法律ノート 第1353回 弁護士 鈴木淳司
Feb 13, 2023
日本の上場企業会長に同行して出張をしていました。
昭和から駆け抜けて今年88歳。
力強いゴルフもされるし、ビジネスセンスもキレキレです。
経験を積み信念を持ち、そしてその信念に基づいて実行できるという姿から色々習うことがあり近くにいて私は幸せに思いました。
皆さんは日々刺激を受けていらっしゃいますか。
アメリカで交通事故 賠償請求は?(1)_1353
さて、今回からまた新しくいただいている質問を考えていきましょう。
いただいた質問をまとめると「ニューヨーク州在住の者です。ラスベガスを経由してベイエリアに家族と遊びに行ったときに交通事故に巻き込まれました。現地の友人の勧めで紹介された弁護士に委任をして損害賠償請求を相手方に請求しています。すでに事件は和解に向かっているのですが、私の友人は和解金額が低いということを言い、他の弁護士にも相談したほうが良いと言っています。私としては、現状和解しても良いのかと思っていますが、何か基準となる考えがないかと思っています。」という質問です。
損害賠償事件は保険会社が支払う
最近、どこに出張しても高速道路から見るビルボードには大きく交通事故専門弁護士の宣伝を見ます。
交通事故の事件というのは、保険会社が絡みます。
どこの州でも最低限の対人対物保険の加入を法律で義務付けているので、車の所有者は原則保険に加入しています。
したがって、損害賠償事件になると、保険会社が支払うというのが一般的になりますので、事件を担当する弁護士にしても、保険会社の支払いが引き当てられるので、いわゆる完全成功報酬制で事件を引き受けます。
完全成功報酬制とは
完全成功報酬制というのは、事件が解決するまで弁護士の費用は一切発生しないという受任の方法です。
保険会社の支払いが想定されるので弁護士も、取りっぱぐれがないので、依頼者の資力を考慮せずに事件が進められるのです。
ちなみに交通事故の弁護士報酬は、最終的な和解金の3分の1になっているところがほとんどです。
よく、私の所属する事務所に電話がかかってきて、成功報酬で事件を受けてくれ、という依頼がありますが、基本的に弁護士が完全成功報酬制で受任するのは、交通事故を含むごく一部の事件だけということは理解する必要があります。
完全成功報酬と弁護士の利益
さて、今回は和解金が妥当なのかどうか、という質問ですが、上述したように、完全成功報酬制で事件が進むと、依頼者である損害を被った人の利益だけではなく、実質的に弁護士の利益も絡むことは理解できると思います。
弁護士はパーセンテージを報酬として受けるので、もちろん金額が高い方がベターなわけです。
一方で、はやく和解をして、キャッシュフローを作ろうとする弁護士もいると思います。
ですので、その弁護士の考え方が事件に影響することは十分にありえます。
交通事故の事件ばかりに頼る事務所の台所事情はわかりませんが、気にするべきポイントかもしれません。
保険会社は治療の程度を評価する
保険会社が損害を填補する際にどんぶり勘定でやっているわけではなく、基礎的な事故に関する事実に争いがなければ、損害はどの程度の治療が必要であったか、という評価が基礎になります。
後遺障害も医師が判断すれば金額が決まりますが、基本的には治療の金額が基礎になり算定されるわけです。
そして、手術など医師が必要と判断した治療と、ムチ打ちのようにわかりにくい治療とでは、保険会社の視点からは重さが違うと考えています。
したがって、かりにどのような大きな事故であっても、まったく治療がいらない場合には、保険会社も支払いを渋るということになります。
一方で、治療が重度であれば、保険金の支払いも大きくなるということになるわけです。
治療の金額が保険金の支払いの基礎になりますが、それに加えて日本で言う慰謝料(アメリカではPain and Suffering)が支払われます。
慰謝料において車の支障は一般的に評価外
車が使えなくなり支障が出たという事実は一般的に評価されません。
痛みではないからです。
ですので、治療の金額が基礎となり、慰謝料も決まってくるのです。
30年ほど前はこの慰謝料の支払いがとても良かったので、交通事故専門の弁護士が跋扈していたのですが、それから20年ほどの間に慰謝料の支払いは細ってきています。
慰謝料の額は事例次第
治療の金額を1として、現在では慰謝料は少ないときには0.5から1の間になると思います。
多いときもたくさん考えられますが、治療の難しさ、長さなどから、7程度になる事例も見たことがありますが本当に事例次第ということになるわけです。
これに後遺障害も加わると、大きな数字になってくるわけです。
ここから次回続けていきたいと思います。
次回は物損についてはどのように考えられるのか、またご友人のアドバイスをどのように考えるのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
私はこれからスーパーボールを見ようと思います。
皆さんも、週末を楽しんでお過ごしくださいね。
それではまた来週まで健康に留意しながらがんばっていきましょうね。
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