法律ノート 第1227回 弁護士 鈴木淳司
Aug 23, 2020
とうとうカリフォルニア州では恒例になってしまった火事のシーズン突入です。
皆、コロナで疲弊しているときに、過去最大級の火事に見舞われ、暑さと煙で、心身ともに悪影響が出てこないか心配です。
とくに避難命令が出ている方々、家を失ってしまった方々などに関しては、なにか少しでもできることはないかと思ってしまいます。
ただ、このような火事が頻発する状況だと、次は我が身かもしれないかな、となんとなく考えてしまいます。
引越手配まで終えていたのに契約破棄。訴える術は?(2)_1227
さて、前回から考えてきた質問を今回さらに考えていきましょう。
いただいている質問は「日本から現地法人(米国カリフォルニア州)赴任してきている者です。家族も帯同しています。前任者から引き継いだアパートメントに住んでいたのですが、新たに新しい物件を見つけ、勤務先の許可も得られたので引っ越す予定でした。すでに、新居の入っているマネージメントとも家賃等話しがついて、引越し日まで決定していました。それにあわせて従来のアパートには、引っ越す旨を話して了承を得ていました。ところが、手付を支払い、契約書にサインをするという段階になり、「他に貸す人が決まったので、話はなかったことにしてくれ」といったニュアンスのメールを受け取り、直接話しても埒が明かない状況でした。今まで住んでいたアパートには話を伝え、なんとか継続して住むことができましたが、また一年間の契約がなければいけないということで泣く泣くサインをしました。このような場合、なにか契約に違反したということで、新居になるはずだったマネージメントを訴えることができないでしょうか。引っ越しの用意や、色々な手続きを初めてしまって、大損害が発生してしまっています。」というものでした。
契約書と口約束
前回、契約書が取り交わされていないという状況であるところまで考えました。
契約書ができる前に、口で約束を交わしたようですが、訴訟になった場合には、相手方は「契約はまだしていない」と主張してくるでしょうね。
通常、賃貸借は契約書がある、というのが一般的ですので、特殊な事情がないと、「契約書はないが口約束で契約は成立している」と主張するのは難しいかもしれません。
契約書が存在すれば、その契約に基づいて、勝手に第三者に貸してしまった、などと主張しやすいですが、契約書がないと、「言った、言わない」になって契約の内容を主張するのはハードルが高くなります。もちろん、すでに金銭の受け渡しがなされているなどの証拠があれば利用していくということになりますが。
契約書に準じる記録はあるか
かりに契約書がないことが明らかな場合、たとえば、「契約は、○月○日に行いましょう」などというメールのやり取りがあったなどというときは、契約に基づいてなんらかの主張をしていくのが難しいです。
このような場合には、契約そのものではないが、相手の言ったことを信頼して行動してしまった(relianceとかgood faith dealingなどといいます。)、という立て付け法律構成しなくてはいけませんが、契約に基づく主張に比べて、あまり強い主張とは言えません。
今回質問されている方は、まだ手付も払っておらず、契約書にもサインしていない状況で、色々ご自身のサイドで動かれていたようですので、勘違いをしていると第三者から見られてしまう可能性もあります。
さらにいえば、「大損害」ということですが、結局もとのアパートにいることができるわけですし、損害といっても、何が損害なのかを証明するのが難しいのではないでしょうか。
時間をつかった、ということもあるかもしれませんが、それだけでは法律的に示せる損害にしづらいかもしれません。
また、マネージメントを訴えたいといっても、貸主は大家さんでしょうから、マネージメントが悪意をもって、質問者を窮地に陥れるなどの行為をしていなければ、マネージメントが調子良い口上で釣ったとしてもそれだけでは法律上、損害を求めることは難しいかもしれません。
結局、損害があったといっても、実際には金銭的な迷惑は被っていないように思えます。
損害を金銭に換算できるか
法律的に請求するには、金銭に換算できないものは損害とはいえないのが基本です。
もちろん、いわゆる事故に遭ったときの慰謝料などは考えられますが、これも痛みが金銭的に評価できる程度でなくてはいけないのです。
ということで、今回の質問をされている方に関しては、まだ契約が未締結のため賃貸借から生じる損害については問いにくく、また、「損害」といっても、実際に評価できる程度の損害はないように感じます。
新しく引っ越すときにはまず契約書の締結を最初にしてから、色々具体的に動き出したいですね。
猛烈な暑さが続く地域が多く、体調も不安定になりがちですが、できるだけ体を動かしながら、また一週間がんばっていきましょうね。
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