法律ノート 第1096回 弁護士 鈴木淳司
Feb. 14, 2018
半分お笑いなのですが、私が窃盗の被害者になってしまいました。私は工事を自分でするのが好きで、週末にかっこよい壁を造りたいと思い、事前にインターネットで一つ25キロくらいするコンクリートの材料をオーダーしておきました。自分が運転する車にこの材料を30個乗せると重くて走れないと思って、ガソリンスタンドでリクルートしたメキシコ人のおじさんに現金を払うから運搬を頼みました。一緒にお店に行って、材料を積み込むと私が自分の車に行く間にトンズラされました。人を信用しない斜に構えた輩よりは人を信じて裏切られた方がまだ良いのですが、100ドルくらいの材料を窃盗して何になるのか、苦笑いしてしまいました。仕事もふくめ、今まで経験した事例で一番重い物を持って逃げられました。笑うしかないですね。
アメリカの司法制度ー連邦法?州法?(2)_1096
さて、前々回から考えてきた「米国法制度は連邦法と州法の二重構造で、裁判所も連邦裁判所と州裁判所の二重構造で、いずれも原則三審制とのことですが民事・刑事の事件について、連邦裁判所・州裁判所の管轄をどのように分けるのでしょうか。わける基準を教えてください。」という質問と、「国立公園内で飲酒運転の罪で逮捕されましたが、通常の飲酒運転とは裁判が違うと言われています。どのような違いがあるのでしょうか」という質問を続けて考えていきましょう。
国立公園での飲酒運転は州法?連邦法?
前回は日本とアメリカでは地方自治という考え方が根本的に違うということを考えました。アメリカの各州は日本の都道府県とは違って、かなり独立した自治能力を与えられていると思ってください。法律的な面を見ると、実際は各州とも似たり寄ったりです。一つの国ですから当たり前かもしれません。しかし、微妙な違いは確実に存在していて、各州がまず自己統治をしているという現実を理解してください。
まず、今回の質問を見ると、まずはその質問の対象となっている州法ではどのようになっているのか確認しなければなりません。州法に引っかかる刑事事件や、民事事件は、州法で対応されるのが原則ということで理解してください。今回の質問にある飲酒運転は、確実に各州で取り締まる法律があります。そうすると、まずは、州法が先行して適用されることになります。州の管轄内で逮捕されれば、その管轄内の州法によって判断されるということになります。
今回質問されている方は連邦の管轄である国立公園で逮捕されているようです。そうすると場合によっては、州と連邦の両方の法律が適用されるかもしれません。州の警察に逮捕されていないのであれば、連邦の法律のみ適用されたうえで、起訴となる可能性もあります。すると、連邦裁判所で判断される可能性があります。
今回質問されている方も、飲酒運転で逮捕されているのであれば、どちらの法律も適用可能です。そうすると、何か刑事的な問題が発生しているのであれば、事例によっては州でも連邦でも罪に問われる可能性はあるということになりますね。
連邦の法律が適用される場合
では、連邦の法律はどのような場合に適用されるのでしょうか。実は連邦憲法その他の連邦の法律で、連邦政府が口出しをできる事例は決められています。ここでは、いくつかご紹介しておきましょう。
まず、連邦で定められた法律に抵触する事例については、連邦政府が口出しをできることになっています。たとえば、連邦が専権を持つ、特許、郵便、そして移民関係などが挙げられます。これらの事項は連邦裁判所が管轄していて、事件になれば、州は口出しをできません。
次に、外国が相手方になるような事件については連邦が専権を持つことが憲法上決められています。通商の問題などは連邦政府の専権となります。
そして、州をまたぐ紛争、たとえば州対州の事件、あるいは麻薬の事件で州をまたぐ事件などは連邦の管轄になります。ここで、重要なのは、ニューヨーク州とニュージャージー州が、エリス島を巡って裁判をするのは確実に連邦の事件となり、州の裁判所は取り上げません。
しかし、たとえば、麻薬の事例などは、州の法律にも抵触しますし、連邦の法律にも抵触します。こういう場合には、ロス市警の刑事コロンボが出てきて捜査をしているときに、FBIの捜査員も捜査をしていて、一つのドラマになるということがあり得るわけですね。
相手が州内にいるかどうかで提訴先が変わる
私が今回25キロのコンクリートの塊を30個盗まれたという事例では、相手の人がカリフォルニア州内にいれば、州の裁判所に提訴することになりますが、メキシコにいる場合には、州および連邦の裁判所で提訴できることになるのかもしれません。
いつも、雨の多い2月ですが、カリフォルニアは暖かい日が続いています。夏の干ばつを気にしつつ、また一週間花の咲く気候をたのしんでいきたいと思います。風邪が流行っていますので、皆さんも気をつけてくださいね。
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