米_刑務所を訪れた際の出来事_1409

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1409回 弁護士鈴木淳司
Mar 18, 2024

夏時間になってこれから本格的なBBQシーズンになっていきますが皆さん、お元気にされていますか。
さて今回は皆さんからいただいている質問にお答えするのを一回お休みさせていただき、私が最近体験したアメリカの刑務所での出来事についてご紹介したいと思います。

米_刑務所を訪れた際の出来事_1409

前回冒頭で少しお伝えしましたが、南カリフォルニアの、とある刑務所に訪れた時の話です。

まず、刑事事件において、犯罪を疑われている人のことを被疑者と呼びます。逮捕されたとしても被疑者のままです。

アメリカでは犯罪を疑われている場合にはSuspectと呼び、逮捕された場合にはArrestedとも呼ばれます。
両方合わせて被疑者ということで良いと思います。

この被疑者が法律上起訴されると被告人となります。
アメリカではDefendantと呼ばれます。

次に、被告人として裁判は進行します。
裁判が行われている間、被告人は身柄を拘束されない場合と、拘置所に身柄を拘束される場合があります。
逃亡の恐れ、証拠などを隠したり破棄したりするおそれ、仕事や家族との密接な繋がりがあるかどうかなどを勘案し、拘置所に身柄を拘束するかどうかを裁判所が決めます。

私はこの30年間、数多くの刑事事件を受け持ってきました。
弁護士になる前から、刑事事件や訴訟に興味がありました。

弁護士になる時に、大きな事務所に入ってある限られた分野の仕事に特化をして経験を積むという方法もありましたが、私自身、民事も刑事もやってみたいという個人的な欲求が強く、いまだに刑事事件も受任してやっています。

殺人、強盗、詐欺、横領、経済犯罪、DV事件、前回考えたような飲酒運転など、弁護士になってから多種多様な刑事事件を経験しています。州、連邦、移民事件など、ありとあらゆる場所で法廷に立ってきました。
民事事件では味わえない、さまざまな警察官、検察官とのやりとりなども嫌いではありません。

改めてこの30年を振り返ると、自分の活動は弁護士の本望だと思っています。

日本で言う六法全書には多種多様な法律が書かれていますし、実務において多様な事件を扱ってきたことには充実感しかありません。
なにかに特化して仕事をしている弁護士に比べて、社会のいろいろな人の話も聞けましたし、自分の引き出しはかなり多くなったと思っています。

少し回想してしまいましたが、このような私の弁護士としてのスタンスから、刑事事件で拘置所に通い、被告人と会話をすることは何度もありました。
クライアントが私の事務所には来られないため、時には毎日拘置所に通うこともありました。

ところで、弁護士と被告人は直接会えます。
日本ではアクリル板越しになりますが、アメリカでは一緒に証拠を検討する場合など、コンピューターも持ち込んで隣に座りながら事件を検討することができます。
また、思い出もたくさんあります。
ここで触れると一冊の本になってしまうかもしれませんので、次に行きましょう。

一旦陪審裁判または司法取引が終わると、被告人は刑を言い渡されるので受刑者になります。

受刑者になると、行政が主に管轄をしてルールを決めています。
基本的にはもう事件が終わっているので、弁護士と言えども受刑者に会う際に融通が利くわけではありません。

リーガルヴィジット(Legal Visit)という名前のもと、一般の人たちとは違った形で受刑者に会えるのですが、時間も限られていますし、特に刑務所内で何らかものを持ち込むことに関しては非常にナーバスなので、身体検査もかなり念入りに行われます。
拘置所と刑務所では、弁護士の扱いが全然違うということなのです。

その日、私は接見をするために、南カリフォルニアにある連邦刑務所の駐車場に車を停めました。
その日に一時間、翌日に一時間、合計二時間の予約を取っていました。

悪い連中が、いろいろなものを持ち込むのを防ぐ必要性は知っていたので、身に付けていたあらゆるものを外し、書類、ペン、身分証明だけで受付に向かいました。
南カリフォルニアの刑務所は、ヒスパニック系の受刑者がかなり多いので、受付もヒスパニック系の人たちばかりで、スペイン語で会話していました。

いつものようにコンピュータで確認などして、手続きが終わるのを待っていました。
彼らにとってはアジア人の弁護士が来るのは稀なのでしょう。
ある意味馬鹿にするように、「刑務所に接見きたことがあるのか」などと言われたので、弁護士の登録番号を確認したら数十年の在籍年が分かるはずだ等、低俗なやり取りが続き「感じ悪いな」と思っていました。

