法律ノート 第1179回 弁護士 鈴木淳司
September 24, 2019
ずいぶん、秋の気配を感じるようになりました。今週は風が強くなってきましたが、季節替わりの風なのでしょう。日本の千葉でも停電が続いているそうで、またさらに強風で停電となるなど深刻な事態になっているようです。北カリフォルニアでも、この数年、風が原因となった火事で街が一つ焼けてしまうなどのかなりの被害が出ています。今年はすでに、電力会社が強風時の計画停電をすでに宣言し始めました。今年は自然災害がない平穏な秋になると良いな、と思っています。
家賃の滞納、直ちに損害金を支払うべき?(2)_1179
さて、前回から考えてきた「仕事のために、日本から来てカリフォルニア州に住んで1年が過ぎました。ネットの掲示板で見つけた個人の家の離れのようなところに住んでいます。駐車場もあり快適なのですが、大家さんから、家賃支払いが遅れたことから、25ドルを追加で払えと言われています。ちょうど、日本に出張に行っていたときに、支払いが遅れたのを咎められたのです。私も支払いが遅れた責任があるので支払い、事なきを得ましたが、アメリカ人の友人が、そのような支払いの遅滞について、損害金を払う必要はないのではないか、という話がでました。ネットで調べてもどのような権利があるのかわからないので教えて下さい」という質問を今回も続けて考えていきましょう。
前回は、家賃の支払いの遅れの問題と、支払い小切手が不渡りになってしまう問題は別物であることを考えました。今回質問されているかたの場合は、「家賃の支払いの遅れ」がある場合の25ドルではなく、小切手の不渡りの場合に25ドル払えと言われているのであれば、法律上大家さんは正当な請求をしていることになります。支払小切手の不渡りの問題は前回考えました。
住居利用の賃貸借と損害金
今回は、質問にあるように「家賃の支払いが遅滞している場合」に損害金を大家さんはとれるのか、というポイントです。
かりに、今回質問されている方が締結した契約書に「遅滞の損害金」として25ドルが記載されているのであれば、これは違法な可能性が高いのです。 あまり詳細な法律論はここでは考えませんが、まず、住居利用の賃貸借契約においては、損害額を予定することはカリフォルニアでは許されていません。
損害賠償の額を予定するというのは、一般には許されており、たとえば、債務不履行があった場合には、「○○ドルを損害額として支払う」という約束は許されます。
しかし、住居利用の賃貸借契約にはこのような額の予定は原則禁止されているので、たとえば今回質問にある25ドルを支払うという損害額の予定は、例外は以下考えますが、基本的に許されないということになります。ですので、損害額が決められているような場合には、「支払わない」ということで紛争にできることになります。
Orozco事件ー賃料遅滞の損害賠償額
2004年にカリフォルニア州最高裁判所では、Orozco事件(Orozco v. Casimiro, 121 Cal.App.4th Supp. 7)というのがあり、賃料遅滞の損害賠償額が契約書で規定されている場合、支払い義務があるのか争われました。
今回の質問に沿うと、25ドルを払う必要があるのかどうか、州民の税金を使って最高裁判所が判断したわけです。
この判決では、損害額を契約書で事前に決めておくことが許されるのは、
(1)損害額の算定が非常に困難で、
(2)損害額の算定が合理的な基準に基づく場合に限られる
としました。
今回の事例に当てはめてみる
この判断をもとに今回の質問を考えてみましょう。
質問にある家賃の支払いは、金銭ですから、何日遅滞したかによって、法定利息(カリフォルニアでは、色々法律がありますが、最大で10%)が決まっているので、それで日割り計算できます。 そうすると(1)については、算定は困難ではありませんよね。
(2)については、一律に契約書で額が決められているのは合理的とは言えないとなります。
なぜなら、どのくらい遅れたのかでも金額は違ってきて、一日遅れたら25ドルというのは、高すぎる可能性があります。
したがって、細かい法律と判例ではありますが、今回質問されている方が参照されている住居用の賃貸借契約書に「家賃支払いが遅れた場合には、25ドル払う」という記載がかりにあるのであれば、これは違法となる可能性があり、この金額は支払う必要はなくなります。
一方で、「家賃支払チェックの不渡りの場合は、25ドル払う」という記載であれば有効です。
次回新しくいただいている質問を考えていきましょう。秋の季節を楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。
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