法律ノート 第1222回 弁護士 鈴木淳司
Jul 20, 2020
コロナの影響かもしれませんが、若い人たちが自ら命を絶つというニュースもあります。
こういった非常時に自分の精神的な安定についても各人が気をつけていかないといけないのでしょう。
一方で、若い将棋の棋士が、過去最年少でタイトルを奪取し、話題になっています。
「藤井聡太棋聖」が誕生しました。
日本の独特の文化なのかもしれませんが、チェスなどとは違って、相手の駒を取ってその「人質」を自分の駒として使うという複雑さが増すゲームではあります。
駆け引きなどで、弁護士の仕事にも共通する部分もあるとおもいます。
私はさほど強くはないのですが、プロの棋士が指す将棋は本当に魅力的で、コロナのなかでも楽しみの一つでもあります。
日本将棋連盟 西尾明常任理事との対談(1)_1222
今回は藤井棋聖の誕生について、2019年から日本将棋連盟の常任理事に就任され、過去にはプロへの登竜門でもある奨励会の幹事でもあった、西尾明七段(記事執筆当時)と対談をさせてください。
コロナ禍で、プロの将棋の棋士にも影響があるのですが、対談を持ちかけさせてもらったら快諾が得られました。
法律とは直接関係ないかもしれませんが、真の勝負師の話は人生で習わないと損であります。
鈴木:
将棋界として、藤井聡太棋聖誕生はニュースになって将棋に興味を持つ人達が増えていると思います。
将棋連盟の理事としては悪いことではないですね。
まったく将棋を知らない人も法律ノート読者には多いと思います。
まず最初に、プロの将棋棋士は何人ほどいて、どうやってプロになるのか、そして、西尾理事はどうやってプロになったのか、私はよく知っていますが、読者の皆さんに簡単に教えていただけますか。
西尾:
プロとして活動している棋士は約170人、女流棋士は約60人です。
棋士になるためには奨励会という養成機関に入る必要があります。
試験を受けて合格すると6級で入会することになり、そこで勝ち上がって四段まで到達すると正式にプロとなります。
私は小学校1年生のときに本格的に将棋を始め、小学校5年生のときに奨励会に入会しました。
そこから長い修業時代を経て、23歳のときにようやくプロになることができました。
奨励会は年齢制限があり、26歳までに四段に昇らないと自動的に退会となります。
藤井棋聖は中学校2年生のときに最年少で四段となっています。
鈴木:
西尾理事は、一般的な学生と同じように大学受験もされているので、大変だったと思いますね。
今の世の中「プロ」という言葉は一般的に安売りされていますが、将棋のプロというのは、本当に限られた人たちにしかなれない世界ですよね。
運も必要かもしれない。
そもそも、奨励会に入るのにはどうしたら良いのですか。
もちろん西尾理事も藤井棋聖も入会していたわけですが。
西尾:
棋士になれるのは基本的に年間4人と決まっていますので、そういった意味では狭き門かもしれません。
奨励会に入るには毎年夏に3日間掛けて行う奨励会試験に合格する必要があります。
全国からプロを目指す子供たちが東京、大阪の将棋会館にそれぞれ集まって試験者同士、また現役奨励会員とも指し、一定の成績を収めた者が合格する流れです。
毎年大体30~40人が受験し、10数人が合格しています。
私は小学校3年生のときに小学生の全国大会で準優勝したことをきっかけにプロになることを意識し始め、5年生のときに奨励会試験に合格しました。
そのときのライバルたちの中でもプロとして生き残っている人がいて、現在も対局することがあります。
そう考えるとかなり長い付き合いです。
鈴木:
能力的には勉強のできる秀才というよりは、本当の天才の集団という感じがしますね。
一緒に飲んでいてへべれけになっちゃう棋士もいたりして、個性的な人が多いので、私も楽しませてもらっています。
西尾理事が奨励会の幹事をしていたときに、すでに藤井棋聖は在会していたのでしょうか。
これだけ天才が集まっているなかで、中学生でプロになって、勝率も八割五分近くてずば抜けてますよね。
凡人の私にはわかりませんが、西尾理事の視点からは、藤井棋聖の天才的な能力の基礎はどのようなものなのでしょうか。
ぜひ若い人にも聞いてほしいし、人々は興味があると思うのです。
西尾:
