June 15, 2017
強制送還と「入国の撤回」-アメリカ入国の天国と地獄
今回は、外国人が米国入国審査の際に気をつけておきたい法律のポイントを抑えておきましょう。ちょっとした違いですが、天国と地獄の差を生み出します。
このポイントを覚えていて機敏に対応することで、将来のアメリカ入国を有利にできる可能性があります。
外国人が他国に入るのは「お願いベース」
まず、難しい法律を理解していただかなくてはいけないのですが、シンプルに考えますので、おつきあいください。
まず、何度も弁護士ブログ(じんけんニュース)で考えていますが、外国人はアメリカに入国する「権利」というのは持ち合わせていません。もちろん、外国人が日本に入国する「権利」というのも持っていません。平たく言うと「お願いベース」で入国「させてもらう」ということになります。
そして、外国人がアメリカに入国するときは、入国審査官の広汎な裁量によって、入国の可否が決められるというのが前提です。
広汎な裁量といっても、入国審査に関するマニュアルは存在していて、そのマニュアルに沿って入国の可否が決められています。Field Manualと呼ばれる指針が存在します。日本でいうと実務マニュアルといったところでしょうか。
アメリカの入国禁止事項
さて、まずアメリカでは法律で、入国禁止事項が決められています。
たとえば、一定の犯罪歴、麻薬、売春関係などが既存の記録にある場合には、例外的な承認を米国政府から得られないと入国禁止となっています。この入国禁止事項については、また機会をみつけて考えたいと思います。
この法律で決まっている入国禁止事項が入国時の審査で明らかになった場合には、たとえ有効なESTAやビザがあったとしても、入国は「アウト」となります。
このような明らかに法律に反する事情がある場合には、すぐに「強制送還」の手続きを移民局は開始します。
Removal Proceedingと言いますが、これは、手続きが法律で決められていて、一応事実関係を明らかにしたうえで、自国(アメリカ入国前に搭乗した出発地)に送り返されることになります。
趣旨違い?の入国
入国禁止事項が明らかな場合には、上記のようにすぐに「アウト」と判断し易いのですが、入国が認められるかどうか、微妙な例もたくさん存在します。
このような場合の処理は、もちろん実務マニュアルに記載されているのですが、審査官の裁量で質問を聞いたり、書類の提出を求めることができます。
入国させるべきか微妙な例の典型例は、「趣旨違い入国」と比喩できるパターンです。私の造語ですので、法律用語ではありません。
すなわち、学生ビザを持ちながら就労する意思が認められる場合、ESTAで入国しようとしているのに、就労しようとしている場合、観光で来ていると申告しているのに実は結婚目的の場合などが考えられます。
このようにビザなど持っている書類と実際の意思が乖離している入国に関して、入国を裁量で拒否することができます。
「入国の撤回」の機会
ただ、このような事例の場合、明らかに犯罪歴があったというわけではないので、判断もかなり大変なわけです。いわゆる「灰色」という状況ですね。
このような場合には、いきなり強制送還手続に乗せることをしないで、入国の撤回(Withdrawal of Admission Application)の機会を設けることも少なくありません。
この入国の撤回を許すかどうかも、もちろん入国審査官の裁量ですが、外国人側から、撤回を自発的に申し出ることは可能です。「灰色と疑われているなら出直してきます」的な申し出です。
この申し出をして、移民局側に異論がなければ、すぐに「アメリカに入国しなかった」ということで、自国に戻れます。
入国の撤回と強制送還、大きな違い
なんだ、入国の撤回と強制送還と結局、自国(日本人であればにほん)に送り返されるから、効果に違いがないじゃないか、とここまで読まれて思われる方もいると思いますが、実はかなりの違いが将来でてきます。
実は、「強制送還」となった場合には、アメリカの連邦の法律で、入国禁止期間が設けられています。ここでは深く立ち入らないですが、強制送還となった場合には、少なくとも5年間、事例によっては10年間、アメリカに入国することを原則禁止されてしまいます。
一方で、入国を撤回した場合には、アメリカ政府がなんら判断をしていないこともあり、強制送還のように、入国禁止期間などは定められていません。ESTAで再度入国にチャレンジするのは難しいかもしれませんが、ちゃんとビザをとれば、すぐにでも再入国は可能になります。
「入国の撤回」を選択肢の一つに
このように、入国時にかなり揉めて、第二次審査に連れて行かれ、「趣旨違い入国」と疑われている場合には、入国の撤回を申し出てみるのが良いかもしれません。
入国の撤回の手続きは、実務マニュアルに詳細に手続きが記載されているので、入国審査官はその方法論などは熟知しているはず(そう願いたい)です。
面倒ですが、疑いが晴れずに強制送還になるよりは、自発的に入国を撤回し、もう一度入国を試みる方が長期的に見て効率的だと思います。
「入国の撤回」ということが、できる可能性があれば、「仕切り直し」ができるので、そのチョイスを必ず入国の際には考えられておくのが良いと思います。
また、次回新たなトピックを考えていきます。今回の入国の撤回などは法律的なコンセプトでわかりにくいところもありますので、質問があれば、いつでも質問していただければと思います。
【JINKEN.COM事務局より追記】
*東京にあるアメリカ大使館のサイトでも、ご確認ください。
関連する情報が複数ページにまたがりますので、可能な限り目を通しましょう。
*入国拒否による強制送還の相談が寄せられています。
多くの場合には、やはり渡米に対する準備不足と理解の足りなさが原因と考えられます。
上記の弁護士ブログはテクニックではなく、やはり他の国に入国するという意味をよくご理解いただき、その目的に即して準備することが大切です。
旅行なのか、留学なのか、ビジネスやリサーチなのか、学会参加なのか、友達に会いにいくのか、それとももっと別の目的があってのことなのか等、より具体的にお考えください。目的によって、必要になってくる書類や手続きがずいぶん違ってきます。
最近はネットの情報もとても充実していますが、その情報がご自身にどれくらいあてはあまるものなのか、ブログ記事等が何の目的でいつ書かれたものなのかも確認していただいて、ご自身にとって正しい情報かどうかを見極めることが大切です。
特に、アメリカは日本よりも政府の制度が変わるスピードがとても早く、私たち専門家であっても日々の情報収集が欠かせません。
せっかくの渡米のチャンスですので、目的を明確にして、それに即した情報収集、準備を行っていただき、楽しく実りのある滞在にしていただければと願います。
渡米にご不安がある方は、アメリカ入国時の書類等の準備や関係するレターの作成等のサポートを行っております。どうぞお気軽にお問い合わせください。
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