法律ノート第1446回 弁護士 鈴木淳司
Nov 30, 2024
サンクスギビングの週末、皆さんゆっくりされていますか?
私は仕事に追われながらなかなかゆっくり休むことができていませんが、これも2024年の特色として淡々とやっていくしかないですね。
皆さんはターキーや団欒を楽しまれているのでしょうか?
いつもは私も毎年ターキーを焼くのですが、今年は事情があって全くターキーを食べることができていません。
明るい来年を夢見ながら淡々と仕事をしています。
皆さんは楽しい週末をぜひ過ごしてくださいね。
前科とアメリカ再入国(2)_1446
さて、前回から考えてきた質問を続けて考えていきたいと思います。
「日本に在住しています。学生時代にアメリカに留学していたのですが、友人が最近日本に遊びに来ていました。会話のなかで、またアメリカに遊びに行くことになったのですが、実は学生時代アメリカで飲酒運転の罪で捕まり有罪歴があります。有罪歴があると、アメリカに再入国できないと思って今まで諦めていたのですが、最近になってインターネットで情報を検索すると、サイトによっては再度アメリカに入国することもできるとするものもありました。どういった場合、前科があるとアメリカに入れる(入れない)のか教えて下さい。」
道徳違背の罪による入国拒否
移民法では「道徳違背(Moral Turpitude)の罪」に基づいて有罪判決があると、原則として外国人は入国拒否となります(Alaka v. Elwood, 225 F. Supp. 2d 547 Doe v. AG of the United States,659 F.3d266)。
例外的に裁量による免除の可能性もあり、一定の条件下で再入国が認められる場合があります。
この「道徳違背」は移民法で使われる用語で、法律による定義はありません。
アメリカ移民法上の「道徳」
移民法では外国人に対してアメリカで暮らす上で、一定の「道徳」を求めています。
この曖昧な、「道徳」という言葉を用いて入国禁止の事例を裁量によりかなり広く認めているのです。
ですので、何の罪が道徳違背に該当するかは判例を見なければなりません。
翻訳すると、裁判所は、道徳違背とは「一般的に、道徳の規則や人間と人間、つまり仲間の人間または社会全体の間に負っている義務に反し、本質的に卑劣または堕落した行為として公衆の良心に衝撃を与える行為を指す」と言っていますが、かなり漠然としてますよね。
具体的な指針としては、
– 犯罪を犯す認識である故意または重過失がある場合
– 本人が何らかの形で有罪を知りながら非難されるべき行為を犯したこと
といった基準になると思います。
道徳の解釈は州によって異なる
さらに厄介なのは連邦の裁判所や移民局が、もともとの犯罪が問題となっている州の法律を基礎として決めるため、州によって異なる解釈が生まれる可能性が出てくるということです。
この道徳違背の罪という概念が、どの外国人が、再入国可能なのかどうかという判断をする上でかなりややこしくしているわけです。
再入国を試みる前に裁判記録の確認を
ですので、今回質問されている方に関しても、実際に裁判所の記録を取り寄せて、それをもとに移民法と刑事法が同時に両方わかる弁護士に慎重に検討してもらうのが良いと思います。
今回の質問者の方も、例えば単なる飲酒運転であれば道徳違背には該当しないかもしれませんが、その他に不可的な要素があったりする場合には、入国拒否に該当する可能性も出てきます。必ず入国を試みる前に相談しておくべきと思います。
退去命令を受けた場合
次に、今回の質問者には適用されない問題なのかもしれませんが、アメリカ国内で罪を犯し、移民法の違反を問われて移民裁判所に手続きが移行すると、退去命令(removal)を受ける可能性があります。
退去命令には10年または20年の入国禁止が言い渡される可能性があります。
退去命令を受けた外国人、または退去命令が未執行のまま出国した外国人は、再入国が10年間禁止されます。
上記、駆け足で代表的な入国禁止事例を考えてきましたが、米国で過去に犯罪歴のある外国人は、犯罪歴の性質や犯罪の詳細に応じて、さまざまな状況で米国への入国を禁止される可能性があります。
今回質問された方でも必ず再入国を試みる前に相談をされた方が良いと思います。
必要な場合には、司法長官に対して再入国の許可を事前にもらう必要もあります。
新政権では移民行政に厳しくなる可能性も
今後、2025年、保守政権が発足しますので、アメリカではまた移民行政に関して締め付けが強くなってくる可能性があります。
以前のように無理な移民政策などはすぐには行わないとは思いますが、犯罪者及び不法滞在についてはかなり厳しく対応がなされると思われますので、気をつけないといけません。
また今回の法律ノートは過去に前科がある人に限って取り上げていますので、不法滞在に関する再入国の制限はまた別途考えなければなりません。
それでは皆さん平穏なサンクスギビングをお過ごし下さい。
そしてもうあと2024年も1ヵ月ですね。
最終ダッシュを頑張っていきましょうね。
健康には留意しましょう。
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