日本将棋連盟 西尾明常任理事との対談(2)_1223

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1223回 弁護士 鈴木淳司

Jul 27, 2020

今回は前回に引き続き、日本将棋連盟の西尾明常任理事との対談を続けさせていただきます。
法律の話題でなくて、申し訳ありませんが、読者の皆さんどうかお付き合いください。

鈴木:
西尾理事は、かなり昔からIT系に精通している数少ない棋士であったことから、コンピュータと将棋の関係に深く関心があったことと思います。
西尾理事には、インターネット、AIやコンピュータと将棋の関わりについてお聞きしたいと思っていましたが、どのような歴史があるのでしょうか。

西尾:
コンピュータ将棋の開発は40年以上前から始まりました。
当時はいかに人間の指し手に近づけていくがテーマであり、将棋の強い人間の手によってパラメータの調整が行われていました。
ただ、2005年頃からBonanzaという将棋ソフトが出現し、特徴量に関するパラメータを自動調整する機械学習の手法が取り入れ始めると、実力が大きく向上していきます。
その後人間の棋譜を用いず、コンピュータ将棋自身が深く探索した結果を浅い探索にフィードバックさせる強化学習の手法によって、人間の強さを大きく超えるまでの実力に到達しました。
シンギュラリティ、いわゆる人間の実力を超える際のインパクトは大変なものがありましたが、現在コンピュータ将棋(AI)は棋士が練習する上で不可欠な存在です。
自分の指した将棋の棋譜を解析したり、対戦相手の棋譜データをあらかじめ分析したり、テーマとなる局面周辺の変化を調べたり、と使い方は人によって様々です。
ただ、シンギュラリティ以前と以後では棋士の価値観は大きく変化しています。
戦法に対する直接的な理解度という意味での変化はもちろんですが、AIの存在を認めた上で、自分の対局でいかに勝ちに結び付けていくかという戦い方の変化ももたらしています。
また、AIを使ってどうやって強くなるかという学習面での意識の変化ももたらしました。
棋譜並べや詰将棋といった既存の練習方法だけでなく、より自分に合った勉強法を各自模索し、調整していく必要があります。
さらに、AIが強くなったいま、人間の将棋の面白さを世間に伝え、興味・関心を喚起し、興行として成功することの重要性も増したように思います。

鈴木:
難しい内容ですが、やはりコンピュータというのは現在能力的に人間を超えているのですね。
そして、コンピュータに凌駕されるということではなくプロの棋士は共存をしつつ自分の能力を高めるために利用して、ひいては一般全体に将棋の楽しさを伝えていけるようになるというのは、悪いことではありませんね。
西尾理事もコンピュータ対戦や、IT系の造形が深く、将棋連盟でもITやメディアについて積極的な活動をされていますね。
たとえば藤井聡太棋聖などは生まれたときからコンピュータがある世代です。
そうすると、やはり将棋を学習する方法もこの数十年で変化が生じているのでしょうか。
地方にいる人が将棋界に近くなったとか。

西尾:
将棋における学習環境の変化は大きく2つの節目があったと感じています。
インターネットとAIです。
プロを目指す場合、以前は将棋会館のある東京や大阪周辺に住み、実力の高い者同士で日常的に切磋琢磨したり、最新の戦術情報を共有したりするための環境確保が大事でした。
そのため地方出身の人間は若いときから都心部に移り住むことも多かったです。
ただ、インターネットの登場によりこうした地域の優位性がなくなりました。
オンライン上でいつでもどこでも対局することができ、棋譜データベースを閲覧し、タイトル戦などの中継もリアルタイムで見て勉強することも可能です。
最近では棋士がYouTuberになり、将棋の解説を自ら行うことも珍しくなくなってきており、まさにインターネットには学習するための情報が溢れています。
また、人間の実力を超えるAIの登場も学習する上で大きな変化をもたらしました。
コンピュータさえあれば、常に自分よりも強い存在と対局や研究できることのメリットは非常に大きく、より学習環境が多様化してきました。
自分に合うように環境を取捨選択する時代になったと思います。

鈴木:
そうですね、インターネットとAIは将棋界も激変させましたね。
物理的に将棋会館に近く居るということが有利な時代があったわけです。
深浦九段や行方九段も小さなときに長崎や青森から東京を目指してやってきたわけです。
北海道から出てくるのが大変であったろう、野月八段や中井女流棋士もいたわけで、現在をみると、将棋の情報へのアクセスが格段に良くなっていることは驚きです。
裏を返せば、なかなか将棋に取り組めなかった地方の人、一人で上京するのが難しかった女性、それにひいては私も含め海外にいる人達が将棋に接することが容易になったのは素晴らしいことではないでしょうか。
そうすると、西尾理事は前回「ダイアモンドの原石」という言葉を使われていましたが、実際に奨励会にチャレンジしてみようという人が増えるかもしれませんね。
藤井聡太棋聖なども、現在のインターネットやAI世代ではありますが、やはり現在の学習環境を利用していたのでしょうか。
また、若い奨励会の人たちのレベルなどもあがっているのでしょうか。

