法律ノート 第1188回 弁護士 鈴木淳司
Nov 29, 2019
サンクスギビングです。感謝祭などと日本語には略されますが、もともと収穫が終わったことの無事を祝うということです。ところが基本、アメリカとカナダしか行われない行事であります。サンクスギビングは、友人家族を招いて大人数で楽しむことが一般的で、食べる七面鳥はパサパサしてはいますが良眠効果があると言われています。ハロウィンに続き、まさか日本でも導入されてしまうのでしょうか。米国内の皆さんはどのようにホリデーをお過ごしですか。
海外にある財産を相続する(3) _1188
さて、前二回考えてきた「アメリカに長年住んでいますが、親が最近他界し、日本にある不動産を複数相続しました。一つの不動産は兄弟で共有しています。アメリカではすでに私はトラストを作成しているのですが、相談している弁護士に今回の相続のことを告げると、トラストの内容を変えなければならないということを聞きました。一方で、日本ではトラストというものがあまり一般的ではないということを日本に住む兄弟から聞いています。このような場合、どのように対応していけばよいのでしょうか」という質問を続けて考えていきます。
今回で一応終わりますが、追加の質問がある読者の方はいつでも法律ノート宛にメールをください。
(i@jinken.com 宛でもOKです。JINKEN.COM事務局追記)
国が違えば法律も違う
前回は、私の所属する事務所で活用しているノウハウの一部をご紹介しました。すなわち、今回質問されている方のようなケースでは、単にアメリカで作成したトラストをいじっても、日本に存在する特に不動産の権利などについてはちゃんとカバーできない可能性があるのです。
アメリカでお金をかけてトラストを作成していることから、できるだけお金をかけないで対応したいと思われるのかもしれません。
しかし、原則として、国が違うと法律も違うので、対応し切れない部分が出てくるのはたしかです。またかりに「対応できる」と思っても、結局相続関係の書類の効力が始動するのは本人が他界したあとになります。そうすると、ちゃんとした処理をしておかないと、残された人に迷惑がかかることになるわけです。
海外不動産の専門家にアドバイスを
今回質問されている方の場合、日本での不動産に関する共有持分権の話がでてきます。
そして、簡単にトラストを変更するだけで問題は生じないとアドバイスを受けているのであれば、そのアドバイスとなる基礎について、たとえば日本に存在する不動産に関わる、相続、税関連の法律が理解されているか確認する必要があると思います。
さらに、不動産の持分権を確認するために、登記などの理解が正確にされていることが前提になると思います。アメリカでトラストを作成した専門家が、日本の登記を全部英語に翻訳してくれ、と言い出したら要注意です。登記記載事項がそもそも法律的に違うのですから。これらの基礎的な情報を理解できる人のアドバイスに基づいた書類の整備をしておくべきです。
想定が容易な例として、日本とアメリカに不動産を持っている人が他界し、相続人が複数日本とアメリカにいるとします。アメリカにある財産は、今回質問にあるようにトラストに基づいて相続人に承継されていきます。その承継に不満がある人がでてきて話合いがつかない場合には日本の家庭裁判所で、遺産分割の調停又は審判の手続が開始される可能性があります。一人がアメリカのトラストで多く遺産をもらっているといった場合などは、特に紛争化する可能性があるわけです。
このような事態を避けるためにも、わかりやすい書類を作成しておくことが重要になるわけですね。
アメリカのトラストはアメリカで処理
それから、以前法律ノートで考えましたが、日本にいながらアメリカのトラストを作成したり、変更する場合には、公証(Notary Public)が必要になってくる場合があります。
日本にいながらアメリカの公証を得る場合には、在日本アメリカ大使館または領事館でサービスを受けなければなりません。一般的な日本にある公証役場での公証では不十分と考えておいた方が良いかもしれません。
ですので、将来日本に戻るということを考えていらっしゃる方がいるのであれば、トラスト等は、アメリカに滞在している間に処理しておくことをおすすめします。
また、次回から新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。今年のサンクスギビングは天気が大荒れになっていますが、皆さんに事故がないように祈っております。平穏で楽しいサンクスギビングの週末をお過ごしください。
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