法律ノート 第1241回 弁護士 鈴木淳司
Dec 6, 2020
また、カリフォルニアでは外出禁止令が出ました。医療機関も実質的にパンクしているところが多いようです。やはりサンクスギビング前後でアメリカでは激増しました。
このような状況で、来年、日本でオリンピックは開催できるのでしょうか。もちろん開催側は「やらなければならない」ということですが、ワクチンの普及との兼ね合いでしょうか。しかし、社会も変わってきましたが、一人ひとりにとっても大変な変化があった一年ですね。みなさんは、耐えていらっしゃいますか。
IT企業のアメリカ進出(5)_1241
さて、前回まで「インターネットを利用するサービス業を日本で展開しています。これから事業を国際化したいと思い、アメリカにオフィスを置こうと思っています。最初はシェアオフィスではじめ出張ベースで日本とアメリカを行き来しようと思っています。ひいては、家族を連れて就業ビザを得て日本から渡米しようと計画しています。多くのIT企業が日本からアメリカに進出して結局撤退することが多く慎重になっていますので、ビジネス面ではなく法律家の意見を聞きたいと思っています。」という質問を考えてきました。
前回は、アメリカ50州の会社の設立について少々考えたところまで進みました。
ここから今回考えていきましょう。
どの州で会社設立するか
まず、アメリカで会社を設立するのは、どの州が良いのか、という質問を受けます。
通常、この手の質問を受けるときに、実質的にビジネスをする場所はどこなのか、ということを聞きます。たとえば、デラウェア州法人であっても、大部分の活動をカリフォルニア州で行っていれば(そのような法人は多いのですが)、カリフォルニア州の会社法が適用される場面が多いわけです。もちろん、具体的にどのような業務を行い、どこに主な所在地が置かれるのかなどを検討しなければアドバイスはしにくいところです。
しかし、どの州の法人を設立するのか、というポイントについては、法律家だけではなく、税金の問題が大きいと思うので、税金の専門家にも必ず相談をして、複数の想定をされるのが良いと思います。決して、どこどこの州の法人がベストだ、などという基礎のない口上に乗らないでください。
税務の観点が最重要になるのですが、法律の観点から言うと、どの州が良いかということは、
(1)会社の経営内容の秘匿必要性
(2)会社の役員等の免責
(3)会社法に関する判例の多さ
などが考慮されるということになるでしょうか。
基本は、現地法人の所在地がベストということになることは忘れないでください。
日本の会社を登録して商活動ーForeign Corporation Registration
次に、会社を設立することで、たとえば銀行口座などの開設が可能になるでしょうが、会社開設の前に、今回質問をされている方のように、日本ですでに会社を経営されている場合には、その会社をアメリカの各州において「州外の株式会社登録(Foreign Corporation Registrationなどと呼ばれる) 」をすることにより、日本の会社がアメリカで商活動を継続的に行うことができます。
業種によっては、起業時に一つの方法論として考えてもよいかと思います。
日本の企業を直接アメリカの州で登録する最大の問題は、日本の本社が直接アメリカで訴訟の対象にされてしまうということにあります。しかし、初期段階でマーケット・リサーチ等の限られた活動をするのであれば、物品の販売などが関わらない限り、州外企業として登録を一時的にするのは一つの選択として悪くないと思います。
米国の銀行からの借入
それから、もう一つポイントを考えておくと、アメリカ所在の金融機関から与信を受けようと思った場合、アメリカの会社を設立し、そのうえで銀行口座を開くことがまず第一歩になることと思います。もちろん、日本にある本社がすでにアメリカの金融機関と深い関係があれば別でしょうが、アメリカの企業として独り立ちするためには、現地法人が限られた担保で与信を受けられるのがベストということになります。
この場合、会社を設立して、できれば限られた金額でも良いので、借り入れて返す、ということを繰り返してください。最初は銀行預金を担保に取られたりしますが、ちゃんと返済することにより、会社のクレジットスコアが上昇し、借り入れがしやすくなります。
将来的な現地法人の成長のためには、一つ考えておくべきポイントだと思います。
専門家に相談を
今回いただいた質問は多岐にわたることを考えなければならないですから、具体的に相談をするのがベストだと思います。しかし、相談するにしても、何を相談するのか、というところで今回の質問を考えた一連の法律ノートを基礎にされると良いと思います。
もう、師走だというのが信じられない1年ですし、事務所でホリデーパーティーも開けないのは寂しい一年ですが、来年が素晴らしい一年になることを願いながら、今年を走り抜けていきたいですね。また体調には十分に注意して一週間がんばっていきましょうね。
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