法律ノート 第1273回 弁護士 鈴木淳司
July 29, 2021
数日前に法律ノートを書かなければと思っていたのですが、週末も陪審裁判の準備をしていて、余裕がありませんでした。
アメリカ コロナ禍の裁判(1)_1273
今回は、アメリカでの裁判の現状についてご紹介させていただきたいと思います。
私にとってもコロナ禍でのトライアルというのは初めてで、皆さんにもどのように陪審裁判が開かれるのか、というのは興味があると思います。
せっかくなので法律ノートで考えてみたいとおもいます。
私が今度トライアルに行く事件は、労働事件で私は企業側を担当しています。
いわゆる民事事件です。連邦裁判所ではなく、州の地方裁判所での話です。
刑事事件が優先
今年に入って、刑事事件は優先的に再開している裁判所が出てきました。
サンマテオ郡の地方裁判所も刑事事件については、実際に開廷し、限られた人数、出席者、内容ですが、裁判所で法廷が開かれるようになりました。
刑事事件を優先するのは、憲法の要請が強いからです。
裁判を受ける前に不当に長期にわたる拘束は憲法に反しますし、刑事被告人には迅速に裁判を受ける権利というのも保証されています。
従って、刑事事件は優先されるのです。
連邦裁判所でも、刑事事件の審理がやっと始まりつつあります。
私が担当している連邦刑事事件の担当検事に数日前にメールをしたところ「現在、陪審裁判中です」という返事が来ましたので、いろいろな連邦裁判所でも刑事事件は審理が再開されています。
民事事件は二の次?
一方で民事事件ですが、企業の絡む事件は、金銭的な内容が多く、あまり優先されていません。
ですので、コロナ禍によって停止されていて陪審裁判が全く動いていないような裁判所も多々あります。
恐ろしいのが、一年間数の事件が停滞していると、新規の事件などはさらに遅滞が生じる可能性があります。
民事事件は、かなりコロナ禍前でも電子的な制度が取り入れられていましたが、今回のパンデミックをきっかけに制度が加速し始めたと思います。
興味深いのは、あまり本筋に関係ない裁判所からの呼び出しは従来は電話で行うことになっていましたが、最近ではビデオでの出廷が一般的になっていることです。
Zoomも多いですし、blue jeansという一般では使わないような電話業者の提供するシステムを導入しているところもあります。
とにかく使われている業者はどこであれ、最近では電話に変わってビデオが主流になりつつあります。
陪審裁判のオンライン化
現在、陪審裁判に向かって進んでいる事件ですが、裁判所も忙しくてようですが、期日に変更がなく、8月初旬に陪審裁判が行われることになっています。
裁判所の建物はまだ閉まっていますし、どうやるのか、というとビデオで陪審裁判をするというのです。
多くの弁護士や私もまだ体験がないので一体どうやってやるのか、不思議ですが、裁判所では結構ビデオ裁判が「好き」という裁判官も多いそうです。
多分、いろいろな面で裁判所にとっては楽なのかもしれません。
ただ、弁護人にとってみると、不安があります。
通常の手続きであれば、ビデオで問題はないと思うのですが、陪審裁判となると、陪審員が不可欠になります。
従来は陪審員の顔を見たり、態度を見て、色々その場で変えたりすることもできたわけですが、ビデオになると陪審員は特段の合意やルールが適用されなければ12人いるわけで、その顔を画面上で常時見ながら、行うということになるのでしょうか。
また、会ったことがない陪審員はどのような人なのか、全く知らないわけですから、その人たちをビデオ越しに説得できるのか、というのも不安になります。
そもそも陪審員というのは、喜んで裁判所に来て、裁判に耳を傾けることはありません。
ほぼ全ての陪審員の人たちは、召喚状が来て、本当にイヤイヤ参加すると言う感じです。隙があれば、早く帰りたい、という感じであります。他人の金銭のどうのこうのを長々聞くのさえ苦痛ですよね。
そういった陪審員がビデオ越しに本当に真剣に事件のことを聞いてくれるのか、というと不安です。
他方、わざわざ裁判所に来なくても良いと言うのは、参加に前向きになってくれる陪審員も出てくるのではないかとも思っています。
全く経験のない事態なので、興味と不安が入り混じっています。
この私の担当している事件は、相手の弁護士や当事者、裁判官と直接一度も顔を合わせたことがありません。
全てバーチャルで進行しているのです。私が弁護士になった20数年前には考えられない状況です。
スクリーン越しに陪審裁判をやり、反対尋問をする、というのは、なんとも時代の流れを感じますね。
また、裁判が終わったら皆さんと体験を共有させてください。
日本のオリンピックはあまり見ていませんが、盛り上がっているのでしょうか。
コロナ罹患者が日本で増え続けているは怖いことです。
私の友人も罹患したと教えてくれましたが、どこでもらったかわからないそうです。
できることに気をつけながらまた一週間頑張っていきましょうね。
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