と保障について話しあうことができます。
弁護士が入ったとしても、事故後2年間は裁判を提起することなくネゴをすることになります。
1年間では少々短いという弁護士側からの不満もあったのかと思います。
アメリカ全土で、ほぼ現在では事故後2年間が出訴期間ということになっています。
行政機関が相手の場合、特別な法律がある
今回も、事故にあったのがそこまで昔ではないので、出訴期間には間に合っているではないか、ということになりますが、違うのは相手方です。
カリフォルニアでも(連邦でも、他州でも似ていますが)他の行政機関と同じように、政府に対するクレームには一般の人身傷害に関するクレームとは違った法律が適用されます。
カリフォルニア州ではCalifornia Tort Claims Act(CTCA)と呼ばれる法律が制定されています。
政府に対して何か文句を言うのであれば、特別な法律に服することになるのです。
たとえば、今回質問にあるような、サンフランシスコ市に対してクレームを提起するには、出訴期間も一般のクレームよりも短く設定されていて、サンフランシスコ市(他のカリフォルニア州の行政も含みますが)に対して法的な措置を行うには、一般よりも短く設定されています。
CTCAでは6か月以内
今回質問があるような人身傷害については、CTCAにおいて、たとえば少なくとも6ヶ月以内に政府に対してクレームをしなければならないと決められています。
したがって、今回質問されている方が、事故が遭ってから6ヶ月以上経過している(たぶんそのような状況だと思いますが)状況であると、サンフランシスコ市に対してクレームを入れられないような状況になってしまうのです。
米国で交通事故、提訴は出訴期間内に(2)_1356
さて、ここから、第1328回の続きです。
CTCAとは
CTCAというのは、かなりカリフォルニア行政に対する訴訟を制限する立法であります。
交通事故以外にも、行政が運行しているバス電車が絡む事故、火災、営造物から生じる傷害、医療過誤、騒音被害、学校におけるスポーツ事故、暴行傷害など故意ある不法行為など、幅広い人身傷害や物損についてカバーしています。
まず相手方に行政関係者がいないか確認
したがって、みなさんがなにか事故や、事件にカリフォルニア州で遭遇してしまった場合、もちろん体のことを考えることが第一なのですが、医療費などの費用支払いを求めていく場合には、相手方に行政関係者がいないか早期にチェックすることが必要なのです。
怪我をしていたり入院をしている場合、6ヶ月というのはかなり早く経過してしまうと思います。
ですので、行政が絡んでいる場合にはクレームを出すということについては面倒ですが、どこか頭の隅にいれておいてください。
期間内に訴訟提起できなかったら
かりに、6ヶ月以内に州、郡、市などカリフォルニアにある行政機関に対して訴訟を提起できない場合には、いくつか例外がありますが、かなり制限されています。
たとえば、この6ヶ月の期間内に訴えを提起する者が未成年者であった場合、訴えを提起する者が死亡している場合などに限られます。
この6ヶ月の制限を知らなかったという法律の不知は理由にならないのです。
どの行政機関にクレームするか
では、実際にクレームをファイルする場合にはどのようにしたら良いのでしょうか。
カリフォルニア州内の行政機関はいくつものレイヤーが存在しています。
州、郡、市などです。
どの行政機関かわかっていれば、その行政機関に対して、クレームを出します。
親切な行政機関はどこにファイルするかウェブサイトで告知していますので、チェックしましょう。
行政機関によっては、フォームを用意していますのでそれを利用します。
フォームが用意されてない時のレター
フォームが見つからない場合には、以下の内容を書いたレターを受け取りが確認できる郵便やクーリエを利用して提出すれば良いと思います。
含める内容は
①クレームをする人の名前と住所、
②行政からの通知を受けられる場所(住所)
③人身事故の日付
④人身事故の場所
⑤人身事故の内容
⑥事故に関わった行政機関、その被用者名(判明していれば)、そして
⑦損害額です。
損害額は1万ドル以下であれば、その詳細を記載する必要があります。
それ以上であれば、損害の概要が2万5千ドルを超えるのか超えないのか、ある程度の明細を含め全体像が見えれば足ります。
少なくともこれらの情報を行政機関に提出して受理されていれば、齟齬や送達に若干問題があっても6ヶ月のクレームを入れる期間は温存されると思います。
行政への請求自体が難しい場合もある
このように、出訴期間一つとっても、行政に対して人身傷害に関する請求をするのはハードルが高くなっていますが、請求それ自体も実はハードルが高いことがよくあります。
今回の質問とは異なるので、あまり深く突っ込んで今回書きませんが、私が体験したケースをご紹介しておきましょう。
あるカリフォルニア州立の大学で留学生を泊めるホストファミリーが盗撮をしていたという事例がありました。
私は学生を代理してホストファミリーと州立大学を相手にして訴訟をしました。
悪いのはホストファミリーですが、財産が乏しく、どこまで賠償金を取れるかわからなかったので、大学も相手取って請求を立てたのです。
しかし、争われたのは、このホストファミリーというのが大学の被用者であったか、という点でした。
CTCAでは、かりにクレームを期間内に出したとしても、行政機関の責任を制限するために行政機関が管理をしている被用者に対してのみ請求が可能という規定をしているのです。
現在では州立大学もお金稼ぎのために、かなり高額な費用をとって留学生を集めています。
また、ホストファミリーも大学が斡旋しているので、つながりも明らかにあります。
しかし、ホストファミリーは「被用者ではない」と裁判所は判断したので、州立大学の責任追及は叶いませんでした。
もちろんホストファミリーに対しては、ちゃんと勝訴的な和解で最終的には金銭を得ることができたので、満足に終わることができましたが、この事件でも行政が絡む事件の難しさを感じたものです。
今回質問されている方も、すでに事故から6ヶ月が経過して行政機関に対してクレームを入れられていないのであれば、その後の訴訟の提起は難しいかもしれません。
その場合には、自賠責保険、健康保険など利用できる自己の保険を利用して対応をするしかないかもしれませんね。
次回は、新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。
カリフォルニアの山間では雪がすごいことになっています。
体調に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。
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