私が東京で奨励会幹事をしていたのは10年以上前なので、藤井さんはまだ奨励会に入会していないです。
その頃は現在2つのタイトルを持っている永瀬拓矢さんや、藤井さんの連勝記録を止めた佐々木勇気さんなどが次世代の中心として注目を集めていました。
藤井さんの強さは抜群の安定感にあります。
プロの目から見ても明確な悪手というのがほとんどない。
なので、彼に勝つには本当にいくつも山を越えないといけないという感覚があります。
これまで中学生で棋士になった人は、棋士になった当初は指し手にまだ荒々しさがあり、ダイヤモンドの原石という感じでしたが、藤井さんの場合はすでに戦術理解度、構想力、終盤の速度計算等、どれもトップクラスに到達しています。
通常、我々の世界では、生涯勝率が6割5分を超えると一流、7割を超えると超一流と言われます。
羽生さんは棋士になってから30年以上経っていますが、いまだ生涯勝率が7割を超えており、これはタイトル戦等トップ同士で戦う中では驚異的な数字です。
これらを踏まえると、現在藤井さんが勝率8割を超えて勝ち続けていることは将棋の世界では過去に例のない数字といえます。
鈴木:
そういえば西尾理事は、佐藤天彦九段と奨励会で競り合った仲ですよね。
現在、藤井棋聖は天才のなかでも、かなり抜きに出ている「安定感」がある感じなのですね。
私もこないだの棋聖戦において、九筋にいきなり桂馬を打ったり、アマチュアでは、「なんだこれ」という感じなのですが、西尾理事の語る「安定感」というのを高校生が得ているというのは、一体どのようなファクターに基づくのでしょうか。
西尾理事が、奨励会などで若い人たちを観ていて、将棋ではプロになる天才がどのように生まれるのでしょうか。
どういった要素がプロになるのに必要なのでしょうか。
西尾:
まず、技術面でいうと局面を読む量の年齢的なピークは10代~20代と言われています。
30代以降になると読む量は落ちはじめ、代わりにそれまで培った経験を生かして、直観的な意思決定の比重を高めます。
この局面から先は読まずに早めに判断するといった感じで、読みの樹形図の枝を刈っていきます。
将棋は指し手の可能性が無限にあるゲームなので、「読み」と「直観」のバランスが非常に大事です。
対局中にたくさん指し手を読んだとしても、そのベクトルが合っていないと盤上で成果を出すことは難しいです。
藤井さんの安定感を支えているのは読む量だけでなく、戦術理解や構想力などそれまで多くの経験を必要としていた領域でもすでに高いレベルで順応しているからです。
これはインターネットやAIが存在し、以前に比べて将棋の正確な情報が得やすい環境になっていることも一因として考えられますが、それは他の棋士も同じ条件なので、藤井さんは非常に吸収するスピードが早いと思います。
また、将棋でプロになるには技術面はもちろんですが、私自身は精神面も大事だと考えていて、勝負では勝ち負けで色々な感情が沸き上がってきたりしますが、掲げた目標に対してブレずに進んでいくことが要求されます。
特に10代~20代のときは血気盛んで感情に左右されがちですが、勝負の後にいかに切り替えて普段の日常に戻すかが大事です。
奨励会を見ていると、この管理ができていない人間はあまり良い結果が得られません。
藤井さんの場合は「いま以上に強くなる」という目標があって、勝っても負けても常に次の対局にはその感情を残していないように見えます。これも彼の強さの要因の1つだと思います。
鈴木:
プロの将棋というのは、単に棋譜だけを見ていても理解できない立体的なものだな、ということが良くわかりました。
弁護士をやっていても、感情で動く当事者や弁護士は良い結果を得られませんから、人間として高みを目指してやっていこうということは、将棋だけではないのかもしれません。
今回は、この辺にさせていただき、次回、西尾理事が当初から関わっている、インターネットと将棋について、もう少し教えてください。
読者の皆さん、たまには法律以外の対談も良いのではないでしょうか。
また、次回も続けていきたいと思います。
暑い夏ですが、くれぐれも体調管理とウイルスには注意したまた一週間がんばっていきましょう。
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