また、スペイン語で何やら話していると思ったら、今度はなんと服装に難癖をつけてきました。
弁護士は、孤独のグルメの井之頭さんみたいに、常にスーツを着ているわけではありません。
長年の読者ならおわかりだと思いますが、私はあまり着ません。

その日も、ジョガーパンツにスエットのような格好でした。
そのため、次なる言い掛かりは、ジョガーパンツはアスレティック・ウェアなのでダメだ、スポーツウェアは禁止されているとのことでした。
「え?そんなこと、刑務所の規則に書いてないでしょう。いつも私はこのような姿でクライアントと会っているが、何が問題なのか具体的に教えてくれる?」というと、一人は一生懸命、刑務所規則をみますが、見つけられません。
連邦刑務所のドレスコードには、肌があまり見えないように、とか、サンダルや帽子はだめ、といった一般的なことは書かれていますが、「アスレチックウェアはダメ」というルールがないことは私がよくわかっています。

もう一人の胸板も厚く190センチ近くあり北斗の拳に出てくるような大柄の職員が、回答に困る同僚を見兼ねて、権力を誇示するように(腰には拳銃、防弾チョッキも着ています)私に対峙して「弁護士の接見なら、弁護士らしいプロフェッショナルなカッコをしてこい」と言い出しました。
「アホか」と思いました。
体型は立派でも、言っていることは支離滅裂なわけで、その姿を見て笑ってしまいました。

20年前の私であれば、この場で言い争いが勃発していたかもしれませんね。
私も成長して大人になっているわけです。
半分笑いながら、「プロフェッショナルなカッコというのは何を言うのか」と聞くと、説明できません。
できるわけがありません。「スーツを着てこい、と言っているか。お前が着ているのと同じような服か?」と言っても、「弁護士というのは」と弁護士でもない人が理屈の通らないことを口走っています。

しかし、さすが連邦の刑務所で働いている人です。権力の権化のような様相で、最後まで態度を崩しませんでした。
ワーデン(所長)も「アスレティックウェア」は許さないと言っていると。
そこにいる人間および、常識から外れる職員と話しても無駄なので、関係者の名前を聞いてメモし、私も最後に多少凄みを利かせて、「あなた達の行為は違法だからね、弁護士がどのような格好をしていても、接見させなければならない。あなたに弁護士らしい格好に見えなくても、一緒に法廷であえば弁護士だってわかるかね。」「次の日の接見を妨害したらどうなるかなぁ」という一言をお別れの挨拶として、去りました。

刑務所を出て、私は次の日に備え、現地近くの量販店でチノパンを買いました。

不合理極まりない対応でしたが、ここで怒っても何にも繋がりません。
また、私が、弁護士としてガンガン刑務所を攻撃し始めると、間接的に嫌がらせをうけるのは、私が会おうとしていた受刑者です。この受刑者の方はあと数ヶ月で出所することから(やってもいない犯罪を認めざるを得なかった状況もあり、私は同情している)、その人が出所してから反論しても良いと思ったわけです。

翌日、チノパンを履き、同じ刑務所の駐車場に車を停め、受付にいきました。
前日の大柄な職員はいませんでした。
前日には居なかった若い職員が、一言も話さない私をスムーズに通して、その日は接見が叶いました。

私が内部にはいると、前日の大柄な職員が私に挨拶してきましたが、無視をして、ずっと目をみていると、バツが悪そうな顔をして、去っていきました。
自分の行為がわかっている様子でした。
接見には、ずいぶん長い時間をくれました。

帰り際に、その職員が「長(大柄な職員)が、申し訳ないと思って1時間のところを1時間半にしたんだ」と言っていました。
私は「申し訳ないと思っている?違法だったからだろう?」と言ったら、その看守も黙ってしまいました。

 昨日もラジオで流れていましたが、ベイエリアの刑務所でも、職員がひどい行為をしているニュースをやっていました。
本当に、いい加減な人もいますし、システムも大丈夫か、と思わせます。

権力を振りかざすような人間には、「自分」がありません。
弁護士の私でさえ、このような目に遭うのですから。

まずは、今回接見した受刑者が数ヶ月後に出所までじっと待ち、その間、どういった対抗策が良いか考えなければと思っています。
なにか言わなければ、同じような違法なことがまかり通ってしまいます。
内心、今では強い対抗措置へのこだわりが薄れてきましたが、なんらかの形で、こういう施設は是正していかなければならないと思っています。
これも経験ですね。

 次回は、また皆さんからいただいた質問を考えていきたいと思います。
だいぶ春らしい陽気になって、サンフランシスコのダウンタウンもショッピングをする人たちが戻ってきています。
気候や季節の花を楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。

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作成者: jinkencom

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