西尾:
インターネットを通して、多くの方に将棋を楽しんでもらえるようになったのは非常に喜ばしいことです。
また、地域による情報格差がなくなったことで、才能のあるプレーヤーが発掘されやすくなった面はあると思います。
藤井さんも愛知県在住で、東京や大阪に近い場所ではないですが、インターネットやAIを使って良い学習環境を構築しています。
では、若い人たちのレベルが上がっているかというとまだ明確ではありません。
AIの出現によって序盤の戦術は大きく変化し、整備されたため、現在プロの将棋はAIも難しいと評価する局面で戦うことが増えてきました。
事前準備として深い研究が要求される一方、中盤から終盤にかけては難解な局面の連続を自力で泳ぎ切らないといけません。
こうした自力の強さはすぐに身につくものではなく、多くの鍛錬を要します。
羽生さんの世代のように、若い頃から徹底的に思考することで実力を伸ばしてきた方々はいまだに自力の強さを感じます。
前回、AIは深い探索を浅い探索にフィードバックさせる強化学習の手法によって強くなったと言いましたが、人間も同じような過程を経て強くなっていると個人的には考えています。
自分で深く思考した結果を消化し、身につけていくことで、局面に対して良い直観が働くようになってきます。
いずれにせよ、現代将棋ではある分野のみに強い特化型のタイプではなく、序盤の知識や中盤の構想力、終盤の計算力といった総合的なレベルの高さが求められます。

鈴木:
なるほど、西尾理事のAIと将棋に関する本にも詳しく書いてあった、レベルの上昇が起こっているということですね。
やはり、徹底的に考える力というのがまだまだ重要なのでしょう。
ここで、今若い人たちや将棋に興味をもって強くなりたいと思う、初心者や中級者がいるとして、どのような形で将棋をはじめるとプロまでは当然至らないにしても「考える力」がつく練習ができるのでしょうか。
また、初心者はどのようにして将棋をはじめるきっかけにしたら良いのでしょうか。

西尾:
考える力を身につけるには知識と経験の積み重ねが必要です。
何も知識がないまま考えていてもあまり効果が得られません。
将棋を学ぶことは言語を学ぶ感覚と似ていて、英語であれば最初にアルファベットを学び、そこから単語、熟語と知識を広げていきますが、将棋も同様に最初に8種類の駒の動きを覚えた後、繰り返し将棋を指すことで次第に複数の駒の連動性を意識できるようになっていきます。
部分的な駒の連動を意識できるようなったら、今度は戦法や囲いなどより盤面の全体像を意識する段階に進みます。
認知心理学者のハーバート・サイモンはチェスを題材として研究する中で、こうした情報の塊の単位を「チャンク」と名付けましたが、強くなる過程において、1つの駒を1単位としていたところから少しずつ大きな枠組みで把握できるように考え、経験していく必要があります。
将棋はルールを覚えるのは簡単ですが、複雑な可能性を内包しているゲームなので、知識や経験をもとにその都度自分で考え、その経験をもとにまた考えるといった行為を繰り返していくことになります。
こうして書くと、将棋をすごく難しいゲームに感じるかもしれませんが、初心者から上級者までどこで切っても自己相似性を有しており、誰でも楽しめるのがこのゲームの良さだとも思っています。
いまはインターネットの恩恵を受けて、幸いにもアプリ、動画、ブログ・SNS等、将棋に関する情報は溢れていますし、最近では「観る将」と呼ばれ、自分では将棋を指さなくともプロの対局等を楽しんでいるファンも数多く存在します。
初心者の方には1度将棋コンテンツに触れてみて、ご自分に合った楽しみ方を見つけて頂きたいと思っています。

鈴木:
最後になりますが、将棋連盟の理事として、若い子たちや初心者の方々が接すると良い本や情報をリンクと共に教えていただけますか?

西尾:
以下などを参照されると良いのではないでしょうか。

プロの対局を解説文付きで観戦するなら「将棋連盟ライブ中継アプリ」
https://www.shogi.or.jp/lp/mr201704/

タイトル戦などを生中継で観るなら「ABEMA 将棋チャンネル」
https://abema.tv/now-on-air/shogi

オンライン対局するなら「将棋ウォーズ」
https://shogiwars.heroz.jp/?locale=ja

レベル別に設定されたAIが指導してしてくれる「ぴよ将棋」
https://www.studiok-i.net/piyo_shogi/

山口恵梨子女流が初心者向けに丁寧に解説するYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCoGxk6_LJqsk9Bo5FeWNbMg

鈴木:
ありがとうございます。
どのサイトも、将棋をそれなりに嗜んでいる方々にはメジャーなサイトですが、初心者やこれから将棋をやろう、観てみようという方には最適なサイトですね。

西尾:
将棋を楽しむ間口は以前よりも広がっていますので、これを機にぜひ将棋という奥深いゲーム、そして将棋のプロとして活動する棋士に興味を持って頂けたら嬉しいです。

鈴木:
二回に渡って、おつきあいいただきありがとうございました。
西尾明理事には感謝しております。ありがとうございます。
碁や相撲などは外国人の方々が活躍することも多いですが、将棋はまだまだ日本国内に留まる部分もあります。
西尾理事も海外への普及も取り組まれていますが、おっしゃるとおり奥深いゲームですし、もっぱら私自身は観戦の方に最近は力を入れて棋力は下降気味ですが、生涯楽しめますね。
西尾理事は、理事としての普及もあり、本業の棋士として将棋を指すこともあり、なかなか時間的にやりくりが大変だと思います。
大学での教鞭もとられているとか。
西尾理事は、インターネット、AIなど次世代将棋への重要な架け橋ですので、体調にはくれぐれも気をつけて、また一緒に鉄板焼でも食べにいきたいですね。
重ね重ね今回の対談ありがとうございました。

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作成者: jinkencom

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