米_内部告発者・ホイッスルブローワー(4)_1473

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1473回 弁護士 鈴木淳司
May 19, 2025

大谷選手の今年の活躍も、すごいものですね。
日本のファンが熱狂するのも当然でしょう。
他にも今永選手なども活躍していてメジャーリーグは盛り上がりますね。
この間、ドジャースとベイエリアから引っ越しをするアスレチックス戦を見ていたのですが、ドジャースのファンがアスレチックスの選手が打ったホームランボールをグラウンドに投げ返していました。
これはひどいな、と思ってみていました。
熱狂的なファンがいるのはわかりますが、野球を観にいっているわけですから、近くにいる子どもにボールをあげるとか自分がファンのチームにすぐには資さないことが起こっても野球界全体を盛り上げてもらいたいな、と感じました。
皆さんも野球を楽しまれていますか。

米_内部告発者・ホイッスルブローワー(4)_1473

さて、前回に引き続いて今回は「日本で日本の機器メーカーに勤めています(匿名)。アメリカを含め複数外国に子会社を持っている企業なのですが、そのアメリカの子会社内で背任行為が行われているのではないかという疑いのある事実を知りました。数名の信用できる仕事仲間に相談をしましたが、要は日本国内のことではないし、関わると面倒くさいことになるので、あまり問題に深く関わるなとたしなめられています。アメリカ側では、完全に固められていて何もできないような状況です。私自身も安定した職にあるので、何か動くと自分自身に影響するのは不安ではあります。何かできることがないのでしょうか。」という質問の立証責任ということについて考えていきたいと思います。

立証責任と聞くと、なんだか難しい響きですが、裁判をすると野球では先攻、後攻、将棋でも先手、後手といって、まずどちらかが攻撃することで始まります。

裁判も同様で、基本的には裁判をはじめた側が「裁判の理由がある」ということを明らかにして攻撃をしなければなりません。

この攻撃の理由があるということを示すのが、立証責任というものです。

刑事事件であれば、常に検察が立証責任を負いますし、民事事件であれば原告側が立証責任を負います。

この立証責任という責任は大きく分けて三種類あります。

刑事事件は良くドラマでも出てきますが、Beyond Reasonable Doubtという「疑いがないであろう」という立証責任です。
検察官が100%だよ、ということ証明しなければなりません。

民事事件では、基本的に原告の主張が50%を超えれば、認められるという「Preponderance of Evidence」という形が取られます。
ですので立証する必要のある度合いは刑事事件について随分低いのですね。

そして民事事件では、ある法律で決められた一定の場合にClear and Convincing Evidenceと呼ばれるものがあります。
50%以上よりも、証拠が集まっており、説得力がある、という程度の証明が要求される場合があります。

概ねこの3つのパターンで最終的には事件について証拠を使って証明していかなければなりません。

アメリカには、陪審による裁判と、裁判官による裁判があります。
基本は前者、当事者が全員前者を放棄すると後者によって裁判がされます。

この3つのパターンについて、わかりやすい理解ができるのが陪審裁判です。
50%以上の立証が認められる場合には、12人の陪審員の過半数、すなわち7人が認めれば立証成功です。

Clear and Convincingの場合は、12人の陪審員のうち9人が認めれば立証成功になります。
刑事事件においては、12人中12人全員が、認めれば検察の立証は成功ということになります。

法律を習うとこの立証責任はかなり難しい議論になりがちですが、読者の皆さんは、この3つのパターンについて、上記の陪審員の割合を覚えておかれれば良いと思います。

なぜ、この難しい立証責任の話をここでしたかというと、ホイッスルブローワーの事件では、原告の被用者にかなり有利なように、立証責任が設定されて、さらに立証責任が雇用者側に転換されているということになります。
法律の実務家ならよく理解できるのですが、この立証がどちらにあるか、ということはかなり裁判実務にシリアスな影響を及ぼします。

このホイッスルブローワー訴訟においては、2020年に法律が改正され、カリフォルニア労働法1102.6条において、被用者側の立証がかなり楽に設定されました。

まず、ホイッスルブローワー訴訟を提起し、従業員である被用者が立証しなくてはいけないことは、
(1)法律で守られている違法行為の告発など、保護される行為を行ったこと
(2)その告発を行ったことで、会社から不利益な処分を受けた(たとえば解雇、降格、嫌がらせなど)こと
そして
(3)上記(1)と(2)の間に因果関係、
すなわち(1)を行ったことで、(2)をされた、ということだけ立証すれば良く、通常の民事訴訟のように50%以上の立証責任しか負いません。
ほとんどの(1)ないし(3)の証拠は被用者側が持っているものですから、これだけを集めて訴訟を提起すれば、立証は成功するということになります。

そして、この被用者の立証が行われると、1102.6条は、立証を雇用者側に転換(これを反証といいます)すると定められています。
上記(2)の不利益処分は、正当および上記(1)とは独立した理由に基づいていたことを証明しなければならないのです。

この証明責任は、Clear and Convincing Evidenceに基づくので、陪審員が12名中9名、会社側につかなければなりません。
なかなか言葉や実際に触れないと、感じにくいかもしれませんが、この原告従業員の立証責任や会社の反証責任はかなり原告に有利に設定されているのです。
通常では考えられないことなのですが、それほどまでに、ホイッスルブローワーの保護をカリフォルニアでは重要と考えていることの現れです。

そして、原告が求められる救済も幅広く規定されています。
考えられるのは、
(1)職場復帰(復職)
(2)未払い賃金(バックペイ)の支払い
(3)損害賠償(精神的苦痛など)に加え
(4)法律で原告側の弁護士費用と訴訟費用も全額認められる
ようになりました。
そして、悪質な行為があった場合には
(5)懲罰的損害賠償もありえます。

今回相談されている方は日本在住の方ということですが、アメリカの現地法人で何か不正な行為があった場合には、上記のように、かなりホイッスルブローワーは保護されていますので、どのようなチャンネルでの告発が可能なのかは具体的にお聞きしないとわからないですが、日本ではあってないようなホイッスルブローワーの保護がカリフォルニア州にはありますので、不正を見逃さずに何か対応できないか可能性は探ってみるのが良いのではないでしょうか。

次回から、また新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。
なんだか、天候が良くなったり、悪くなったり忙しいですが、体調管理をしながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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作成者: jinkencom

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