法律ノート 第1355回 弁護士 鈴木淳司
Feb 27, 2023
梅や桜が花をつけはじめたと思ったら、今週末になってベイエリアは信じられないくらい冷え込んでいます。
またダウンジャケットを引っ張り出して厚着しないとならないです。
かなり低い標高まで雪が降っていて、今まで体験したことがないほど雪が近くに迫っています。
週末、天気が悪いので、このところ急ピッチで進めている、古い事件の電子化、すなわち紙のスキャンをやっていました。
今回は皆さんからの質問にお答えするのを一回休ませていただき週末思ったことを書かせてください。
読者からの最期の手紙_1355
今週末、市内の倉庫一つ分ある書類をすべて電子化する作業がやっと終わりました。
どこにいても過去の事件を参照できますし、若手の弁護士らにも事例の参照がしやすくなります。
外注すればいいじゃないか、と言われたこともあります。
しかし機密情報がほとんどで外部に書類を出すことは躊躇されます。
法律事務所のなかには、平気で書類を外部に出して電子化しているところもあるようですが、私には理解できません。
時間がかかっても、クライアントの方から託していただいた事件ですので、一件ずつ、事務所内で手分けして大きな倉庫一つ分の電子化を行いました。
まだ、倉庫がもう一つあるので作業は続きそうですが一区切りつきました。
私自身も週末などを使って、かなりスキャンしました。
ファイルを手にすると10年前、20年前の事件でも、まだ事件をやっているかのように思い出すものです。
法律事務をやっていると、基本的にどのような書類も取っておくもので、懐かしい書類や手紙も出てきました。
私が弁護士になって5年目くらいに受け取った脅迫状もわざわざ事務員の人が取っておいてくれたようで、今になって事務所の皆と内容を読むと笑ってしまうようなものも出てきました。
当時も妥協せずに訴訟をたくさんやっていたので、たぶん相手方になった日本人の人なのでしょう、私のことを「悪徳弁護士」とか「法律ノートの連載やめろ」などと日本語で書いていました。
被害者の会を結成する、などとも書かれていました。
悪徳弁護士など、相手になった当事者から言われるのは、それだけこちらの訴訟進行がうまくいった裏返しですし、結局法律ノートは今でも続いています。
被害者の会ができたのか知りませんが、あれから20年何も音沙汰はありません。
今の若手弁護士にこの匿名の脅迫状を見せると、まだ私が若いときから注目されていたと感心して笑っていました。
いつの時代にも匿名で卑怯なことをする人間はいるものですが、哀れなものです。
他方、法律ノート読者の方からいただいた手紙も出てきました。
事務所宛にいただいたものを一部事務所で管理していたようです。
特に2009年10月末、北米毎日新聞が廃刊になった頃、連載を労っていただく手紙がいくつも出てきました。
そのなかの一つに、76歳の女性からの手紙がありました。
法律ノートを読むのを楽しみにされていたこと、私が妹の結婚式に出席したことを法律ノートで書いたようで、それを読まれて優しかった亡きお兄さんのことを思い出されたことなどがとても丁寧な字で書かれていました。
がん治療をされていたようで、副作用で手が震えていると書かれていましたが、わざわざ私に感謝の手紙をくださりました。
また、弁護士としてこれからも頑張ってほしいと背中を押してくださいました。
北米毎日新聞廃刊後、コンピュータを使わないこの女性に、私は毎週の法律ノートをプリントアウトして、定期的に送ることにしました。
一年弱経ったころでしょうか、またこの女性から丁寧な字で二枚綴りの手紙が届きました。
がんの治療中だが、さらに白血病となったこと、旦那さんも80歳を超えて忘れがひどくなってきたことなどが書かれていました。
そして、今まで送っていた法律ノートも、なにか迷惑がかかると困るのでもう郵送しなくて良いという遠慮をされている内容でした。
心苦しく淋しくもある、と書かれていましたが、御自身の判断ですから、その後法律ノートを送付するのは控えました。
その手紙には、わざわざ第685回に書いたワイルドターキーの話題を取り上げていただいたりしていて、本当に法律ノートを楽しみにされていることがわかりました。
なんども感謝で綴られていました。
私の書いている文章を読んでいただけるだけで私が感謝しているのですが、どこまでも謙虚な方でした。
この読者からいただいた書簡を久しぶりに読んでいたら、なにか胸にこみ上げてきました。
最期の手紙をいただいてから、もう10年以上の月日が流れています。
思い立って検索をしてみると、すでにこの方もご主人も亡くなられていました。
地域で色々な活動をされ、つくられたトラストで、学校などに寄付をされていたようです。
このような感謝の気持ちが込められた手紙一つ一つが法律ノートを書いていこうと思う原動力になっているのだと認識させられます。
また、私も法律ノートを読んでくださっている読者の皆様一人ひとりに感謝を忘れずに、謙虚な気持ちで続けていこうと思いました。
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